441 ゆっくりする時間
「今日はゆっくり過ごしたいなぁ」
お祭りの浮き足だった雰囲気も、舞いの指導もひとまずは一段落し、オレはぼんやりと天井を眺めた。
時折お手本として行かなきゃいけないけれど、動き自体は大昔からある単調なものだ。あとは単に練度の問題だろう。魔力操作の上手な人なら、舞いの魔力さえ掴めば難しくないはずだ。
『ぼくに乗ってお散歩する?』
ぽん、と身軽にベッドに飛び乗ったフェンリルのおかげで、オレはフライパンの上のパンケーキのように浮き上がった。
ばふっと腹ばいで着地すると、そのままぺったりと頬をつけて脱力する。
『燃え尽きてるわねぇ』
『情けないぞ主ぃ! 俺様を見よ! いつも元気いっぱいだぞ!』
だって、なんだか本調子じゃないんだよ。舞いの疲れって中々取れないものなのかもしれない。もしくは、今まで忙しかった反動が来てるのかも知れないね。
うん、今日はだらだらゆっくりして過ごそう。そうすればきっと元通りだ。
「じゃあ、シロに乗せてもらってお外に行こっかな」
『やった! お外でゆっくりするといいよ! きっと気持ちいいよ!』
『スオーをおなかに乗せて寝るといい。きっと気持ちいい』
どっちも気持ち良さそうだとくすりと笑うと、ひとつ息を吐き、気合いを入れて起き上がった。
「よし、じゃあお外でのんびり何か作ろうかな。ラキに差し入れでもしようっと」
今日は確かタクトは討伐に、ラキは工房に行ったんじゃないかな。
簡単なものがいいな。それにたくさん作らなきゃ工房の人に渡せないから、楽にたくさん作れる物!
ぽん、とベッドから飛び降りると、足をそわそわさせるシロに跨がった。何を作るか、お外に行って考えよう。何も思いつかなければおにぎりかクッキーだな。
『お外に行くのも、大人数に料理を作るのも、どっちもゆっくりしてるとは言わないと思うわ』
ふよふよと揺れるモモの台詞に、確かに、と頷いて笑った。
『ねえ、もっと走ってもいい? チュー助は危ないよ』
シロは、緩やかな丘陵を風のように走る。身体を動かせる喜びがオレにも伝わって、うずうずとしてきた。
「いいよ! 人を轢かないでね!」
『大丈夫-!』
車の屋根に貼り付くアクション俳優よろしく、全身でしがみついていたねずみを胸元へ放り込み、ぴったりと身体を伏せて掴まった。流れるサラサラした毛並みが頬や首筋をくすぐって、しがみついた手はたっぷりとした胸元の被毛に埋もれた。
ぐん、と後ろへ引っ張られる感覚と共に、シロのしなやかな身体が激しく躍動するのを感じた。
「わーっ、速い!」
『ぼく、速いよ! 気持ちいいね!』
もはやオレは気持ちいいレベルではないけれど、嬉しげに弾む声音に、たまにはいいかと掴まる腕に力を込めた。
「ねえシロ、ここどこ?」
『ぼく、知らないよ。でも、ぐるぐる回ったからそんなに街から離れてないよ』
それは良かった。とりあえず気の済むまで走ったシロは、満足そうに荒い息をついて横たわっている。直線距離だとロクサレンまで戻ってしまいそうな勢いだったよ。
そんなに離れていないと言いつつ、王都付近の丘陵ははるか彼方だ。見たことのない平野を見回して、まあここならそんなに人が来ることもないだろうと、ひとつ頷いた。
「さあ、何を作ろうかな。できればここで何か手に入るといいんだけど」
収納には色々入っているから、作るものに苦労はしないけれど、差し入れするなら「ちょっと取り過ぎちゃって~」みたいなノリの方がいいよね!
