表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

523/1046

513 少し理解の悪いお前

ああ、そういう顔のキツネがいたっけ。確か……チベットスナギツネ。

「「…………」」

沈黙が突き刺さる。カロルス様とセデス兄さんの、なんとも言えない無表情に焦燥が募った。

「あの……大きくなれるだけで、他はなにもないの! だから大丈夫!」

冷や汗を垂らしつつ、もう一度えへっと笑顔を浮かべて見せる。

……ふう。

ため息をついたカロルス様が、そっとオレの頬に大きな手を添えた。


「――『だけ』じゃねえー!! それの! どこに! 大丈夫な要素があんだよ?!」 

いたいいたい! 高速でほっぺをもにもにする手を何とかもぎ取り、じんとするそこをさすった。

「だ、だって! エアスライムだってビックリシダだって大きくなるよ! 一緒だよ!」

さらにはほっぺをつまもうとする手から逃げ惑い、必死に言い募る。

フグみたいに膨らむスライムや、折りたたまれた花弁を一気に広げて巨大化する魔法植物。急に大きくなる生き物なんて、きっと他にもいるよ!

「何ひとつ一緒じゃねえし、大丈夫でもねえよ?!」


久々に見た気がする、その頭の痛そうな顔。うん、多分久々のはず。

「でも大丈夫! 人前で大きくならなかったらいいから。そしたら普通の亜種グリフォン(大)だよ!」

「それも大丈夫じゃねえ! 何も普通じゃねえ!!」

オレは追いかけてくるカロルス様の手を逃れ、きゃあっとチャトに飛びついた。

「チャト、飛んで!」

『行くか?』


にゃあ、と鳴いたチャトが跳躍する。開いた窓枠を蹴って、さらに跳んで――飛んだ。

「うわあっ!」

ばさり、と大きな羽音を響かせ、左右に翼が広がった。

やわやわする身体にぎゅうっとしがみついていると、振動がなくなったことに気がついて目を開けた。

まるで、ルーの背中に乗っている時みたい。だけど、それより遥かに高く、高く。

「本当に、飛んでる……」


ロクサレン家が掴めそうなほどの高さまで高度を上げて、チャトはゆったりと翼をはためかせた。

澄んだ風が、するするとオレたちを通り抜けていく。前髪を持ち上げた風が、ついでのようにおでこを撫でていった。

「気持ちいい……。ねえ、重くない? オレを乗せて大丈夫?」

お日様に照らされて、明るい茶トラはますますオレンジ色に見えた。

『乗せられなければ、意味がない。オレは、好きな場所に行く』

緑の瞳が閃いた。うん、好きな場所に行くための翼でしょう? 乗せられなくても意味があると思うんだけど。独特の物言いにくすりと笑う。

『…………』

じいっと見つめていた瞳が、少々鋭くなった。とても細くなった瞳孔、明るい陽光の下で透ける緑がとてもきれい……。

だけど、これは少々拗ねただろうか。むっとした雰囲気を感じて、平たくなった耳の後ろをわしわしやった。チャトは自分からはあまり話さないし、話すのが上手とは言えないみたいだ。そんなに口下手だったとは思わなか……いや、チャトらしいかな。

いつも無言で見つめられては「おやつ? トイレ? 遊び? それとも気分悪い?」なんて頭を悩ませていたんだった。そして、ふいと視界から消えて、気付けばまたそこにいる。


「チャトは、好きなところへ行っていいよ。危ないこともあるから、モモやシロと一緒に行くといいよ。町を歩くなら、小さい姿になるのを忘れないでね」

風に流れる少し長めの毛並みを撫でつけ、不定期にばさりと上下する大きな翼を眺めた。

毛並みと羽毛はどこで成り代わっているんだろう。肩から生えた逞しい翼は、風を掴むように広げられている。背中の毛並みから滑らかにオレンジが続いていて、末端の羽根になるほど白い。巨大な風切り羽は、文字通りひょうひょうと風を切ってはためいていた。

『………お前は?』

美しい翼に見とれていたら、ぽつりと低い声が聞こえた。

オレ? オレが何? だけど、続く言葉は一向に出て来ない。

「――あ、もしかしてさっきの? ええと、オレは行かないの? ってこと?」

なんとなくこの感覚を懐かしく思いつつ、慌てて言葉を継いだ。

「もちろん、連れて行ってくれるならオレも行くよ!」

『…………』

そうでもないけど、まあそれでもいい。今、その目にそう言われた気がした。答えの的がやや外れているらしい。チャト……話せるようになったら意思疎通が簡単になると思ったのに、どうやらそうではないようだ。

