518 食材の調達
「さあみんなっ! 今日は張り切っていこうね!! 試験を兼ねるみんなは、それぞれギルド員さんの言うことをよく聞いてね!」
「「「はーい!」」」
わらわらと学校保有の大型馬車に乗り込むと、気分はすっかり遠足だ。
オレたちは無事にランクアップ試験に臨めるポイントをクリアし、申請することができた。筆記試験は難しいものでもないので、これも既に済ませている。
他のクラスメイトも数パーティは試験に臨めるらしく、ギルドの人や冒険者さんを含めて割と大所帯での移動だ。彼らはFランクかEランクへの挑戦だから、授業の様子を見学してもらうだけでいいらしい。
Fランク試験なら通常はギルドで能力を見る程度だもんね。そもそも今回の実地訓練自体がEランク依頼に近い内容だと思う。ギルドで試験を受ける方が安全だと思うんだけど、こっちの方が緊張しないらしい。
賑やかな馬車に揺られ、昼前には広大な平原に到着。思い思いに身体を伸ばしていると、メリーメリー先生が弾むようにやってきた。
「ユータくんたちはみんなとランクが違うから、別の場所に行くことになっちゃうけど……その方が食材が色々集まっていいよね!」
そういうことじゃないと思う。目を輝かせていた先生が、次いで心細げに眉尻を下げた。
「……先生、1人で頑張ってみんなを守ってるからね! 早く帰ってきてね!」
それも違うと思う……。だけど、オレたちは知っている。オレたちをかばって前に立つ、小さな頼もしい背中を。いざとなったら、先生はちゃんと頼れる人だ。いざとならないと頼れないけど……。
それに、今回は冒険者さんやギルドの人がたくさんいるから安心だ。生徒たちもただ大人しく震えている存在ではなくなったしね。
「では『希望の光』メンバー、揃っていたら出発しようか。午後にはこちらに合流を目指そう」
オレたちはギルドの馬車に乗り換え、少し離れた場所で食材集め兼試験を受けることになる。本来FかEランク試験に臨むメンバーしかいないはずで、今回オレたちが別行動になってしまうのは想定外だったみたい。ギルドの手間を増やしてしまった。
羨ましげな視線の中、馬車に乗り込んでみんなへ手を振った――その時。
「いってらっ――ああっ!!」
ぶんぶんと手を振っていた先生が、はっと顔色を変えた。何事かと思わず身構えたオレたちの前で、力なく地面へくずおれる。
「午後……午後にならないと帰って来ない……そんな……私のお昼は……」
固唾を呑んで見守る中、ぶつぶつとこぼれ落ちた言葉にみんながスンと生ぬるい視線になった。
「あ、気にしなくていいので~。行って下さい~」
「え? い、いいのか? 先生はどうしたんだ?」
「気にしなくて、いいので~」
にっこり笑ったラキの圧に、引率の冒険者さんとギルド員さんが気圧されるように頷いた。
「で、オレたちはどこに行くんだ? Dランクの討伐だろ?」
「対策もいるんだから、ちゃんと聞いてないとダメだよ~!」
まあ、タクトは多分聞いて大丈夫と思ったから忘れたんだろうね。何せ今回はタクトの得意分野、海辺の魔物討伐だもの。
「ああ、シーリザードか! バラナスもアリゲールもあんだけ倒したんだから、余裕だろ!」
それは、決して侮っているのではない自信。そもそも、オレたち既にDランクの魔物倒してるもの。
『巨大アリゲールのバケモノは、絶対Dランクじゃなかったもんな!』
『そうね、アレを見ちゃうとそこらの魔物はねえ……』
うんうんと頷くチュー助とモモにくすっと笑った。
油断は禁物、だけど脅威を感じはしない。今回は討伐と言うよりやっぱり『狩り』の側面が強い。みんなで食べる分の食糧を集めるんだから、1匹じゃ足りない。依頼は3匹、だけどできればもう少し確保したいところだ。
シーリザードは海水に適応したイグアナっぽい魔物らしい。シーリザード自体の強さはバラナスと比べてそう変わるわけじゃないけど、舞台が海になってしまうので難易度が上がる。
「お前たち、随分幼いが水辺の戦闘は大丈夫なのか? ギルドの期待の星だと聞いているが……」
