776 お土産選び
「すげーー、カロルス様本ッ当にすげえ……生きる伝説じゃねえ?! これ、公表どうすんだろうな。多分、王都でパレードする羽目になるんじゃねえ?」
瞳をきらきらさせたタクトが、とんでもないことを言っている。
「そんなの、カロルス様がやるはずないよ……」
人前を歩くのすらフード被ってる人が、そんなことになったらもう2度と王都の地を踏まなくなるだろう。
あー、だから色々難航しているんだろうね。
「だけど、カロルス様の名前を伏せるわけにもいかないでしょ~?」
そう、さっきはまんまとラキに引っかけられたわけだけども! そもそも、噂の中にカロルス様の名前も挙がっていたらしい。そりゃそうだよね、フード被ったりこそこそしてはいたけど、タイムリーに王都歩いてたもの。城内にいた人たちにだって見られただろうし……カロルス様、存在が目立つんだよ。
「じゃあ、どうすんだ? カロルス様は内緒にしたいんだろ?」
「騎士団の人たちだって来てたんだから、騎士団が倒したってことにすればいいと思う!」
「そうだけど、騎士団の被害が少なすぎるのは調べればバレるだろうし~。さすがにやったことがアレだから、いくら本人がそう言っても何もナシってわけにいかないよね~。ロクサレンの人たちだって、恩恵があるはずのことだし~」
ああ、そうか。領主が活躍したんだから、そりゃあみんな鼻高々だろう。多分ロクサレンまで噂が届くことはないと思うけど、最近人の出入りも多いからアヤシイところだ。
逆にカロルス様の名前を完全秘匿した方が、あらぬ噂を呼びそうだ。貴族には人気ないけど、一般人には大人気だからね……活躍をもみ消された! なんてことになったら暴動が起きかねない。
執事さん、大丈夫かな……。
しばらく依頼でロクサレンに帰ってなかったし、ちょっと様子を見に行ってみようかな。
「うーん、オレも気になるし、直接聞いてこようかな。せっかくだから、何かお土産でも持って」
「そうしようぜ! お土産、作るのか? 買うのか?」
「それがいいね~! 僕もプリメラに会いたいし~」
……うん? それって二人も来るってこと? 王都はもういいんだろうか。
「ロクサレンに行ってから、また戻ってくればいいじゃない~」
「だってあっちの方が飯美味いし! カロルス様に会いたいし! マリーさんいるし!」
そ、そう。随分ロクサレンを気に入ってくれて嬉しいけども。そしてタクトはそのパターンだと、また筋肉痛になるよ?
「じゃあ、執事さんへのお土産、何がいいと思う?」
「お前が何か作ればいいんじゃねえ? なんでもいいだろ」
「今からシュランに行くから、お酒は~? シュランさんに聞いてみる~?」
そうか! 執事さんはお酒が好きだったはず。それも、かなり飲んでも平気な顔だったから酒豪かもしれない。
お酒に合いそうなものもついでに聞いておけば、買うなり作るなりできるし。
それか、アルコール強めのデザートとか。うーん、でもきっと執事さんはデザートよりもお酒の方がいい気がする。
きっと、エリーシャ様も頑張ってるだろうけど、こちらは分かりやすい。きっと、可愛いお菓子だ!
