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51 戻ってきた日常


翌日、引き留めるわけにもいかず彼らを見送る。でも心配だったのでアリスに陰ながら護衛をお願いする。ついでにフェアリーサークルを設置しておいてもらったら便利かな!ハイカリクの街にも設置したいなぁ。


「・・・で、ユータ?・・引き留めないんじゃなかったのか?」

「・・・・。」

「えーと、ユータ?」


腰にしがみついて離れないオレに呆れ顔のカロルス様、困惑顔のニース。

「ああ~かわいい。連れていきたい・・。」

「ルッコ置いてくからユータが来ればいい。」


「ほら、出発が遅くなっちまうとこいつらが困るぞ?」


渋々埋めていた顔を上げると、ニースがにかっと笑った。

「子どもらしいとこも、あるじゃねえか。また、な!ユータが冒険者になったら教えられるように頑張るからな!」


「多分ハイカリクあたりをうろつくんだから、また会えるわよ!」

「色々と、気を付けて。」

二人は交互にぎゅっとしてくれた。オレは口をへの字にして涙を堪える。


「・・またね。」

なんとか絞り出した小さな声は、聞こえたろうか?ニースが頭をポンポンとして離れた。手を振りながら小さくなる背中を一生懸命見つめる。


寂しい・・。


メイドさんが、知らぬ間に頬を伝っていた涙を優しく拭ってくれた。

「・・よし、今日は村でも案内するか!ちょっとずつ、行動範囲広げていこうな。」

「えっ?いいの?!」


ぐんっと高くなる視界、カロルス様がオレを右肩に担ぎ上げた。


「おう!学校行くまでにある程度この国の常識に馴染まないとなぁ。」

それに俺達も子離れに慣らし期間が必要だし、と小さな声で呟くので、くすくすと笑う。


カロルス様の纏う大らかで穏やかな空気。ゆったりとした歩幅に揺られながら、オレは日常が戻ってきたとしみじみと感じるのだった。



一旦館に戻って朝食をすませたら、やっとジフにも会って「このやろうめ!」と乱暴な"おかえり"を受けてきた。やっぱり怒ってばっかりのルーに似ているかもしれない。


身支度を調えてカバンを持ったら、いざ村へ!領主館だって村内なんだから歩いても近い距離なんだけど、昔、馬をいちいち出すのが面倒だからと走って行ったら、こういうのは見た目が大事だと散々怒られたらしい。確かに領主様が走って行くのはちょっと・・。


「お前はなんで学校に行きたかったんだ?」

カッポカッポと揺られながら、カロルス様に背中を預けてリラックスする。

「えっとね、しょうかん術を習いたいの。学校で教えてくれる?」


「召喚術って・・お前従魔術師だろう?いや魔法も回復魔法も使うのか・・・あるいは召喚術もできるのか・・?」

「うん、オレしょうかん術できる。でも、チル爺はしょうかん術はヒトの魔法だから教えられないって。」


「できるって断言できるのかよ・・。」

「オレの魔法はそういうのに相性いいって言ってたよ。」


「そうか・・・しかしそうなると従魔術使うってバレない方がいいな。そうだ、こいつらも召喚獣ってことにしとけ。・・・・で?帰ってきた時いなかったと思うんだが、その鳥はなんだ?」

「ティア?えっと・・・・・・フェリティアから生まれた?」


「・・・全然分からん。・・まあいい、こいつは普通の鳥だろ?鳥を飼うヤツは珍しくもないからな。」

「・・・・・たぶん。」


うん、見た目は普通。オレもよく分からないから普通の鳥でいいんじゃないかな。とても大人しいし軽いから存在を忘れそうになる。さすが元植物!

でも・・そっか、従魔術と召喚術は別の職業扱いだから、バレるとまずいんだね・・ラピスたちはぽんって出てきたり消えたりするから召喚って言っても違和感ないと思う。よし、ソレで行こう!


村の家並みに近づいた所で馬から降りると、なんと自由に遊んでいいと許可が出た!

「いいの?!ほんとに!?」

「・・・・まあ、村内だけだぞ?オレは村長の家にいるからな?いいか、村内だけだぞ?村内ってのは柵で囲った内側だけだからな?!」

しつこく確認するカロルス様にはーいと返事をするとかけだした。自由に見て回れるんだって!嬉しい!!

