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762 お姉さま

「お~なんかカッコいいな!」

「うん、ゴテゴテしてなくてさすがセンスがいいよね~」

喜ぶ二人の傍ら、オレは一人固まっている。


『そうよね、そうなっちゃうわよね~』

なぜか嬉し気にモモが飛び跳ねている。

なっちゃわないよ! どうしてオレだけこんな目に合うの?!

「似合うと思うよ~?」

「だよなー、俺そんな気がしてたぜ!」

無言で広げて見せた旅装を、二人に何の驚きもなく受け入れられてしまった。

非常に遺憾なんですけど。


「お気に召しませんか?」

ふいとオレの上に影が落ち、困ったような声が掛けられた。

うん、とても困ってる。困ってるけど、依頼者さんの前でどうしたものか……。

途方に暮れてセバスさんを見上げると、彼はにっこり微笑んだ。

「そちらがお気に召さなければ、他にもご用意がございます」

「本当?!」

パッと顔を輝かせたオレに優しく頷くと、控えていたメイドさんが心得たように何かを運んできた。


「こちらの中から、お好きに選んで下さって結構ですよ」

ざざーっと運ばれてきたハンガーラックには、色とりどりの衣装がみっちり掛けられていた。

オレは無言でセバスさんの顔を見て、セバスさんは変わらぬ微笑みでオレを見つめ返す。

「……これで大丈夫です……」

オレは肩を落として最初の衣装を手に取ったのだった。


とても、うん、とてもかわいいね。もしかしてナターシャ様の小さい頃の服かもしれないね。

服の可愛さには申し分ないんだけどね、何分着るのはオレだからね。

それでも、きっとさっき運ばれてきた中よりはオレが気後れしないよう選んでくれた気遣いは感じる。

ある程度ふわふわしてある程度フリルがあってある程度リボンもついているけれど――それでも、控えめで色が大人しい。貴族の少年なら、こういうのもあるのかも、と思える。

ただし、スカート。この一点さえなければなあ。


正直、ロクサレンで結構着せ替え人形になったりしているので、まあこのくらいの女の子の服ならマシな方だと思おう。

渋々着替えようとしたところで、メイドさんが手伝いに来てくれた。

「こちらは、お嬢様が大変時間をかけてお選びになったのですよ。とてもお似合いだと思います」

そ、そう……。心からの誉め言葉に、曖昧な笑みを浮かべるしかない。

「ですがお小さくても男性ですものね、気になりますよね。どうぞご安心ください!」

オレの微妙な表情に気づいたものか、メイドさんは華やかに笑みを浮かべた。もしや、ズボンのご用意も、なんてことが……という期待は儚く散った。



姿見の前で右を向き、左を向き、くるりと回って確かめた。

エア短剣を構えたカッコいいポーズを取って見ても、それでもやっぱり。

「……女の子に見える」

深々と溜息を一つ。これはもう、何をどう見ても女の子だ。

そりゃそうだ、幼児だもの。身体的特徴の差なんてないもの。

女の子の服を着て、こんな髪なら、そりゃそうだ。


メイドさんが嬉々として取り出したのは、金髪のカツラ。ナターシャ様はもう少し茶色っぽいけれど、貴族としては金髪が割と多いので自然な色だ。

でも、少し嬉しく思ってしまう胸の内が悔しい。

だってこれ、カロルス様の色だ。そして、エリーシャ様みたいに長くてサラサラしている。

別に、髪が長い男の人はいるもの。だから、このカツラは気に入ってもいい。

「これで、もう完璧でしょう? そのままで十分お可愛らしいですが、御髪が特徴的ですし、貴族としてはお子様も短髪の方は非常に少ないですからね」

バラ色の頬に瞳をきらきらさせて、メイドさんはなんだか会った時より輝きを増したような気がする。

ちなみに、同室で着替えていたタクトとラキはとっくに終わって部屋へ案内されている。


「ほう……とてもよくお似合いです。ユータ様は素晴らしい冒険者ですね、完璧な変装です。これなら、お嬢様の護衛として申し分ありません」

迎えに来たセバスさんが微かに目を見開いて、感嘆の声を漏らした。

オレはひとつ瞬いて、にっこり笑う。

そっか、そうだね。これは女装なんかじゃない、護衛のための変装だもの。

