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764 全部?

「ナターシャ姉さま、もうすぐ着くよ!」

同じ体勢ではあちこち痛めるだろうと、定期的にオレとまとめて回復魔法をかけていたら……起きない。ナターシャ様、全然起きない。

途中、休憩は挟んだけれどナターシャ様が寝ていたので、馬を休めて軽食を食べたらすぐに発っていた。

お腹も空いているだろうに、これは昨日よほど眠れなかったに違いない。

「んんー姉さまは私じゃないわ。もうちょっと待ってちょうだい」

揺さぶっても眉間にしわを寄せ、ごそりと体を丸めてしまう。

「あれ? 姉さまじゃなかった? ナターシャ姉さま?」

くすくす笑うと、ぱちっと目を開けた瞬間にものすごい勢いで起き上がった。


「えっ?! 何、どうして?! 待ってよ! ちょっと待って?!」

いくらでも待つけれど。

自らの失態に赤くなったり青くなったりするナターシャ様。そんなに気にすること? 確かに淑女としては人前で寝ちゃいけないのだろうけど……オレたち護衛だしね。

「ナターシャ姉さま、よく眠れた? どう? オレの魔法はすごいでしょう!」

敢えて胸を張って言ってのけると、頭を抱えてぶつぶつ言っていたナターシャ様がハッとした。

「え、そ、そう! すごいわ、ユーちゃんの魔法が凄くって、私すっかり寝ちゃったみたい……恥ずかしいわ」

「そうでしょう! 恥ずかしくないよ、オレたち一応護衛なんだから、ちゃんと頼って寝ていてね!」

「そ、そう……かしら??」

「そうですよ、無理に気取ったって、すぐに化けの皮は剥がれてしまうものですから」

それは言っちゃあいけないような。

案の定、怒ったナターシャ様がミーシャさんに詰め寄っている。


ほどなくして馬車が止まり、まずタクトが馬車を飛び出した。

次いでラキとミーシャさんが下りて、オレはナターシャ様に手をつながれたまま……これじゃあ、オレがエスコートされているみたい。

「オレ、ちゃんとエスコートするよ!」

「まあ、ユーちゃんったら、淑女はエスコートされるもの、するものじゃあないのよ」

言われてハッとした。そうだった、オレは今貴族の淑女になっているんだった。


「お手をどうぞ~?」

スッと差し出された手と優雅な笑み。ラキって、本当に貴族じゃないんだろうか。

むっとしつつも手を乗せると、なるほどこれは歩きやすい。だってスカートって足元が見えにくいんだもの。ステップを踏み外しそうで怖い。

前ではガチガチのタクトがナターシャ様の手を取って、エスコートらしきものをしている。

これはこれで、不慣れで硬派な騎士候補生みたいで微笑ましく見えるから不思議だ。


「はぁ~やっと宿に着いた!! なあ俺、次から馬車の外じゃダメか?」

しゃべると残念なタクトに戻ってしまうのが難点だね。だけど確かに、タクトがずうっと馬車に乗っているのは苦行かも。ムぅちゃんの葉っぱも大事に使ってほしいし。

「じゃあ、次からは外に居られるように頼んでみる?」

「おう! 走ってついてくぜ! 疲れたら馬車に掴まってりゃいいよな」

「いいわけないよね~。その恰好で馬車の外走ったらダメでしょ~」

そ、そうか。お高そうな衣装で走る子供がいたら、何事かと思うよね。


「ちなみに僕は馬車内で全く問題ないから~」

そうだろうねえ。ナターシャ様が眠ってからは、ひたすら加工の練習やら道具の手入れやらしていたし。

「オレも外に出たいけど……」

「ダメだね~」

「ダメっつうか、無理だろ」

ですよね。ナターシャ様のこの様子じゃあ。


「さあユーちゃん、早く行きましょう。私、お部屋でくつろぎたいわ!」

「お嬢様は馬車でもずっと寛いでらっしゃいましたよね……」

ウキウキと手を取ったナターシャ様は、既にミーシャさんのツッコミも聞こえていないらしい。

