426 捜査は足で稼げ?
「二人は知らない? 『呪い集め』の噂」
「なにそれ~? 都市伝説みたいな~?」
「知ってるぜ! 気味悪いよな!」
タクト、相変わらずの情報網だ。やっぱり街の人たちの噂にものぼっているらしい。この街に呪いグッズの店は三軒、時期は違えどそこが軒並みやられたそうだ。
「え~怖いね~! 王様とか貴族の人は気が気じゃないね~」
「どうして?」
「だって呪いって防ぎにくいでしょ~? 昔から暗殺用じゃないの~?」
そうなのか。てっきりあの悪い組織がまた活動しているのかと思ったけど、王都だもの、そっちの可能性の方が高いのかな。
「でもよ、『魔寄せ』が盗まれたって騒がれてたぜ? どうもそれ狙いだったんじゃねえかって」
「魔寄せ?! あの、実地訓練の時の……」
「おう、どうする? あの村みたいに夜中に魔物の群れが……なんてさ!」
以前店員さんも言ってたね、魔寄せのせいで一夜で滅んだ村があるとかなんとか。そんなことが王都で起こったら大変だ……!
「ユータ、ここは王都だからね~魔寄せを使ったってそうそう魔物が街に溢れるなんてことはないよ~」
青くなったオレに、ラキがくすりと笑って頭を撫でた。
「ちぇ、守りが固いぜ」
どうしてタクトは悪者目線なの。魔物は所詮魔物、せいぜい村や小さな町にとっての脅威でしかないらしい。それこそ、ドラゴンなんかだと話が違うけど。
『魔寄せはそんな強い魔物が影響されたりしないんだぜ! 雑魚寄せにしかならないんだぜ!』
『おやぶ、しゅごい! かちこい!』
アゲハに煽てられて、チュー助が得意満面だ。そっか、それなら王都にはたくさんの冒険者さんがいるし、Aランクだって騎士様だっている。そんじょそこらの魔物が大群で来たって、きっと大丈夫。
「でも、小さな村なんかだと脅威になっちゃうんだよね……?」
「そうだぜ! 魔寄せの呪いは強くなるらしいからな、小さな村から攻めて行けば、王都だって危ないかもな!」
ニッと笑ったタクトにメッとやると、衝撃の内容を反芻した。魔寄せの呪いって……強くなるの?! もしかしてオレが魔石を生成するのと同じように、少しずつ嫌な気配を集めて大きくなるのだろうか? これまで見つけた魔寄せや呪晶石、ちゃんと浄化しておいて良かった……。
「騎士様たち、責任重大だね! オレもパトロールしてこようかな!」
そうだよ、他の人は分からないらしいけどオレは呪いのグッズがあれば分かるかも知れない。面白グッズぐらいだと分からないけど、魔寄せならきっと分かる。
「騎士様の邪魔しちゃだめだよ~?」
「騎士様なりきり衣装、買ってやろうか?」
勢い込んで立ち上がったオレに、生ぬるい視線が注がれる。違うよ?! 騎士様の真似っこをしたいわけじゃないからね?!
『なりきり衣装……いいわね』
着ないからね?! それ子ども用のおもちゃでしょ!
「――なんて言って出てきたものの、王都って広いもんね。どこを探そうかな~」
ひとまずシロに走ってもらいつつ頭を悩ませる。
白の街は警備が厳しいから、もし盗人が街中にいるとすれば、やはり郊外だろうか。それとも灯台もと暗しな発想で城の近くとか……?!
