67 訓練
・・・お水に生命魔法を流してはいけません。オレ、覚えた。
あーあ、また怒られちゃった・・。
このぐらいバレないと思ったんだけどなー・・美味しくなるのに・・・。
どうやら美味しいお水はちょっとした回復薬に近い効果が出てしまうらしい。お水に魔力を流すだけで回復薬ができちゃうとは・・・なんと便利な。オレ、生命魔法得意で良かった!
「お前・・・・頭がいいくせに、そもそも浜辺にくつろぎ空間を作ることがおかしいと分からんのか・・。」
えー・・だから部屋自体は作らなかったのに・・テーブルセットや食器もダメだったらしい。
こんな便利な魔法を使わないなんて!オレはもう便利さに慣れてしまって・・もはや使うための言い訳を考えた方が早いのかもしれない・・・。
そんなカニパーティー?をしている間に時刻はもう夕方に近く、その日は暗くなる前に急いで馬を駆って帰ることになった。
ちなみに帰り道も二人はギラギラしていたので魔物は出なかった・・だからそんな肉食獣のオーラを放っていたら無理だって・・。
ごめんよ魔物・・オレのレーダーは一目散に逃げていく魔物達をとらえていた。夜分にウチの者がすみません。
館に帰ったら、やれやれとくつろぐ間もなく厨房に呼ばれてしまった。
どうやら夕食にもカニを食べるらしい・・あれ早めの夕食じゃなかったの?まだ食べるんだ・・。
でもここはカニ普及委員として頑張らねば!ジフや料理人さんにカニ料理について熱く語って伝授しておいたので、これからは定期的に食べられるだろう。ちょっと心配していたのだけど、アレルギーのある人はいないようで一安心。
「海蜘蛛が食えるとは・・・」
「俺、畑の手伝いで海虫の肥料蒔いてたぜ・・・食いモンなくて腹減ってた時なのに・・勿体なくて泣けてくるわ。」
「これ海辺の食糧事情的にやばい発見だよな・・俺、蜘蛛だから毒あると思ってたわ。」
「新たな食材だな・・・このままで美味いから料理として出すのが難しいな・・。」
そうか、貧しい漁村でも採れるなら食糧事情に一石を投じることになるかもしれないね。そんな貧しかったら蜘蛛でもカニでも食べるだろうにと思ったけど・・・毒があると思われていることもあるのか。それだと一般的に広めるのは難しいかもね。
まあ何にせよオレは食べられるわけだからいいんだけど!
あれから何度かバスコ村に通って、お魚フライとカニについてバスコ村と共同で進めていく方針になったらしい。試食会も開催したんだよ!長年食糧とみていなかったカニを食べるのはかなり抵抗があったみたいだけど、エリーシャ様が「私も食べているのだけど・・食べられないって言うのかしら?」とニッコリしたら、みんな慌てて口に詰め込んでいた。エリーシャ様、すごい!
何だか大事になってしまったけれど、うまく話がもっていけたようで良かった。いわゆる儲け話になるだろうに、惜しげも無く他村と共同するって、トラブルとか怖くないんだろうかと思っていたんだけど、バスコの領主様を見て納得した。すごく・・・後光を放つレベルにすっごく人の良さそうなおじいさんだった・・。カロルス様の提案を、まるで孫の発表会を見るような目でうんうん頷いて聞いているんだ・・。
聞けば、領地のことなんててんで分からない時にとってもお世話になった方なんだそう。これからは恩を返して行けたらいいな!
バスコ村に滞在して村人とも仲良くなったし、領主様にもトラブルなく挨拶できたから、オレも無事次のステップに行けそうだ。・・・カニのぼっちゃんと呼ばれるのはちょっと心外なんだけども。
次のステップとなる目的地はもう少し大きな町、ガッターだって!きっとニースたちはもういないだろうから、そこは残念だけど・・。町はヤクス村から結構離れているので、バスコ村ほど頻回に訪れることはできないけど、その代わり向こうで滞在したりもしようって!それって旅行だよね?とっても楽しみ!
