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706 完成記念

固い手のひらが、遠慮なくオレの顔を撫で回している。

大きな温かいそれは執拗に頬をいじくり回し、ついでに髪をかき混ぜる。かと思えば、やわやわと顎へ滑って襟首から侵入を試みた。

「ふっ、うっふふ!」

ぎゅうっと目をつぶって我慢していたのに、長い指がうなじから背中をくすぐって、もう堪えきれない。

「もう!」

悪さをする手をしっかり両手で捕まえて、目を開けた。

目の前で楽しげに細くなっているブルーの瞳。枕に散る金の髪に、どこか色気を感じるのは気のせいだろうか。その口元が大きく弧を描いて、低い声が漏れた。

「よう、ご機嫌なお目覚めだな?」

「ご機嫌じゃないよ! カロルス様がくすぐるから笑っちゃうだけ!」

ずいずいとおでこがくっつきそうな距離までにじり寄ると、お返しにオレも両手でその顔を撫で回す。

ザリザリ、ちっとも心地良くないどころか、むしろ痛い。オレの手の平が削れてしまいそう。


「お前は手の平も柔いな」

捕まえたオレの手の平に頬ずりするもんだから、思わずきゃあっと悲鳴を上げた。

「痛くすぐったい~~!!」

手足をばたつかせると、ふわっと身体が持ち上がった。そのまま仰向いたカロルス様が、高々とオレを掲げている。こんな幼児扱いも、久々じゃないだろうか。

少しはにかみながら両手を広げ、真下にある精悍な顔を見下ろして笑った。

無造作にくしゃりとなった金の髪、やっぱりだらしなくはだけているガウン。ちっとも貴族らしくない、いつものカロルス様。オレが知ってる、オレの、カロルス様。


「やっぱりご機嫌じゃねえか」

オレを抱えたまま起き上がったカロルス様が、にやっと笑う。

「だから! カロルス様がくすぐるからだってば!」

そうじゃないって分かってるけど、オレは頬を膨らませてそう言った。オレばっかりほこほこしているのは、なんだか気に食わない。だから、ちょっと悪い顔でこっそり笑った。

するりと腕から抜け出して飛びつくと、硬い身体をぎゅうっと抱きしめる。首筋にぶら下がるように顔を引き寄せると、チクチクほっぺにちゅっとおはようのキスをして、小さな声で言った。

「おはよう、パパ」

ほうら、思った通り。オレだってやるときはやるんだから。

少しばかりほっぺは熱いけれど、カロルス様よりはマシだろう。

片手で口元を押さえ、すっかり固まってしまったカロルス様に、オレはそれこそ上機嫌でにっこり笑ったのだった。




「――なんだ、お前。えらく上機嫌だなあ?」

「え? そ、そう?」

その声音、まるでイチャモンをつけるごろつきみたいだよ。

ついにまにまと笑みを形作る口元を引き締め、オレは努めてそこにあるいかつい山賊顔を眺めることにした。火照った頭を冷やすには、これが一番だ。

「……腹立つ顔だな」

なんで?! じっと見つめていただけだというのに、ぐいと頬を引っ張られて腑に落ちない。

「そういうジフだって機嫌良さそうだけど?!」

そう、こんなやり取りだけど、こんな凶悪な山賊顔だけど、オレには分かる。料理がうまくいった時の顔だ。


「ほう、分かるか」

ほら、やっぱり。

途端に鼻歌でも歌いそうな顔(当社比)でいそいそと厨房の奥へと引っ込んだ。

すぐに戻ってきたその手には、ジフのサイズ感に合わない小鍋。

「何か試作品? 美味しいのができたんだね!」

このジフの様子からして、絶対に美味しいものであることは間違いない。

高まる期待で瞳を輝かせながら、その手元を覗き込む。

「え…………もしかして、これって」

「まあ、待て」

勿体ぶった様子で小鍋を火に掛けると、ちらちらとこちらの様子を窺った。

温められた小鍋からは、すぐさま独特の香りが漂い始め……。


「やっぱり! カレーだ!!」

うわあ、もしかして『ロクサレンカレー』が完成したんだろうか?!

