709 魔石選び
結局カレーをどんな風に日々取り入れるのか決着はつかないまま、オレはまだ重いお腹を抱え寮の部屋でゴロゴロしている。
「あ~まだ逆立ちしたらカレーが出てくる気がする。しばらくカレーいらない」
「そんなに~? さすがに食べ過ぎだよ~。僕は、今日カレーでも嬉しいよ~」
うーん。そう言われるとイケる気がしてきた。
『イケないと思うわ。あなたは消化の良いものにしておくのよ?』
モモがやれやれと布団の上で揺れている。
ちなみにタクトは昨日のカレーがお腹に残っているはずもなく、起きたら既にいない。そしてオレが起きたのはさっきだけど、ラキは午前の授業を終えて一旦帰ってきたところだ。
「ユータ、お昼は学校行くの~?」
お昼ご飯は不要と結論付けて小さなりんごを囓っていると、ラキがそう言って振り返った。
「ええと、メメルー先生の授業は出るよ」
メメルー先生の授業は魔物や魔法生物が中心なので、とっても面白い。先生に請われてオレが育てたマンドラゴラ、ジュリアンティーヌちゃんの様子も見られるしね!
「じゃあ一緒に行こうか~。みんなに魔石も選んでもらうんでしょ~?」
……そうだった。
すっかりカレーで頭の中がいっぱいだった。次点で花火、その次はチョコレート。さらに次点が王都のシュランさんのお店。
楽しいことから優先して頭の中がいっぱいになってしまうので、これではいつまでたっても大魔法にたどり着けない。幸い、情報は集まってきているので問題はない……はずだ。
「秘密の魔石を溶かし込むのはまだ半分も出来てないけど~、魔石を普通に入れ込む方が簡単だから、先に準備しておきたいんだよ~」
ずーーっと難しいのをやってると疲れるし、箸休めが欲しくなるそう。
「だけど、そんなに根を詰めてやるのはどうなの? 大丈夫?」
何も箸休めにまた加工をしなくても、と思ったのだけど、難しい加工に飽きたら簡単な加工をしたくなるんだとか。絵描きさんの言う絵を描く息抜きに絵を描くってやつだろうか。確かにオレだって毎日の料理を作るのに飽きたら、お菓子を作りたくなったりするもんね!
『スオーも、甘いのばっかりだとしょっぱいの欲しくなる』
んーー。それとはちょっと……違うような。
心得たような顔で重々しく頷く蘇芳に苦笑しつつ、色魔石を取り出した。
生命魔法の魔石の方は、ラキが加工する分だけ、その都度渡している。持っていると知られたらマズイからだそう。
適当に袋に突っ込んであるけれど、みんなに見てもらうためには木箱の方がいいかもしれない。
布を敷いた木箱にザラザラっと袋を空けると、途端にラキの目が吸い寄せられた。
恍惚、と言っていいほどにうっとりした視線には、少々危険なものを感じる。
「これを、全部僕が加工してもいい……そういう話だったよね~? 約束を違えたり、しないよね~?」
うっすらとした笑みが怖い。
「加工、疲れるんじゃなかったの?」
「これに関しては疲れない」
なぜ?! きっぱりと言い切られ、つい、この加工フェチめ……なんて台詞が口から出てきそう。
「ねえ、ちょっと僕待ちきれなくなってきた~! 今から学校行こうか~!」
「えっ? 今から?!」
まだ時間があるから、もう一眠りしようかと思っていたのに!
