529 洞窟探検?
「これって……人がいるってことか? 未知の洞窟じゃねえの?」
「魔除けを焚くってことは、そうだろうね~。入り口は他にもあるのかもね~」
タクトが不服そうに口を尖らせた。だけど、この川へ続く道を発見したことに変わりはないんだから、いいんじゃない? 秘密の出入り口みたいでカッコイイよ!
「きっと、スライムは魔除けの香りを嫌がって地下の方へ集まってたんだね」
魔除けはお香みたいなタイプが多いから、きっと上の方が匂いがキツイんだろう。ここ以外にも地下の部屋にはスライムが詰まってるのかもしれない。
「とにかく、冒険には変わりないよ! 探検しよう!」
むしろ、誰かが魔除けを焚いてくれているなら安全に探検できるってことだ。
「そんなこと言ってさ、ちょっと歩いたら人がいっぱいとか嫌だぜ」
「確かに! もし何かの施設とか人の家だったらどうしよう!」
「家にスライムはいないんじゃない~?」
……それもそうか。さすがにペットってこともないだろうし。
ひとまず他の人がいると恥ずかしいので服を着替え、探検再開だ。
魔物除けの香りが強くなる方へ歩いていくと、またもや行き止まり。だけど、匂いがするってことは向こうへ続いているってことで。
「あ、ここかな? この岩をどけてみるね」
大きな岩の隙間を見つけ、土魔法で大岩を崩してみる。
途端に魔除けの香りが強くなって、これはもう現在進行形で魔除けを使っているんだなと分かる。
地上側にも出入り口があるなら、むしろまた川に入らなくてもすむから良かったと思おう。
大岩があった部分を通り抜けると、少し高さがあったのでひょいと飛び降りた。
「きゃっ?!」
「えっ?!」
突如聞こえたオレたち以外の声に、ビクッと身を竦ませる。
そんな、まさか本当に誰かの家なんてことは……だってこんな暗くてスライムが湧くような悪環境で住む人なんて盗賊ぐらい――え?
「な、何っ?! 魔物?! こっちには魔物除けがあるんだからね!!」
女の子……? かなり暗いこの場所で、女の子は壁際に蹲ってこちらをうかがっていた。この暗さでは動いた影と物音しか分からなかったろう。
土壁むき出しのごく小さな小部屋は、木箱と扉があるのみ。木箱の上には簡素な燭台と溶けきったろうそくの跡があった。
「ん? 誰かいたのか?」
「だ、誰っ?!」
続いて飛び降りてきたタクトの声に、再び悲鳴があがる。
「うわ~。さすがユータだね~」
「だな。どう見ても厄介ごとだぜ!」
どうしてオレに責任を押しつけようとするの! オレは関係ないでしょう。
ひとまず、この人を安心させないと。
なるべく小さなライトをひとつ、ふたつ……徐々に灯して5つほど浮かべる頃には、オレじゃなくても顔の判別ができるくらいの明るさになったはず。
「こ、こども……?? どうしてこんな所に? だって、捕まったって感じの登場じゃなかったわよね?」
中学生くらいだろうか。割と高価そうな服を着て、多分冒険者ではないだろう、整えられた見目のお姉さん。涙に濡れた顔がきつねにつままれたような表情を浮かべている。
「オレたち冒険者だよ! 探検してたらここに出たんだ」
「えっ? 探検……?」
ハテナマークいっぱいのお姉さんだけど、ひとまずそれどころじゃないのでは?
「なあ、一応聞くけどここで何してんの? なんで足くくってんの」
お姉さんはにかっと笑ったタクトに一瞬ぽかんとして、次いでふるふると震えた。
「悪いやつに捕まってるに決まってるでしょーー!! くくってるんじゃないわ! 縛られてるの! 解けないの!!」
顔を真っ赤にして怒鳴ったお姉さん。そうだよね、オレも見たら分かると思うけど……何事にも確認は必要だから……。そしてそんな大声出して大丈夫だろうか。
お姉さんは縛られた足のロープを解こうと躍起になっていたけれど、そもそも手のロープが切ってあるのはどうしてだろう。
「刃物持ってんじゃねえの? 取り上げられた?」
「違うわよ、さっき手のロープだけ切っていったのよ。ここに居る方が安全だからここにいろって」
「誰かが助けに来たってこと?」
お姉さんは曖昧に頷いてから、首を振った。
「分からないわ。だって、助けるなんて言わなかったし、怖い顔をしていたもの。スライムがいっぱい入ってきて悲鳴をあげた時、突然入って来たのよ。その魔物除けを放って『危なくなるから動くな。ここにいる方が安全だ』しか言わなかったわ」
それは……分からないね。
お姉さんはナターシャ・ザイオと名乗った。貴族様だ……ラキがこそっと伯爵家だと教えてくれた。彼女らは馬車で街道を走っているところを襲われたらしい。
ひとまず悪者ではなさそうだと判断して足のロープを切った。
「オレたちが来た場所から逃げられるかな?」
「う~ん、タクトが抱えればなんとか~?」
「いいけどよ、さっき騒いだからもう人が来るんじゃねえ?」
そうだった! 慌ててレーダーに注目したけれど、それらしき人はいない。
「大丈夫じゃない? なんか変なのよ。見張りがいたはずなのに、いなくなってるの。危ないっていうのも嘘じゃないかしら? 今なら逃げられそうよ」
だけど、わざわざ嘘を言ってロープを切っていくだろうか。
――じゃあラピス、見てきてあげるの!
