70 鬼教官
今日もルーをたっぷりもふもふしたら、訓練を始めよう。
この間はひどい目にあったけど、おかげで回避能力はワンランクもツーランクもアップした気がする・・やっぱり命懸けだと違うよね・・二度とやらないけど・・・。
「きゅきゅ?」
ユータ、大分避けられるから、もっと生物的な動きに慣れたらどう?
「生物的な動き?」
こうだよ!言うなりラピスが空中を走って突撃してくる。咄嗟に身をかわしたら、ラピスも空中でステップを踏んで方向転換する。
「わっ!ととっ!」
おお、なるほど!これが生物的な動き!確かに直線的な水球とは違う。でも1匹だけならたくさんの水球を避ける方がまだ難しい。
だからね、アリスたちを呼んで、みんなで練習するの!
「おっ・・・アリス・・達?新たな子が生まれたんだね!」
そうなの!呼んでくるの!
言うなりぽんっ!と消えたラピス。聖域に戻って呼んでくるらしい。ラピスとアリス、そして新たな子はイリスだね!みんな揃ったらかわいいだろうなぁ~!ソワソワしながら体術の型稽古をして待つことしばし。
ぽぽんっ!
「「「「「「きゅきゅー!」」」」」」
ぼふぼふとオレの胸元に飛び込んでくるちっこいもふもふたち!
「あはは、おかえりー!そしてはじめまして・・・・・・だ・・ね??」
ごしごし、と目を擦る。
パチパチ、と瞬きを繰り返す。
ん?んん??
・・・・・・多くない?
「えっと・・いち、に、さん、し・・ご?」
白いラピスを除いて、黄色っぽい子が・・・5匹??
ユータ!こっちがイリス、ウリス、エリス、オリスなの!増えたの!
「増えたって・・・・そんなに増えてたんだ?!」
び・・ビックリだよ・・!
新たな4匹とアリスは嬉しそうにオレの手のひらにじゃれついている。見た目はほとんど同じだけど、なぜか区別がつくのは契約の効果なのかな?
「管狐ってこんなに増えるんだね!」
ううん、普通こんなにポンポン増えないの。ラピス、ユータの魔力いっぱいもらって、美味しいものも食べて、たくさん魔力余ってるの。多分、ユータが魔力いっぱい使うようになったらこんなに増えないの。
そうなんだ・・天狐は普通自然界から魔力を取り込むから、そこまで余剰は出ないものなんだろうな。そう考えたら・・・このかわいい管狐たちは食べ過ぎのメタボ腹と同じ・・・・いや・・やめよう。
オレの両手いっぱいに乗ってこちらをじっと見上げるつぶらな瞳。
心地よいほのかな重み、ふわふわした温かな体。
小さな小さな肉球と爪が手のひらに当たってくすぐったい。
ああ・・・幸せだ。
愛おしくて顔がとろけてしまいそう。
ユータ!デレデレしてないで訓練するの!!
ラピスがぷりぷりしてる・・もしかしてヤキモチ妬いてくれてるのかな?ふふ、だからみんなをあんまりこっちに連れてこないのかも知れないね。
「きゅ!きゅきゅう!」
たいれつー!かまえ!!
何それ・・ラピスどこでそんなの覚えてきたの?思わず頬をほころばせてほっこりしていたんだけど・・・。
「きゅー!!」
うてぇーー!!
「「「きゅーっ!!!」」」
しゅぴぴぴ!!!
「のわわわわっ!?おわっ!わっ?!」
管狐砲が発射された!縦横無尽に動き回って突っ込んで来る柔らかい3体の砲弾は、避けるオレの動きを読んだり先回りしたり、水球と違って多彩な軌道と頭を使った攻撃が非常にやっかいだ。オレにも相手の動きを読んで対応することが求められるよね・・。
なんとか生き物ならではの動きに対応しようと奮闘していると・・
「きゅきゅ!」
第二部隊!かまえー!
なぬっ?!ラピスの鬼ー!ちょっと待ってよ~!!
「きゅー!!」
とつげきー!!
「「きゅーーっ!!!」」
しゅばばばっ!!
