71 試食会
「ユータちゃん!私とっても楽しみで!も~ワクワクしちゃう~!」
エリーシャ様がお勉強中もソワソワと心ここにあらずだったのは、そのせいだったのか・・そんなにカニを好きになってもらってオレは嬉しいよ!
そう、今日はカニ料理、貴族向けVer.の試食会なんだ!あれからオレのうろ覚えレシピを料理人さん達が頑張って洗練させて、オレ監修のもと、この世界に合うように色々と工夫したんだ。
「あの海蜘蛛が貴族の料理になるのか・・?何にしろ美味いんだろ?!」
「どんな料理になるのか楽しみだね~!」
「ああっ!待ちきれないわ~!ユータちゃんの作るものですもの、絶対美味しいのよ~!」
貴族向けの料理、ということで・・ただの試食会兼昼食だけど、テーブルはパーティ仕様にして雰囲気を出してある。席に着いた3人は何が運ばれてくるのかと興味津々のご様子。
さて、お口に合うといいんだけど。
料理の説明はオレ。説明の仕方なんて知らないよ!
でも、「まぁどうぞ食ってくだせぇ。」のジフよりはマシだから・・。
「こちらは、カニのアスピック(ゼリー寄せ)になります。海のソースと山のソース、2種の味わいをお楽しみください。」
コトン、と静かに置かれた大きめの白い皿。中央にはきらきらと透き通る宝石のような小さな半球。カニと彩りの良い野菜で層になるようにしてあるんだ。ソースは2種類、半球を囲むように彩ってある。
「「「・・・・・・」」」
しばし唖然と見つめた3人が、オレの顔を見る。
「・・これ、食えるのか・・・?」
「宝石みたい・・これを、食べちゃうの・・?!」
「芸術品だよ・・これは。」
「ええと・・試食会なので、食べて感想をいただけると・・・。」
確かにこれはインパクト強めだもんね。だから貴族のおもてなし料理にも最初のインパクトとして前菜に出せていいかなと思ったんだ。
勿体ない・・と散々眺めてから、怖々口に運ぶ3人。
「「「おぉ・・・」」」
うん、いいお顔だ。お気に召してもらったみたいなので、個別に感想聞く前に次々行くよ!
「こちらはカニのムース、2層仕立てでございます。濃厚なミソのうま味と、カニ身の滑らかな甘みをお楽しみください。」
お次はムース。これも前菜になるものだよね。同じく大きめの皿に乗った円柱型の2層のムースは、まるでケーキのようだ。下層はかに味噌をベースにしたごく淡いベージュ、上層はカニ身を丁寧に裏ごしした桃色の層。最上部にはカニ身と香草を上品に添えて。皿の周囲には彩りに野菜を配置している。
「「「・・・・・」」」
また目を皿のようにしてムースを見つめ、オレを見つめる3対の瞳。
「・・・どうぞ?」
もはや3人とも無言だが、その目の輝きが美味いと言っている。さあ、有無を言わさずどんどん出しますよ!
「こちら、カニのビスク仕立てでございます。」
クリーミーなスープも珍しいようだったので作ったひと品。カニの臭みを出さずに調理するのは難しかったらしい。
「こちらはカニの天ぷらでございます。お好みによりこちらの藻塩少々でお召し上がりください。」
「こちらはカニのクリームクロケットでございます。中身はお熱くなっておりますのでお気をつけ下さい。」
試食会だからできる暴挙、揚げ物VS揚げ物!!ロクサレン家はみんなよく食べるから大丈夫だろう。なんで素直にコロッケって言わないのかって?だってなんとなくカッコイイ気がするでしょ?!こっちの世界では関係ないけども。天ぷらもクロケットもいつもの食事時みたいに大皿にでーん!じゃなくてちゃんときれいに盛り付けてある。盛り付けだけでも印象は大分変わるよね。
「こちらはカニの茶碗蒸しでございます。こちらも熱くなっておりますのでお気をつけ下さい。」
ちなみに茶碗蒸しにちょうどいい感じの器がなかったんでこっそり作った。
・・・ふう、これで一通り出せたかな?貴族向けの料理って言ったらこんなもんかなあ?見た目に「海蜘蛛」要素がでなくてオシャレな感じのもの。さすがにこんな乱雑に出したらダメだけど、それぞれひと品をコース料理の中に入れるといいんじゃないかな?ブッフェや立食形式なら前菜あたりが見栄えも良くて大活躍しそうだね。
「「「・・・・・・・・」」」
茶碗蒸しの最後のひとかけらまでこそげ取って食べ尽くした3人は、茫然自失だ。
「・・・ええと・・いかがでしたか?これなら見た目にも海虫などと蔑まれることはないと思います。貴族の出す料理として恥ずかしくないものを選んだつもりですが・・・。」
つい料理の責任者として口調が固くなる。
感想を聞こうとしたところ、カロルス様が呆然と虚空を見たまま片方の手のひらをオレの前に出す。
うん?『ちょっと待て』かな。
「・・・・美味さの余韻が・・・。」
「・・私、しばらく何も食べたくないわ・・・この幸せなお口を保っていたい・・。」
「・・・食べ物って、こんなに美味しいんだね・・・。」
・・・皆さんまだ混乱していらっしゃる?
