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789 幼児と筋肉

ぐわわんと大きな声の余韻が通り過ぎた後、小首を傾げる。

二人の声が被って何と言ったか判然としなかったけれど、多分大した意味のある言葉じゃなかったろう。ふざけんな~とか、きっとそのあたりだ。

「紹介しないと、名前を呼べないでしょう? それでオレの紹介はしたけど、みんなのは聞いてないから、教えてくれる?」

「いい加減にしな、放り出すよ!」

「誰がガキに名乗るかよ! 今すぐ引き返せ!」


放り出すって、ここシロ車だけど。オレを放り出してどうするんだろう。

それに今回みたいな引率は、ギルドからの半強制任務だ。

いわばペナルティの一種で、金銭の支払い代わりに指定された任務をコブ付きで行うってこと。拒否なら当然金銭の支払い、一旦受けた任務を放棄や失敗すればさらにペナルティ発生だ。支払い能力も任務遂行能力もないと判断されれば、それはもはや犯罪者になってしまう。

ちなみに冒険者側から依頼があって引率が付く場合は、普通の依頼への付き添い指導らしい。オレがイメージしていたのはそっちなんだけども。

引き返せ、と聞いて静かだった隅っこの大男も寄って来る。


「引き返してもいいけど……そうすると、赤身肉さんのパーティが犯罪者になっちゃうでしょう」

なんでそんな重大な任務にオレを選んだんだと、ものすごく思うけれど。

何度か任務失敗して、今回失敗したら最後だと聞いていた。てっきり実力不足による失敗だと同情していたのに。思えばなぜかギルマスが直接オレに説明をしている時点で、裏があると察しなくてはいけなかったのだ。嘘は言われてないけど必要なことも言ってないよね?! それだけ信用を得たと喜ぶべきなんだろうか。

「赤っ……は?! 何言ってやがる!」

「だから、今回が最後のチャンスなんでしょう?」

「そっちじゃねえ!!」

ああ、ちゃんと気づいてくれたらしい。少し唇を尖らせた。


「だって、名前を知らないと呼べないでしょう? だからあだ名をつけようと思って」

それならウチの召喚獣たちみたいに、覚えやすい特徴を元にする方がいいだろう。まあ、赤身肉さんは多分ダーロさんだろうと思うのだけど、違ったら失礼だ。

『失礼とは、ね。あだ名……まあ、悪口では……ない、のかしら』

モモが悩まし気にふよふよ揺れている。

あとの二人、赤身肉さんより少し肉付きは少ないけれど、がっちりした背中が魅力の男性はサーロインさん。男性に比較するとやはり肉付きはあっさりしているから、女性はササミさんでどうだろうか。

我ながらよく特徴を拾っていると思う。それに、ちゃんと敬意を忘れず美味しいお肉の部位を選んでいる。


シロが振り返ってじっと3人を見つめ、ぺろりと舌なめずりをした。水色の瞳が光を受けてきらきら輝き、揺れる尻尾は銀粉を振りまくように美しい。

だけど、シロの視線を受けた赤身肉さんたちはぶるりと震えた。

「ふ、ふざけんな! ダーロ、ワイクス、メリーナだ!」

「……そっか。じゃあ、オレも改めて。Dランクのユータだよ! あっちはシロ、これはモモ、召喚獣だよ。よろしくね」

せっかくいい名前を考えたので少し残念に思いつつ、にこっと笑う。

「誰がよろしくするってんだ! 引き返せ、ギルドに怒鳴り込んでやらぁ」

「だから、そうすると犯罪者になっちゃうから、戻ると捕まるよ。それにギルドに怒鳴り込んだら、ジョージさんとかギルマスが出てくるけど」

支払うお金を持っていれば資格の剥奪なんかですむはずだけど、持っていないからこうして任務を選んでいるのだろう。

困った顔をすると、3人は顔を寄せてぼそぼそ言葉を交わし始めた。


『――ねえゆーた、この人たちは悪い人?』

困惑したシロが、オレを振り返って尻尾を垂らす。

そうなんだよね……聞こえなくても想像できる内容ではあるけども、そこにシロがいるんだよ? 筒抜けだからね……。

いわく、今回の任務放棄はさすがにマズイから、オレを利用してクリアすればいい……罵詈雑言を除いて要約すれば、つまりはそういうことだ。脅して……とか暴力的な表現は、どうせ実行できないのだから聞かなかったことにしておく。利用も何も、素直にクリアすればそれでいいと思う。