リラックスしたオレたちの様子に、冒険者さんがやや不安そうな面持ちでこちらに視線を向けた。
「大丈夫だぜ! 水辺なら負けねえ!」
「ちゃんと情報も集めてきたんだよ!」
自信満々の笑顔を浮かべたオレに、ラキが胡乱げな目をした。
「へえ~どんな情報を集めてきたの~?」
「あのね! 陸上で長く戦闘しないこと、なるべく水中や水から上がってすぐ仕留める方がいいって。疲れさせるとダメなんだって。あとね、雷撃は避けること! 固くなっちゃうし変に火が通ってしまうから。あと、しっぽが太くて形のきれいなものを選ぶのが良くて――」
得意になって語ってみせると、タクトが隣で肩をふるわせている。ラキの視線がぬるい。思ったのと違う反応に、言葉を切ってきょとんと首を傾げた。
「なあ、それは何の情報なんだ……? なるべく水から離して陸で戦うのが基本だし、雷撃は効果が高いが……」
訝しげな冒険者さんに、キッと強い視線を向けた。
「ダメだよ! そんなことしたら身が固くなっちゃうし、水から離してストレスを溜めると味が落ちちゃうんだ! 脂乗りと身のつき具合はしっぽで見るんだよ、あとウロコが均一で綺麗な個体が美味しいの!」
鍋底亭のプレリィさんからしっかり教わってきたもの、間違いない。
ぽかんとする冒険者さんをよそに、ぽん、とオレの肩に手が置かれた。
「ユータ、魔物討伐の情報収集っていうのはね~、食材のお取り扱いについてじゃあ……ないんだよね~」
ラキがふるふると悲しげに首を振った。
あっ……。そう、かも、しれないけど……。つい下を向いて唇を尖らせる。
「…………でも。これだって必要な情報だったでしょう……?」
ぼそぼそと訴えると、吹き出す声と共にわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「そうだね~。今回は食材の調達が目的だもん、必要だったよ~」
「トカゲに負けようがねえもんな! 確かにその情報がいるわ!」
大笑いしたタクトが、がっしりと肩を組んで身を寄せた。
そうか、オレは油断していたんだな。知らず、負けるはずないと思ってた。食べることしか考えてなかった。
反省するほてった頬に、小さなふわふわが触れた。すりすりと頬ずりした群青のつぶらな瞳が、ぱあっと愛らしい笑みを浮かべてオレを見つめる。
――首と胴が離れたら大体倒せるの。細切れでも、黒焦げでも、倒せるの。だから倒し方なんていらないの。必要なのは、どうすれば美味しく手に入るかなの。
あどけない桃色のお口から紡がれる台詞は、まるで蛮族のよう。……こんなにかわいいのに……!!
無言で顔をすりつけると、ラピスはきゃっきゃと笑って空中を転げた。
「さて、ここからは君たちが頑張らなくてはいけませんよ。私たちは手を出しませんので、十分に気をつけて下さい」
「沖まで行くなよ、どうやっても助からないからな。やめるのも勇気だぞ」
ギルドの人はオレたちがバラナスをいっぱい狩ったのを知っているので、あまり心配はしていないみたい。今回の冒険者さんは2人、あまり見ない顔だけど、Dランク以上の冒険者のはず。
「おう、そこで見ててくれよ!」
「行ってきます~」
「油断、しないようにする!」
離れて見守る3人に手を振ると、オレたちは波の砕ける岩場へ駆けだした。
足場は、悪い。転ぶだけで傷だらけになりそうな、ゴツゴツした岩とへばりついた鋭い貝。波間に見え隠れする鋭い背びれがシーリザードだろう。
「な、どうする? 作戦は?」
「そうだね~。割と近くにいるみたいだから、生け簀作戦で行こうか~」
「「おっけーリーダー!」」
オレたちはにっと笑って拳を合わせた。
なんと……既に9巻の予約が始まっているようで……!!
買い支えて下さる皆様のおかげで次が出せそうです…!!!ありがとうございます~~!
また、「好きラノ」投票も始まっているようですよ!もふしらは6,7巻が対象になっているみたいです!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/