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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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629 まだ知らない楽しみ

「――だから、楽しみにしていてね! カレーの原型はできたから、もう少し吟味して『オレのカレー』を作って持ってくるからね! そうだ、ウーバルセットのおにぎらずは、すぐにでも作れるから次に来る時に……ああ、でもまずは今日の海鮮たちのお料理を持ってこなきゃ!」

一生懸命話すオレの上で、ふわあ、と大きなあくびが聞こえた。

「ルー、聞いてる?」

すぐに帰ったら怒るのに、話していても聞いているんだかいないんだか。

「……お前の話は飯ばかりだ」

「だって、すごいことなんだよ! カレーにチョコレートに、ウーバルセットも美味しくて、オレ魔族の国へ行って本当に良かったなあって」

印象的だったこと、感動したこと、それを話すと食べ物になっちゃうんだよ。そんなこと言って、他の話をしたって興味なさそうな顔をするのに。


「そうだ、サイア爺に習った精霊舞いが役に立ったんだよ! そのウーバルセットの洞窟で――」

あ、ムッとした。些細な耳としっぽの動きだけれど、割と分かりやすい気がするよ。それはオレがルーに慣れたからだろうか、それともルーが分かりやすくなったんだろうか。

だけどこの調子だとアッゼさんの話をしても、ミラゼア様の話をしてもダメなんでしょう。じゃあやっぱり食べ物の話になるよ。

このムッとしたルーを、なんとなく嬉しく感じるのはどうしてだろうね。浮かぶ笑みを隠さず身体を反転させると、背もたれにしていた胴を抱きしめた。これ、抱きしめてるって言うのかな。しがみついているって言う方が正しそうだ。


「ねえ、オレがお話するばっかりじゃなくて、ルーの話だって色々聞きたいな」

木漏れ日の散る毛並みに頬を寄せ、するすると柔らかなそれに手を滑らせる。ルーの話なんて、オレが聞いていいものじゃないのかもしれないけど。だけど、色んな場所に行ったお話だってできるはずだ。

「俺はずっとここにいる。話すことなどない」

少しだけ困惑したような声が、つっけんどんに言った。想定の範囲内の台詞に、オレはにこっと笑って金の瞳を見つめる。

「じゃあさ! 一緒に行こうよ。せっかく人の姿になれるんだから、勿体ないでしょう?」

「……何も勿体なくはない」

おや、と思わず目をしばたたかせた。以前はにべもなく『行くわけねー』って言い切られていた気がするのに、これは心境の変化じゃないだろうか。


オレは、ここぞとばかりに勢い込んでルーの上に乗り上げた。

「勿体ないよ! あのねえ、カロルス様は王都だとフード被ってるんだよ! だから、ルーだってフード被ればきっと平気! 今度行こうよ、どこがいい?!」

「……なんで俺がフードを被る必要がある」

「だって、ルー格好いいから目立つでしょう」

なんとなく、目立つのが嫌なのかなと思ったんだけど。

オレ、知ってるよ。ルーが人の姿で街を歩いていたことがあるだろうこと。きっと、今ではない昔のことだけど。だから、人のこともよく知っているんでしょう。


ルーは、鼻を鳴らしてごろりと横になった。お話終わり、の合図なんだろうな。だけど、今日のオレは諦めない。

「じゃあ、今度行こうね! そうだ、お祭りがある時に一緒に行こうよ! いろんな街でいろんなお祭りがあるから、今度執事さんに聞いてみるね! 一緒にお祭りに行ったら、美味しいものだって食べられるよ!」

「なんでお前と行く必要がある」

オレはいよいよ頬を緩ませて金の瞳を覗き込んだ。

「だって――オレと行く方が楽しいからだよ!!」

鼻先で思い切り笑って、大きな頭を抱きしめる。

ルーが一人で行くよりも、オレと行った方が楽しいに決まってる! 絶対そうだよ。

金の瞳がぱちりと瞬いて、咄嗟に言葉を失った。


「それに、オレがルーと一緒に行きたいもの!!」

「……うるせー。それはお前が楽しいだけだ」

「うふふっ、そうだよ! オレは楽しいよ!」

それだって、絶対そうだよ。楽しいに決まってるでしょう? なんだかもうわくわくしてきて、ぐりぐりと顔を擦りつけた。

「楽しみだね! どんなお祭りがいいかな? 前に花祭りに行ったことがあってね、そこでは花冠を被らなきゃいけないんだよ! ルーの花冠、素敵だろうなあ」

「行くとは言ってねー!」

だけど、行くわけねーとも言わないもの。それはもう、オーケーってことでいいよね!


