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62 賑やかな食卓

身支度を整えたら、ふぅ、と一息。・・・よし、行くぞ!


気合いを入れて朝食の席へ向かう。初対面の人の前で大泣きするという・・大失敗・・しかも辺境伯の奥方の前で!カロルス様の奥様だし、とても優しい人だった・・と、思う。

だから大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら重い足を運ぶ。


扉を開けたら目に入った大きな背中。


「カロルスさ・・・・誰っ?!」


喜んで駆け寄ったところでビクリと急停止。振り返ったその人は、あのカロルス様ではなかった。

キレイにくしけずられて整った髪は眩い金の輪を作り、つるりとした肌に青い瞳が美しい。


「お前・・誰ってなんだよ・・。」


そこにはA級冒険者から貴族になったカロルス様がいた。無精ひげがないと随分若く見える。

・・けれど、どこかやつれてげっそりとしているように見えるのはなぜだろう。


「・・すごい!カロルス様、貴族みたいだよ!」

「オレは元々貴族だっつうの!」


カロルス様のまわりをぐるぐるまわって眺めるオレ。呆れ顔もなんだか様になってるよ!


「あら、自分で起きてこられたの?えらいわねぇ。」

「あ・・・。」

おっとり優しい声と、そっと撫でる柔らかい手。オレは勢いよく振り返った。


「あのっ!きのうは、ごめいわくをおかけっ・・・。」

「いいのよ~大丈夫なの。こどもはね、もっと大人を頼らなくちゃダメよ。」


まだ何も言い切らないうちに、ぎゅっとしてくれる柔らかい腕に、また泣きそうになって堪えた。無条件に受け入れてくれる、そんな雰囲気がオレの心を簡単に揺らしてしまう。


「・・・はい。ありがとう、ございます・・!」

「あらら?私には普通にお話してはくれないのかしら・・?」


緑の瞳を曇らせてじっとオレを見つめる綺麗な人。いいのだろうか・・そんなに甘えてしまって。


「大丈夫、あなたはもっと甘えていいのよ?」

「!!」

泣くまい、と堪えていたのに・・つうっと一筋溢れてしまった。オレはぐっと引き結んだ唇のまま、こくりと頷いた。


「あ、またユータ泣かして~!ほらユータ、おいで!お兄ちゃんが来たよ!」

ひょい、と抱え上げられて視界が変わる。目の前にあるのはババンナマンキーの・・じゃなくてセデス兄さん。つい思い出してしまったババンナマンキーに涙が吹っ飛んだ。


「ふふっ、セデスにいさん。おはよう。」

「「「「!!」」」」


泣いたと思ったら笑う、忙しい感情にオレは振り回され気味だ。けれど、ババン・・・・セデス兄さんのおかげで涙が引っ込んでくれて、感謝だな。


「ゆ・・ユータちゃん!?どうして・・どうして私だけ他人なの・・?!」


緑の瞳がうるうるしている・・・そうか、そうなっちゃうよね。仲間はずれみたいで嫌・・・かな?

「あの・・・ふつうにおはなししてもいいの?」

「いいのっ!それでお願いっ!」

「ほんと?・・ありがとう!・・あ・・その、きのうは・・あと、きょうも、とつぜん泣いたりして、ごめんなさい・・。・・あのね、オレ、うれしかったの。」

セデス兄さんに抱っこされたままの姿で申し訳ないけれど、ぺこりと頭を下げる。

本当に、嬉しかったんだ。それを伝えたくて、精一杯の気持ちをこめてにっこりとした。こんな涙の跡が残る顔では様にならないかもしれないけれど・・。


「「・・・!!!」」

エリーシャ様は唐突にマリーさんと抱き合って、泣きながら頷き合っている。・・なぜ・・?

