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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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421 珍獣

「わあ、オレこんなに近くでお城を見るの初めて!」

「私はいつも行き来してるのよ! すごいでしょ?」

ミーナは誇らしげに胸を張ってオレの手を引いた。

日本にいた頃には大きな建物はいくらでも見たはずだけど、オレが小さくなったせいだろうか? 真っ白なお城は、どんな高層ビルよりも大きく、大きく感じた。

「こっちから入るのよ!」

さすがに勝手に城内に入るわけじゃなく、最初の塀の内側だけだ。そこに騎士さんたちの訓練施設や、ちょっとした寄宿舎みたいな施設があるらしい。

「お兄ちゃんってば、忙しいって言ってなかなか帰ってきてくれないの! ガウロ様もああ見えて心配してるのよ。だから、ユータからも言ってくれない? ユータが言えば聞いてくれると思うの」

「そっか、ミックは頑張り屋さんだから心配だね。会った時ビックリしたよ……どうしてあんなにでっかくなったの?」

骨と皮ばかりにやせ細っていたミックは、シルエットは細身であるものの、騎士に相応しいしっかりとした肉付きをしていた。ほんの数年で、そんなにお肉がつくものだろうか。

「そう、そうなの。お兄ちゃん、今度は後悔しないって言って……頭も、体も、馬鹿みたいに鍛えたのよ。死んじゃったら元も子もないって、何度も言ったのよ……」

ミーナが微かに涙ぐんだ。ミック……自分も、妹も大切にしなきゃ。でも、あの暗い馬車の中、何事も自力で変えようがなかった現実を知っているから、努力で変えられる今の現実は夢のようなものかもしれない。

「――でも、体を壊しちゃったら意味がないよ」

「そうなの。だからガウロ様が時々様子を見てくれてるんだけどね」

そっか、ガウロ様は回復できるもんね。オレも栄養ドリンクならぬ生命魔法ドリンクを差し入れようか?

『それ、逆効果じゃない? 元気になったらまた無茶しそうだもの』

モモが訳知り顔でふよふよと揺れた。

『あなただってそういう所あるでしょ』

そ、そうかなぁ。オレ、そんなに進んで無茶はしないと思うんだけどなぁ。

「そうだ! ユータ、お兄ちゃんにこんなふうに言ってみて? きっと効果あると思うから」

どこか悪い顔で笑ったミーナが、こそこそと耳打ちした。




使用人出入り口らしい粗末な門をくぐると、土がむき出しの広場と、いくつかの建物が見えた。殺風景な光景にちょっとがっかりだ。お城の施設だから、もっと綺麗なところかと思ってたんだけどな。

「お、ミーナちゃん! いつもありがとうな。そっちのちっこいのは……?! まさか、黒い髪……?!」

門番兼休憩でもしているのだろうか、門の横には簡素なテーブルセットが置かれ、数人の騎士さんがくつろいでいた。気さくに声をかけた一人が、オレに目を止め大げさに驚いている。

「うふふふ! そう、この子がユータよ! ね? 言った通りでしょう?!」

嬉し気にオレを抱き上げたミーナが、じゃーん! とばかりに見せびらかした。

「うおお、本当だ! 実在したのか!」

「マジできれいな顔だ! 男なんだよな」

「珍しい色だな、目も髪も黒い!」

まるで珍獣でも見たような騒ぎに目をぱちくりさせた。どうしてみんなこんなに騒いでるの?

「あ、あはは! ごめん、私もお兄ちゃんもユータのこと話してたから……でも、みんなちっとも信じてくれないんだもん!」

じーっと見つめる視線に気づいて、ミーナが慌てて説明した。

「信じるわけねえだろう、ミーナちゃん当初言ってたこと覚えてるか?」

「曰く、神様のつかいが突如現れて――」

「白銀に輝く巨大な犬に乗って敵を蹴散らし――」

「小さき光で出口まで導いた――」

笑いをこらえた厳かな顔で、騎士さんたちが重々しく言葉を紡いだ。

「その神の使いこそが、黒髪に黒い瞳をもった小さな少年、ユータ――」

まるで演劇で見た役者さんのように気取ったポーズで、騎士さんがオレを示した。

「………ミーナ?」

じとりと見上げると、頬を染めたミーナが目をそらした。

「そ、そそそうだったかなー、だって私まだ子どもだったし……ホントに神様のつかいだと思ってたし」

爆笑する騎士さんが、ぽんぽんとオレとミーナの頭を撫でた。

「ま、この兄弟はそんだけぼうやを崇拝してるってこった。そりゃまあきれいな顔立ちだが、神様とはなぁ。普通のぼうやじゃねえか」

「神様じゃないわ、神様のつ・か・い!」

憤慨したミーナが訂正しているけど、違うからね?! 訂正してほしいのそこじゃないからね?!


