間話 お留守番
「では、お願い致しますね・・・。」
「おう、行ってこい!」
「・・・ユータ様、カロルス様をお願いします。」
「うん!まかせて!」
「・・おいっ!」
不満げなカロルス様を残し、出発するメイドさん達を見送る。
今朝のこと、突然カロルス様にメイドさん達が出かけると告げられた。
「今日はちょっとマリーにな、メイド達全員連れて調・・査っ?!」
突然飛来した壺をキャッチするカロルス様。さすがA級!ナイスキャッチだ。どこから飛んできたのかは気にしない。この館ではオレと話すカロルス様だけに時々モノが飛んでくるんだ。
「ゴホン、えーと・・マリー達メイドにしかできないことを頼みたくてな、ちょっと出て行くが、大丈夫か?」
「うん、オレは大丈夫。」
オレはそもそも一人で大丈夫なんだけど。カロルス様は大丈夫なのかな?
館の中は、何だかがらんとしていた。執事さんはいるけど・・彼は主に領主のお仕事を手伝うためにいるようだ。あまりお世話をしたりはしないみたい。カロルス様、大丈夫?仕方ないから今日は執務室で本を読もう!
執務室で頭をかきながら机に向かうカロルス様。時折執事さんに相談しつつ真面目にお仕事をしている。
そろそろかな?オレは読んでいた本から顔を上げると、そっと部屋を出て厨房に向かった。
「あ~ちょっと目処がついたか?」
うーっと眉間を揉むと大きな体をぐっと伸ばした。
「おつかれさまです。どーぞ?」
「おっ?タイミングいいな!ちょうど休憩しようかと思ってな!」
適温の紅茶とちょっとした菓子を差入れ、オレも座る。
今日はなんちゃってラスクを作ったよ。正しい作り方は知らないけど、切ったパンにバターとお砂糖まぶしたらじっくり水分飛ばしながら焼くだけなの。
サクッ・・カリッ・・・・・!!
サクッ・・サクッ・・サクッ・・
カロルス様?美味しかったのかな?無言で次々口に入れている。お砂糖こぼれてるよ?
「はー・・うま。・・これ、お前か?」
「うん!ラスクっていうの。」
「ホントにお前のとこは美味いもん食ってたんだな・・・それを作れるお前がおかしいけどな。」
言いながら服の裾で口を拭おうとするのであったかいお手ふきを渡す。お湯もタライも魔法で出し放題だからね、本当に便利。ついでにお手ふきも出せる魔法があったらいいのにね。
「あー美味かった!これで仕事が捗るぜ。」
「うん!じゃあがんばってね!」
今日はジフがお休みの日だ。せっかくだから今日はオレがお昼ご飯つくろうかな!
ジフは料理長だけど彼以外の料理人もいるから、休みの日は普段彼らが食事を作ってるんだ。でも、怒られずにすむのでオレが厨房を自由に使いやすい日だったりする。
何を作ろうかな?お肉ばっかりのカロルス様だからお野菜もたくさん入れられそうなもので目新しいの。あれなんかどうかな?野菜マシマシで作ってみよう!オレの小さい手では作りにくいし量が多いからみんなに手伝ってもらおう!
「あのね、お昼ごはん、オレが作ってもいい?でも、一緒に作ってほしいの。」
「ぼっちゃんの国の料理ですか!喜んで手伝いますとも!」
オレの料理は珍しいから料理人さんの勉強になるって結構喜ばれるんだ。
よーし、じゃあまずは・・・お野菜を見繕う。これはレタスっぽい・・これはほうれん草っぽい・・うーん・・これならいけそう。
「このお野菜を茹でて、細かくしてほしいな。・・このお肉、もらっていくね。」
裏口からかたまり肉を持って出ていくオレを不思議そうに見送る料理人。
「ラピス!これ、混ぜられるぐらい細かくできる?」
「きゅ!」
首をかしげたラピスがお皿の上のお肉を空中へ跳ね上げると魔法を放つ!
ドシュシュ!!
・・・これは料理だと思っているからいいけど、戦闘ではやらないでほしいな。
やや塊の残るミンチ状になったお肉に寒気を覚えながら、ラピスにお礼を言って厨房に戻った。
しっかりと手を洗って、みじん切りお野菜とお肉を混ぜる。味付けがお塩ぐらいしかないけど・・ダシ代わりに鶏ガラスープっぽいものを少量入れてみる。
その間、みんなには小麦粉と水で皮を作ってもらっている。
「よーし!じゃあ、包もう!」
そう、今日は餃子!オレの国の料理って言いながら和食が作れないのが悲しいところだな。まあ地球の料理であることに変わりは無いんだけど。だって和食の材料が全然ないんだもの・・。餃子って言いつつニラっぽいものが見つからないので実質野菜とミンチ包み、みたいなもの?
