41 美味しい串焼き
ハイタッチする彼らの喜びようからすると、なかなかいい報酬だったようだ。
ちなみに草原にいる小物は、危険度が低くて基本的に討伐報酬はないけど、ゴブリンなんかより素材の価値があるから買取額が上がるらしい。ゴブリンの方は危険度が高いのに素材が取れないから討伐報酬を少量もらえるだけなんだって。
金貨5枚と銀貨1枚ってことは、51000円ってところか。物価に対して高いのか安いのか全然分からないけど、喜んでいるから収入としては良かったのだろう。
「へへっ!1日で金貨だぜ?それも5枚!全員で分けても一人1枚はあるんだぜ?!」
「装備買いかえちゃおっかな~!」
「魔道具・・魔石装備・・。」
なんか3人がふわふわしている。一日命がけで働いて一人当たり2万円弱・・・こっちではお金を手に入れるのは大変そうだ。その代わり食べ物とか安いのかもしれない。
「よーし!今日はハイカリクで泊まって、明日帰ろうな!ユータのおかげで助かったし、家までちゃんと送ってやるからな!」
「ほんと?あいがとう!」
オレはにこっとした。一人では馬車に乗るのも難しいだろう・・ここは甘えさせてもらおう。
ギルドを出て歩いていると、いい匂いが漂ってきた。
「おなかすいたー!ごはんごはん!」
「今日はポルクの串焼き!」
えーお昼食べるの遅かったのにもうお腹すいたの?
どうやら屋台形式の店が並ぶ一画に来たらしい。薄暗くなっていく中、ランタンの灯りがあちこちの店先で灯っている。レストラン風の場所と違ってお祭りみたいに活気があっていいなぁ。
じゅうじゅうと油を滴らせるお肉、無骨な手が注ぐゴロゴロ具材の入ったほかほかスープ。そこここで冒険者たちが豪快に何か頬張っている。美味しそうな情報が五感を埋め尽くして、なんだかオレもお腹がすいてきた。
リリアナがしきりとポルクポルクと言うので、3人お勧めのポルクの串焼き店に行ってみる。
「お、ニースじゃねぇか!食ってくか?・・ん?なんだそのちっこいの。おう、ルッコ、さすがに年下すぎるぜ?・・ってあれ?女の子か。」
「よぅ!とりあえず7本くれ。」
「違うわ!!あたしは年上の方が好きなんだから!!」
「・・私のはそっちの大きいやつにして。」
馴染みの店らしく、いかつい店主と親しげに会話しながら注文している。オレが女の子に間違われるのはもう訂正も面倒でスルーだ。ポルクの串焼きは、串に刺さった肉ではあるが大きさが桁違いだった。串の中央に豚の丸焼きのごとくオレのこぶし2、3個分ぐらいの肉塊が刺さっている。串もぶっとい木の枝!って感じだ。あらかじめ煮てあるのかな?店主が新たに取り出したお肉は既にある程度火が通っている様子だ。それらに豪快に枝をぶっ刺すと、串の両端を引っかけて直接火で炙っている。ひとつ、ふたつ・・・ななつ。オレは思わずニースを見た。
「ん?どうだ、うまそうだろう!オレはここのタレが一番うまいと思うぜ!」
「う・・うん、おいしそー。でも、多い?」
「がはは!なんだぁ?いいとこの嬢ちゃんの護衛かぁ?よく食うだろ?冒険者ってな体を使うからな、みんなよく食うんだよ。なっ?」
視線を向けられたルッコとリリアナは揃って目をそらした。
リリアナ・・あんまり動いてないし小さいのにそんなに食べていいのか?まぁもう少し色々とふっくらした方が良さそうではあるけども。
失礼なことを考えているうちに、焼き上がった串をひとつ渡された。ずしっとくる串の両端を両手でしっかりと握る。
「あれ?ユータには大きかったか?熱いから気ぃつけて食えよ!」
両手に1本ずつ串を持ったニースが、豪快にかぶり付いている。ボタボタと肉汁が滴っているが、気にも止めていないようだ。ルッコとリリアナもボタボタする肉汁をすすりながら夢中で食べている・・・ワイルドだなぁ。オレも思いきってがぶりと食らいつく。大きな肉は硬いと思いきや意外とあっさりと噛みきれ、口の中でほどけていく。あ・・・うまい!表面は香ばしいタレとパリっとした食感で、歯ごたえと共に肉らしいガツンとした満足感があるが、中は柔らかく表面と違った旨味が溢れ出す。やはり何かで軽く煮込んであるのだろう、見た目ほど油を感じず、肉汁とスープの風味が優しく広がる。
久しぶりの美味しい食事に、オレはしばし夢中になった。
「あーうまかった!」
「やっぱ串焼きはここが一番よ!」
「また来る。」
すっごく美味しかったけどさすがに多くて、結局3分の2ほどでギブアップすると物欲しそうにしていたニースにあげた。
夢中で食べたからオレの手も口周りもギトギトだ。道の端に行くと水袋から出すふりをして水魔法で手と口を洗う。
「おうおう、見ろよ!あれが将来モテるやつの姿だろ。」
店主がめざとくオレを見て言う。
手をペロペロしていたルッコがピタリと止まり、今にも手を舐めようとしていたリリアナは澄ました顔でカバンから布切れを取り出した。
「な・・なるほど・・。」