『主ぃ、フツー冒険者はそんな当てずっぽうでうろついて、色々入手できるもんじゃないんだぞ!』
チュー助は、これだから甘ちゃんは、なんて腹の立つポーズでやれやれとやった。
『お肉とってくる? どんなのがいい?』
「ピピッ!」
ほら、取ってこられそうだよ。シロにとって野外は冷蔵庫みたいなものかな。ティアにとっては草が生えている場所なら畑みたいなものかもしれない。
『俺様、一般論を……。そうじゃない、間違ってるの俺様じゃない……』
チュー助がモモにのし掛かっていじけている。
獲物を捌く気にはなれなかったのでお肉は遠慮して、シロはお好きにどうぞと放牧しておいた。
じゃあティアに活躍してもらおうと、草がまばらな平野から木立の並ぶ場所まで歩いていく。
『お肉はない?』
スオーが頭の上から逆さまに覗き込んだ。スオーって何食べてももくもくと食べるからあんまり分からなかったけど、お肉も結構好きなんだね。
そっと頭の上から下ろして抱えると、大きな耳がさわさわとほっぺに当たった。
「収納の中にお肉はあるから、新たに獲物を狩る必要はないよ。お肉が食べたいの?」
『スオー、お肉もいいし、他でもいい』
澄ました顔でそう言うと、ごそごそと腕の中で仰向けになって脱力した。まるで人間の赤ん坊を抱えているみたいだ。ただ、もっとふわふわと柔らかいけれど。
「ピピッ!」
その時、パタパタと軽い羽音を響かせて、ティアが藪の一角を示した。スオーも興味津々にふわりと飛び上がって覗き込む。
そこにあるのは、特に目立った特徴もない草だ。地面から伸びたツタのような植物。
あれ、でもこれ見たことある。ウキウキして太い茎を手に取ると、足を踏ん張った。
「ん、んん~~!」
ず、ず、と少しずつ引けてくる茎は、ついにずっぽりと手応えがなくなった。
ごろんと後ろにひっくり返って、慌ててツタをたぐり寄せると、引っこ抜けたツタにはオレの靴より大きなお芋が3つもついていた。
「やっぱり! じゃがいもだ!」
正確にはじゃがいもじゃなかったと思うけど、お店で売っているのと同じ、こっちの世界でも大活躍のじゃがいもモドキだ。
「ピッ! ピピッ!」
ちょいちょい飛んでは降り立つティアを見るに、このあたりは群生地のようだ。結構な数が収穫できそうだとにんまりと笑った。
じゃがいもはさほどお値段しないし、買い取りしてもらうほどでもないだろう。つまり、差し入れとして全部使ってしまってもいいってことだ。
「よーし、いっぱい採るぞ!」
むふっと息を漏らすと、腕まくりして作業に取りかかった。
「痛~い!」
ほどなくして、オレはぺったりと地面に足を投げ出して座り込んだ。真っ赤になった手のひらにふうふうと息を吹きかける。まだたくさんと言えるほど収穫できてないのに……。
――回復すればいいの。
ラピスの台詞にそう言えばと回復を施して立ち上がった。これ、回復はできるけど……結構辛いよ?!
シロに引っ張ってもらおうとしたんだけど、ほどよい加減が難しくてすぐにツタが切れてしまう。
やっぱりオレが頑張るしかないか……。
ぐっと気合いを入れてツタを掴んだとき、付近に人の気配を感じた。この辺りにも冒険者はやってくるんだな、なんて思いつつ足を突っ張る。
「うう~~~!」
ずりずりと滑る手のひらが、また擦れて痛くなってくる。
と、オレの右手に後ろからもう一つ右手が重ねられた。
驚く間もなく、途端に動いたツタにたたらを踏んだ。どすっと背中からぶつかった人は、びくともせずにオレを支える。
「何やってんの?」
にっ! と顔いっぱいで笑って上から覗き込んだのは、随分と見慣れた顔だ。
「タクト! タクトこそこんなとこで何やってんの?!」
「俺は討伐の帰りだけど?」
ぶらんと目の前にぶら下げられたのは、何かの尻尾だ。
「臨時パーティで討伐行ってきたんだけどさ、どうも近くに何かいる気がしてよ、やっぱりユータだったな!」
どうやら気になって帰り道は解散してわざわざこちらへ来たらしい。さすがは野生の勘……いや天然の気配察知能力だ。
モモ:タクトがいなくてそのパーティ大丈夫なのかしら……
タクト:大丈夫じゃねえ?行きは大丈夫だったんだし!
モモ:だから、それはタクトがいたからじゃ……
なんてことない日常が一番!
感想たくさんいただいて嬉しいです!!お返事できなくてすみません……とても励みになっています!!
閑話の方もちょっと前に更新してます!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/