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725 天井はどこにある

本日はシロなりの『普通』便で帰って行ったメリーメリー先生を見送り、オレたちは早々に庭に集まっていた。午後からの予定に向け、せめて少しでも追い込んでおきたい。

「すげー……綺麗」

「これ、本当に自分のものにしちゃっていいの?」

うっとり見つめる皆の手には、ラキの指輪が煌めいている。

普段は練習の時だけ渡して装着・回収していたけれど、概ね出来上がったのでそれぞれの手に渡った次第だ。

「うん、ちゃんと持っていてね~。まだ調整が必要な人のは、さっき声かけたから~」

幅広のシルバーリングには、加工されたそれぞれの魔石があしらわれ、何やら直線で刻まれた幾何学的で迷路のような文様が刻まれている。

文様に手間をかけられないので全員共通、後で自由に変えればいいと言ってあるけれど、そこにわざわざお金をかける子はいない気がする。


「こうして見ると、ちゃんと文様になって見えるなあ」

つい、まじまじと眺めた。うん、カッコいい指輪に見える。違和感ない。

たとえその文様が『三年五組』と書いてあったとしても。

漢字を知らない人だからこそ、だろうか。4つの漢字が一つながりの紋章のようで、オレでも知らなければ読めないだろう。石板の碑文みたいでカッコイイ。

これは、ラキがオレの書いた日本語を見て興奮したことによる。複雑な模様か紋章に見えるらしく、斬新なデザインに使える! と目の色を変えてしまった。

漢字だとそれぞれに意味があると知ってからは、さらに大変。漢字を全部書き出せと言われ……アルファベットじゃないんだから! と悲鳴をあげた日が懐かしい。

「あれからさんざん書かされて……オレの漢字在庫はもう尽きそうだよ」

だって、もう夢の向こうの記憶だもの。よく使う漢字はなんとなく手が覚えていたから書けたものの、思い出せと言われても中々難しい。まあ、間違ってるかもしれないけど誰も分からないからいいか! なんて開き直っているのは言わないでおこう。


「よーし! 指輪も揃ったし、気合入れていこうぜ!! ロクサレンの飯も食ったし、イケんじゃねえ? 今日こそぶちかましてやるぜ!」

タクトが空へ拳を突き上げ、おおー! と追随する雄叫びにも力がみなぎっている。

学校でも大体みんな寮なんだから大差ないと思っていたけれど、なんとなく……一緒の道中を過ごし、一緒に寝起きし、そして一緒にご飯を食べる。これが、団結に繋がっているような気もする。

「うん、頑張ろう! オッケー、シールド張ったからね! メイメイ様みたいなドラゴンブレスでも、なんとかなるよ!」

あの時坑道で使った程度ならね! モモはシールド調整が格段に上手いので、オレが魔力を注いで着弾部分だけに集中すれば多分。本気で撃たれたら逃げるしかない。

「なんとかなるのかよ……」

「Aランクの攻撃がなんとかなるシールドってどういうことだよ……」

ぶつぶつ言う声は聞こえなかったことにする。

だって予備動作も溜めもたっぷりある大きな魔法は、強力でもシールドと相性がいい。いや、攻撃側からすると悪いって言うのかな? どちらかと言うと瞬間的で鋭い、圧力を伴う物理攻撃の方が防ぐのが難しい。

『庭で大魔法の練習ってところは、誰も気にしないのね……』

多分最も常識的なモモの台詞は、誰の耳に届くこともなく消えていったのだった。



これは、本当にもしかしたら……。

オレは、固唾をのんで集まってゆく魔素を見つめていた。

午前いっぱい練習をして、発動を目指した通しでの合わせを始めたところ。

いつもと、違う。

ぴたりと揃った動きは、まるでひとつの生き物のよう。

小さく紡がれる詠唱は、竜がハミングしているよう。

集まる魔素に満たされて、各々の顔がうっとり高揚しているのが分かる。

魔素が魔素を呼び、一塊になった動きに合わせて交じり合う。

最後の詠唱、ハッと前を見据えた皆が力強く言葉を口にした。

――これは、発動する。

「――ドラゴン、ブレス!!」


的として作った岩が砕け散った音がする。なおかつシールドまで到達した魔法の感触も。

もうもうと上がった砂煙の中、やや呆然とした沈黙が漂った。

肩で息をするみんなの前には、破片になった『岩だったもの』が転がっていた。

「……で、で、できたぁ!!」

「すげ、発動したぞ! 俺たちすごいぞ!!」

大歓声と共に笑顔がはじけ、一気に騒がしくなる。

確かに発動した大魔法に、オレもホッと安堵しつつ、少し首を傾げた。

「なあユータ、こんなもん、か? 俺もうちょっと……ドカンといくかと」

周囲に気づかいつつ、そっと耳打ちしたタクトに苦笑する。

「そうだよね~、メイメイ様のドラゴンブレスには到底及ばないっていうか~。だけど、僕たちが発動する大魔法ならこんなものかな~?」

ラキもやや納得いかない様子で、はしゃぐみんなを眺めている。

「どうかな……発動は、間違いなくできていたよ! ちゃんと魔素が集まって、ひとつになった」

「ふうん? そっか~僕たちがもうちょっと実力を上げないと威力は上がらないってことかな~」

「悪くねえけど、デカい魔物をぶっ飛ばすには足りねえよな」

二人だけは、ガッカリ感が否めないよう。だって二人は、もっとすごい攻撃をたくさん見ているから。

「うーん、もしかすると……。ひとまず、午後に期待だね!」

ひとまず、きちんと発動したことに変わりはない。あとは、磨くだけ! 

