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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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458 カウガウ

「なんだか段々広くなってるみたい。1階はこんなに広くなかったよね」

「そうだね~ダンジョンは階層を超えるにつれて巨大になるみたいだからね~」

「広いし魔物も多いし、シロも一緒に走ろうぜ!」

確かに! 1階層はあくまで広めの建物っぽかったけれど、3階層まで来ると縦にも横にもスペースが広くなってきた。シロが走るに十分な広さだろう。魔物もたくさん倒さなきゃいけないし、シロの力も借りよう。

『ぼく、この中おさんぽしてきてもいいの? おいしいお肉があったら持って帰ってくるね!』

「他の階に行っちゃダメだよ、あと冒険者さんが他にもいるかも知れないから気をつけて!」

『うん! 大丈夫!』


大喜びで走り去ったシロを見送ると、頬にふわりと柔らかな感触がした。

純白の中で煌めく群青の瞳。オレを見つめるのは、ほわほわ綿毛のような尻尾をもった、いかにも愛らしい生き物だ。愛おしげにオレの鼻先に小さな頭をこすりつけると、大きな耳がぱたぱたと当たった。

存分にスリスリすると、少し離れて首を傾げる。無垢と清廉を合わせたような穢れない瞳がじっとオレを見上げ、何か言いたげに前肢をそわそわとさせた。

ちんまりしたお口がほんの少し開くと、濡れた桃色の隙間から「きゅっ?」と小さな声が漏れる。


――せんめつするの?


「………」

こんなにかわいいのに……。

あくまできららかな穢れなき瞳に見つめられ、ほろりと涙が浮かびそうだ。

ラピスはラピスでいいのだけど……こうも内と外にギャップがなくてもいいんじゃないだろうか。例えばもっとマッチョな見た目だったらどうかな。

フンスとやる気をみなぎらせ、鬼軍曹は元気に尻尾を振った。


――ダンジョン内掃討作戦を決行するの! みのほのを知らない雑魚は目に……モモを見せてやるの?

うろ覚えだったんだね……。ちょっと自信なさげに垂れた耳と、小首を傾げた仕草がかわいい。

いやいや、ひとまず現実逃避している場合じゃない。

「ら、ラピス! 大丈夫、大丈夫だから! ダンジョンが崩れちゃったら困るからね!」

――ダンジョンはそうそう崩れるものじゃないの!

「で、でも他の人もいるかもしれないし! ラピスたちの攻撃は広範囲で強力だから!! ほら、オレたちも経験積まないといけないしね!」

『強力』という台詞に気をよくしたラピスが、うふっと口角を上げてもじもじとした。

――そういうことなら仕方ないの。ユータたちも精進が必要なの、仕方ないの。


すっかりご機嫌になってオレの肩へ降り立つと、ラピスは全身ですり寄った。柔らかく温かな小さな体と、ふかふかの尻尾が首元をくすぐる。小さな鼻先や顎がぐりぐりと触れるのを感じた。

「うん、ありがとう。ここの魔物は低ランクだから、ラピスが活躍しなくても大丈夫。頑張るね」

肩をすくめるようにオレからもすり寄ると、頬に挟まれたラピスがきゃきゃと笑った。もにもにと頬を押し返す小さな肉球が心地良い。


『ゆーた見て見てー! おいしいお肉ー!』

前を駆けて行ったばかりのシロが、なぜか背後から戻って来た。もうあちこち回ってきたんだろうか。満面の笑みで咥えているのは、ずんぐりとした四つ足の生き物だ。

『あのね! ここに入ってから一番美味しそうな匂いだったよ!』

シロはきらきらした顔で、土煙が舞いそうなほど尻尾を振っている。シロの鼻は確かだもの、少なくとも食べられることに間違いないだろう。

「あ! カウガウだ~! それ、きっとユータが欲しがるだろうなって思ったんだ~」

シロが獲ってきた獲物を見て、ラキがくすっとオレに視線をやった。

「ブルの肉に似た味なんだって~! 階層下りるほど増えるから、きっとこれからたくさん出てくるよ~!」

「そうなんだ! ブルのお肉って結構お値段するから、しっかり確保したいね!!」

キラリとオレの目が光った。ブルと言えば牛肉だ。ポルクよりも高いからあまりたくさん買えないんだよ! この辺りにはあんまり野生のブルはいないみたいだし。

シロが獲ってきたカウガウの体長は1mほど、表皮は厚くて硬そうだ。頭から背中にかけ、しっかりと魔物らしい角も生えているし、可食部は意外と少なそう。それならたくさん獲っておかなきゃ。

「分かった、この魔物を探せばいいんだな!! 肉だ! 今日は肉を食うぞー!」

「「「おおー!!」」」

食べ盛りのオレたちは、お肉に飢えている!! なんて、オレにとっては普段からお肉が多すぎるくらいだけど、タクトとラキは毎日3食お肉でいい人種だ。……だからぐんぐん大きくなるんだろうか。



「ただいまー!」

野営地に戻ってくると、少年たちは既にテントや火起こしも済ませて寛いでいた。休憩所に使われるだけあって、行き止まりになった通路は入り口が狭く奥が広い。たくさんの魔物が一気にやってくることはなさそうだ。

