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718 腹ごなしに

見える、見えるよ……皆の葛藤が! 

いい香りに鼻をひくつかせながら、オレはにんまり笑った。

そうだよね、そもそもご飯にすら馴染みがなかったんだもの。そこへどろどろした何かをかけるなんて、想定の範囲外だよね! 

こうするんだよ、と完成させた一皿。それを見つめる視線は、総じて揺れている。

オレにはもはや美味しそうにしか見えないけれど、カレーって案外食べるのに勇気が必要な見た目かもしれない。


「ユータが作るのってさあ……なんで妙な見目の食べ物ばっかなわけ?」

「カニと言いコレと言い……。ああ、唐揚げもあんまし見た目は良くないよな」

カニは料理の見た目じゃないでしょう! あれはカニ自身の外見なの! 

そんな、ゲテモノ食いみたいな顔をするならどれも食べなくてよろしい!

「ユータ、もういいよな?! 早く食べようぜ!」

いっそ保存食を渡してあげようかと思ったところで、待ちきれないタクトが『待て』する犬みたいな顔でオレを見つめた。いつの間にかオレの班はラキまできちんと席についてカレーの皿を前にしている。

それにしても、この世界のカレー皿は洗面器サイズに確定されそうで怖い。タクトのなんて、洗面器に山盛りだ。おかわりすればいいのに。


躊躇している彼らを放置して、オレたちはいそいそと席についた。

「「「いっただきまーす!!」」」

弾む声と共に、つい急いでしまう手でスプーンを掴む。

「よーし、オレ今日は目玉焼きとチーズ載せちゃう!」

「俺は肉がいい! 卵もチーズもカツも肉詰めも全部載せるぞ!」

「僕、ぷるぷるの卵がいいな~! 2つちょうだい~!」

あっ、ズルイ! 温泉卵2つ載せなんて……なんて罪作りなんだ! じゃ、じゃあオレなんて目玉焼きと温泉卵とスクランブルエッグだって載せちゃう!!


『やめときなさいな……また食べられなくなっちゃうわよ。まあ、残ったら食べてあげるけど』

鋭い指摘に思わず手が止まったものの、最初から諦めていたら、何事だって成せやしない!! 遙かなる壁に見えたって、いつかその向こうを臨むまで。そう、挑戦を続ける先にこそ未来が拓けるのだから!!

『主、その台詞はもうちょっと違う場面で使おうぜ……』

『らいじに、とっておくのよ?』

チュー助にそう言われるのは実に心外だ。アゲハはともかく。

ちなみに、カレーのトッピングは毎回作るのが手間だということで管狐部隊と希望の光総出で大量生産してある。だって週一カレーがいいとか言うんだもの。オレもそれでいいけど。


功労者のシロにも特大のカレーを振る舞い、身体が浮かびそうな勢いでしっぽが振られている。

一心不乱にがっつくオレたちを見て、にわかに周囲がざわめきはじめた。

目の前に手つかずの鍋があるのに、『早く食べなくては』と焦燥感が生まれる。

タクトの猛烈な食べっぷりのせいで、『食いっぱぐれるかも』なんて危機感まで漂い始める。ほらね、だから班ごとに分けておいて正解でしょう?

「――んっ?!」

「んんっ?!」

そろり、と口へ入れた面々の顔が変わる。最初は少しずつ、徐々に掻き込むように。

誰も、何も言わなくなった。いつ見ても、その光景は口角が上がる。

たくさんの子どもたちが無言で頬ばるその様は、カチャカチャと忙しなく鳴る食器の音でちっとも静かではなかったのだった。



「何なのこれ……。私、信じられないくらい食べちゃったんだけど?!」

「これは、野外で食っちゃいけないもんだよな……動けねえぇ~」

オレたちで貸し切り状態の休憩所は、子アザラシの群れが居座ったみたいになっていた。何せ一番近いのがヤクス村。こんな時間に通る馬車はまずない。

「美味かった……」

そこここでしみじみと漏れる呟きが心地いい。おなかいっぱいに食べて、その余韻を楽しむこの時間。それもまた、オレの好きな時間。

『……そうか?』

『苦しんでる?』

ぶっきらぼうコンビの視線を躱しつつ、もたれかかったシロの身じろぎでまた口元を押さえる。待ってシロ、ちょっと動かないで。今一生懸命、そこに留まるよう説得しているところだから。

『だから言ったでしょうに……ほどほどに食べないと辛いだけよ』


だって、まだいけると思ったんだもの。

「腹が辛ぇ~! 俺、ちょっと運動してくる!」

言いつつひょいと起き上がったタクトに目を剥いた。あんなに食べたのに……。だけど、それはいいアイディアだね。運動……はちょっとできそうにないけど、魔法を使ったらなんとなく消費される気がする!