森や平原と違って何の警戒もせずに走り回れるってなんて素晴らしい!思う存分体を動かせることが楽しくて仕方ない。両手を広げて、きゃーっとばかりに走り回るオレは笑顔全開だ。


「あっ・・おい!ユータ!!やりすぎだ!!お前っ!2歳だぞ!!」

遠くからカロルス様の大声が聞こえる。2歳だぞって・・分かってますよー!と振り返ったら思ったより遠くの方にカロルス様がいた。・・・あ、もしかしてルーの加護?走るのもちょっと早くなってるみたい。成長したら運動できる子だな、ぐらいなんだろうけど・・2歳児が小学生みたいに走ってたらおかしいよねぇ。渋々全力で走るのは諦めてとてとてと小走りで辺りを見て回る。ティアはパタパタと飛んでついてきた。



「あっ!・・えーと・・ユータだ!!」

こっちを指さしているのは・・・確か、ルッカス!初めて村に来たときに会った3人組の一人だ。

「ルッカス!あそびにきたの。なにしてるの?」


「へへ、オレは修行してるんだぜ!」

「・・しゅぎょう?」

「オレは将来強い冒険者になるんだ!だから今から修行してるんだ!」


そ・・そう。心意気は分かったけどその塀にぶら下がってるのは何の修行なんだろうな・・・。


「・・くっ!限界だ・・!」

なんだか深刻そうな様子で片手でぶら下がったと思ったらストンと着地した。

「しゅぎょうおわり?」

「次はそざい集めの修行だー!」

ダーッと走っていくルッカスにつられてオレもついて行く。ざざーんざざーんと波の音がだんだん大きくなって、目の前が拓けた。


「わあ~海だ!」

広い砂浜と岩場のある浜辺。ドドォ、ドドォと岩とぶつかった波が弾けて荒々しい。砂浜のほうはいたって穏やかに見えるが、案外波は荒いのだろうか。地球でも主に山にいたから、海に来ただけで心が躍る。

石造りの階段を降りるとそこはもう砂の海。足を下ろすとずむ、と沈む。ザラザラと砂が靴の中に入ってきて慌てた。ルッカスは・・と見ると彼は元からはだしだ・・・野生児だな。

オレも見習ってはだしになると、さらさらした砂を蹴って走る。太陽を吸収した砂はとても温かくて気持ちいい。

「楽しいー!!」

思わず叫んで波打ち際まで走った。

「わ!かたい!」

濡れないように気をつけて波打ち際まで行ってみると、急に砂が平らで冷たく、固くなった。濡れた砂ってこんな固くなるんだね・・!ざしざしと掘ってみるとじわっと海水が滲み出てくる。


「見ろ!オレはもうこんなにそざいを集めたぞ!」

息を切らしたルッカスが目の前に両手を突き出していた。手の中には貝殻、石、何かのかけら・・ふふ、楽しそうだ。オレも色々探してみよう!


探してみると、浜辺には色んなものが落ちてるんだな!きれいだと思うモノを見繕って拾っていく。

「・・あれ?」

きらっとした何かのカケラを拾ったとき、微かにレーダーに反応があった気がした。

じーっと観察すると、少しだけ魔力がある。なんだろうこれ・・?


それは魔石のカケラ、とラピスが教えてくれた。海で死んだ魔物たちが骨と魔石になって打ち上げられるのはよくあることらしい。

わあ~魔石のかけら!何そのわくわくする感じ・・!オレはレーダーを頼りにひたすらカケラ集めに熱中した。

ちなみにルッカスは早々に飽きて、棒で波を叩く修行をしている。



「・・・まあ、ここも柵内ではある・・か?」

下ばっかり見て歩いてたら大きな人にぶつかりそうになった。・・・カロルス様!

見上げると呆れた顔。

「柵の中でわざわざ一番危ないところに行かなくてもいいだろうに。」

「危ないの?」


「そりゃ危ないだろう。まぁまれにだが海から魔物が上がってくることもあるし、そもそも海に入ったら危ないだろう?」

「入らないよ!まだ寒いし。」

「まあ、お前は大丈夫だろうとは思うがな。」


「領主さまー!!」

走ってきたルッカスがぼふっと抱きついた。

「オレ、修行してるんだぜ!大きくなったらカロルス様みたいにAランクになるんだ!」

「そうか!お前は修行もいいが勉強も頑張れよ?文字ぐらい読めんとAランクにはなれんぞ?」

「うっ・・・はーい。」




「じゃーな!」

「またねー!」

もうお昼はとうにまわったらしく、ルッカスは慌てて昼ご飯を食べに帰った。オレ達もまた馬に乗って館に帰る。


「村長にも話は通しておいたからな、村内であればお前一人でうろついていいぞ。ただ、館から出るときは必ず声をかけろ。」


思わぬお許しをもらったオレは、飛び上がって喜んだのだった。







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