やり遂げた顔でへたり込むみんなに回復を施して、オレはわくわくする胸を抑えたのだった。


「ねえカロルス様、このあたりでどう?」

シロに乗って走りながら、真上にある顎を見上げた。

周囲にもちろん人はいない。荒涼とした大地はまだどこか黒々として……そう、ここは執事さんたちが焼き払った一帯だ。おかしいな、あの時焼き払いはしたけど、こんなに凹凸はなかったはずなのに。まるで方々に隕石が落ちたような――よし、気にしないでおこう。

「いいんじゃねえか? 的はどうする?」

背中から響く低い声が心地いい。カロルス様が後ろに乗ると、頑丈な背もたれができて快適だ。

「どんな的が必要かな? 作るよ!」

この辺り、とのリクエストに応じて、頑丈な的を用意する。オレは大魔法発動に貢献していないから、なんとなく後ろめたいもの。ここでたっぷり魔力を使っておこう。

『じゃあぼく、みんなを呼びに行ってくるね!』

オレたちは黒こげの大地から少し離れ、草原を揺らして走り去るシロに手を振った。


「ねえ! どんな剣技なの?! オレたちもね、大魔法発動できるようになったんだよ!」

さっそく飛びついて抱っこをせがむと、ブルーの瞳の中にはきらきら目を輝かせる幼児が見える気がする。

「へえ、お前は参加してねえんだろ? すげえじゃねえか!」

それって、オレが参加していたらすごくないってこと? 若干引っ掛かりつつも、胸を張る。オレだって日々特訓に付き合っているんだから、誇っていいはずだ。

「なら、俺も手ぇ抜けねえな。剣技なぁ……斬撃じゃねえほうがいいんだろ? 中々無茶言いやがる」

だって、純粋な斬撃だとちょっとイメージ違うんだもの。

苦笑する顔に、信頼を込めてえへっと笑う。ああ、楽しみで仕方ない。

メイメイ様をロクサレンに呼ぶのはちょっと難しいけれど、気付いたんだ。ここには他のAランクがいるってことに!

魔法なら執事さんが適任だけど、強力な魔法は広範囲がメインらしい。それもそうか、単体撃破はカロルス様とマリーさんがいたんだから。


だから、カロルス様! あくまで剣技だけれど、絶大な威力をもった攻撃を知っているのと、いないのとではまるで違う。

みんなで発動した大魔法は、大岩を破壊する程度の威力だった。タクトやラキが首を傾げるのも無理はない。だって二人なら、一人でそのくらいのことをやり遂げてしまうから。

それでも執事さんに聞いたところ、学生が発動する大魔法の威力としては十分だそう。

以前オレが見せてもらった大魔法は、執事さんという絶対の柱があってこその威力だから。


学生として十分だと満足することもできる。磨けば、もう少し威力は上がっていくだろうし。

でもね、オレは、ちゃんと見ていたもの。

これまでの練習では、そもそも集められた魔素が大した量じゃなかったし、うまくまとまっていなかった。

けれど、今日のは違う。

「だって、あんなに魔素を集めたのに、あれだけってことはないよ」

きっと、みんな威力はこの程度だとブレーキをかけているんだ。ううん、特大威力のイメージができていないせいかな。

タクトとラキは、その点カロルス様やメイメイ様、アッゼさん。割と最高峰を見ている。人はここまでできるっていう天井が遥か高い所にある。

「カロルス様の剣技を見たら、天井なんて突き破っちゃうんだから」

オレは小さくつぶやいて固い胸元にほっぺを押し付けた。きっと、一気に視界が広がるよ。


「それは、いいのか……? お前みたいなヤツがわんさか出たら、学校は大変だろうな」

苦笑しつつ腰を下ろしたカロルス様は、そのままぱすんと背中を倒してしまう。こんなところで寝転がるの……?

抱っこ状態だったオレは、お腹に跨ったまま周囲を見回した。

地平線まで見えそうな広い広い大地、何もない場所。開放感というにもあまりに広大で、むしろ心細くて不安になってしまいそう。

ひょう、と吹いた風が髪を揺らして、オレは慌てて温かい体に伏せた。

その体温と鼓動を感じていると、ゆるゆる体から力が抜ける。きっと、火の雨が降り注いでいたって、こうしているとオレは安心できるに違いない。

「シロに、ゆっくり来いって言っておいてくれ」

のし、と背中に乗せられた腕が重い。オレの顔がとろりと緩んだ。

「うん……そうする」

みんなが来るまでの間、ちょっとだけ独り占めしていても、いいよね。

ちらりと見上げたブルーの瞳と視線が絡んで、その口元がにやっと笑みを作った。

オレも、ふわっと笑って頬を擦りつけたのだった。

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