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772 必要あるかないか

「おいしい……!!」

涙ぐむ様子を見るに、ろくに食べ物を渡されていなかったのだろう。

ナターシャ様のお腹が鳴ったのをきっかけに、オレたちはみんなでおにぎりを頬張っている。

さすがに作るわけにはいかないし、温かいものは匂いが漂ってしまう。ここで食べられるのは、せいぜい作り置きおにぎりとパンとクッキーと、あと果物と干物と、そういえばスコーンもまだ残って……うん、大丈夫だね。


捕らえられていたみんなも、目いっぱい派手な自己紹介のおかげで、オレがただの幼児ではないと分かってくれたみたい。

『餌付けによる懐柔じゃないかしら』

余計な台詞は聞かなかったことにする。

ぽつぽつと集めた情報によると、この子たちは王都や王都近辺に住む子たちらしいことが分かった。

どうも、王都から徐々に離れるように、アジトを移しながら移動しているみたいだ。

『俺様分かったぜ! これがあの王都誘拐団ってわけだ!』

ぱちんと器用に指を鳴らし、チュー助が得意げに言う。そんなネーミングはついてなかったと思うけど、確かに王都で人攫いが増えていたらしいから……そして、騎士団が動いて大方は王都から逃げたんじゃないかという話だったけど……。


『逃げてはいるけど、ちゃっかり収穫しながら逃げてるわね』

ナターシャ様の膝で揺れるモモに頷いて、改めて皆を見回した。

王都で人攫いをするような連中だもの、警備の甘い近郊の町ならなんてことなかったんだろう。見たところとりわけ裕福な子たちというわけでもなく、身代金目当てではないからこそかもしれない。

話を聞く限り、ここもそう長く滞在せずに、どんどん王都から離れて行ってしまうだろう。


「ラキたちに急いでもらわないと! 移動されちゃ、捕まえにくくなっちゃう」

一人二人を救出するならシロの背中に乗せればいいけれど、こうも人数がいると、助けが来た時に脱出しなくては移動手段がない。脅威は悪人だけじゃなくて魔物もいるのだから。

問題は、ここがどこか分からないってこと。

「そうだ! 空からなら、きっと地図が描けるよね! ちょっと待ってて!」

天井近くにある明かり取りの窓、オレのサイズならぎりぎり通り抜けられるんじゃないかな!


いそいそと南京錠に手を伸ばすと、細い輪の部分を急冷する。カロルス様用にお野菜をフリーズドライするときの、超低温だ。

それにしても、子どもだと思って完全に舐められている。納屋に掛けるようなごく簡単で小さな南京錠は、そうして短剣の柄で叩けば、脆くパキリと折れた。こんなの、タクトなら素手で開けられる。

鉄格子を出ても部屋の鍵は閉まっているから、みんなが出て行っちゃうこともないだろう。

「せーの!」

勢いをつけて壁を駆け上って蹴り、さらに反対側の鉄格子を蹴って、無事に小さな窓に掴まった。幸いガラスも何もはめ込まれていないので、体を押し込むように潜り抜ける。


「すぐ戻ってくるから、ちょっと待っててね! そこから出ちゃだめだよ!」

もう一度室内に顔を出して念を押しておく。みんなが呆けた表情でかくかく頷いたのは気になるけれど、誰かに見つかる前にすましておかなきゃ!

「チャト!」

ぽん、と飛び降りたところを、柔らかな背中が受け止めた。

もう辺りは真っ暗だ。チャトが飛んだってそうそう見つからないと思うけど、一応少し離れた場所から飛び立った。


「うーん。描いてはみたけど、分かるかなあ……」

何度も旋回してもらいながら、近くの村や森、川や街道を描き写したのだけど……。

少なくとも、オレは分からない。

分からなかったら、もうシロが直接案内するしかない。オレたちの万が一の移動手段だから、なるべく離れてほしくないのだけど。

「よい……しょ! ただいま!」

「も、戻ってきた……?!」

ラピス&チュー助に地図と手紙を託し、再びぎゅむぎゅむと小窓を通り抜けると、驚く声がした。


そりゃあ、戻ってくるけども。

ざわめくみんなに首を傾げつつ、再び牢の中に戻って、割れた南京錠をそうっとひっかけておく。壊したのはオレじゃないです。次に鍵を開ける人が壊したんです。

「この場所についても連絡しておいたから、近いうちに助けが来ると思うよ! もうちょっと頑張ってね!」

「ど、どうして? 一人で逃げられたのに……」

10歳前後だろうか? 女の子に詰め寄られ、困惑した。

「ええ? オレが逃げてどうするの? 護衛だよ?」


「そんな……ユーちゃん、助けを呼びに行ってくれていいのよ? ここにいる必要はないの」

ナターシャ様まで。それは、一人で逃げろってことだろうか。もしかして、みんなオレが同じように捕まっていると思っていたのか。

『当たり前』

蘇芳にサクッと断定され、苦笑した。

「護衛なんだから、必要あるよね?! ちゃんとここにいるよ?」

むしろ、せっかく一緒にいるのにどうしてわざわざ? という心境だ。

「だって……だって何があるか分からないのよ? こんな怖い所に、いるべきじゃないわ」

俯くナターシャ様に、みんなの瞳が揺れる。


そうか、そうだった。

これからどうなるか分からなくて、きっと助けが来ると思っていても不安で。

1分1秒が心を蝕むような、あの暗く重い時間。

オレには今、内に、外に、頼れる存在がたくさんいる。

いつだって一人じゃないのは、こんなにも心強い。

だから今は、オレがみんなにとってそういう存在になれればいいのに。


「大丈夫、ここにいるよ。オレは、逃げる必要ないもの」

オレは、顔を上げて思い切り笑った。こんなオレでも、みんなが少し安堵したのが伝わってくる。

「オレ、結構強いんだよ。そして、向かっているオレの仲間もね! 怖かったら、おいで。オレが抱きしめてあげる!」

カロルス様みたいに。あの広い胸に包まれれば、怖いものなんてなくなるんだから。

勇ましい笑みを浮かべて両手を広げてみせたら、ぶふっと吹き出す音がした。


「い、いいの? じゃあ失礼して……」

笑みを堪えて妙な顔をしたナターシャ様が、つかつかと歩み寄ってぎゅうっとオレを――抱き上げた。

「ああ……柔らかい。いい匂い。これは確かに、癒されちゃう……こんな場所なのにぃ~」

「つぎ、次私ね! ちゃんと本人の許可があるからいいわよね?!」

クリスティーナさんが隣に並び、その隣に別の子が並び……オレを抱っこする待機列ができた。

違うんだけど。

そうじゃないんだけど。


『いいじゃない、癒しだって立派な心の支えよ!』

『お前はそんなものだ』

オレの心強い仲間は、時々辛辣だ。

ちょっぴり不貞腐れながら、オレは癒しの抱っこタイム(オレ以外)を過ごす羽目になったのだった。


*アルファポリスさんでのファンタジー小説大賞、投票期間残りあと4日! 

どうぞよろしくお願いします! 

アルファポリスさんはPV見えないのよ……読んでもらえてるのか分からないの。

アプリ版だとエールっていうのはあるけど、イイネもないから、感想でしか読者さんの反応がわからない(´;ω;`)

私は好きなんだけど……やっぱりゆっくり進みすぎる話は微妙なのかな~


*もふしら15巻の表紙ブロマイド、特別SSのコンビニプリント始まってます!

詳細は活動報告どうぞ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 包まれる側だもんなぁ
[良い点] カロルス様みたいに包み込むにはサイズが足りなかったか……
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