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717 宿泊学習ならば

『シロ、ゆっくりだぜ! まだ速い、俺様のお耳がぴらぴらする!』

『えーゆっくり歩いてるよ?』

シロの頭に陣取って速度計になっているチュー助は、中々優秀だ。そもそもちょっと速くなれば転げ落ちるから良い指標になる。

「シロってこんなに力があるのか……」

「馬ぐらい力があるってことよね?!」

ゆっくり進むシロ車。乗り慣れているオレたちからすれば、随分遅くてじれったいくらいだ。

感動するクラスメイトたちには、曖昧に微笑んでおく。

きっと、馬どころではないだろう。


「この調子じゃあ夜までに着かねえよな」

退屈そうなタクトが、暮れゆく空を見上げて不満そうな顔をする。

「そもそも、野営の予定でこの時間に出たじゃない~」

「そうなんだけど! いつものシロなら着くと思うだろ?!」

ラキの方は揺れるシロ車の上でも何やら作業中だ。大雑把な作業はここでもできるらしいけれど、タクトなんて見ているだけで酔う、って青い顔をしていた。

「でも、みんなで野営もしたいからいいでしょう?」

うきうき弾むみんなの顔を見回し、にっこり笑う。宿泊学習みたいだよね! だったらやっぱりお外で、オレたちだけで野営をするっきゃない!

だから、というのもあるけれど、実際は受けるテストを減らすためにぎりぎりまで授業を受けてから出立したのでこの時間だ。

オレたちは今、ロクサレンに向けシロ車(大)で揺られている。一般的な速度でお願いしているので、半日近くかかる計算だ。


心弾ませるオレの肩で、モモがふよふよと揺れる。

『今さらじゃない? 実地訓練でも野営してるでしょう?』

ふふ、そう! そこが問題だ。

なぜなら実地訓練は野営はすれど、基本泊まりじゃないから!! 宿泊訓練もあるにはあるけど、外というか公園というか校内というか……そんな場所ですることになっている。

なのでオレたちの学年では、基本的に野外での宿泊訓練はない。まあ、当たり前と言えば当たり前。

だって3年生で討伐やらをこなす方がレア中のレアだもの。危険な夜に、子どもが外で野営なんてしちゃいけないんだよ。


だから――

「ああ、暗くなってきちゃった」

「本当に、できるかな……もし、もし大きな魔物が来たら……」

薄暗くなってくる周囲に怯える声も当然のこと。オレたち以外に子どもだけで野営をした経験がある子なんて、ほんの数人だ。それも、やむにやまれずといったところ。実に堅実で優秀なクラスメイトたちだと思う。それこそが、きちんと危険を理解できているということ。

ただ、なぜそれが今回野営をするのかと言うと……そう、オレたちだ。

「大丈夫! オレたちがいるからね!!」

ああ、格好いい。カロルス様みたいだ。『俺がいる』オレを落ち着かせる、カロルス様の魔法の言葉だ。

つい、むふんと緩む顔を引き締め、堂々と肩を開いて腕組みしてみせた。

「……まあ、そうなんだけど。いや、分かってんだよ? お前が強いってさあ」

「だけどそんなぴっかぴかのお顔で言われてもね……」

視線が生ぬるい。なぜ。

オレたちDランクの『希望の光』がここに存在しているからこそ、練習も兼ねて野営しようって話になったはずなのに。


もちろん、メリーメリー先生には反対された。

『私がいない間に、みんなで何を食べるつもりなの?!』って。色々と譲歩したんだから、それくらい許して欲しい。

「ところで……ユータ君がいるってことは、今日の夕食って――?」

ぴくり、と反応した皆の視線が、いっせいにこちらに向いた。今の今まで隠しきれない不安に揺れていた瞳が、肉食獣の瞳に様変わりしている。

ここで保存食を、なんて言ったら丸ごと食われてしまいそう。苦笑しつつ、そう言えば説明をしなきゃと立ち上がったのだった。



「――なんか、素材は普通だな……これ、美味い物になるのか?」

「これじゃあ薄味根菜スープよね。だけど、ユータよ? きっと何かが起こるのよ!」

あちこちで首を捻ってこそこそする様子が窺える。

オレたちはお日様が沈みきる前に休憩所に到着、そこで夕食作りを始めていた。

もちろん、宿泊学習、子ども、野外、とくれば……アレしかないよね?!

