713 色々な種
昨日の更新をすっっっっっかり忘れていたひつじのはねです!
すみません!!!
たくさんの視線が集中する中、オレは厳かな顔で豪華な小箱を取り出した。
期待に満ちた感嘆の声が、小さなさざめきとなって周囲を埋める。
宝石に彩られた金銀の宝箱ではない、しっとり落ち着いた艶やかな黒。
螺鈿の箱をイメージした美しい小箱は、それだけで異国の高級品であると知らしめてくれる。
小箱に手を添え、勿体ぶるように周囲を見回した。
ごくり、とつばを飲む音が聞こえた気がする。
オレは重々しく頷いて、ゆっくり、ゆっくり蓋を持ち上げた。
「お、おお……!!」
「これが、ユータの国の……!」
「書物……なのか?」
ぐっと周囲の密度が高まり、大きなどよめきがわき起こった。
箱に収まっていたのは、いかにも古ぼけた巻物。和柄の施されたそれは、この世界の人にはとても新鮮に映るだろう。
ちなみに、サイア爺がメモ用紙にと保管していたいつのものか分からない紙(?)を使用したので、本当に古い。崩れずしなやかなところをみるに、紙じゃなくて羊皮紙的なものかもしれない。
「これ、どうなってるの? 本じゃないの?」
「どうやって読むんだ?」
口々に尋ねるクラスメイトの声を制し、恭しい仕草で巻物を取り出して机に置いた。
しゅるり、と紐を解いて広げてみせると、周囲はもう興奮の渦だ。
「すげえ! すげえ! 古文書だ!」
「こんな形の本があるの?! 見たことないわ!」
「ここに書いてあるんだな、大魔法が!!」
りんごのようにぴかぴかの頬をして、みんながオレを見つめた。
「……そう。これが、オレの国、我が家が持っている大魔法だよ。向こうでは、貴重とはいえそう珍しいものじゃなかったけれど、ここでは……そうじゃないよね?」
ここ大事。我が家が世界にひとつしかない大魔法を持ってるとか、そういうわけじゃないよと言っておかなくてはいけない――と、ラキが言っていた。
オレの国を探す人たちが出てくるだろうけど、まあ頑張って欲しい。なんせオレは幼児で、ここへ流れ着いただけだから何も知らない。
「だけどこれ……全然読めない」
「ここから解析して、実際の魔法に持ち込めるかな……」
少々落胆した声に、みんなも頷いた。日本語で書いてあるんだから、当然だ。
「だけど、オレは読める。覚えてる」
ぎらぎらした視線が、方々からオレを射る。平然とそれを受けにっこり笑うと、少し胸をそらした。
「みんなが、本当に頑張って大魔法を会得してくれるなら……我が家の魔法を伝授するよ!」
「「「うおおおー!!」」」
鼻血を吹くんじゃないかと思うほどに興奮した声が、教室を揺らした。
それは、何事かと慌てた先生が駆けつけるほどの騒ぎとなったのだった。
「ふう、うまくいったね!」
「とりあえず、今のところはな!」
「『うまくいった』とか言わなければね~」
秘密基地に集合したオレたちは、ひと息ついて冷やした紅茶を飲んでいる。
予め聞き取り調査を行ったところ、クラスメイトたちもオレが既存の魔法に少々工夫を凝らしたものを持ってくると思っていたらしい。魔法の強弱をつけたり既存の魔法から生活便利魔法を編みだしていたせいで、それならできるんじゃないかと考えていたよう。
ただ無茶ぶりの自覚はあったらしく、無理なら普通ので行こう、と優しい数人は言ってくれた。ラキやタクトとは大違いだ!
だけど、もう作っちゃったし。
だから、こうしてひっそり存在していた秘伝の書が登場することになった。本当は我が家の財産だからダメなんだけど……という形だ。
なんでオレが巻物を持っているかって? それはその……オレと一緒に流れ着いたということで。流れ着いた物品が何か分からないまま、ロクサレンに保管されていたという筋書きだ。そのせいでオレは他にも適当にレシピなどを記した巻物をいくつも書く羽目になってしまったのだけど!
