表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

609/1047

596 おねだり

「――収納袋か。確かに魔族が作るものは性能がいいだろうな。俺もそちらへ輸出していたとは知らなかったが」

一通りお腹が満足したところで、オレたちはペース配分を落として紅茶に口を付けた。

ふむ、これはお茶会じゃなくお菓子会だったかもしれない。そんなことを考えつつ、リンゼと収納袋について話をしていた。ちなみにラキは同じような性質の子がいたらしく、2人で弾幕のような会話を繰り広げているので、そっと隅へ追いやっている。


「じゃあ、魔族の国へ行ったらいい収納袋が手に入るかな?」

「それはそうだろう、当然値段も下がるだろうしな。ささやかな礼になるが、そういったものが欲しいなら戻ってから見繕ってやろうか?」

「そっか! じゃあ――」

言いかけて言葉を止め、首を振った。

だって、お金を貯めてあのお姉さんのお店で買うんだもの。


「ううん! どんなのがあるか聞きたいなと思っただけ。どっちにしても今はちょっと買えないよ、金貨何百枚以上になるでしょう?」

「礼だと言ったろ? なぜ買おうとする」

えっ? 斡旋してくれるって意味じゃないの? それならなおさらそんな高級品いらないよ! 

お礼と言えばここはひとつ、いつものアレだ。


「お礼をくれるって言うなら、オレ、調味料とかお料理に使えそうなものがいい! オレの、知らないもの!」

ここにないもの、まだ知らないもの、それは金貨何百枚よりずっと価値があると思っている。だって、知らないものは探せない。それに派手な生活に興味の無いオレにとって、お金をもつことにはあまり意味が無い。魔法があって、食糧は外から採ってこられる。必要なお金ってあんまりないんだもの。

田舎のスローライフに高級品はいらない。何よりも必要なのは、自分に合うもの。金貨で買った道具より銅貨で買える道具の方が合う、なんてことだってあるんだから。


「そう言われても俺には分からんが……お前が直接選びに来たらどうだ?」

リンゼのからかうような口調に、本気ではないと知りつつ瞳が輝いた。

「行っていいの?」

「良くないだろ。なんでそんな乗り気なんだ、言わば敵陣だろう」

戸惑うリンゼに慌てて否定されてしまった。でも、仲良くないのは知っているけど、敵でもないんでしょう。悪い人に見つからなければ……! だってオレ、帰りは1人で転移して帰って来られるもの。ちょっと観光するぐらい……ねえ?

「いいじゃない! ユータちゃんにも魔族の国を紹介したいわ! ほら、うちの領地なら滅多なことだってないんじゃないかしら?! 魔族だって言っておけばいいじゃない」

「いいよね?! ちょっとだけ、ちょっと見てすぐ帰るから!」

即座に身を乗り出したミラゼア様と、パチンと両手を合わせてリンゼを見つめる。


「……ミラゼア様、俺に同意を求められても困ります。そもそも、瞳はともかく、そんな髪色ではいくら隠しても魔族でないと一目瞭然です」

髪色? そっか、魔族の人は髪色が薄い。アッゼさんは白に近いグレーだし、スモークさんだってクリーム色だ。様々な髪色の人がいるそうだけど、それでも濃さはせいぜいミルクを入れたコーヒーくらい。確かに、そんな中で真っ黒なんて抜群に悪目立ちするだろう。

だけど、それが問題なら解決は簡単!


「それなら! ラピス!」

「きゅうっ!」

変~身!! くるりとまわってシャキーンとポーズを決める。

「なっ……?!」

リンゼたちが目を見開いて顎を外し、タクトが肩をすくめた。

「……お前、その格好晒して良かったのかよ?」

「えっ? どうし……あっ!!」

首を傾けた拍子にふわりと視界を掠める白い髪、ぱちぱちと瞬いた瞳はきっと群青になっているだろう。

王都でシャラと舞った時の姿。

ラピスと色を同じくする『繋がり』を強くしたこの姿は、王都では――『天使様』と呼ばれる。


「えーーーっと。このことは、秘密ということで……」

まだ呆気にとられているリンゼたちにちらりと視線をやって、ぼそぼそと呟いた。

王都での風の精霊と天使のお話は、ミラゼア様たちは知らないと思う。思うけど……。

『つい先日聞いたところよねぇ、シャラ様のお話を演劇にして広めるって』

モモがやれやれと言わんばかりだ。だ、だけどシャラの伝承に天使オレが登場するわけじゃないだろうし……。

たらりと冷や汗が伝うものの、もうお披露目しちゃったものは仕方ない。それに、白髪は黒髪ほどないわけじゃないし、エルベル様たちヴァンパイアだってお揃いだもの。目の色なんて、舞いの時には装飾で隠していたんだから、はっきり分からなかったはずだ。

うん、大丈夫な気がしてきた。


ぐっと拳を握ったところで、リンゼが口をぱくぱくさせる。

「お、まえ……それ、どうなっ――」

「きゃ、きゃああ?! 何なのこれ?! どういうこと!」

絞り出された声を遮って響いた、ミラゼア様の悲鳴。思わず身をすくめ、しまったと思う。

もしや怖がらせたろうか、と慌てたところで思い切り抱きしめられる。きょとんとするオレの耳元で、淑女にあるまじきフンスフンスと荒い呼吸が聞こえた。


「ああああり得ない! 一粒で二度おいしいなんて! こんな素晴らしいことがある? いいえ、ないわ!! 漆黒の憂える星夜から穢れ無き純白の月華への転身――」

つらつらと続く言葉はそっと聞き流して、さりげなく腕から抜け出しておいた。

なんてことだ、確かにそんな兆候はあったけれど、ついにミラゼア様がマリーさん病にかかってしまった。あるいはエリーシャ様病だろうか。ロクサレンに滞在期間が長いと罹患してしまうのかもしれない。