マカロンとか作れたらいいんだけどね……残念ながら作り方を覚えていない。
新しいレシピって喜ばれるから、ジフとかプレリィさんに今度相談してみようかな。メレンゲと粉類を混ぜて焼くって情報と、あと出来上がりイラストやオレの食レポのみで何とかなるだろうか。
「まあ、今回は無理だから……王都のかわいいスイーツとか知ってる?」
「かわいい素材の店なら分かるけど~」
「知らねえ~。あ、サヤ姉なら知ってるぜ」
かわいい素材店ってなに。それはそれで見てみたいかも。
「サヤ姉さん詳しいの? 工房にも後で寄るよね? 聞いてみようかな!」
有名なお店なら、オレもぜひ見てみたいし! 王都で有名なスイーツなら、きっとエリーシャ様も喜んでくれるだろう。
『ううん、あなたがその恰好で帰ればそれが一番よ!』
その恰好……? 言われて自分の姿を見下ろし、首を傾げた一瞬後にハッとした。
「え、言ってよ?! オレ、ユータリアのままじゃない!! どうしよう、これ返さないと!」
貴族様風の衣装だもの、宝石みたいなお値段がするんじゃないだろうか。
「おう、もう慣れちまって気づかなかったわ」
「今気づいたんだ~。大丈夫、旅装は依頼料に込みだったでしょ~」
そうか……旅装。旅装ね……間違ってはいないのかもしれないけれど。
「とりあえず、着替えたいんだけど」
気が付いてしまえば、落ち着かない――こともないけれど。さすがに、これだけ長い間変装していると慣れてしまった。長い髪を自然と耳へ掛けるのも、ひとつに結ぶのもお手の物だ。
「今さらだろ。もういいじゃねえか」
「だってロクサレンに帰る時、また着替えるんでしょ~?」
「そうだけど! だってシュランに行ったらみんながいるじゃない!」
見知らぬ人に見られるのと、知り合いに見られるのは全然重みが違うでしょう!
「いいじゃねえか、面白そうで」
「みんなの反応が楽しみだね~」
立ち止まったオレの両手が、示し合わせたように二人にとられた。
「オレは全然面白くないけど!」
まあまあ、なんておざなりになだめる二人に引っ張られ、オレは渋々ユータリアで行動する羽目になったのだった。
「おーすげえ。そりゃ繁盛するよな、唐揚げだもんな」
「お酒も案外いいのがあるらしいし、試飲っていい試みだったかもね~」
ビアガーデンみたいな様相は相変わらず。混雑する一帯を、ガウロ幼少部隊がちょろちょろとすり抜けて対応している。ずらりと長蛇の列は、テイクアウトの唐揚げ待機列だ。
「あっ! タクトさんとラキさん?」
「あれ? ユータは?」
すぐさまオレたちに気づいた彼らが声を上げ、視線が集中する。
どうしてオレだけ呼び捨てなんだろうと思いつつ、手を振った。
「えっ? その子って、えっと?」
「妹……じゃない感じだよね?」
分からないもんだなあ。それなりに会っていると思うんだけど。
二人はいつもの冒険者服だから、兄妹には見えないらしい。戸惑うみんなを見ているのは、ちょっと面白いかもしれない。
「あ、ラキさん、タクトさん! お久しぶりで――」
店内からお盆を持って飛び出してきた一人が、言葉を止めた。
「おう、ココ博士! 久しぶり!」
「今日はここでお仕事なんだ~?」
足を止めてしまった彼の元へ歩み寄ると、ココ博士はオレと二人を交互に見比べて、口をぱくぱくしている。
どうやら、さすがに記憶に自信のある彼、気付いたらしい。
にこっと微笑んでみせると、色白の肌がぶわりと真っ赤になった。
「あ、あ、あの! ユータさん、ですよね?! やっぱり、そうだったんだ。ごめんなさい、僕、配慮が足りなかったですよね?!」
『やっぱり』? 『配慮』……?
怪訝な顔で見上げると、ココ博士は勢いよく頭を下げた。
「すみません! ものすごい美人だとは思ったんですが……名前と恰好からすっかり男性だと思っていて……! そうですよね、トラブルになるでしょうし普段は男装してらしたんですね」
ココ博士のセリフが、オレの頭の中を素通りしてぐるぐる回る。
ええと? 男性だと思って……?? え? 男装?
両側の二人が、堪らず視線を逸らして震えている。
「……なんで、男装だと思ったの」
オレの精一杯の低い声に、ココ博士が狼狽える。
「え、違いましたか! すみません、あの姿も凛々しくて、その……愛らしさとのギャップが素敵だと思います!」
そうじゃないよね?!
オレは今すぐ服を脱ぎ捨て、仁王立ちしてやりたい衝動に駆られたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
最近新作を投稿した加減もあり、改めてもふしらの評価やブックマークを見て、ありがたいなと感謝しきりです。本当に……!!
デジドラもちょうど10万字前後まで公開、こちらもどうぞよろしくお願いします!