そして今回我が家の持ち物である巻物と判明したせいで、オレは人攫いじゃなくて家族で船移動中に事故に遭ったらしいという新事実まで出来上がってしまった。
ちなみに長い詠唱を全部考えるのは骨が折れたので、君が代と祇園精舎をくっつけて、あと本当に必要な部分を後半に付け足した。
まさか古文書から作……古文書を持ってくるとは、みんな想定外だったらしい。
未知の大魔法とあって、あの騒ぎだ。
「で、これからユータが解説する内容を別紙に書き取って練習ってわけだな!」
「絵の上手い子に挿絵も描いてもらえばいいよね~」
そう、読めない巻物を眺めていても仕方無いので、まずはオレが解読しつつ挿絵に沿って動きを見せ、みんなが分かりやすいよう指南書を作ってもらうんだ!
ひとまず魔法を披露するまでは、誰もオレたちが新魔法を練習しているなんて知らないから、危険はない。
魔法の披露後は、解読版含めロクサレン家に丸投……お任せするから大丈夫。個人が狙われないよう考えもある。
あとは、みんなが練習するのみだ!
オレ、頑張った! 満足の笑みを浮かべておやつのプチマフィンに手を伸ばす。
今日のプチマフィンはころりと小さいながら角切りの大きなチーズが真ん中に入った、小腹の空いた時間にピッタリの仕様だ。
まだ熱いそれを頬ばると、甘みと塩味がお口の中で混じり合ってとろける。スンと抜ける香草が爽やかだ。一仕事終えたご褒美に相応しい、と優雅に紅茶をひとくち。
さあ、どんな魔法になるのかオレも楽しみだ。
にこにこしていると、マフィンをひと息に放り込んだタクトが、ぽんとオレの頭に手を乗せて笑った。
「明日から、お前毎日朝から学校な! 起きねえなら抱えて行くぞ」
思わぬ台詞に、目を見開いてむせ込んだ。
「え、え? 待ってよなんで?! そりゃあ、一通りの解説はするけど、それだけでしょう?!」
文字だけなら、今からでも解読版を用意できる。動きだって、大元の挿絵があるんだから数回見せれば描いてもらえるはずだ!
「それだけでできるわけねえよな?! お前じゃあるまいし!」
「あの秘密特訓みたいに色々と教えてくれなきゃ、始まらないと思うな~」
そう言えばクラスで魔法を使えるのは数人、そしてその数人に秘密特訓を施していた人物は……。
たらり、とオレの頬を汗が伝う。
『俺様、そうなると思ってたぜ!』
『なぜ逃れられると思った』
チュー助が訳知り顔で頷き、チャトが鼻で笑う。いや、だけど魔法を教えるのは先生の役目だ。何も、オレが頑張らなくたっていいはずだ!
「じゃあ、メリーメリー先生に言って――」
「だから、普通の大魔法なら先生でも指導できるかもだけど~、今回ユータの国でしか使われていない魔法でしょ~? そもそも、魔法を使えない子たちも一緒なんだよ~? 魔法使い以外も参加できるなんて、そこのところ、事細かに説明と指導しなきゃ~」
あー! そうだった……普通は魔法使いだけでするんだった。
みんなで参加するって言ったばっかりに……。
オレの国の魔法だって言ったばっかりに……。
オレが覚えてるって言ったばっかりに……。
『まあ、全部あなたが撒いた種だしね……』
『あちこちで芽吹いてる。トラブルの種』
頷き合うモモと蘇芳に、オレは呆然と遠い目をしたのだった。
更新忘れて変な時間に投稿です!
クッキーコラボ、オンラインは開始5分で完売してしまいました!
ありがとうございます!そして数が少なくてすみません!!
店頭はまだ少数残っていますが、日・月・火が定休日なのでご注意を!遙かなる遠方から来て下さった方……本当にありがとうございました!!
店頭ではラピスコックさんとムゥちゃんがお出迎えしています。クッキーが完売となっても、彼らはいます!
お写真、SNS投稿OKなので、お店や他の方のご迷惑にならない範囲でお願いします!
後半の通販開始は4/15から!そして14巻の発売は10日からですよ!!!