68 訓練2
毎日の訓練は、あちこち痛かったりカロルス様に腹が立ったりするけれど、でも・・この小さな体はやればやっただけ色々吸収してくれる。伸びていく実感があることって、とても楽しいよね!いまだにカロルス様には木剣がかすりもしないどころか、『避けない』っていうハンデをつけてもらったのに当たらない。なぜかって?そのへんで拾った細い棒きれで、オレの木剣をすいっ・・すいっ・・って受け流すんだ!・・なんで!?簡単に折れるような細い枯れ枝で・・・幼児の割に力の強い、オレの渾身の一撃がいとも簡単に流されてしまう。・・おかしくない!?その棒きれがおかしいのかと確かめてみたけど、やっぱり普通の枯れ枝だ。・・ニヤニヤするカロルス様にぶん投げたら、簡単にキャッチされてしまった。
でもね、頑張ってるおかげでかなりサマになってきたって褒めてもらえるんだ。自分だけ教えられないとションボリしていた執事さんが、全体の指導係をやってくれるようになって、とても具体的にここが良かったとか、ここがもう少しとか教えてくれるんだ。セデス兄さん以外はみんな感覚派で、あんまり教えるのが得意じゃないけど、執事さんはとてもわかりやすい。体術も剣術もある程度しかしていないそうだけど、教えるのは誰よりも上手なので、先生役にピッタリなんだ。ちなみに執事さんは魔法の達人らしいよ!オレが魔法習ったらいっぱい教えてもらうんだ!
「ええいっ!・・やっ!はっ!!」
「うん!いいね!腰は低く!そう、ちゃんと回転がのって重くなってるよ。」
「子どもとは思えない身のこなしです。振り下ろす際は、下になった方の手で引き絞るように引っ張ることを意識すると良いですよ。肘から引くのがコツです。」
カンッカンッ!
小気味よい音が鳴る。斬りかかるオレの木剣をきれいに受けながら、にこやかに指導してくれるセデス兄さん。カロルス様と違ってちゃんと木剣を使っている。『あんな細枝で木剣を受け流すなんて気持ち悪いことができるのは、あの人ぐらいだから・・』って言ってたよ・・。
「よし、じゃあ今度は受ける側だよ?」
「はいっ!」
多分、ゆっくり振ってくれているだろう木剣を必死で受けて横へ流す。普通に受けたのでは力負けしちゃうので、絶対にまともに受けないこと!と言われている。でも、流すのって結構難しいんだよ・・!
「あっ・・!」
ガキッ!
打ち合いの中で、流すタイミングをつかみ損ねてまともに受けてしまった・・。簡単に手から弾き飛ばされるオレの木剣、びりびり響くオレの手。
「ユータ大丈夫?」
「大丈夫!でも、むずかしい・・。」
「ユータ様、普通そのお年で受け流しなどできません。充分、素晴らしいですよ!」
「そうかな・・。」
容易く受け流すセデス兄さんやカロルス様を思い返して、ため息をついた。
オレは森の中で黒いふかふかに顔を埋めてぎゅっとする。
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・てめーは来るなり何やってる。」
「・・いやされてるの。」
金の瞳を細めてうんざりした顔をする大きな獣。でも最近は諦めたのか、触るのもぎゅっとするのも勝手にしろって感じだ。ぐりぐりと顔を押しつけて、たっぷりと柔らかい毛並みを堪能してから顔を上げた。
「つよくなるのってむずかしいね・・。くんれん、なかなか思うようにいかなくて。」
悔しい・・よくできているとは言われるけど、オレのまわりにいる人たちができすぎるからなぁ・・ちっともできているように思えない。伸びていく実感はあるし、楽しいのは間違いないけれど・・先が遠くて手が届かないことが悔しくもある。あまり無理はさせられないと、訓練時間が半日なのもじれったい。勉強もしなきゃいけないからそのぐらいでちょうどいいのかもしれないけど・・でも、早くある程度まではできるようになりたいよ!そう、スポーツだったら試合に出られる程度っていうのかな?一般的に認められるくらいに。
「ハッ、オレの加護を持ってんのにヒト相手に手こずるなんて、サボってやがるからだ。」
「ええ・・サボってるかな・・」