オレは無言でタクトとラキを見上げたけれど、二人は朗らかに手を振るばかり。

「俺らもそのカッコのお前とは、ちょっとな」

「ユーちゃん、また明日ね~」

恨みがましい視線など気にも留めず、二人は部屋に引っ込んでしまった。

そう、オレたちは案内されるままに貴族宿まで来たものの、ひと悶着あったのだ。


「――え、ユーちゃんは当然私と一緒よ?」

「ええっ?! オレ、男の子だよ!」

「今は妹なの! 妹が男の子二人の部屋にいる方がおかしいでしょ!」

言われて反論に詰まった。確かにそう……対外的に妹なんだから、タクトたちと同室はあり得ない。かといって幼女一人別室もおかしい。


「男の子だって、ユーちゃんくらいの年なら同室で全く問題ないんだから」

そう言われてしまえば仕方ない。それに、ナターシャ様のごく近くで護衛できる利点を買われてオレたち、というかオレが護衛に選ばれたのだ。それはこういう時のためだったんだろう……たとえ建前であったとしても。

だってナターシャ様が領地から連れてきた護衛は、男性ばかりだったのだもの。女性の護衛って少ないから、こういう時に困るよね。


仕方ない、とあきらめてナターシャ様たちとお部屋に入ると、油断なくレーダーを使っておく。

よし、誰もいない。妙な魔道具反応もない。オールクリアだ。

なんだか、途端に護衛らしくなった気がして、ふふんと笑みを浮かべた。

「あの、ねえ……ユーちゃん?」

「ええええーと、えっと、何が一体どうなって??」

悦に入っているところで、二人がオレに駆け寄ってがくがくと揺さぶってくる。


『広いお部屋だね! ぼくがいても狭くないね!』

『寝床は、悪くない』

『スオー、この枕好き』

『ちょっとちょっと、みんな出てきちゃダメよ! 私はスライムだから大丈夫なだけ!』


フンスフンスと室内を嗅ぎまわるフェンリルと、主より先にベッドを堪能している猫。

そして枕をぽふぽふ吟味しているカーバンクル。

憤慨するフラッフィースライムが激しく跳ねているのが賑やかしい。

『俺様知ってる。こういうお嬢様とかって、俺様見たらキャーとか言うんだ。だから俺様そっち行かない。こんなにかわいいかわいい害のないねずみなのに』

『おやぶ、らいじょぶよ、あえはも一緒いるかやね』

オレの肩も騒がしい。

「ピッピピ……」

ティアだけが、泰然と揺るぎなくオレの肩で溜息(?)を吐いていた。


「……ええと、その。護衛の一環で……環境の確認を…………」

ぼそぼそ答えるオレに、胡乱気な視線が突き刺さる。

「大体全部召喚獣だから! 怖くないし汚くもないから! ま、待ってね、今洗浄魔法もかけておくから!」

誤魔化すように早口で説明すると、サッと両手を挙げた。

よし、ついでにオレたちも洗浄してしまえばいい! お風呂はお風呂で別に入っても構わないんだし。

汚れ除去の洗浄魔法を部屋全体にかけ、きれいになりましたよ、という演出のために浄化魔法もかけてキラキラさせておいた。


「おかしいわよね? ちょっと待ってこれ、絶対おかしいわよね?? 私、今ユーちゃん魔法使ったと思うんだけど?!」

「みみみ見間違いじゃないですよね?! ちょっと待ってください、えと、ユータリア様は最初短剣を使うというお話で……回復と、召喚と、魔法……?? え? それって全部では?!」

二人して何を待ってほしいんだろうか。

「全部じゃないよ、弓とか斧なんて無理だし」

そう言ってはみたものの、近・中・遠距離こなせて魔法と召喚と従魔を使えて回復と解呪もできるなら、確かに全部と言えるのかも。

ああ、一人パーティと言われるはずだ。


「だけど、身体強化はできないんだよ」

戦闘には関係ないけれど、加工だって上手ではない。

ちょっぴりむくれたオレのセリフなど、二人は全然聞いてはいなさそうだったけれど。

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