『行ってきなさい』
『ゆーた、そんなに寝ると溶けちゃわない?』
後頭部にモモの柔らかアタックを喰らい、シロからは心配そうな視線をもらってしまった。
日向でびろんと脱力しているチャトが羨ましい。
渋々、というかタクトばりの勢いで小脇に抱えられ、あっという間に教室まで連れて来られてしまった。
「あれ? ユータ昼から授業あんの?」
ちょうど教室にいたタクトが、小脇に抱えられたオレに不思議そうな目を向ける。
「本当は、もう少し遅い時間に来る予定だったんだけど……」
やっと下ろして貰い恨めしく見上げても、ラキは涼しい顔だ。
「みんなの魔石が揃ったみたいだから~、選んでもらおうと思って~!」
にっこりそんなことを言うもんだから、みんなの視線がオレに――いや、手元の木箱に集中する。
「選ぶ……?」
「え? 魔石を、選べるの……??」
期待に満ちた表情ににっこり微笑んで、そうっと木箱の蓋を開けてみせる。
「うわあ……! すげえ、こんなに魔石がある!!」
「なんて綺麗なの! 魔石ってこんなに宝石みたいだっけ?!」
方々で頭がごっつんこした音が聞こえるけれど、覗き込むみんなの顔はラキみたいにうっとりしている。
「いろんな色があるでしょう? それぞれ相性もあると思うし、自分で選ぶ方がいいかなと思って!」
本当は、魔力を流して相性をみるのが一番だと思うけど、それってあんまり一般的にできることじゃあなかったはず。
「相性とか、全然分かんねえけど?! 目つむってピンときたやつか?!」
目を輝かせて飛んできたタクトが、ぎゅっと目を閉じて箱の中を漁っている。タクトなら、魔法剣を使ってるんだから魔力を流すこともできるだろうに。
「よしっ、これだ!!」
自信満々につかみ出した魔石をまじまじと見つめ、タクトは微妙に首を傾げた。
「なんか地味だな……もっとこう、燃えるような赤、とかが良かったけど」
実は火系も水系も魔素としては似ているから、見た目で選ぶならきっと赤だと思っていたんだけど。
だけど、タクトが選んだ魔石は淡いオレンジというべきか、明るい褐色というべきか、インペリアルトパーズのシェリーカラーみたい。かなり落ち着いた上品な色味だ。
まあ、地味と言ってしまえばそれまでだけど。
「違うのにする? 見た目で選んでもいいんだよ?」
まだ魔石を眺めているタクトに声をかけると、彼は慌ててそれを握り込んだ。
「これにする! エビビも気に入ったみたいだし、なんかこれがいいって気がする」
さすがは野生児、相性はよく分かっているみたいだ。確かに、それはとりわけ水と相性がいいと思う。付随して火とも相性はいい。
タクトの選び方を見たみんなが、我も我もと目を閉じて箱に手をつっこみ始めた。互いの手を掴んだりして、きゃあきゃあと随分楽しそう。オレは生命魔法の魔石を内側につけてもらうつもりなので、参加できなくて寂しいかぎりだ。
「僕は、これ~! きれいな色だね~」
ラキが手の平に載せているのは、グリーンの魔石。エメラルドよりもペリドットに近い色味で、猫の瞳のようにイエローが混じっている。
「うん、ラキと相性良さそうだね~」
土系、と言うべきか大地系、と言うべきか。土魔法はもちろん、風や光なんかとも相性良さそう。魔石から浮かぶイメージが『器用』なのが笑える。
何もそんなピッタリのものを選ばなくても。さすがは加工師というところだろうか。
みんなもそれぞれ自分の魔石を選び出し、頬を染めて眺めている。余分に用意していたから、合うものがないなんてことにはならなかったみたいでホッとした。
「じゃあ、みんな自分の魔石が分かるようにして僕に渡してくれる~? それと、模様は後で加工師に言えば変えられるから、一旦みんな揃えて作ってもいい~?」
えーっと声があがったのはタクトのみ。安く請け負ってくれているんだから、そのあたりはお任せでいいだろう。
「じゃあ俺、今言っとく! 俺ドラゴンがいい!!」
「うん、じゃあ全部終わってから別料金で承るよ~」
にっこり微笑んだラキに、タクトが不服そうな顔をする。正規料金で依頼すれば、加工代金は中々馬鹿にならない。模様程度なら問題ないだろうけど……。
「タクト、オレたちとお揃いにしないの?」
唇を尖らせて見上げると、ハッと気付いたようだ。
「あー、そっか! お揃いにしようぜ! 俺たちは後々お揃いのドラゴンにしような!」
拳を握ってにんまり笑うタクトに、オレとラキは微笑んできっぱり首を振ったのだった。
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