「おかえ――うわっ?! なんだそのデカイ犬!!」

「あ、この子はシロって言うの。オレの召喚獣だから大丈夫だよ」

「え? お前魔法使いじゃ……?」

シロは必殺ハッピースマイルを全開にすると、ごろんと寝転がった。

『ぼく、怖くないよ! 犬だよ! よろしくね?』

「か、かわいい……でっかいけど。でもかわいい」

ふらふらと引き寄せられるように歩み寄った少年少女が、シロの極上毛皮で陥落されている。サラツヤで滑らかな毛並みは、一度触れたらやみつき間違いなしだ。


シロが問題なく受け入れられたところで、オレたちも作業に入らなきゃ。

「肉食おうぜ!」

「それにはまず僕たちも野営の準備しなきゃ~」

「じゃあいつもの分担でいい?」

野営の作業も慣れたものだ。外で夜を明かした数は少ないけれど、テントを張る以外のことは休憩の時だってやってるからね。

タクトがテントを張って、ラキが時々タクトを手伝いつつ火の周りを準備する。オレはもちろんお料理係だ。今回はお肉が豊富にあるし、食べ盛りの少年少女しかいない。なら、あれこれするより手早くお肉どーん! だね。お野菜はスープとサラダで取ってもらおう。

3階層で確保できたカウガウは結局4匹。結構頑張って探したんだけど、やっぱりまだ少ないみたいだ。だけどこの人数で食べるには十分な量だろう。


下処理をすませたカウガウを切り分けると、さっそく焼いて味見してみる。味は牛肉だね! でも、ブルの肉よりも地球にいた頃の牛肉に近いというか……つまりはスーパーで買った特売のお肉みたいだ。

「んーブルより少し固めかな? でも十分美味しい!」

あまり分厚いステーキにしたら硬さが気になりそうなので、しっかりスジを切って厚みは控えめ、片栗粉代わりにアガーラの粉をまぶせばOKだ。あとはソースを濃い味にすれば、子どもの舌など十分誤魔化せる!

「スープOKだよ~」

「ごはんとサラダもOKだぜ!」

「こっちも……よし、これであと焼けばOKだよ!」

料理を始めたオレたちに、呆気にとられた様子だった少年たちは、今や漂う香りに夢見るような表情をしている。

「さあ、みんなできたよー!」

えっ、と呆けた一同が、シートに並べられたたくさんの皿に困惑した。

「……お前ら、こんなに食うのか?」

期待を込めたたくさんの瞳が、じっとオレたちを見つめる。

オレたちは顔を見合わせて、くすっと笑った。

「そんなわけないよ! どうぞ!」

「全部食ってもいいけどな! 一緒に食おうぜ!」

「たくさん獲ったからね~! さあ、座って~」

わっと群がった少年たちの瞳は、今までで一番輝いていた。


「美味い! 高級肉もいいけど、俺はこういうのも好きだぜ!」

タクトは既に2枚目のステーキを平らげにかかっている。てらてらと唇も頬も脂で光らせながら、やたら大きく切り分けた肉に食いつき、ぐいっと噛みちぎった。まるで野生動物の捕食シーンみたい。ぼたぼたと滴るソースを気にも留めずにご飯をかっ込むと、ニッと笑った。抱えた白いご飯が既に茶色く染まり、それだけ食べても美味しそうだ。

そうだね、チープなものはチープな物なりの良さがある。噛みしめる硬さも、お肉の味を吹き飛ばしそうな濃いたれの味も、これはこれで美味しい! オレはタクトの真似をしてお肉に食いつくと、お行儀なんて気にせず頭を振って犬のように噛みちぎった。飛び散ったソースも、手に垂れた脂も、ひとつの調味料なのかもしれない。

「僕、こっちお代わり~!」

ずいっと差し出されたどんぶりに、俺も私もと次々空のどんぶりが追加された。固めのお肉が苦手な子もいるだろうと、薄切りのお肉を使って牛丼も用意してみたんだ。こっちも好評のようで良かった! ちなみにタクトは白飯と牛丼両方食べている。

俺はそんなに食べられそうにないので、ほんの味見程度盛り付けた。箸で崩れるほどに甘く煮込んだ玉ねぎと、たっぷりのお肉。ステーキと食感の差を楽しもうと、透けるほどに薄切りにしたお肉が柔らかい。ご飯をかっ込むのに全く邪魔をしないフリルのようなお肉は、見事に白飯と混ざり込んで口腔を賑わせた。子ども向けに甘めに味付けたつゆは、お肉のがつんと感を和らげてさらに食を進めさせる。


「なんか……いくらでも食っちまいそうだ! 俺、普段こんなに何杯も飯を食わねえのに!」

「これカウガウなんだよね! 私もっと頑張ろうかな……また食べたいもの!」

「俺達じゃカウガウ結構キツかったけど、そんなこと言ってられねえな!!」

どうやら少年少女たちの向上心にも火が着いたようだ。美味しいご飯は人をやる気にさせるよね!

『そうじゃないと思うわ……』

『これはただの食い意地だって』

モモとチュー助は、達観したような顔で牛丼を頬ばった。



モモ:またゆうたのせいで食の衝動に突き動かされる子どもたちが……

チュー助:ま、まあ、生き物って食のために生きてるもんな!

蘇芳:人間はそうではなかったハズ……



1月9日…6巻発売が迫って参りました!

50ページの書き下ろしを書いたので、SSは短くていいかなと思ったんですがこれもまあまあ長くなりました!!もふしら好きな方ならきっと好きな感じだと思うので、ぜひ忘れずにご覧下さいね!期間限定なのでお気をつけ下さい!


ちなみに活動報告に書きましたが、クリスマスは閑話の方更新してますよ!

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最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] キミたち、やる気出すのはいいけど、料理の修行もしたまえよ?いるのはカウガウであって牛丼じゃないんだからね(笑)
[一言] お疲れ様です ラピスちゃん、モモちゃんに見せても… そして、モモちゃんとチュー助のツッコミは永遠に届かない… 蘇芳ちゃんも…
[一言] 異世界転生モノ読むたびに思うけど、魔物って美味しそうだなぁ
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