今度は砲撃じゃないんだ・・とか突っ込む余裕もなく必死のダンスを踊るハメになるオレ。
「ふわっ!おっ?!とう!はっ!!」
ちょっと離れて見たらものすごく愉快なことになってるんだろうな・・・湖のほとりで奇妙なかけ声を上げつつ操り人形みたいに踊り狂う子ども。愉快よりも恐怖かもね・・。
結局ラピス教官の指示で徒党を組んだ管狐軍団、フェイントを交えた戦法でオレの撃沈に成功。
オレは荒い息をついて大の字で地面に這いつくばった・・あー地面が冷たくて気持ちいい・・・。
「ら・・ラピス・・・いきなり厳しすぎるよー・・。」
ぜえはあしながら抗議する。
「きゅ?」
かわいく首を傾げて誤魔化してもダメ!・・どうやら軍の演習を見てきた管狐に話を聞いて、やってみたかったらしい。まあ管狐を統率しないといけないラピスにはいい訓練かもしれないけど・・・・でもオレがきついよ!もうやらないー!
・・・なんて言いつつ・・・ラピスの懇願に負けてそのあと3戦(?)もするハメになった・・。
「うあー・・も~くたくただよ・・今日は避ける訓練おわり!」
「ぅきゅー。」
不満そうなラピスだけど、オレもう起き上がれないからね!回復しつつやってこれだからね!!
もう無理・・・とりあえず、ティア・・・回路繋がせて・・・。
ティアと回路を繋いで、フェリティアだった時と同じ心地いい魔力を交換すると、やっと人心地ついた。
あー今日もひどい目に遭った。
ティアのおかげで疲れはとれたハズなんだけど、なんとなくぐったりだ。やっぱりヒトには休みが必要なんだな。魔法で癒やせるからって休みなしに動き続けるのは無理そうだ・・やるつもりもないけどね。
今日は夕食までお部屋でごろごろしよう・・。
「おっ?!いいところに!」
「えっ?」
1階のフロアで有無を言わさず拉致されたオレは、当然のように厨房へ。
いつものように高いキッチン台にちょんと座らされ、ジフたちに囲まれる。
「よう、どこ行ってやがった?いつもの、頼むぜ?・・分かんだろ?」
・・・・なんでそんな凄むんだよ。どっから聞いてもカツアゲだよ!料理でしょ?!料理のレシピを知りたいんでしょ?!
「・・なんのお料理のこと?」
取り囲まれては逃げられないので渋々応じると、本人は愛想良くしてるつもりのニヤリ顔でせがまれる。
「おっ話が早いじゃねーか!・・それがよぉ、あの海蜘蛛な、すげー人気なんだけどやっぱり見た目がアレじゃなあ・・・貴族は馬鹿にして食わねえんだとよ。茹でた海虫なんて料理じゃないっつってな。食えば分かるんだが・・エリーシャ様に勧められて食ったやつらは、こっそり買い求めてるみたいなんだけどな。」
なんだって!?カニを馬鹿にされるなんて許せない!俄然燃えてきた!
「フフ・・・そうか・・オレのカニに舐めたまねをされちゃあだまってられない!やろうども!ぎゃふんと言わせてやるぞー!」
「おお!!(・・・似合わねぇ・・。)」
太い腕に下ろしてもらって、腕まくりする。
ふーむ、何にしようかな?!今ある材料で・・・色々できるけど・・オレ、分量とか覚えてないから試行錯誤は料理人さんにしてもらうしかない。あとはゼラチンとかあればなあ・・。
「ねえ、透明で固まる食べ物ってないの?」
「透明なものォ?だったらアレだな・・スライムゼリーだ。」
「えっ・・スライムって食べられるの?」
「ちげーよ!!スライムゼリーっつう食いモンだ。水草からとれるんだが、固まったらスライムみたいだってんでそんな名前だ。」
ほほう・・きっとアガーみたいなもんだね。
「それほしい!あと、たまごと、フライの材料と・・カニを中心にダシをとった、のうこうなスープも作っておいて!」
夕食そっちのけで始まった試作品作りのせいで、カロルス様たちの夕ご飯は簡素なものになっちゃったんだけど、エリーシャ様がきらきらの顔で試作品ができあがるのを楽しみにしているから、お咎めなしだった。ちなみにオレはいっぱい試食しておなかいっぱいなので夕ご飯はいらない。
深夜にさしかかる頃・・・
「で・・できた・・これで全部完成!」
「うおお!!これはすげーぜ!こんな料理なら王様だって食うに違いない!!」
・・ぱたり。
「え・・ユータ?ユ・・ユータっ?!」
「お・・お前・・こんなになるまで・・・。見ろ、この安らかな顔を・・・まるで笑ってるようだ。」
「ううっ・・お前の思い、しかと受け取った!この思い、さらに昇華させてやるからな!!安らかに眠れ・・・。」
・・・料理人たちはすやすやと眠るオレを放置してさらなるレシピの改良に勤しむのだった。
・・・ちょっと!せめて部屋まで運んでよ!!
哀れなユータ・・・おつかれさま。