52 村のこどもたち
窓から射し込む光がまぶしくて目を覚ます。今日もいいお天気だ。枕の横で丸くなっていたラピスは目を薄く開けてチラッとオレをうかがい、もう起きるの・・と言いたげだ。
「寝てていいよ?」
グーッと伸びをしてぴょいとベッドから飛び降りたら、窓辺のティアと目が合った。
「ティアおはよう!」
「ピィ!」
ティアはここが自分の場所だと思っているのか、いつもフェリティアを入れていたかごで寝ている。それとも光合成でもするのだろうか?緑色だしね・・。
日課になってる魔力回路接続をして、さあ今日は何をしようか?
とりあえず朝ごはんまでは部屋から出られないので読書タイムだ。
ここに帰ってきてからは、ハイカリクの街でもらった本を大切に読んでいるんだけど、一冊目はそろそろ読み終わってしまう。以前ニース達が帰るときにガッターの町って言っていたのが気になって「ホステリオ王国観光」から読み始めたんだ。ガッターの町はロクサレン地方の西端で、ヤクス村からだとバスコって村を経由して行く形になっている。ハイカリクに行くよりは多少近いかな、という感じだ。
詳細な地図ってものは載ってないけど、その代わり文章で表現豊かに地方の特色を記してあって、読み物として面白いよ!ただ、ロクサレン地方って本当に辺境の田舎って感じなんだね、景色とか作物とか動植物のことばっかりだ。でもね、カロルス様のことが本に載ってたんだよ!!A級冒険者のカロルス様が功績を認められて辺境伯になった時に、家名をとってこの地方がロクサレン地方になったんだって!
そう言えばカロルス様は以前、土地を持たない弱小貴族のままで良かったのに、ってぼやいていたよ。やっぱり偉くなると自由が減ってしまうのかな?
カロルス様に本に載ってたと教えてあげよう!
「げ・・・・そんなことまで載ってんのか・・しまったな。」
朝食の席で本のことを伝えると、なぜか嫌そうな顔だ。
「カロルス様、すごいね!」
「いやいや・・おキレーに言えばそういうことなんだろうがな、危なくて貧しい辺境を押しつけられただけだぞ?A級だからなんかあっても大丈夫だろ、みたいな感じでな!」
「そうなの?どうして危ないの?」
「あー、お前の彷徨ってたトーツの森な、正しくはトーツ大森林って名前で・・めちゃくちゃ広いんだよ。それこそ魔物が溢れたらヤバイだろ?そもそもこのへんは魔物が多いからな。だから俺と、ハイカリクの方のキルギス伯っていう武勲のあるヤツに押しつけられてんだ。まあ国が森の手前に一応砦を置いてはいるんだがな。で、俺の方はさらに海に面してるから守りにくいんだよ・・・滅多なことにはならねぇが海向こうのヤツラが攻めて来ることも海の魔物が溢れることもあるし、災害もあるからな。」
手放しで褒めるオレに顔をしかめて首を振る。大人の事情ってヤツだね・・・。カロルス様も苦労してるんだな・・なんだか貴族っぽい。
「ま、俺は政治に向いてないからな!王都で貴族やれって言われてもお断りだがな!こっちの方がまだいいぜ!」
わはは、と笑う様子に心の声を撤回する。
「ところでお前この本もう読んだのか?勉強はもう少し後からと思っていたが・・少しずつでも始めるか?でもお前、まだ遊びたいだろう?もっとゆっくりでいいんだぞ?」
「オレ、遊びたい!でも勉強もしたい!本読むのは好きなの。朝読んでおひる遊ぶの。」
まったく、勉強したいという日が来るとは思わなかった・・人生何が起るか分からない。でも切実に今は勉強が必要だ・・何はともあれこの世界の一般常識についての。する事なす事普通じゃないと言われ続けるとちょっとへこむ。それが原因でトラブルも嫌だし・・。
「そうか・・まあ、無理はするな。そのことについてはちょっと考えておく。」
「うん!あとね、訓練もしたい!」
「訓練か・・んー俺はいくつから始めたんだっけか・・?お前は加護があるし早めでも問題ないかも知れないな。何より学校行くまでにどの程度自分ができるのか把握しておいた方がいいだろうな。まあ・・こっちも相談だな。」
「はーい!じゃあカロルス様、オレ遊びに行ってくるー!」
言いながらかけ出してばいばい、と手を振る。
「おう、気をつけてな!魔法使うなよ!!」
いつものように念押しされながら館を飛び出そうとしたところでマリーさんに会った。最近はマリーさんやメイドさんもなるべくオレに構い過ぎないようにしてくれているらしい。子離れ(?)が必要、とも言っていたけど。
「マリーさん!おはよう!」
走っていた勢いのままにばふっとマリーさんに飛び込んでしがみつく。マリーさんがオレを抱きとめて
から、一瞬ふらりとして踏みとどまった。ごめんね、ちょっと勢い強すぎたかな。
「はふぅっ・・く!!・・・・・おはようございます。今日もなんてお可愛らしい・・。」
「うふふ、お可愛らしくないよ!オレはカロルス様みたいに格好良くなるの!」
「なっ・・なんてことを・・!!ユータ様はそのままで良いのです。あんな風になる必要はありませんよ。」
「えー。」
マリーさんは華奢な見た目そのままに、きれいなモノとかかわいいものが好きな女性だ。オレのぷにぷに幼児肌とか黒髪とか、そういうのがとっても好きだから、カロルス様みたいに大きくてガッチリした男らしいのは嫌らしい。そっちの方が絶対カッコイイのに・・。オレだってもうちょっとしたら大きくなりますよー!
