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730 多少の条件

最後に領主館へ挨拶に行こうと思ったのが、そもそもの間違いだった。

特に問題なくお礼と挨拶をすませ、後ろ髪引かれつつもさて立ち去ろうとした時。

「――ユータちゃん?」

扉の前に立ち塞がるエリーシャ様と、マリーさん。そして、背後に控えるメイドさんズ。

異様な空気を感じて、オレ含む全員がじりっと下がった。

「え、えっと? なあに? オレたちもう出発しようかと……」

「……約束」

微笑みと共に言われた言葉に、ギクリと肩が震える。

くっ……今の今まで純粋に忘れていたのに! そう、約束……したんだった。


「ゆ、ユータ? あの、約束って……?」

そっと袖を引かれて振り返ると、オレは視線を落として俯いた。

「ごめんね、オレ、どうしてもみんなをロクサレンに喚び……呼びたかったんだ」

「え、うん、そりゃあ、僕たちだってここへ来たかったんだけど……」

でしょう? そのためには、少々の犠牲も致し方ない。

そう、思うでしょう?

「オレ、言ったよね? 『多少の条件』があるって」

だからこそ、お気持ち程度の金額で宿泊合宿が実現したわけで。

口元に、ほんのり笑みが浮かぶ。オレは、下げていた視線をゆっくり上げた。

「――ねえ。一緒に……生け贄になって?」

みんなの喉が、こくりと鳴った。


「――あっつう。見てるだけで暑い。ユータ、もうちょっと涼しく」

「結構涼しくしてると思うんだけど」

きゃあきゃあと盛り上がる熱気のせいだろうか。それともその見た目にも暑いもふもふのせいだろうか。室内の温度は上がる一方、彼女たちのボルテージと同じだ。

オレは冷房役を担ってひたすら室内を冷やしているけれど、まだ終わらないだろうか。

「だけど別に、そこまでユータが嫌がるほどのものじゃないでしょ~?」

何が嫌なの、と言わんばかりの視線をじとりと睨み上げ、まふっと腕を組んだ。

「2人は何も苦労してないもの! オレだってただ着るだけならそこまで……多分、そこまでは嫌がらないよ……多分」

朝から晩まで散々取っ替え引っ替えされるのが嫌なの! すっごく疲れるんだから!

今回オレ含めタクトとラキは専用のものがあるので、ただ着ただけだ。それも、別にふりふりドレスなんて敷居の高いものじゃない。


――ユータ、よく似合ってると思うの! ラピス部隊として、胸を張るといいの!

嬉しげなラピスがくるくるオレの周りを飛んでいる。

そう、生け贄に捧げた彼らに待っていたのは『もふもふ変化の刑』だ。このくらい、甘んじて受けられるでしょう。

なぜそんなことになったかって言うと、それには深……くも長くもない事情がありまして。

当初もう少しかかるはずだった宿の準備。待ち切れなくて早く終わらせるために、オレは魂を売ったのだ。

おかげで、瞬く間に仕上がったのは言うまでもない。重機が2台もいれば作業もはかどるというもの。


「あなたには……そうね、これとかっ! どうかしら?!」

「素晴らしい、サイズ調整機能もバッチリですわ!」

エリーシャ様たち含めメイドさんたちがツヤツヤしている。まあいいか、この程度で喜んでもらえるなら儲けものだ。

つまり、以前オレ用に用意されていた種々の着ぐるみ、あれを使わないのは勿体ない。この際みんなに着せたいってことになったわけで。

一体何が行われるのかと恐々としていたみんなも、どこか拍子抜けした顔をしている。むしろ嬉しそうな子も多いみたい。確かに、可愛いものね。

オレは肉球付きの手の平を眺めて苦笑した。

ちなみに、オレたちは衣装調整の必要がないからと気楽にしていたけれど、事前に別バージョンが用意されているという周到さだ。


「お前、それ可愛いな」

タクトの視線は、微妙にオレの額より上に向いている。

「へえ、タクトがそんなこと言うなんて珍しい~」

茶化されキョトンとしたタクトは、一拍おいて、まとう毛皮と同じく真っ赤になった。

「え? ……あ。ち、ちがっ! そうじゃねえよ、どーぶつって可愛いだろ?! だから!!」

うん、皆まで言うでない。大丈夫、オレにはちゃんと伝わっている。

「だけど、本当にかわいいよ~。耳をつけるだけで可愛くなるって、新しい発見だね~」

「ラキとタクトも、とっても可愛いよ?」

オレも2人の頭上を見上げた。なんだろうね、これだけで印象が大分変わる。

いわゆるネコミミなんかと同じ、頭の上にぴょこんと突きだした大きな耳。この世界にもこんな文化があったのかと思ったけど、ラキの台詞から察するに、今ココで生まれてしまったんだろう。