「カロルス様ってば!どう?おいしかった?」
埒があかないので強引に現実に戻っていただこう。ハッとする3人が口々に感想を・・いや、感動を伝えてくれる。
「お・・お前・・俺は幸せだ・・こんな美味いモノを食えるなんて・・こんな料理、王族でも無理だぞ!俺は今王様より贅沢をしている!」
「ユータちゃん・・・こんなに美しくて美味しいモノがあるなんて・・生きてて良かったわ・・。」
「あーぼく、こっちに戻ってきて良かった・・。どんな高級店より美味いモノがウチで食べられるなんて・・!!」
おお、すっごく好評だ!
和洋折衷で色々出してみたけど、どれも甲乙付けがたいほどだって。特にあの前菜はとにかく美しいから、貴族のステータスとして最高なんじゃないかって。あとはこってり系の天ぷらとクロケット、最高・・!だそうで。
まぁ兎にも角にも全部花丸合格で、今後のパーティ等でお披露目しようかって話になってるみたい。
ふ~肩の荷が下りてホッとしたよ。これでオレはめでたくお役御免だね!
ただ、問題は誰が作ったか・・。
オレの話をヒントにジフ達が作った・・っていうのが無難な落としどころらしい。
「・・でもな、ユータ、これは全部お前の功績なんだ。ただ、正直に公表すると好奇の視線に晒されることは免れんし、お前を疎ましく思う者も出てくるだろう。危険に晒すことになるかもしれんが・・・。お前はどうしたい?できれば表舞台に立たせてやりたいと思うが・・・お前は王仕えの料理人になりたいか?自分の店をもったりしたいか?」
「ぜったいイヤです!!!!オレのことはぜったいナイショにしてください!!!!」
力一杯否定するオレにちょっと驚く3人。
「・・そうなの?ユータちゃん、一般的に王様専属の料理人ってもの凄く地位が高いのよ?一生楽に暮らせるのよ?」
「エリーシャ様・・・オレ、お料理は嫌いじゃないけど、それをお仕事にしたいと思ったことはないの・・。オレ、冒険者になりたい。」
「まあ・・・。でも・・冒険者は絵本の中ではカッコイイけれど、実際は素敵なことばっかりじゃないのよ?一般市民の職業なの・・とても苦労するわ。馬鹿にされることだってあるでしょう・・あなたは他にも色々と凄い才能をもっているのに、それでいいの?」
「いいの。オレ、召喚術を習って、冒険者になって・・それから他のことを考えるよ。」
「そう・・・そうね、あなたはまだ3歳だもの。先を決めてしまうよりその方がいいわね。いつだって行く先は変えられるのだから、迷ったら相談してくれたらいいのよ?」
エリーシャ様は優しい腕で、オレを抱きしめてくれる。
うん・・オレは迷うその時まで、やりたいと思ったことをやるよ。せっかくみんなに守ってもらった命だ。
地図がなくて道に迷っても、この人たちはきっと一緒に歩いて道を探してくれる。それに、行き止まりになったら戻ってこられる家もあるんだ。
「ありがとう・・。」
オレはエリーシャ様をぎゅっとすると、にっこりとした。
温かな胸の内に、精一杯の、信頼と感謝を込めて。
字数が余ったから、要望の多いかに料理を作ろうって思っただけだったのに・・
1話使うハメに・・。
書けば書くほどカニが食べたい!!かにかま食べながら頑張ります!