小さな手で四苦八苦しながら包み方を見せると、さすがは料理人、見事な手際で包んでいってくれる。
皮を作る班、包む班に別れてテキパキ作業が進む。ちなみにオレは皮に具をのせる係だ!次々並べられる皮に大きめのスプーンで具を盛っていく。はいっ、はいっ、と気分はわんこソバを入れる人だ・・結構楽しい。
思ったよりたくさんできたので夕食にも使えそう。お昼は焼いて、夜はメインがきっと別にあるからスープにでも入れようかな!
「うまっ!」
「しかも、見た目が美しい・・これは、他の料理にも応用できるぞ!」
味見する料理人さんにも大好評だ。手伝ってくれてありがとうね!
カロルス様を呼んできて昼食の席へ。
「おお!なんだこれ!すげーな、宮殿料理みたいだな!」
あちあち言いながら頬ばるカロルス様に、こっちも嬉しくなる。美味しそうに食べる人だなぁ。
午後のティータイムはアレに挑戦だ!
パウンドケーキ!これなら材料がどうとか悩まずにすむんだよ!全部同じ重さだからね~。焼き加減もクッキーに慣れたロクサレン家の料理人さんなら大丈夫!同じぐらいの温度で長く焼けばいいし、焼き上がりがわかりやすい!問題は・・・・オレの力でちゃんと膨らませられる生地に混ぜられるのか・・。
でもここも料理人さんが喜んで手伝ってくれた。むしろ感覚を覚えたいと取り合いになりながら混ぜてくれる。そうそう、そんな感じで大丈夫!ここからはむしろ混ぜないでほしいからオレがやるよ。
大きな踏み台に乗って生地を扱うオレ。まわりはびっしりと料理人さんが囲み、メモを取っている人もいる。ちょ・・ちょっと恥ずかしいかな。
とりあえずプレーンなパウンドケーキを作って、上手くいったらレシピとして確立してもらう。あとはフルーツを入れたり、野菜を入れたケークサレにして朝食にしたり、なかなかの万能選手なんだ。
焼き型はなかったので土魔法で作ってみた。たくさん作ってお外でラピスに焼いてもらって、熱に強くケーキ型になり得るものを工夫したんだよ。ものすごく羨ましそうだったから料理人さんが使えるようにいくつか作っておいた。
「うおおお!なんだこれ!」
もちろんカロルス様からは大好評。甘い物も大好きな人は色々楽しめて、作る側も嬉しいよ!でも食べ過ぎないでね?渡せば渡しただけ食べそうだったのでお皿に上品に二切れだけ乗せて出しておいた。レモンを効かせた紅茶とセットでどうぞ!
夕食も昼の餃子もどきのアレンジを出したけど、カロルス様が文句を言うはずもなく、大喜びで終えた。
さあ、この後はお風呂の準備をしてカロルス様を呼びに行かなきゃ!・・なかなか忙しいな。
「お風呂の準備ができましたよ~!」
「おう!ありがとな!」
「・・・・・・。」
元気に返事してお風呂場に向かうカロルス様。執事さんがそれを生温かい目で見送って、じーっとオレを見る。
「?」
「・・・・・いえ・・・。」
ふう、と深いため息と共に首を振る執事さん・・なんだかお疲れの様子だ。彼にもパウンドケーキを差し入れてあげよう!マリーさんと執事さんの分はオレが作ったやつがまだあるから大丈夫。他のメイドさんたちにもあるよ!だって料理人さんが銘々俺も作りたい!って言ってたから多分大量にキッチンにあると思うんだ。持って行けるように包んでおこうかな。
さて、カロルス様の風呂上がりの準備をしておいて・・うん、オレも一緒に入ろう!
のんびりゆったりお風呂を楽しんで、今日のお仕事おわり!メイドさんたちももうすぐ帰ってくるかな?
「ただいま戻りました。」
「おう、おかえり!どうだ?」
「いえ・・あそこはシロですね。念のために一人残してます。」
「そうか、ご苦労。」
「・・・で?カロルス様はちゃんとお留守番できましたか?」
「てめーなんだそれ!俺はお前らがいなくても・・」
「ええ、ちゃんと・・・お世話してくれましたから・・・・。」
「・・やはり。」
「んんっ?なんだってんだ!別に、俺問題なかったろ?・・違うのか??」
生温かい視線を感じて居心地悪げな主人を放置すると、二人は今日の褒美を手に取る。
「これ、ユータ様が・・・!」
「ええ、私にもいただけるとは。キッチンから甘い香りが漂ってましたからね、きっと美味しいモノでしょう、楽しみです。他のメイドの分は料理人が準備していますので厨房に声をかけてくださいね。」
ユータがぐっすり眠った頃に任務を終えて帰宅したマリーやメイド達。
マリーが厨房から持参した『例のブツ』によってメイド部屋からは黄色い悲鳴があがったそうな・・・。
本年もどうぞよろしくお願い致します!