ささっとどこからともなく現われたメイドさんが、オレを抱き留めたまま中々離さないマリーさんを連行していく。あんまりオレにくっついていたらダメなんだって!メイドさんにはそういうルールがあるらしい。お仕え先での子離れ・親離れを妨げないためのものだろうか、そんな所までルールがあるとは厳しい世界だ。
ばいばーいと手を振って館を出ると、村道を駈けていく。オレは馬に乗らなくてもいいし走ってもいいからね!
道の両脇に広がる畑や牧場を眺めながらトットコ走っていると、牧場内にこどもがいた。
「あー!ユーーターーっ!!」
「リリアーっ!キャーローっ!おはよー!」
「おはよーっ!何してるのー?こっち入っておいでよー!」
「いいのー!?」
牧場に入ってもいいって!オレは喜んで柵の下をくぐると二人の側へ行く。
「ここはパパの牧場なのよ!私たち、お手伝いしてるのよ!」
えらいでしょう?と言わんばかりに胸を張るリリア、得意そうなキャロ。ふとその後ろから顔を覗かせる人影があるのに気がついた。
「・・あれ?だあれ?」
さっとキャロの後ろに隠れた小さな人影。もしかして、オレと同じくらいの歳の・・トト?
「私の弟なんだよ~トトって言うの。私が面倒みてるのよ?・・ごあいさつは?」
珍しくお姉さんぶったキャロが弟を前に押し出す。トトは指をくわえて不安そうな顔のままぺこりと頭を下げるとさっと背後に戻った。
「3さい、オレと一緒のトトだね!」
「あれ~?ユータ、2歳じゃなかった~?」
ぎくり、覚えていたか・・。実はカロルス様と、学校に早く行くために年齢を一つ上にしとこうって悪巧みをしているので・・。
「えへへ、まちがったの。3さい!」
「なーんだ!やっぱりね!絶対2歳じゃないと思ったわよ!」
「そうなんだ~!」
うんうん、間違えちゃった~で簡単に誤魔化せるので楽ちんだ。
「3さい・・?」
そろーりと顔を覗かせるトト。・・かわいいな。オレも周りから見たらこんな感じなんだなぁ・・そりゃかわいいって言われるよ!母性本能くすぐられるこの感じ・・守ってあげたくなるよ・・オレに母性があるかは置いといて。
「トトより、ちいさい。」
「ホントだね~、トトの方が大きいね!」
トトは自分の方が背が高いことで少し大胆になったようだ。オレの近くまで来てしげしげと観察している。
「トト、お兄さん?」
「そうだね、おにいさんだね?」
嬉しそうににぱっと笑った顔にオレの心がほんわかする。
「・・・お兄さんには見えないわ・・・。」
「・・えーと、トト、同じ3歳なんだから、お友達、ね?」
「トト、おともだちになってあげる!」
「ありがとう!」
すっかりにこにこ顔になったトトはオレの手をとった。ぷにっとした小さな手。でも意外と力は強い。
「いこ!」
「どこへ?」
オレに構わず小さな足でとてとて走り出すトト。引っ張られてついて行くオレと慌てて追いかけてくる二人。
読んでいただきありがとうございます!
明日はクリスマスイブですね・・






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