「で? 任務はなんだ。早く話せ」

物騒な相談をまとめた3人が、少し機嫌を直して詰め寄ってきた。

「話はまとまった? 今回の任務はね、カラクルの実を採取してくることだよ!」

「カラクル? け、採取かよ……討伐なら簡単なのによ」

タクトみたいに苦々しい顔をするけれど、そりゃそうだろう、だってまだ彼らはEランクなんだもの。ただ、こういった任務には危険だったり不人気な依頼があてがわれることが常で。

「待てよ、最終任務だぞ、裏がある」

そう言ったのは、サーロイ……じゃなくてワイクスさん。

「どうせ、ついでにウチらを始末できれば、ってなモンだろ」

ササミことメリーナさんが唇を歪めてオレをねめつける。

……そういう側面、きっとないでもないのだろう。ギルドによっては引率をつけずに『罰』と称して命がけの任務をさせる例があるらしいし。

だけど、ここでは違うよ。

はっきり首を振って懐から紙を取り出すと、大きく息を吸った。


「てめえらの実力がどんなもんで、どんだけ思いあがってんのか、思い知りやがれ! てめえらなんざ、このちんちくりんのチビにも――え?」

――ユータかっこいいの! だけど迫力が足りないの。もっとしっぽの付け根に力を入れて、耳をピンとさせてラピスみたいに言うといいの!

ラピスだけが喜んできゅっきゅしている中、言葉を切ったオレは憤慨してもう一度メモ紙を見返した。

この通りに読め、と渡されたギルマス直筆のメモ紙。ちゃんとギルマスがオレの前で言って見せたやつ。

「何これ! 最初こんなこと書いてなかったよ?! オレの悪口じゃない!」

ちんちくりんのチビにも劣るだとか、てめえらの飾り筋はチビの枯れ枝手足以下だとか、ここぞとばかりに悪口が書いてあるのだけど!! 

憤慨するオレに、ぽかんとしていた3人が我に返ってメモをひったくった。


そして、地を這う低い声が響く。

「野郎……誰が、誰に劣るって? ふざけんのも大概に――」

「そうだよ! もうちんちくりんって言うほど小さくないし! か、枯れ枝って!! 別に細くないよね?!」

互いに憤怒した顔を突き合わせる。

「はあ? てめえはどう見てもちんちくりんの枯れ枝だろうが!」

「なっ……! じゃあダーロさんだって飾り筋ってことだよね! オレ以下の!!」

「こ、このガキッ?! 言わせておけばっ!」

避ける、避ける、避ける!

伸ばされる太い手を、難なく避けて渾身のイーッ! をしてやった。


「ほーら飾り筋でしょう! オレみたいにしなやかな筋肉がいいの! ぶっといばっかりが筋肉じゃないんだよ! 大きくなったらもっと腕も太くなるの!」

「はあ?! てめえの枯れ枝のどこに肉がついてるって――」

捕まらないもんだから雄牛みたいに突っ込んでこようとした時、ダーロさんの両肩に2つの手が掛かった。

「……さすがにやめろ。俺らが恥ずかしい」

「傍から見てると超ー馬鹿。逆に冷めるわ。ガキとジャレんなっつーの」

微妙な表情の二人を見上げ、ハッとする。

「ん、んんっ。ちょっと、子どもっぽかったよね。それで、つまりは危険な任務の中で、オレの実力を感じて来いってこと! そうじゃなきゃ、信じないだろうからって」

前半の罵詈雑言が必要だったのかどうか、理解に苦しむ。肝心な部分は結局読み上げてないし。

『もしかして今の騒動を引き起こすためだった、とか? ぶっ飛ばすための口実かしら』

モモはそう言ってふよよんと揺れたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 蚊のように刺し、蝿のようにおちょくるゆーたちゃん♫かわいいぃ~♡ (⌒▽⌒)アハハ!
[一言] ユータ君早くぶっ飛ばしてあげて〜♬
[一言] めちゃくちゃオモロい
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