既に舐め終わって服の袖で口を拭っていたニースが真剣な顔で頷いている。ニース、そのぐらい豪快な方が好きな人もいるよ、大丈夫。
ちなみにこれで夕食が終了だと思いきや、3人はその後もスープやら何やら食べ歩いた。あんなに食べるのカロルス様だけじゃなかったんだな・・。美味しそうだけどもう入らない。大きくなったらオレも絶対ここで食べ歩くんだ。
屋台通りを抜けると、冒険者御用達の宿が並ぶ通りに出た。
どうやらオレの分の宿代も出してくれるらしい・・・と言っても冒険者が泊まる安宿は、オレくらいの子どもだと部屋代はかからないそうだ。4人で3部屋・・・オレは当然ニースについていこうとしたけど、二人に止められる。
「だ、ダメよ!ユータ、危ないから!」
「いい、男と密室で二人になるのはダメ。」
「「だから私のところに!」」
二人の間で火花が散った。
えー・・・オレ、二人の方が危ない気がします。
「オレは、おとこ!女のひとの、おへやはだめ!」
ブーブー言う二人を尻目に、ニースをぐいぐい押して部屋に入った。
「オレだってさすがに2才児は相手にしないっつーの。」
ニースがぶつぶつ言ってる。まぁ2歳児の前にオレ男だからね・・。
安宿はやっぱり安宿らしくて、オレの即席ハウスの方が快適じゃないかなと思うくらいだ。ベッドだって固くてあんまりきれいじゃないし、お風呂なんてあるはずがなかった。あるのはベッドと窓と桶。歩くと床がギイギイ鳴って、ニースなんて床を踏み抜いちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。
「飲みには行けねーし、寝るか!ユータ疲れたろ?」
「うん、ちょっとまってね。」
勝手に使えと置かれている桶。ここに水を入れまして、魔道具を装った魔石を放り込んでお湯にします!なんとか手が入れられるくらいの熱いお湯に調整しておく。
「ニース、タオル。」
「あ?おう・・ほらよ。」
荷物を整理していたニースが汚い布切れを投げた。ばふっと顔でキャッチしたオレは思わず顔をしかめる。汚い・・これ、まずはタオル(?)を洗わないとダメかも。ニースが背中を向けているのを確認して、土魔法の桶を出してタオルをごしごし洗う。お湯で洗うと結構きれいになった。よし、まずはニースをきれいにしよう。一番風呂(?)だからね!
「服、ぬいで。」
「うん?お?え?え?」
ベッドに座るニースの脱衣に取り掛かる。ニース、乙女じゃあるまいし頬を染めないでくれるかな?小さな手では効率が悪いから手伝ってほしいのだけど。
「これ、ぎゅっとして!」
ようやく察したニースに熱々のタオルを絞ってもらったら、大きな背中に広げて当ててあげる。
「おおお~こりゃいいな。」
少し温めたら、もう一度お湯で絞って今度はごしごしする。カロルス様より一回りは小さいけど、それでも冒険者の背中はよく鍛えられていて、大きかった。古い傷があちこちにあって、冒険者ってやっぱり命がけなんだなと思い知らされる。
背中を拭いたら後はセルフでお願いする。
「・・お前、実は女だったりしねえ?あーこんな嫁さんほしい。」
ガシガシと顔を拭きながらボヤいているが、例えオレが女でも嫁さんにはならないからね?
ドーン!
ガシャーーン!!
さて寝ようかと思ったら外が騒がしい。
「なんだぁ?ケンカか?・・・ん?ありゃ衛兵か?・・あー摘発ってやつか。」
窓の外を眺めたニースが興味なさげに戻ってきた。
夜目のきくオレだけど、ちょっと遠くてよく見えない。街の一画に衛兵が集まり、野次馬が囲んでいる。
突然建物の一部がごおっと燃え上がったり、中から人らしきものが吹っ飛ばされては衛兵に取り押さえられている。野次馬からは歓声が上がって、まるでショーを見ているようだ。
う、うわーファンタジーの捕り物って派手だなぁ・・。
「一斉摘発って言ってたからな、関連施設も全部抑えられるんだろよ。ここの女将は涼しい顔してたから大丈夫だ。明日もあるからとっとと寝ちまえよ?」
オレは頷くとニースの横に潜り込む・・部屋代がかからないってのはこういうことだ。やっぱりルッコかリリアナの所にすれば良かったと思わなくもない。
・・・・ハッ!?
隠密姿の小柄な人物は、邪魔な男を店外へ蹴り飛ばして動きを止めた。
「マリー、どうしたの?ここがもうラストなんだから、早くすませて帰りましょう。」
「・・・ユータ様が・・いるような気がする。」
「・・え・・?」
ドゴーーン!!
「・・ユーータ様!?どこにいらっしゃるのです?!ユータ様ーー!!」
「うわああー!」
「マリーを抑えろ!被害が拡大する!」
「マリー!落ち着いて!今ここにユータ様はいないわ!」
「もう8割方終わった!衛兵たちよ、後は任せた!帰るぞ!!」
嵐のように立ち去る一団を、衛兵とギルド工作員は呆然と見送った。
読んでいただきありがとうございます!
お腹がすいてたんです。・・なかなか進みませんね・・すみません。