ラピスの報告を待とうと思ったところで、お嬢様が扉に身体をぶつけ始めた。
「な、なにしてるの?!」
「鍵が掛かってるのよ! 壊さないと出られないでしょ」
いやいや、いくらなんでもマリーさんじゃあるまいし、この分厚い扉がお嬢様の体当たりで木っ端微塵にはならないよ!
『木っ端微塵にする必要はないんじゃないかしら?』
『木っ端微塵になるのはあの人らだけだとおもうぜ!』
それもそうだけど置いといて、ひとまず打ち身をつくるだけだろうお嬢様を止めた。
「いいのよ、あなたたちは逃げられるんでしょう? ロープを解いてくれてありがとう。私もこっちから逃げられそうになかったらそこを使わせてもらうわ」
オレたちは顔を見合わせた。お嬢様、一人で何するつもり? 使わせてもらうって、多分お嬢様……オレたちが出てきた穴まで登れない……。
「お嬢様はどうするの~?」
「……馬車で襲われたって言ったでしょう? 他にも捕まってるの。近くに捕まっているはずだから、探しに行くわ」
何と言うか、なかなか気丈なお嬢様だ。まるで無謀だとは思うけれど、確かにこれだけ騒いでいても誰も現われる様子がない。
「だけど、扉開けられないんでしょ~?」
お嬢様がウッと詰まって唇を結んだ。
ちょうどその時、すいっとラピスが戻って来た。
――ユータ、人は上の方にいっぱい集まってるみたいなの。
「えっ? どうして集まってるんだろう?」
――知らないの。多分、戦ってるかお祭りなの。
……ラピス、戦闘かお祭りかぐらい判別してほしいな。相変わらず、こちらへの影響がない限り、ラピスの他人への興味がゼロだ。
だけど多分、お祭りじゃないよね。戦闘しているんだろう。
「確かに今はこの辺りに悪者はいないみたいだよ」
「なら、今のうち~?」
「壊すか?」
タクトが片足を上げるのを慌てて止めた。さすがにそれは大きな破壊音が響きそう。
「まあ! 魔法使いなの? 小さいのに、冒険者ってすごいわね」
扉横の壁を崩して小部屋から抜け出すと、お嬢様は目を丸くした。
「とりあえず、人が来ないうちに助けようぜ!」
「えっ? もういいわよ! 子どもは帰って大人に知らせてちょうだい!」
それも必要。だけどお嬢様が一緒に来てくれない限り、オレたちも着いていくしかない。
ここは倉庫兼地下牢みたいな場所らしい。薄暗い中、小部屋がいくつも不規則に並んでいた。
レーダーを広げると、似たような小部屋のひとつに反応がある。中にいるのは一人、だけど悪人を閉じ込めていることだってあるかもしれない。
十分に身構えてかんぬきを外すと、サッと飛び退いた。
「そ、そこにいるのは誰ですか?! どなたか、助けを!」
上品な声にそろり、とのぞき込むと、こちらは両手足を縛られたままの壮年男性が蹲っていた。
「セバス!」
「お嬢様……?! よくぞご無事で……!!」
お嬢様が飛びついたところを見て、オレたちも警戒を緩めた。
涙の再会もそこそこに2人を追い立てると、あと1人、メイドさんがいるはずだと言う。セバスさんは戦えるそうなので、タクトが練習に使っていた剣を渡しておいた。
レーダーを広げようとした時、その反応にハッと振り返った。咄嗟にお嬢様を小部屋へと押し込む。
「っ構えて!」
誰か来る! それも、すごい速さで。
書きたいとこまで書ききれなかった…
8/21あまりにも急いで書いて割と乱れてたので(いつものことですが…)ちょいちょい直しました。
8/20本日ついにコミカライズ版4巻発売されましたよ!!
かわいいですね~~~!!表紙めくったところのイラストも好きです~!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/