「そんなナリで普通に訓練しても仕方ねえだろうが。加護を活かさねーとただの幼児と大差ねえよ。」
「加護を活かすって・・・?」
「知らねー。」
ごろん、と転がったルーの上にうつぶせで乗っかる。温かくて、ふかふかして、鼓動で体が揺れる。
「・・重い。」
「重くないよ!」
オレの重さなんてルーにとったらぬいぐるみみたいなもんだって知ってる。
加護を活かす訓練・・・ルーの加護は身体能力の向上、だと思ってたけど・・それだけじゃないのかな?ルーの特徴は・・素晴らしいもふもふ・・じゃなくて。ええと、速さ、かな?あと、遠くまで休みなしに走って行ったりするから、体力もある。思えば確かにオレの身体能力で一番上がってるのがそこかもしれない。
「速さ・・・。オレは力がないから、打ち合うくんれんじゃなくてヒットアンドアウェイがむいてるってことかな・・。体力もそこそこあるんだし。」
「・・・・。」
「そっか・・いまこの状態でたたかえるようになることを考えたら、ふつうのくんれんじゃダメなのか・・。」
カロルス様たちは、当然先を見据えて教えてくれている。幼児が今すぐ戦えるようにならないと知っているから、基礎から丁寧に指導してくれる。でも、一応大人の思考を持っているオレには物足りなくて・・。
基礎は絶対に必要だから、訓練以外の時間でオレ専用のやり方で訓練するのがいいかもしれない。オレは一人じゃないしね!
オレは再び漆黒の温かい毛皮に顔を埋めた。
「きゅ、きゅ!」
「・・ん?ラピス?おかえり・・。」
あれ?オレ寝ちゃってたらしい。いつの間にか帰ってきていたラピスに起こされた。
ルーの所にいたら安全だから、ここに来るとよくラピスは聖域に帰っている。アリスはどうしてるかな?
「アリスはどう?こっちには来ないの?」
「きゅう!」
聖域のみんな元気なの!今は聖域を出たりしながら、あちこち行ってるの。ところでユータ、前にアリスの次はイリス・・って言ってたの。ラピスは5匹までお名前聞いたけど、他にもお名前あるの?
「ああ、また生まれそうなの?うん、オレの国ではね、言葉の順番みたいなものがあって・・・」
ラピスにあいうえお表の話をしたら、じゃあこれからはラピスが名前をつけてあげる!と喜んでいる。
そっか~新たな子が登場してくれると嬉しいな!
「また連れてきてね!」
そう?じゃあまた今度呼んでくるね!
ぬくぬくとした毛皮に埋もれていたらまた眠くなってきた・・。
「きゅきゅ!」
ユータ、もう帰らないと大きい人が怒るよ?
「ふふ、カロルス様、だよ?うーんもうそんな時間?」
「とっとと帰るんだな・・。」
「あー気持ちよかった!ルーありがと!じゃあまたね~!」
最後にぎゅうーっとしてからバイバイする。
ルーもこっちに来てくれたらいいのに・・・オレが大きくなって自分の家をもつようになったら、絶対ルーも来てもらおう!
ふわわ・・とフェアリーサークルが起動してオレの部屋へ。
「ユータ!」「きたー!」「おかえりー!」
ぼぼぼすっ!
オレの胸元に突っ込んできた妖精トリオ。後ろにひっくり返りそうになりつつ腰を落として受け止める。うむ、これも日々の鍛錬の成果!
「いらっしゃい!ごめんね、でかけてたの。」
「さっききたの!」「ねえねえ!みて!」「みてみて!!」
妖精たちがオレの目の前に何か掲げてくる。ちょっと待って待って・・近すぎて見えないから!
妖精達が掲げているのは・・綺麗な石。あ、もしかして・・
「わあ!キレイになってる!上手にできるようになったんだね~!」
「そう!すごい?」「できたの!」「うれしい!」
本当に嬉しそうだ。空中でくるくる回ってはしゃぐ様子にほっこりする。
「ほっほ、これは有用じゃて。こやつらのように根気もやる気もない者に細かい事を教えるに最適じゃったわ。」
「チル爺!」
ぽん、と空中からキレイになった石を取り出して渡される。この魔法!そうだ、オレがとっても覚えたいやつ!これ教えてくれないかなあ・・・妖精魔法はあんまり使ったらいけないけど、訓練するだけなら・・いいよね?






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