69 そしていろんな訓練
「ねえチル爺!それ教えてほしい!しまったり取り出したりするやつ!」
「ほ?ああ、空間倉庫かの。そう言えば以前言っておったのう。
ううむ・・普通はまだ早いと思うが・・・お主は変わっとるし、適性もあるからの・・んーやってみるか?」
「うん!!それぜったいおぼえたいの!難しくてもがんばる!」
「ほほっその意気じゃ。皆も見習うのじゃ!」
「てきせいないもーん!」「むずかしいのいやー!」「ちるじいみたいに、おさけもちあるかないもん!」
チル爺・・こっそりお酒を持ち運ぶために覚えたの・・?
「さ・・酒は関係ないからの!よし、始めるのじゃ!」
じっとりした視線を受けて慌てるチル爺・・・アヤシイ。まあ教えてくれるならナイショにしておくよ!
「空間倉庫は、空間の隙間を作って固定しておく魔法じゃ。ヒトの魔法にもあったはずじゃのう・・
たしか収納魔法、じゃったかの?ヒトは体内魔力しか使わんからの・・大した容量は期待できんし維持が難しい。じゃから、魔道具に付与して使うことが一般的・・だったかの。」
「そうなんだ・・そういう魔道具があるんだね!オレもほしいな!」
「お主は妖精魔法で使えるからいらんじゃろうて。ただ、これはの・・教えるのが難しいのじゃ。見ても分かりにくいじゃろ?」
うーん確かに火とか風と違ってイメージはしにくいかもしれない。でも、オレはチル爺がモノを出し入れするのを見て、カンペキにイメージできるものがある・・!そう、アレだ!!国民的人気者、青くて丸い人のポケット、あれだ!!
「まずは空間に隙間があることをイメージして、そこに自分の倉庫を入れる。きちんと自分の倉庫を把握しないと、空間の隙間に入れた物がダダ漏れじゃからの・・気をつけるのじゃ。」
「空間を固定、把握できたら取り出し口を我らがいる空間に繋げるのじゃ。気をつけるのじゃよ!向こうの空間を把握できたと感じないうちは開けてはダメじゃ!吸い込まれたら戻って来られんからの!」
吸い込まれるってことは向こうが陰圧になってしまってるってことかな?なるほど、空間の全てを把握していないと管理できないもんね。結構怖いものだなあ・・。
オレはしばらく目を閉じて集中する。できそうな気がするんだ・・子どもの頃、ずっと見てたもんね。
うーん・・・相性のいい魔素っていうのはない気がする。空間だから・・全部バランス良く使うのがいいかもしれない。
瞳を開くと、なくなっても困らないように拾った石を手に取った。
ポケットを想像しながら、空間に手を突っ込むことを意識する。
「!!!!」
「わあ・・・!」
オレの手が空中で消えている!慌てて戻すと、ちゃんと手は繋がっていてホッと一息。上手くいったのかな?思い切ってもう一度手を入れて石を収納すると、石は空間の中に消えた・・不思議な光景だ。
ふう、と息を吐くとさっきの空間を思い出しながら手を突っ込む。
あ・・・・!
「で・・・できたー!!チル爺見て!できたっ!!」
オレの手にはしっかり石が握られている。
「・・・・・・。あー・・やるんじゃないかって、ワシ、思ってた。思ってたけど・・・マジにやらなくてもいいと思うのじゃ・・・。」
「ユータ、すごーい!」「いいないいな!」「かんたんそうにみえるー!」
妖精たちも大はしゃぎだ。一緒にぴょんぴょん飛んでオレも大はしゃぎ。
やったやったー!!これで色々バレそうなものも隠せるし持ち運びも便利だ!!採取もはかどるー!
どうしても覚えたかったモノを覚えられてオレは大満足だ!まさかこんなにスムーズに覚えられるとは・・・適正のある人は少なそうだし、教えてくれたチル爺に感謝!!今度美味しいお酒があったら分けてもらっておくからね!
なんだか力なく帰って行くチル爺と、いつも通りのトリオを見送ったら、さっそく空間倉庫に色々放り込んだ。冒険者になったらお布団も入れておくと最高だよね!土魔法でおうちとベッドを作って、お布団敷いたら、もう完全にリラックス空間だよ!最高!!
オレはまだ遠い冒険者ライフに思いをはせてわくわくしてくるのだった。
さやさやと風の流れる湖のほとりで、激しく動く小さな影。
「ふっ!よっ!とっ!!」
四方からひゅんひゅん飛んでくる球体をなんとか避ける!捻ってしゃがんで飛び退いて!