一方のリンゼは、早口で虚空へ訴えかけているミラゼア様を放置して、まだオレを凝視していた。

大丈夫、怖くないよ。そんな思いを込めて小さく笑ってみせる。

「あのね、オレにはラピスっていう従魔がいてね、え~と、その子が魔法で色を変えてくれただけだよ」

繋がり云々を言うよりシンプルでいいだろう。驚いていた他の子たちも、不思議そうだけど納得はしてくれたみたいだ。こそこそと『これも、常識外のトンデモ仕様……?』と聞こえてくるのは、絶対にアッゼさんのせい。


「ほらね? これなら、魔族のところでも大丈夫じゃない?」

瞳は紫じゃないけど、光の加減で青紫色に見えなくもない。しかも濃い色だから瞳孔の形なんてまず分からなくて一石二鳥だ。

ね? と見上げれば、リンゼが片手で顔を覆って白旗を上げた。

「……だからっ、俺に同意を求めるんじゃない! くそ、お前の保護者の許可があればいいんじゃないか! ないと思うがな!」

折れたリンゼに、ミラゼア様と顔を見合わせてにんまりしたのだった。



「――ってことなの。ねえ、ついて行ってもいいでしょう? すぐに転移で帰ってくるから! 危ないことしないから! ねえ、おねがい!」

耳元ではモモの細かな演技指導が入るけれど、そうそう都合よくオレの瞳は潤んだりしないと思うんだ。むしろ、すっかり狼狽しているエリーシャ様の瞳の方が潤んでいる。

「オレ、いい子にしてる! ね? いいでしょう? おねがい!」

オレはエリーシャ様のお膝に乗って、コアラよろしくぎゅう、としがみついて見上げていた。

そして、お願いオーラ増幅要因として、びっしり肩へ並んだラピスと管狐部隊、そして後頭部に貼り付く蘇芳。極めつけに背後から澄んだ視線を送るシロ。大小様々なつぶらな瞳が、これでもかとエリーシャ様を見上げていた。


「うっ……ううっ! ひ、卑怯よっ! こんな、こんな……ユータちゃんがこんな汚い手を使うなんて!! だってだって魔族の国はさすがに危なくて……」

わっと両手で顔を覆ってしまったエリーシャ様に、カロルス様のぬるい視線が注がれている。


許可をもらう最難関は、きっとエリーシャ様。だから、オレは最初からエリーシャ様に標的を絞って全力の甘えモードで説得にかかっている。

「だけど、せっかく魔族の友だちができたのに……。大丈夫、危なくないようにこうやって魔族に馴染む姿にもなれるから。……このままお別れなんて、悲しいよ……」


ふわっと白髪群青の瞳になって少し目を伏せる。悲しいのは、本当。せっかくこんな繋がりができたのにもう会えないなんて、そんなのってない。一度遊びに行けば、次からは転移できるもの。

『それいいわよ! 白ゆうたは儚げな所を活かすの! もう一押しよ!!』

活かせと言われても。オレはほんのり苦笑して眉を下げた。

最後にもう一度、真摯にエメラルドの瞳を見上げる。


「おねがい。……だめ?」

どうしてもダメなら、仕方ない。……………こっそり行こう。


「うう……ダメ、じゃ……ない……わ」

ひそかにそんなことを考えていた時、エリーシャ様はぱたりとソファーに伏せて陥落したのだった。

わあ、と瞳を輝かせ、次は期待を込めて傍らのカロルス様を見上げる。

苦笑したカロルス様の大きな手が、オレの顔ごとわしわし乱暴に撫でた。

「はー、そんな目で見るなって。分かった分かった、行くなっつうと勝手に行くだろ。それよりは、まあ……把握している方が良い。アッゼもいるなら大丈夫だろ」

ブルーの瞳は心配の色が消えないけれど、しっかりオレの考えはお見通しだったみたい。

「ありがとう!」

首筋へ飛びついてぎゅうっと力一杯抱きしめると、無精ひげがチクチクとオレのほっぺに刺さる。


「――大きくなれ。だけど、ゆっくりでいいぞ」

ぐっと苦しいほどにオレを抱きしめた腕の中で、そんな小さな声が聞こえた。



白ユータと黒ユータ、どっちがお好み?(笑)


11巻、ついに4/8発売日ですよ!!電子版も同時です!

早いところでは明日あたりから店頭に並ぶかも!

ちょっと雰囲気違う外伝にしたので不安。SSは「うれしい味」もふもふ成分たっぷり補えるお話にしてみました!


そして各サイトで電子書籍半額セール中みたいですよ!!(1~3巻かな?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
ずるい! 可愛すぎて…ずるすぎるー! 白ユータも黒ユータも可愛い! 女の子よりかわいい! (可愛いだけの女の子が出てこないからかもしれないけど)
[一言] 春は白色。 やうやうゆーたの色白きに 椿を重ねうつくしさにもだけるなり
[気になる点] 汚さは感じないから汚い手って表現にちょっと違和感かなー。ずるい手だとは思うけどねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