すっかり機嫌を直したオレは、意気揚々と部屋へと向かったのだった。


案内された部屋に飛び込むと、二人は随分こざっぱりと整えられて、がらりと雰囲気を変えていた。

「え~! いいなあ! オレもそのカッコいい服着たかった!」

つい、心からの声が飛び出してくる。

タクトは剣が様になる騎士服っぽい雰囲気の衣装だ。やんちゃが凛々しさに変換されて、実力が伴った迫力さえ感じる気がする。

ラキに至ってはあるはずのない高貴なオーラが漂っているんじゃないだろうか。元々髪色も淡いし、違和感なく服が馴染んで、お忍びの王子様みたいだ。

目を輝かせて駆け寄ると、あろうことかスッとタクトが体を引いた。


「お、おー……ユータか。すげーな」

「うっわ~~なんていうか、うわあ~だね~」

すごい引かれてる気がする。なんなら物理的に距離が空いている。

傷つくんですけど!!

「完璧な変装、でしょう!!」

もはや自棄になってくるりと回ってみせると、二人はただこくこく頷いたのだった。



「――ッ!! ユーちゃんっ! 私の可愛い可愛い妹ぉ~!!」

……その第一声を皮切りに、オレはナターシャ様から構い倒されている。

「ん~ユーちゃんは何色が合うかしら……瞳の黒が結構強いわねえ」

揺れの比較的少ない馬車の中、今は髪にいろんな色のリボンをあてがわれているところだ。

「そっか、ナターシャ様お姉さんしかいないもんね~」

「あー、妹が欲しかったってやつか」

向かいの席からはひたすら生ぬるい視線を感じる。


オレたちは早朝からエリスローデを出発し、こうしてナターシャ様の馬車に同乗して旅のお供を務め始めた。ずっと同乗するにはお尻が心配だったけれど、座席にはしっかりとクッションが設置されていて助かっている。

当初は中々に苦行だと思ったけれど、ナターシャ様があんまり嬉しそうなので、もういいかという気分だ。なんだか本当に妹のように扱われてくすぐったい。

ちなみに、オレの名前は『ユータリア・ザイオ』らしい。これもナターシャ様が数日を要して考えてくださったそうで……一体いつ使う機会があるのだろうか。


「本当に良かったですね、今回は皆様のおかげで随分楽しい道中になりそうです」

ナターシャ様の隣で、ミーシャさんがひたすらにこにこしている。ぼそりと聞こえた『俺らは別にいらなくねえ?』というセリフは聞こえなかったことにしよう。

「ナターシャ様は、いつも一人で道中過ごしているの?」

「こら、ちゃんと呼び名を改める!」

「あ、ええと……ナターシャ姉さま?」

途端に、ナターシャ様が相好を崩して頬を紅潮させた。その笑顔は貴族にあるまじきって叱られるやつでは……。


「んふ、んふふふふ。なあに、ユーちゃんはお姉さんのことを知りたいのね? 全く、仕方ないわねえ」

もしかして、これはナターシャ様のお姉さんを真似てるんじゃないだろうか。なんだか、むしろ余計に子供っぽく見えて可愛らしい。

「普段はお母さまが一緒だから、遠出の旅で一人ってことはないのよ。だからこそ、今回の依頼なわけだし。まあ、私は一人でも平気なんだけどね、お姉さまもみんなも心配するものだから」

ナターシャ様は、本当困ったものよね、みたいな顔で仕方なさそうに肩を竦めてみせた。

だから、隣でミーシャさんが『お嬢様ったら』みたいな顔でくすくす笑っているのは見なかったことにしてあげよう、と思ったのだった。

大方の予想通り、やっぱりこうなりますね!!だってそうなるでしょう?!


アルファポリスさんでの新作デジドラ、ストーリーの浮き沈みの沈み部分やっと越えたー!!

なので皆さん今からだと心置きなく読めますよ!!!

カクヨムさんでも後追い公開始めました!アルファポリスさんが大分先行している感じになります!

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― 新着の感想 ―
ロクサレンの女性陣がこっそりついてきてそう
[一言] ユーちゃん(o^^o) ファンアートの意欲も かき立てられちゃいますね!
[一言] ロクサレン家の方々が血の涙を…… ……いや……似た服着せられるか?
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