『考えても、どうせ分からない』
抱えた蘇芳が仰のいてオレの顎をてしてしと叩いた。見下ろすと、風に吹かれて額の宝玉が露わになっていた。陽の光にきらきら煌めく赤を眺めて苦笑する。
「そうだね、じゃあ……赤の街を外側から回ろうかな!」
蘇芳の小さな頭を撫でると、見つめる紫の瞳がきゅっと閉じ、大きな耳がぺたりと伏せられた。
「……えっと……これはその、蘇芳の加護のおかげかな?」
『もしくはあなたの運の悪さのせい?』
うっ……そっちだと困る。
オレは嫌な気配を漂わせる一軒家を見上げて、乾いた笑みを浮かべた。まさかそんな、いきなり怪しいところを発見するだなんて。
一見なんの変哲もない家だけど、多分あるよ。魔寄せかどうかは分からないものの、呪いに関連する何か。ただ問題は――。
「どうしようか、別に怪しくないよね。なんて報告したら調べてもらえるんだろう」
そう、何もアヤシイ所がないんだよね……嫌な気配がするんです、なんて言っても一笑に付されるだろう。
――入って確かめればいいの。
愚問と言わんばかりの台詞にやれやれと肩をすくめた。ラピス……それやっちゃうとまたお説教物だよ。オレも成長したんだから、もうそんなことはしないんだよ。
その時、玄関付近で人の気配がした。
慌てて物陰に隠れると同時に、ガチャリと扉が開く。
「一旦出して収納に入れるぞ、気をつけろ」
大小の箱に詰められた何かを運び出しているのは、どうやら騎士様たち。なんだ、ちゃんと調べがついていたんだね。ホッと息をついて見守っていると、どうやら呪いグッズを選別しながら収納袋に分け入れているようだ。裏口から侵入したのだろう、いっぱいになったらしい袋を担いで次々そちらへと運び出されていく。
「気をつけて扱って下さい、曲がりなりにも呪いの関わる物です。怪しいと感じたら私を呼んでいただきたい」
概ね運び出されて退散しようとするとき、家の奥から指揮する声に首を傾げた。厳しい顔をした青年が最後に扉から出てくると、確認するように振り返って扉を閉める。
思わず駆け寄ると、残っていた騎士様たちが一瞬身構えて、力を抜いた。
「ミック!」
「なっ……ユ、ユータ?! どうしてこんな所に?! 危ないぞ!」
最後の箱が運び出されるのを横目で確認して、跪いたミックがオレを撫でた。良かった、ミックからは特に嫌な感じはしない。呪いは受けていないね。
「あのね、オレも調査してたんだ。ここが怪しいって思ったの」
「そ、そうか? なんでそう思うんだ……? ひとまず、近づいてはだめだ。呪具は運び出したが悪人の家である可能性が高い。悪いやつらが来たら困るだろう?」
運び出した……? ミックの台詞にことりと首を傾けて家の方へ意識を向ける。
ううん、残ってるよ。多分、一番嫌な気配を漂わせるものが。
きょろきょろと周囲を見回すと、敷地の一角に目を留めた。何の変哲もない家の側面、だけど、やっぱりそのあたりから嫌な気配がする。
「ねえ、あそこ。あそこが怪しいと思う」
「ユータ、何もないぞ……? 何が怪しいんだ」
「え、えーと壁の中とか? 地面の下とか? そのー……そう、シロが変な臭いがするって!」
一生懸命訴えるオレに、ミックは苦笑してオレの指す方へ歩み寄った。
「あ、危ないよ! オレ浄化薬持ってるから――」
慌てて駆け寄ると、ひとまず当てずっぽうで浄化魔法をかけようと壁に意識を集中した。
――ユータ!
「ッ! ユータぁっ!!!」
え、と思う間もなく思い切り突き飛ばされて、簡単に弾き飛ばされる小さな体。
全力で張られたモモのシールドと、落下よりもなお速く、オレを咥えて飛びすさるシロを感じた。向かってくる何かを必死に迎撃するラピスと、ぴたりとオレに寄り添うティアと蘇芳のぬくもり。
「待っ……」
見開いた瞳に映ったのは、オレを突き飛ばした姿勢のまま、ホッと顔を緩めたミック。
その一瞬は、長い静寂に思えた。
呼ぼうとした声も、伸ばそうとした手も間に合わないままに、幾重もの赤い刃がオレのいた場所を――ミックのいる場所を貫いた。
ヒュ、と鳴った喉の音に、停滞していた時間が一気に押し寄せてくる。激しい衝撃音から遅れて、細かな石つぶてがバチバチとシールドに当たった。
ミック……? ミック……?
呆然と見つめた先で、ぶわりと柔らかな光が弾けた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
昨日は閑話の方を更新してます。Twitterアンケートの閑話でルー好き必見ですよ~!
本編更新できる時間がない時とかたまにそっちを更新してますのでお見逃しなく!
もふしらコミカライズ版2巻、発売まで1週間を切りました!!
表紙絵が最高に素敵なので見て! 絶対見て! 最高…幸せです






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/