・・なんだかこの二人は仲が良さそうだ。




「・・おう、お前いつの間にセデスと仲良くなったんだ?」

「昨日風呂上がりに廊下で会ったんだよ。真っ暗な中にいてビックリしたよ。」

「・・ああ、お前夜目が利くって言ってたな。」

「はい!まっくらでもみえてるよ!セデスにいさんが、ババ・・」

ぱしっと口を塞がれた。

「ユータ?あれは男と男の秘密にしよう!ね?」

「・・?・・うん!」

「ははーん、お前また変なコトやったんだろ。いい年してちっとも落ち着かねえヤツだ。」

「父上!僕は十分落ち着いたから!父上とは違うからね!黙ってたら王子様みたいだって言われるぐらいなんだよ?!」

「・・・全然ダメじゃねえか。」


セデス兄さん・・・それ褒められてるのかなぁ・・?ホント、黙って立ってたら王子様なのになぁ。

でもそれを言ったら今のカロルス様も黙って立ってたら威厳ある貴族様!って感じだよ?とても強そうな貴族様だ。・・黙ってたらね!


「おう、ユータ言い忘れてたが、お前に色々教えるのはエリーシャだからな。

まぁセデスも手伝うって言ってるから、二人に色々教えてもらえ!」

「ユータ、よろしくね!

うーん、でもユータに常識を知ってもらうのは思ったより大変そうだよ・・。」

「どうして?」

「そういうとこが・・・・な。」

「そうだね・・・まずは自覚を持つ所から、だね。」


ちょっと腑に落ちないけれど、二人が先生なのは嬉しいな!どんなことを教えてくれるんだろう?今からわくわくするよ。


「ま、とりあえず食べちゃおっか!今後どんな風にしていくか、また相談するからね!」

「セデスにいさんは、ずっとここにいてくれるの?」

「!・・ユータは、僕がいる方がいい?」

「うん!」

「・・おぉ・・・!!いますとも!セデス兄ちゃんはずっといるからな!」

「へっ、そんなこと言ってくれるのも今だけだなぁ・・お前だって『父上と一緒にいるー!』って泣いてたのになぁ。」

「父上!!!」

ふふっ・・なんだかカロルス様も嬉しそうだ。やっぱり一人で寂しかったのかな?賑やかな食卓に、オレは嬉しくなって、つい綻ぶ頬を隠すようにパンをかじった。

あ、ジフ・・さっそくポテトチップスを食卓に出してる。これってオヤツだと思うけどな。




「ああ~奥様、マリーは首を長くしてお待ちしておりました!!全てはこの!今日の光景を見るために!!」

「マリー!大変だったでしょう?よく耐えてくれました。おかげで、セデスも立派に貴族として成長することができて・・ね?いい感じでしょう?そして!ああ・・これは頑張った私へのご褒美かしら?こんなかわいらしい子が我が家に・・!!」

「はい!この奇跡は天から授かった私どもへのご褒美に違いありません!マリーは毎日天にも昇る心地でございます!」


・・・マリーさんとエリーシャさん、何やってるんだろう・・・。近寄ってはいけない気配が漂ってるよ。なんか、この二人は似てるね・・。



「父上、これなんです?」

「ん?これか・・・?なんだこれ?ああ、こういう見たことないモンが出たときはな、ユータだ。ユータの国の料理を教えてもらってんだ。こいつの料理は宮廷料理より美味いんじゃねえか?おう、そうだこの辺の名物にできそうな案もあるから、後で付き合えよ?」

「いいけど・・・ユータの料理?ユータ、料理の仕方なんて知ってるの?」

「知ってるも何も・・!こいつ自分で作りやがる!それが美味いのなんのって・・!これも絶対美味いヤツだろ。食ってみろよ!」

「ユータが?自分で??料理ってそんな簡単に作れるもんなのかなぁ・・?どれどれ・・あ、何コレ?固い?食べられるんだよね・・・?」

恐る恐るポテトチップを口へ運ぶセデス兄さん。

パリッ!

ふふ、驚きの食感、でしょ?目を丸くするセデス兄さんにちょっと嬉しくなる。無言で次々手を伸ばす様子はカロルス様そっくりだ。

「おっおい!ちょっと待て!俺の分がなくなる!!一人で食うな!」


凄い勢いで減っていくポテトチップに慌てて参戦する大きな手。けん制し合いながらポテトチップを奪い合う親子・・。きっとまだまだあると思うよ?



食卓で始まったバトルと、傍らで続くマリーさんとエリーシャ様のキラキラした何か。


・・オレ、もうごはん終わったんだけどなぁ・・出て行っていいだろうか・・?







ユータ「ババンナ兄さ・・・あ。」

セデス「・・・(泣)」

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