最終的にはハイカリクでしばらく滞在して、学校に行くまでに街に慣れておくようにするんだって。ハイカリクで問題なく生活できるなら、どこへ行ってもそう困らないそうだ。・・オレはこの人達にどうやって恩を返したらいいんだろう。何か貢献できること、考えていかなきゃ・・。
そして・・オレの念願の訓練!やっとやらせてもらえることになったんだ。オレも、こんな強い人たちに囲まれているんだから、少しは戦えるようになりたいもの!
ロクサレン家は全員戦えるから、代わる代わる初歩の体の動かし方からゆっくりと指導していってくれている。でも本格的な戦闘訓練はまだ先だって言われてしまった。
「そう、ユータ様お上手です!」
今教えてくれているのはマリーさん。なんと、彼女はメイドさんなのに戦えるのだそうだ!エリーシャ様がマリーさんに何か耳打ちしてからというもの、率先して指導してくれている。体術の担当はマリーさんとエリーシャ様だ。
「は・・ふう・・・。ねえ、マリーさんやエリーシャ様は、どうしてそんなにほっそりしてるのに力がつよいの?」
「まあ!ありがとうございます。ふふ、私たちが使っているのは筋力ではなくて魔力なんですよ。魔力で筋力や強度を補って大きな力を得ているのです。ユータ様はまだ真似してはいけませんよ?身体強化の魔法を習ってからです。魔力が大きいと体に損傷をきたしたりしますからね。」
「そうなんだ・・・はやく習いたいなぁ。」
身体強化か・・妖精魔法でやると、それこそ魔力が大きすぎるな。人の魔法ならではかもしれないね。
ああ・・早く学校で魔法を習いたいな!ちゃんと習って、人の魔法が使えるようになったら、普通に魔法使ってもいいんだって。普通に、な!って念を押されたけど。
基本的なステップから、空手の型みたいなもの。受け身の練習。体術の訓練はなんだかこれぞ修行!って感じでオレの中の男が燃えてくる・・・まぁ体術使うのはロクサレン家では女性なんだけどね。
でもこんなほっそりした女性にできるっていうのはオレの希望だ。もし・・もしだよ?万が一にも・・・その・・例えば、あんまり・・たくましい体にならなかったとしても・・強くなれるってことだ。まあ、それはあくまで最悪のケースを想定して、だ。今からこんな訓練してたら、きっと将来は誰もが避けて通るような強そうな男になるに違いない。
剣術についてはカロルス様とセデス兄さんだ。カロルス様は結構容赦ないし唯一実戦形式?だけど、セデス兄さんは型とか足運びとか、指導らしいことをしてくれる。
今日は二人とも指導についてくれているんだ。でも・・・
「はっはー!そーれそれそれ!ここも!ここも甘いぞ!」
「いたっ!いた!・・もう!ちょっとまってよ!!」
「わはは!敵は待ってくれんからなぁ!」
・・オレは怒っている。カロルス様はほっそい木の枝で容赦なくぴしぺし叩いてくるんだ。意外と痛いし腹が立つ!オレの木剣はかすりもしないのに・・!
「大人げない・・・。ユータ、ほらムキになったら構えが崩れてるよ!切っ先上げて!平常心平常心!」
おっと・・カロルス様のペースに巻き込まれる所だった・・・えっと、こう構えて低く腰を落として・・。
オレは小さいからそれを活かしたらいいって教えてもらった。・・・・『小さいから』・・ちょっとへこむけど、今だけ!小さいのは今だけだから・・!!
小さい敵は剣を使う相手にとってやりにくいそうで、普通に斬りかかるより、足を払うなりして転がして仕留めようとするだろうって・・こわ・・。オレは体重が軽くて簡単に転がされてしまうから、可能な限り低く小さく構えるといいらしい。今のオレでは普通の蹴りでも転がってしまうけど、足さえ払われなければ、ただの蹴りには対応できる・・ようにする訓練中だ。
「おやちっこいなぁ~足がないのかもしれんな~?おやおや?ここにあったぞ?」
ピピピピピシィッ!!!
せっかく低くなって足への攻撃を防いでいるのに、信じられないスピードの連打が両足に入る。
む・・むきぃーーーー!!!
「わーははは!ちっこいのが怒ったぞ!ほれほれどうした!ちーっとも当たらんなぁ!」
「ちょっと!!父上っ!!」
・・・オレもうカロルス様と訓練しない!!
はしゃぐカロルス様・・ユータと訓練できるのが嬉しくて・・。