『ロクサレン発症……じゃなくて発祥の怪しげなものがまたひとつ……ね』

かわいいもの好きなモモは、割と嬉しそうにまっふまっふと揺れている。


さあ、そろそろ全員が着替え終わっただろうか。室内は、非常にカラフルでもふもふだ。目の前でわちゃわちゃしている小さなもふもふたちは、文句なしの100%可愛い。うん、目が幸せだ。

ただ、みんなそれなりに成長しているから、欲を言えばもう2年ほど前に着せたらもっと――あ、なるほど。だからオレなのか。

ちょっとエリーシャ様やマリーさんの心情が分かってしまって苦笑する。着ぐるみは小さい方が可愛いもの。カロルス様が着たらちょっと違う。


「ああ……もう私は満足です。ユータ様、その顔を……もう一度よく見せてください」

いまわの際みたいな事を言っているのは、もはや恥も外聞もなく床に横たわったマリーさん。恥と外聞は普段から割とお持ちではなかったかもしれないけど。

でもね、オレの方はちゃんと持ってるから、そうがっちりと顔を掴んだままなのはやめてほしい。

「無理! 私、もうダメ。本当にダメ。こんなに、こんなに破壊力があるなんて思わなかったの!」

苦しげな声と共に、奥の方で何かが転げ回る激しい音がしている。幸い、メイドさんズがシーツを広げて立っているので何も見えなかった。


「ロクサレンって、ホント変……独特のものがあるよな!」

「ええと、ちょっと世間に理解はされづらいかもしれないけど、素敵だと思うわ!」

みんな、気を使ってくれてありがとう。優しさがとっても心に刺さる。

「それで~? 着たらもういいのかな~?」

「いいんじゃない? もう出発してもいいかな」

カロルス様たちは君子危うきに近寄らずを実践して部屋に近寄りもしないし、肝心の2人がああではね。

「せっかく着たんだし、何かねえかな? あ、みんなで大魔法やろうぜ! 訓練な、発動はナシで!」

何それ、もふもふたちの大魔法……割と楽しそう。オレは見学してるだけでいいし。

「素晴らしいアイディアね。分かったわ、それまで耐えてみせる。心頭滅却――立ちはだかる壁を今、乗り越える……いえ、ぶち壊す時!」

「ええ、やり遂げましょう。これを乗り越えた時、マリーはさらなる力を手に入れると確信しております」

ゆらり、と立ち上がった2人が不敵な笑みを浮かべている。残念なことに、まだ意識はあったらしい。


「さ、さあ! みんな大魔法の振り付けやって終わりにしよう! ロクサレン旅立ちのシメにはいいかもしれないね!」

パンパンと手を叩き、おののくみんなの意識を逸らすと、高らかに宣言した。

「3年5組ーっ! いくよっ!」

「「「――おうっ!!」」」

まだ高い声には十分に気合いが乗って。瞬時に切り替えられるのは練習の賜だろう。

真剣なんだけど。だけど……かわいいね。

時折しっぽを、耳を揺らしながら、たくさんのもふもふたちが舞う。

メルヘンだ……ビシッと揃った振り付けは、映画でも見ているみたい。

ただし、この愛らしいもふもふ達はドラゴンブレスを放つ。

見事に集束した魔素が、みんなを覆うように包み込んでいるのが目に見える。

オレの口角は自然と上がった。

「はいっ! ここまで!!」

もう一度パチンと手を叩くと、魔法に半分飲み込まれていたみんながハッと我に返った。


「へえ? やるじゃねえか」

いつの間に来ていたんだろう。ひょいと抱き上げられ、ブルーの瞳を見上げた。抱く腕の力がやたら強いのは、オレがもふもふだからだろう。

「そうでしょう! 頑張ったんだよ。カロルス様目指してもっと頑張るんだから!」

「ぜひそうしてくれ。なら、何かあっても俺が呼ばれることはないな」

にっと笑った顔へ、任せろとオレも笑ってみせる。

「……で、お前。それなんだ? 前のと違うじゃねえか。それはマズイな……」

ブルーの瞳が、じいっとオレを見つめて呟いた。

そして、オレが平らになるんじゃないかと思うほど抱きしめたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] マリーさんはまぁ予想通りとして。エリーシャ様はもう少し大人しめかと思ってました。ちょっと壊れぎみ(笑) クラスのみんなもめったにない良い(?)思い出になりましたね(*^_^*)
[一言] 発表はもふもふドラゴンブレスでも良いんだぜ?
[一言] 「多少の条件」、私も全く覚えていませんでした(^_^; でもみんなの楽しい思い出が増えたのでは?
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