「シロ、行こうぜ!」

「ウォウッ!」

嬉々として立ち上がったシロのせいで、ころりと後ろへ転がった。危うく汚い噴水をあげてしまいそうになってオレも渋々立ち上がる。

元気に駆けて行ったシロとタクトは『夜散歩』らしいけど、もう真っ暗だよ? シロはいいけどタクト、何も見えなくない?


まあいいか、と視線を戻し、何か使える魔法はないかと頭を悩ませた。

「何か……何か魔法を使わなきゃ! 誰か! 体調悪くない?!」

消費が激しいものは何と言っても生命魔法。瀕死の重傷者を回復すれば、すぐにお腹のものも消化されちゃうような……そんな気がする。

「体調悪いよ! すっごくお腹苦しいんですけど~」

「もう動けないくらい体調悪いよ!」

そういうんじゃないんだよね。オレはやれやれと肩をすくめた。それが生命魔法で解消できるなら、オレはとっくにカロルス様並の大食漢になっている。

――任せるの! 重傷者をつく……連れて来たらいいの?!

今、オレの耳にすっごく不穏な台詞が聞こえた気がする。


「……待っって!! ラピス、早まらないで?! 大丈夫、ノープロブレム!! 重傷者とか全然まったくいらないから!!」

つい、聞こえなかったことにしたい気持ちがわき上がったけど、今にも無邪気な顔で飛び去りそうなラピスを手の中に閉じ込めた。

「大災害が起こるところだったよね~」

ラピスの声が聞こえていないはずなのに、オレの台詞だけで察したんだろうか。ラキの視線が痛い。

「えーっと、じゃあひとまず他の方法で魔法を使おうかな!」

そ知らぬふりで肩を回すと、ふむ、と頷いた。みんながこんな状態では、ろくに見張りもできないだろうし、防護壁でも作ろうかな!

『護衛はお前たちじゃなかったのか』

……そういえばそうかも。でも、それならなおさら堅固な守りにして問題はないよね!


「みんな、魔物避けの壁を作るよ! ちょっと揺れるからね!」

オレが壁を作るくらいではもうみんな驚かないので、おざなりな返事が返ってきた。

「せーのっ!」

地面に手を着き、どん、と魔力を注ぐ。いっぱい魔力を使うように、土壁じゃなくそれなりに頑丈なもので。土は大して魔力を使わないけれど、石なんかにすると猛烈に魔力を消費する。休憩所内はそんなに広くないから、大きさより質で勝負だ!

四方立ち上げた壁を、さらに魔力を注ぎ込んで石室化。デザインは……思いつかなかったのでシンプルになっちゃったけど、内装をいじればいい。

ふう、とひと息ついて壁内工事にかかった。とりあえずお風呂でしょ、あとは……もう寝るだけだし班ごとの部屋でいいか。どうせ朝になったらバレないうちに片付けなくちゃいけないんだから。きっと朝早くにタクトが起こしてくれるだろう。

以前の失敗を糧に、天井はちゃんと空けてある。お日様が昇ると同時にみんなは目覚めるだろう。

『あうじは?』

『アゲハ、しーっだぜ! そういうとこには気付かないふりをするのが人情ってもんだ!』

……そういう時はまず聞こえないようにするのが先だと思う。


「あのさぁ、さすがにこれはちょっとユータすぎるわよ」

「いや、さすがロクサレンしてるよな……もう驚くのも今さらかあ」

ユータもロクサレンもただの名前なので! 変な意味をつけないでほしい。

どこか疲労感漂うみんなも、少しお腹がこなれたんだろうか。

ほのかなプチライトを方々へ浮かべた頃には、望み通りしっかり魔力は消費されていたのだった。


もふしら×laccola おいしいコラボ後半戦も通販は瞬殺でした!まだ店舗の方にはわずかに在庫あります! 今回のルーのセットにちなんでルーのSS書いてますので閑話の方へどうぞ~!!


*シロ車(大)は書籍しか出てなかったかもですね!

 あるんです、簡易版シロ車(大)が……!

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― 新着の感想 ―
[一言] ロクサレン名物がカニカレーになる日も近い?
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