「わ・・」
バランスを崩した所にぎゅんと迫る複数の球体。
「やっ!」
思い切って地面を蹴ると、空中で小さくなってとんぼ返り。着地と同時に前転を2回、飛びすさる。
「はあ、はあ・・ふう・・・。」
大分避けられるようになってきたけど・・・
「きゅきゅ!」
ユータ、ここ当たってるの。
うん・・左肩と右足が濡れている。
現在オレはラピスと一緒にスピードを活かす訓練中。ルーの近くでやってたら騒がしい!と怒られたので、湖の対岸でやっている。ラピスが水球を浮かべてオレにぶつける、それをただただ避ける、それだけの訓練だ。水球はだんだん小さく数が多くなっている。ちなみに、ティアはこの動き全て柳に風と受け流してオレの肩にいる・・・。特に苦労している様子もなくのほほんとしてるけど・・どうやってしがみついているんだろう・・・?
とりあえず今は、オレが攻撃できなくてもいざとなったらラピスもいるし、オレもある程度魔法が使える。避けることさえできたら何とかなるんじゃないかって算段で、ひたすら避けることに特化しようとしてるんだ。ルーが教えてくれたらいいのに、ゴロゴロしてばっかりでちっとも教えてくれない。
でも、オレ結構すごくない?昔は側転すらアヤシかったのに、今や宙返りもバク宙も華麗に決めちゃうよ!サーカス団に入れちゃうんじゃない?
自画自賛して額の汗をぬぐう。とりあえず身軽にはなってきたから無駄にはなるまい。ただ遊ぶよりこっちの方が有意義で楽しいしね!
ふわっと濡れた部分を乾かしてごろりと寝転がった。
さやさや流れる風が、岸辺でちゃぷちゃぷ水音を鳴らす。ああ、気持ちいいな。いつもゴロゴロしてるルーはやりすぎだと思うけど、ここは本当にのんびりするのにいい場所だ。ここにいると、森に魔物がいるってことを忘れそうになる。
・・でも、レーダーを広げると、たくさんの魔物が蠢いているのが分かるんだ。
「ねえラピス、右手の奥にいるのはなんていう魔物?結構大きいよね?」
あれはトリプルホーンボアだったよ!
しゅっと行って見てきたラピスが教えてくれる。そうか、アレがボア・・食べたら美味しいんだってね。
「あっちの小さいのは?なんかちょっと変わった感じ。」
あれはアイアンスパイダー!
ああ、虫だから変わった感じがするのかな?これは虫の気配って覚えておこう。
休憩しながらラピスの協力を得て、レーダーの精度向上に努めている。近づいてくる魔物がゴブリンなのかドラゴンなのかで全然対応が違うもんね。実際に見に行けないから、本で見たイラストや、聞いたイメージでしか想像できないのが残念だけど・・。
「ん・・・あっちのはフォレウルフ、かな?」
んーと・・・当たり!じゃああっちのはなーんだ?
「うう・・何だろう・・・動物っぽいけどあんまり動かないから・・植物系?」
はずれ!あれは寝てる森跳鼠!
「ええー難しいよ・・。」
クイズみたいで結構楽しいんだ。これも安全にできる場所で、ラピスがいるからこそだなあ。
何体か当てっこして遊んだら・・よし、休憩終わり!
「よぉし!ラピス、またやるよーっ!お願いね!!」
「きゅきゅっ!!」
うんっ!ラピスにまかせるのっ!
ラピスも気合い十分で頼もしい!
「ほわっ!?のっ!まっ!まっ!・・てっ!!」
らっラピスーーー!!!ストップっ!ストップーー!!
ギュギュギュンッ!!ゴッ!!ゴゴッ!!
はやっ!速すぎるよ!!!!もう声を出す余裕もなく死にものぐるいで避ける、避ける、避ける!!
ひいい!当たったら・・まずい!手足が吹っ飛びそう・・!!
あっ・・やばっ?!咄嗟に反り返った鼻先を、ぎゅんっと掠める水球・・!!いやいや・・!手足なら治せるかも知れないけど頭は死んじゃうっ!死んじゃうからっ!!
・・・・その数分間を耐え抜いたオレは、精根尽き果てて横たわっていた。
初めて水球を掠らせもしなかった・・・けれど、濡れなかったはずのその体は、冷や汗でびっしょりだった。
ラピスは大雑把。そして張り切ったらやり過ぎる・・・
*なぜかお礼間話を投稿したら本編も投稿してしまってました・・23時に投稿するはずだった分です・・。