相変わらずオレの頭を悩ませる茶色のふわふわがおかしくて、突っ伏して頬ずりした。


(それじゃ、ゆうたには伝わらないんじゃないかしら)

チャトは、ワガママなのよ。モモはひとり嘆息した。


* * * * *


小さな体の脇の下に潜り込み、チャトはふと顔を上げて見回した。開ききった瞳孔のせいで、普段のきつい視線が随分と柔らかく見える。

狭い寮の一室を見回し、満足して翼を舐めた。

おれは、好きな場所に行ける。ちゃんと、望みの姿になれた。これなら、おれはもう好きな場所を失ったりしない。

おれは、失いたくなかった。居心地のいい、おれの好きな場所。


お前がいる部屋、お前がいる椅子、お前がいる布団、お前がいる庭。


この翼があれば、どこへでも連れて行ける。

『あなたが好きなのは場所じゃないでしょう……どうして、ゆうたと一緒にいるのが好き、って言わないのかしら』

モモが呆れた様子でふよんと揺れた。

チャトは耳をピクリとさせて、ユータの身体に顎を乗せた。

一緒にいるのが好き。そうだろうか。

別に、側に居なくてもいい。その辺りにいればいいだけ。そして時々、おれを見ればいいだけ。おれが寄れば撫でればいいし、離れたらそこにいるといい。

おれは、好きな場所に行く。


お前がいる場所が好きな場所。お前がいるから好きな場所。


『そこまで言ってどうして、「場所」の方に視点がいくのかしら』

平べったくなったモモに視線をやることもせず、チャトは遠慮なく手足を伸ばした。

「ううん……」

突っ張られた手足に、すやすやと寝ていたユータが眉根を寄せて唸った。寝返りを打った身体をかわし、チャトは当たり前のようにユータを踏み越える。小さな口から、うっと声が漏れた気がした。


とん、と窓枠に飛び降りて、チャトは長いしっぽをゆらりと揺らした。

おれが、お前といるのが居心地いいなら、お前もおれといて居心地いいだろう。少し理解の悪いお前だけれど、この姿ならお前が分かっていなくてもおれが勝手に連れて行ける。


窓の外は、月が明るかった。空も真っ黒で綺麗だ。この空を飛んだら、さぞ気持ちいいだろう。

連れて行ってやろうか。きっと喜ぶ。

振り返ってにゃあ、と鳴いた。いくらか呼べば、あの頃のように起きるだろう。

『チャトも、寝よう。あのね、気持ちよく寝ている時に起こしちゃダメなんだよ』

『ゆうたはまだ子どもなの、夜中寝ている時に起こさないのよ』

ベッドを見上げると、声を揃えるように言われ、そうかと視線を戻した。

勿体ないことだ、こんなに美しいのに。


『まあいい』

前肢を折りたたんでうずくまると、独りごちた。

明日も明後日もおれはいるし、夜も来る。

そして、お前もいるのだろう。明日も、明後日も、その先も。

おれがいなくなってもいいけれど、お前はいなくてはいけない。そこが、おれの好きな場所だから。

チャトはそれが確実に守られることに満足して、機嫌良く目を閉じた。


少々独特なチャトの気質。こういうの、何て言うんでしょうね。

ツンデレじゃないしオレサマでもないよね? 楽しく書いてたらチャトだけで話が終わってしまった…


最終回じゃないですよ(笑)

翼の生えた猫ってあんまり見ないと思ったんですが、ゲームとかに出てくるんですね!


活動報告にネットプリントのこと書きました!

各SSのあらすじも乗せてますので、気になる分だけ印刷できますよ~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
チャトは今度こそ好きな場所を守れそうだね
[良い点] 場所にこだわる圧倒的猫感! [一言] ここまで、羽+猫ってことでケットシー出てきてないんですね。ケットシーも妖精の羽付いてるそうです。アイルランドの猫の妖精。 人喰いの大鷲トリコも、羽があ…
[一言] コメント欄見てたら「こうもりねっこぉ〜♫」のフレーズが頭にwww 懐かしいな悪魔くん(^_^) 他にファンタジーで珍しい猫って言ったら「青銅猫」とか? チャトの猫らしい性格が大好きです♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