魔族の国からレシピを持って帰って以来、ジフが改良を重ねてくれていたカレー。オレが覚えている限りの材料や隠し味、調理法を伝え、オレの好みや傾向を熟知しているジフが試行錯誤して。

魔族カレーの段階で十分美味しかった。だけど、この顔はきっとさらなる進化を遂げたと言えるのだろう。

得意げに小皿に取り分けられた、ほんの少量のそれ。

とろりと揺れる粘度はまさにオレの知るカレー。ここだけは、オレでも分かるところだもの、ぬかりなく伝えた効果が発揮されている。

「いい香り……」

懐かしいこの香り。だけど、香りだけなら以前のカレーだって大したものだ。

見上げると、真剣な顔のジフと目が合った。頷いてみせたその顔は、自信に満ちている。


つい上げてしまう期待値を意識して抑え、オレの知るカレーの味は一旦他所へ置いておく。だってこれは、この世界のカレーなんだから。

「いただき、ます」

渡された小さなスプーンで、小さなひとくちを運んだ。

「……!!」

まずやってきたのは、甘み、だろうか。だけど甘い、とひと言で言っていいのか分からない複雑なもの。そして追いすがって並んだ辛み。

甘くて、辛い。だけど、辛さはマイルドな気がする。スパイスの尖りも柔らかい。いかにもなスパイス感が随分抑えられている。

これは……! 

つい夢中で、小皿を舐める勢いで掻き込んだ。

「ふ、深い……!! 深みが、全然違う!」

平面に描いたカレーが、急に立体になって飛び出してきたみたい。


「どうよ? お前の好みだろうが」

にや、と悪辣な笑みも輝いて見える。オレは首振り人形のように高速で頷いた。

「すごい、すごいよ! これ、オレの知ってるカレーで、だけどそれよりずっと美味しいよ! 専門店のカレーじゃなくて、ホテルのカレーみたいな!!」

「何言ってるか分かんねえけど、気に入ったんならよし!」

「うん! ……うん!! すごく気に入ってる。これが……ロクサレンのカレーだね!」

「お前がそう言うなら、これがカレーだな!」

小さな拳を掲げると、大きな拳がごつんと合わされた。

「ついに、完成したね……! ねえ、今日は記念日だよ! ディナーは絶対カレーにしてね? きっとすごい量を食べるから、パーティするくらいの量が必要かも! そうだ、せっかくの記念日なんだもの、タクトやラキも呼んでいい? カレー記念日をみんなで祝おう!!」

浮かれたオレは、バク転からの後方抱え込み宙返り3回転を決め、ジフに首根っこを捕まえられた。


「鍋につっこむ気か! そいつは今日のランチ用なんだぞ! てめえの出汁なんざお断りだ!」

オレだってお断りですー! そんなヘマしないよ、着地だってばっちり決めたのに! 

だけど今のオレはそれどころじゃない。

「カレー記念日のパーティだと何が必要かな?! 福神漬はないから……ええと、サラダは必須として、トッピング用の卵にカツにチーズ、腸詰めに……」

大変だ、カレーパーティはカレーだけでいいと思いきや、案外用意するものが多い。それに、カレー自体もお肉を変えて3種類は用意したいよね! ご飯は一体何合くらい必要になるんだろうか?!

「何だよそのカレー記念日ってのは……そんな大層な料理だったのか?」

呆れたジフの呟きは、もう既にオレの耳には入らない。

「オレ、執事さんたちに伝えてくる!!」

カロルス様には後でいいよ、絶対OKって言うに決まってる。

中途半端に味わってしまった身体が、カレーを求めてうずうずするのを感じながら、オレは記念日を充実した物にすべく奔走したのだった。

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Twitterやインスタの方をご覧の方はもうご存知の通り、もふしらとクッキー屋さんのコラボが決まりました!! ラピスの動画はもうご覧になりました?!めちゃ可愛いのでぜひ!!

主にTwitterの方で詳細告知していきますので、乞うご期待!!!!

活動報告にも書きます!そのうち!!

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― 新着の感想 ―
[一言] カルロス様とのイチャイチャ・・・あー朝からお暑いです。 突然ジフとの会話になったからちょっと初め、混乱しました でも、ロクサレンカレー美味しそうです。食べてみたいです。
[良い点] ついにジフ特製のカレーが完成したんですね‼︎ 次回は一体何人呼んでパーティーになるのか 楽しみにしています。 我が家は福神漬けとサラダくらいですかね。 カレーは完全食だから他には 要らない…
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