間話 雪あそび
おかげさまでブックマーク500件を越えました!増減はするでしょうが、「ブックマーク500突破感謝」のお礼間話です。
本編ストーリーと直接の関係が無い間話です。ストーリーから逸れたくない方は読まれないことをオススメします。
「おはよー!」
「てめーら・・いつ来ても俺がいると思うなよ・・。」
今日もルーの所に遊びに行ったら、じろりと睨まれる。出かける所だったのかな?
そう言えばいつも寝てるのに今日は起きてるなんて珍しい。待っててくれたんだろうか?
「どこか出かけるの?オレも行きたい!」
「てめー・・買い物に行くんじゃねーぞ!・・たまには山の様子を見に行かねーと碌なコトにならねぇからな。」
「山?山ってルーがいたっていう・・えっと難しい名前の山だったね!」
霊峰キュリオ!きれいな山なの!ラピスも行きたい。
そうそう、そんな名前だった。霊峰ってなんだか凄そうな所だな・・!
「ルーがいるから『霊峰』なの?」
「さぁな・・。キレーな山だからじゃねぇの。」
「そうなの・・?きれいな山、オレも行きたい!!」
「ふざけんな。魔物がわらわら出てくるぞ。」
「あ・・そっかやっぱり魔物がいるんだ・・・。」
「ピピっ!」「きゅう!」
二人も行きたいみたい・・でも危ないからなぁ。
ラピス・・ルーに乗っていたら危なくないだって。それはそうかもしれないけど・・ちらっと見ると、金の瞳を細められた。
「・・なんで俺がわざわざテメーを乗せていかなきゃいけねーんだ。」
「だってオレ・・全然外のこと知らないし・・行ってみたいな。ルーと一緒なら大丈夫なんでしょう?お願い!」
首元にもふっと抱きついてガシガシと耳の後ろを強めにこする。
「またお魚のフライ持ってくるから~!」
ぴくり、と耳が動いた。
「マッサージ、良かったでしょ?アレもつけるよ!」
ぴくり、と肩が動いた。
「ち・・しゃーねぇな・・。アレ2回で連れてってやらぁ。」
「やったー!!」
マッサージは大分お気に召していたみたいだ。ルーは大きいから大変なんだけど、これで連れてってもらえるならお安いご用だ。
どこか機嫌良さそうにゆらゆらとしっぽを振るルーは、立ち上がるとひょいっとオレを引っ掛けて背中に乗せた。ぼすっと転がって背中に落ち着くオレ。荷物じゃないんだから・・もうちょっと優しく乗っけてよ・・。
オレを乗っけるが早いか走り出すルー。
相変わらず、惚れ惚れするような走りだ・・躍動する体を感じつつも、衝撃はほとんど伝わらない。体に受ける風は強めだけれど、この速度だと普通こんなものじゃないはずだ。ルーがオレの周囲を守ってくれているのを感じる。
オレは温かいルーの背中に頬を寄せて滑らかな毛並みを堪能する。ルーに乗せてもらえると、これができるのも最高!さわさわと両手で撫でながら顔を埋めると、以前より少し獣臭さが強くなっている気がした。またお風呂入らないとね!
「てめ、ごそごそしてねーで大人しくしてやがれ!」
わさわさと撫でていたら怒られた。まぁ走ってるときにされると確かに鬱陶しいかもね。仕方なく撫でるのをやめてぎゅんぎゅん通り過ぎていく景色を眺める。
・・でも早すぎて景色よく見えないんだもの・・。
広大な大森林を抜ける頃、遥かに高い頂が見えてきた。
「うわぁ・・大きい!!」
標高の高い切り立った山だ・・上の方は真っ白になっている。
あれは・・・雪!上の方は雪が積もってるんだ!
オレが地球で住んでいたところは山だったけど、あまり雪の降る地方じゃないし、あくまで生活圏の山だ。雪なんて滅多に積もらなかったもんだから、わくわくしてくる。
山に近付くにつれ、空気が澄んでくるような気がする。同時にちょっと寒い。
山裾の方はまだ植物が多くて、俺の知っている山らしい雰囲気だ。今のところ全然魔物はいない・・と言うよりレーダーにうつる魔物はどんどん遠ざかっていく。やっぱりルーを怖がって逃げているんだろうか。
山頂に近付くにつれ、植物はまばらになってごろごろと岩肌が目立ってくる。ゴツゴツした山はかなりの勾配を誇り、オレ達の目の前は既に絶壁だ・・どうやって上まで登るんだろう?