嬉しくなってルーの毛並みに顔を埋めると、お日様と、ルーの下敷きになった青草の匂いがした。温められた被毛はふかふかとして撫でる手が止まらない。耳に優しく届くのは、草木のざわめきと、湖がたぷたぷ鳴る音。

ここはとても素敵な場所だね。だけど、他にも世界に『素敵』はたくさんある。もしかしてルーは全部知っているのかもしれないけれど、オレと一緒に出かけた『素敵』はひとつも知らないでしょう。

ここが素敵なのは、帰ってくる場所だから。世界で一番素敵な場所は、ちゃんとここに取っておくんだよ。もしかすると、それがあるから、他の素敵を楽しめるのかもしれない。


一緒にお出かけして、そして聞かせてよ。以前、ルーが街を歩いていた頃のこと。

そして、どうして歩かなくなったのかを。

大丈夫、きっと楽しいから。

絶対に、オレは楽しいから。だから、分けてあげるね。オレの『楽しい』を。

「ねえオレ、もう楽しくなってきちゃった!」

「てめーはいつもそんなものだ」

ぶっきらぼうな返事を聞きながら、オレは抱きしめる腕に力を込める。

結局、ルーは一度も言わなかった。それが、とても嬉しかった。



思いの外ルーのところに居座っちゃって、戻るのが遅くなってしまった。

あわやあのまま寝てしまうといったところで、蘇芳が容赦なくほっぺを引っぱって起こしてくれた。どうやらお魚料理を楽しみにしていたらしい。

「ただいま!」

帰るなり慌てて厨房へ飛び込むと、既に夕食の準備が佳境を迎えているところだ。今日使う分のお魚はジフが確保していたけれど、タコはオレが全部持って行っちゃってる。


「ねえジフ! タコも! タコも出したい!」

「タコって何だ?! 野菜じゃねえなら好きなだけ出せ、カロルス様なら食うだろ!」

うん、それはカロルス様への信頼なんだろうと思う。思うけど、出されれば何でも食うだろうカロルス様の残念感が半端ない。貴族様とは……。

「タコってアレだよ、最後に出したヤツ」

「食うのか……まあいい、外で切ってこい」


もう解体に割ける人員はいないらしい。だけどこの大きさのタコをオレ一人で捌くのは無理だ。収納内なら鮮度は落ちないし、仕方ないので足一本だけ切って使おう。それにしたって普通一家で食べる量ではないけれど。

ひとまず残っていた解体会場で足を切り出して、塩もみを開始する。周囲は暗くなっているけれど、オレ一人なら見えるから平気だ。

「う、うえぁ……」

揉むたびうにょり、うにょりと何とも言えない感触が伝わって、思わず奇声が漏れる。タコはあの大きさだからいいのかもしれない。この大きさだとちょっと……食べ物に見えづらい。

オレでさえこうなのだから、もしかするとみんなはもっと抵抗があるかも。なら、まずは試食と称して忌避感の少ないだろう唐揚げにしよう。いろんなスパイスを使えば、もっと食べやすいかもしれない。


なるべく無心でタコを揉みながら、この大きさをどう切って唐揚げにしようかと考える。そしてまだまだ残る部分を処理するために、今後大量の塩が必要だと気付いた。塩もみ用ならラピス部隊に海水から作っておいてもらおうかな。訓練でいっぱい海水を蒸発させてそうだし。

王都にいるタクトとラキにも、唐揚げをお土産にしよう。食べた唐揚げがこのタコだと知ったら、どんな顔をするだろうか。そうだ、バルケリオス様って魔物を食べる分には平気なんだろうか。さすがに彼には内緒で出したりはしないけど、こういうところから苦手克服できるかもしれないよね。


そうして暗闇の中、ぬめる触手を揉みながらうすら笑いを浮かべるオレを見て、料理人さんたちの間でまたひとつ、碌でもない噂が流れたそうな。



「好きラノ」たくさんの投票ありがとうございました!嬉しかったです!!

10巻は24票、11巻は35票入れていただきました~!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 暗闇の中で薄笑い・・・ 笑える
[一言] 一気に怪談チックになりましたね
[一言] タコは大きすぎるので揉み洗い機能付きの洗濯機魔法を開発すると良いと思う
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