「なあユータ、カレーってこんなんだったか? いつ茶色くなるんだ? これ失敗?」

お鍋をぐるぐるかき混ぜていたタクトが、今にも泣き出しそうな顔で振り返った。

確かに、実物を知っているだけに、途中経過は不安になるかもしれない。

「カレー? カレーだって! それ何?!」

「知らねえ……けど、タクトを見ろよ、絶対美味いに決まってる!」

各班の鍋を見つめる瞳が煌めきだした。だけどタクトって指標になるだろうか? 何食べても美味いって言いそうだけど。


「大丈夫、それで合ってるよ! タクトたちが食べたのとはちょっと違うんだ。簡単に作れるようになってるの」

だって、スパイスカレーを作るのってそれなりに面倒でしょう。オレは得意満面で懐から例のブツを取り出してみせる。

「見て! これが……秘伝のスパイスを調和させた美味さの結晶――」

短い腕で、精一杯頭上に掲げた茶色い物体。

訝しげな皆の視線が十分に集まったのを確認して、大きく息を吸い込んだ。

「そう……これが、カレールーだよ!!!」

オレの中で高らかなファンファーレと共に、大歓声が響き渡る。紙吹雪の幻影さえ見える気がした。

「……ええと、それがカレーかしら? 今日はそのカレーとスープなの?」

「なんか、保存食みてえ……美味いの?」


……あまりの温度差に風邪を引くどころではない。心臓が止まってしまいそうだ。

うっすい……反応が薄いよ! 

愕然と言葉を失ったオレに苦笑して、ラキが掲げたカレールーをひょいと手に取った。

「ふうん? 本当だ、あの時のカレーみたいな香りがする~! だけど、これを囓るわけじゃないんでしょう~? やってみせたら、みんなも分かるよ~」

「分かった、それ濃縮カレーの塊か?! ここへぶち込めばいいんだな!」

おお、タクトの勘が鋭い。オレの目からしても、相当地球のカレールーと酷似したそれは、使い方も同じだ。

カレールーの作り方なんて、小麦粉を使うということしか知らなかったのに、見事にジフが試行錯誤して再現してくれた。これもまた、さらなる改良を重ねるつもりだ。


「これって、もしかしてだけど~、僕たちだって好きな時に自分でカレーを作れるってこと~?!」

ラキの視線がぎらついている。クラスメイトの反応はまだ乏しいけれど、タクトとラキの並々ならぬ様子を見て、思うところがあるようだ。

「そう! これなら、複雑なレシピはいらないから!」

カレーと平行してこれが出来上がった時、ジフって天才じゃないかと大絶賛したものだ。当の本人は難しい顔で執事さんのところへ行ってしまったけれど。

「早く入れようぜ! どのくらい入れるんだ?!」

腹を押さえたタクトが、もどかしく手を伸ばしてくる。この大鍋なら……きっとこのくらい。

オレたちを含め4つに分けた班は、それぞれ大鍋でカレーを作っている。だって、いっぱい食べるに決まってるもの。

ごはんを炊くのは難しいので、洗って水を入れるところまでやってもらい、あとはオレ……ではなく、こっそり管狐お料理部隊にお任せした。


慎重に各班の鍋を確認しつつカレールーを投入して回ると、真剣な目で鍋をかき混ぜていた面々から悲鳴が上がり始める。

「え、すごい色になったよ?! いいの?!」

「失敗? 失敗?! でもすげえいい匂い!!」

休憩所は、興奮した子どもたちの声で一気に騒がしくなったのだった。


*明日4月15日(土)11:00から、もふしら×laccola クッキーコラボ後半スタートです!

店舗と通販同時オープン! 音と香りセットに加え、後半はルーのお気に入りセットが登場!


*そして同じく4月15日(土)13:00から、大阪中津にて『もふもふしっぽのきつね達展5』開催!

私は管狐たちで出展していますので、実物を見るだけでもどうぞ~!(在廊予定はありません)

ただ、もし売り切れちゃうと見られないのでご注意を!


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― 新着の感想 ―
[一言] ジフ、普段名前を忘れててゴメンね。カレールウを完成させたあなたは本に載ってもおかしくない偉業を成し遂げたよパチパチ
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