もう目の前が壁なのにちっとも緩まないスピード。みるみる近づく岩壁にドキドキしていたら、ルーが突然ひょい、と飛び上がって思わずぎゅっとしがみついた。けれど、やっぱり衝撃も重力も俺にはほとんどかからない。ルーが縦になろうが横になろうがぐるっと回転しようが・・安定してつかまっていられる不思議・・。
ひょいひょいとほとんど縦の壁を何気なく登っていくルー・・・ちらっと下をみるとおしりが寒くなるような絶景・・・こ・・こわ。
ユータ、大丈夫、ラピスもいるよ?落ちてもだいじょうぶ!
ラピスが頼もしい。・・・でもラピスの魔法って結構派手なんだよね・・・慌てて木っ端微塵に吹っ飛ばされたりしないだろうか・・。
ティアは飛べるから、何が怖いか分かりませんって顔だ。ルーのふわふわ被毛に埋もれて居心地良さそうにウトウトしている。
あんなに遥か高くそびえていた頂がもう目の前だ。
ひゅっと風を切って一気に飛び上がったルーが、空中で体勢を整えて着地した。
「わあー!!」
「きゅきゅ!」「ピピッ!」
すごい!目の前には何にも無い!!真っ青な空が一面に広がり、足下は目が痛くなるようなピカピカの白!青と白の世界でオレとルーの黒がいっそう際立った。
「うわあ!うわあ~すごいすごい!!」
すっかり興奮したオレはすごいしか言っていない。しかも作りたてのケーキみたいに滑らかな雪面は、誰の足跡もない。きゃーきゃー言いながら転がりまわるオレ。雪を掴んで放り投げるときらきらと舞い上がる銀粉のようだ。本物のパウダースノー・・雪ってこんなにふわふわサラサラで軽いんだ・・。わさーっと夢中で雪を舞い上げていると、いつの間にか雪まみれ。お手々は真っ赤、まつげにも雪が積もって視界にも結晶が・・。きゅーきゅー言うラピスも雪まみれでどこにいるんだか分からないよ!濃紺の瞳がこちらを向いた時だけ発見できる。ティアはふわふわの雪をたいそう気に入ったみたいで飛び上がってはぼすっと突っ込んで遊んでいる。淡い緑の羽毛が白くなって、別の鳥みたいだ。
「あはは!すごーい!あははは!!」
パティシエの作ったケーキみたいな雪面に大の字で飛び込む!
ばふっ!!お顔が冷たい!口の中にも雪が入って大笑いだ。見事にできあがったオレのヒトガタに大満足する。傍らにはティアとラピスの型もある。
魔物のことなんて完全に忘れてはしゃぎ回って、すっかり息の上がったオレ達。
はぁはぁ言いながら雪原に寝そべった。頬がほてって、きっと今のオレは真っ赤なほっぺをしているのだろう。
「・・はぁ、はぁ・・楽しい・・。」
雪用の装備じゃないから服はどんどん湿ってくるけれど、今は暑いからそれもひんやりして心地いい。
「お前ら・・・俺がいるからって守ってやるとは言ってねえからな・・・。・・帰るぞ。」
ふらりとどこかへ行っていたルーが戻ってきて呆れた目をした。
一応レーダーはあるから魔物が来たら分かると思うよ!多分!それにルーは絶対守ってくれると思うしね。
「見て見て!ルー!きれい!!」
両手に雪をすくって舞上げてみせる。ルーのうっすら輝く漆黒の被毛が、銀粉に彩られて息をのむほど美しい。
「冷てぇ、やめろ。」
ぶるぶるっと体を震わせて雪を弾いてしまうルーに唇をとがらせる。
「てめーらそんなに濡れやがって・・・乾かさねーと連れて帰らん。」
「乾かすよー!風邪引いちゃうもんね。・・『ドライヤー』!!」
大分慣れてきた水魔法で衣服の水分を除きつつドライヤーで乾かしていく。少し冷えてきた体に温かい風が気持ちいい。
あ・・ドライヤーで連想しちゃった・・ここで温泉したらすごく素敵なんじゃなかろうか?
「ねえねえ、ルー!今度またここに連れてきて!それでね、ここで温泉したらどうかな?!」
「・・・・まあ、機会があればな。」
やった!これはきっとルーも乗り気なやつだ!
帰り道、遊び疲れたオレは断崖絶壁を駆け下りるルーの背で爆睡するという偉業を成し遂げたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
おかげさまでブックマーク500件を越えることができました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。