「もう! 正規の騎士様はあんなんじゃないんだから! もっと洗練されてカッコいいんだからね!」

ようやく門から離れたころ、ミーナは散々からかわれてプリプリしていた。随分大人になったと思ったけど、あの人たちに比べたらまだまだ子ども扱いなんだな。

「正規の騎士様? あの人たちは違うの?」

「違うわよ! 鎧が違うでしょ? あれは騎士になってない見習いとか雑用係よ。私だって騎士様にはあんな口をきいたりしないわよ」 

ミーナはうっとりと騎士様について語りだした。なんだかとても清廉潔白な人たちに思えるけれど、先日ローレイ様に会ってしまったオレには、どのお話も懐疑的だ。


「あ! そういえばオレ何も持ってない! ついてきただけだし……差し入れとかあった方がいいよね?!」

「え? 私が連れてきただけだもの、気にする必要ないわよ」

そんなわけにもいかないでしょう! 人は第一印象が大事! オレ、食べ物に関してはしばらく生きていけるほど収納に入っているもの、何か渡せるはずだ。

えーと、騎士様って硬派な気がするから、甘いものよりがっつりしたものの方が好きそうだよね? なんとなく!

「……ユータ? 何してるの??」

「すぐに終わるから!」

物陰で猛スピードで作業を終えると、ふう、と額の汗をぬぐった。



「こんにちは! いつもありがとうございます。ミックの妹のミーナです。お洗濯の交換に参りました」

「ああ、ご苦労。ここで待つように」

ひときわ大きな施設では、奥から剣戟の音や怒号が響いてくる。事務的な口調で告げられると、ミーナは収納袋を取り出して出入り口の脇へと控えた。

「ミーナ、すまないが今日も遅く……」

ほどなくしてこちらも収納袋をぶら下げて現れたミックが、ピタリと足を止めてオレを見つめた。パクパクと口を開閉する様子に、ミーナがしてやったりとクスクス笑った。

「またそんな恰好で……お風呂にも入ってないんでしょう?! 騎士様方にも失礼じゃない? ほらね、

こうやって突然ユータが来ることもあるのよ?」

「なっ……だからって連れてくることないだろう?! い、いつも外へ出るときはきちんとしているじゃないか! これは、その、たまたまで……!」

そのまま寝て起きたんだろうなとありありと分かるヨレヨレになった衣服と髪に、本当に体を壊すんじゃないかと心配になってくる。なんとか髪を撫でつけ、服を整えるミックに少し眉を下げた。

「ごめんね、勝手に来ちゃダメだったよね。でもオレもミックの働いてるところ見てみたかったの。でも、本当に忙しそう。ミック、大丈夫なの?」

ハッとしたミックがしゃがみこんでオレの両肩をつかんだ。しわしわになったマントの裾がふわりと翻って、騎士様みたいだ。

「違うんだ! 全然! 全然問題ないぞ、ユータが来ることに問題はない! た、ただ私に問題があっただけで……!」

オレの目線より下になった頭は、やっぱりぴょんぴょんと寝癖が飛び出て、今日はミックが左向きに寝ていたんだなとよく表していた。


「ん、こほん」

不自然な咳払いに視線を上げると、ミーナがGO! のジェスチャーを出していた。

あ、そうか。オレはちまっとした両手でミックの両頬を挟み込むと、じいっとのぞき込んだ。怒られることを察知した柴犬のように、ミックの瞳が不安に揺れる。

「ねえミック、せっかく助かった命だよ? 大事に使ってほしいな。あんまり無茶してると心配だよ」

「ご、ごめん……でも、やらなきゃ。私はあの時決めたんだ。文字を習って、妹を守れる力をつけて、そして……そして」

「そして?」

言い淀んで下げられたまつげが、ぐっと上がってまっすぐオレを見つめた。

「――ユータを助けられる力をつけるって」

貫くほどに力の込められた視線に、驚いて目を瞬いた。

「ユータは十分力を持ってる。私はいくら頑張ったって一般人だ。ユータを助けられるほどの力も、魔法もない。でも、私にも持てる力がある」

豆だらけのゴツゴツした手が、そっとオレの頬に触れた。

「知恵をつけ、権力を身に着け、いつかきっとユータの役に立つ。だってユータはきっとトラブルを起こすだろう?」

フッと笑った顔は、とても大人で、とても強くて、カッコよかった。これが、ミックの強さなんだなぁ。

なんだか胸がいっぱいで、ただありがとう、と言った。


ただ、聞き捨てならない台詞がひとつ。ミックの胸に顔をうずめて深呼吸すると、少しむくれて顔を上げた。

「――どうしてオレがトラブルを起こすの」

「起こしてないか?」

可笑しそうな表情に、ないとも言えなくて押し黙った。うん、少なくともミックの前では起こさないようにしよう!

「ちょっと、ユータ!」

しびれをきらしたミーナがオレをつついた。そ、そっか! 続きだね?

「えーと。オレ、ミックにもっと会いたいんだけどなあ」

「……? そりゃあ、嬉しいが……」

「でも、ミックはオレに会いたくないの?」

『ここで首をかしげる! 瞳を潤ませて口を結ぶ! 捨てられた子犬の目よ!!』

肩で演技指導が無茶を言う。

「うっ……いや、その、会いたいとも」

「本当に? 嫌じゃない?」

「も、もちろんだ」

「じゃあ、早く帰ってきてくれるよね?」

「あ、ああ。……あっ?」

よしっ! ミックがしまったと額に手を当て、オレとミーナは作戦成功のハイタッチを交わした。



ユータ:ねえ、ところでオレ何をやらされてたの……?

ミーナ:やっぱりチチリジャーノのセリフ集は最高ね!汎用度が高いわ!

モモ:あなたとは気が合いそうだわ!



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[一言] 相変わらず魔性のショタよのう
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