414 ミーナの奉公先
「カロルス様、こっち!」
「しいっ! 呼ぶなって!」
そんなにこそこそしたって、そのでっかい体は隠しようがないんだから。むしろ堂々と歩いた方が目立たないと思うよ。
オレとカロルス様は、二人で白の街を歩いていた。メイドさんたちはせめて馬に、と言ってくれたのだけど、目立つから嫌だって言うんだもの。
「それで、あいつらは白の街で働いてるのか? そりゃあ出世したもんじゃねえか」
「うーん、多分だけどね! ミーナはきれいな格好だったし、多分ここで働いてると思うよ! ミックもすっごく頑張ったって言ってたんだけど、どうしてるんだろうね?」
今日は渋るカロルス様を連れて、ミーナに会いに行くんだ。館の場所は分かったものの、どう見ても貴族の館だったから、オレ一人でのこのこ訪ねていっていいものか分からないしね。いきなり無礼者! なんて騒動になっては困る。
「俺は門の外で見ていてやるから、お前ひとりで行けよ?」
「ええ?! やだよ!」
なんかむしろ恥ずかしい! 保護者に見守られるおつかいみたいじゃないか。
「俺だって嫌だぞ」
唇をとがらせたカロルス様が、ひょいとオレを肩へ担ぎ上げた。どうやらこれも身元をカモフラージュする一環らしい。もう大きいんだからちょっと恥ずかしいけど、カロルス様のためだから仕方ないよね! オレは、うふっと笑ってフードの頭に腕をまわした。
「ねえ、どうしてそんなに人に知られるのが嫌なの?」
「別に……恥ずかしいからだ」
つんと顔を逸らしたカロルス様をじいっと見つめる。目立つのを嫌がる傾向はあったけど、恥ずかしいって……恥ずかしいなんて言う人じゃない気がするけど。
どうにもはぐらかされる話に、今度マリーさんあたりに聞いてみようと心に決めた。
『ゆーた、もう少しだよ!』
「あ、ホントだ! あの木とお花がある館だったと思うよ!」
「どれ――?!」
途端に180度向きを変えたカロルス様が、ダッシュで遠ざかる。
「ちょ、ちょっと! カロルス様、どこ行くの? あそこだよ!」
「お前なあ~! あそこはダメだろ! 違う意味で!」
なんとか下ろしてもらうと、道の片隅でこそこそと耳打ちされる。
「え? どうして? 違う意味??」
「あそこ、誰の持ち家だと――」
そこで口をつぐむとオレの背後に目をやって、しまったと額に手を当てた。
「あれっ、ユータ? えっ……か、カロルス様?!」
どさっと何かが落ちる音に振り返ると、ちょうどミーナがお使いから帰ってきた所だったようだ。抱えていたらしい荷物が地面に転がっている。
「ミーナ!」
良かった、オレひとりで館に行くのは回避できそうだ。
にこにこと駆け寄ったものの、ミーナの視線はオレを通り越してカロルス様へ繋がっている。両手で口元を押さえ、頬を染めた姿はアイドルに会った時のそれだ。
ひとつ苦笑すると、カロルス様は大きな数歩でミーナの目の前まで来た。
「あー、その。元気にやってたみたいだな。お前ら頑張ったんだなぁ――偉いぞ!」
「~~~!!」
わしわし、と撫でる大きな手に、ミーナが声にならない悲鳴をあげる。そりゃあ、助け出してくれたヒーローだもの、そうおかしな反応ではないと思う。思うけど、あの時カロルス様とミーナはそれほど接点がなかったと思うんだけどなぁ。
「ま、まあ……無事会えたみたいだし、俺は先帰ってるぞ。大丈夫だな?」
カロルス様は居心地悪そうにすると、返事を待たずにそそくさとその場を離れてしまった。もう、今日は一緒にいるって言ったのに!
「……ミーナ?」
「――ハッ?! あ、ごめんね! 今の、本物のカロルス様よね?! みんなに自慢しなきゃ! ユータって本当にカロルス様と一緒にいるのね! すごいわ!」
そ、そう? カロルス様はすごい人だけど、どうも今までの反応と温度差を感じて首を傾げた。
どうやら王都での人気は、田舎とは比べものにならないみたいだ。そして、これが嫌なんだろうなと苦笑した。
「ねえ、今はお仕事中? ミックもお仕事かな?」
「そうなの! でも私はみんなのお世話だから、結構自由にさせてもらってるのよ。ユータだったらしっかりしてるし、もし良かったら一緒に館に来ない?」
思いがけないお誘いに戸惑った。お仕事中に一緒にいていいんだろうか。何かオレが手伝えることなら頑張るけれど……。
煮え切らないオレを引っ張って、ミーナが館へと歩き出した。
聞くところによると、元々二人は黄色の街で親戚の店を手伝っていたんだそう。でも、そこでのミックの猛烈な頑張りに目を付けた貴族様がいたらしい。事情を聞いて、二人揃って雇用してもらったそうだ。
「ここは小さい子たちが勉強や訓練を頑張るところなの。私はお世話するのに慣れてるから、ちょうど良かったのよ」
門兵さんに挨拶すると、ミーナは勝手知ったる様子で門をくぐった。繋いだ手をぐいぐい引っ張られ、オレも慌てて挨拶すると、敷地内へと足を踏み入れた。
敷地内は想像していたより随分さっぱりした庭が広がっていた。もっと庭師がいるような光景を想像していたんだけど、広々としたスペースは運動場のようだ。
「スッキリしてるでしょ、ちょっとみっともないんじゃないかと思うんだけど、ここで訓練することも多いからいいんだって」
ミーナが取り繕うように言って肩をすくめた。どうやらここの貴族様は見た目より実用派のようだ。オレにとってはその方が好感が持てる。
「ミー姉おかえり! その子は新しい子?」
「おかえり! その子、何てなまえ?」
正面扉を開けた途端、わっと群がってきた子どもたち。
「うふふっ、この子がユータくんよ! ほら、髪が黒いでしょ?」
「「「ええっ?!」」」
途端に輝いた瞳が一斉にこちらを向いて、思わずビクッと後ずさりした。
「え、えっと。はじめまして……?」
今度はオレが囲まれてしまった。
「本当にちっちゃい!」
「この子が戦うの?! 強いの?!」
子どもと言っても、オレよりは大きい子が多い。覗き込むような視線の圧力に、思わず腰が引けてしまう。
「こらこら、困ってるでしょ。みんなお掃除は終わったの? 早くすませないとお昼ご飯食べられないわよ!」
腰に手を当てたミーナの一声で、子どもたちがわあっと散っていく。すごいな、肝っ玉母さんみたいだ。
「ごめんね、私がみんなにユータのお話をしたもんだから」
「う、ううん! ありがとう。でも、どんな話をしたの?」
「うふふ、ナイショ! あの子たちはまだ小さいから、ああやってお手伝いから始めてるの」
なんだか今、話を逸らされた気がする。
オレは、手を引かれるまま館を案内してもらった。ここではお手伝いさんたちもいるけれど、集められた子どもへの指導をメインに行っているようだ。
「ここで勉強した子たちが騎士様になったり、お城で働いてる子もいるのよ!」
得意そうなミーナにくすっと笑った。なんだか本当にお母さんみたいだね。それに、ここの貴族様は随分変わり者のようだ。
「ふふっ! 変わってるわよ。でもね、とってもいい人。お城にいるから普段帰ってはこないんだけど、時々様子を見に来て下さるのよ!」
その時、階下で賑やかな歓声が上がった。
「あっ! ユータもおいで! きっと帰ってらしたのよ!」
「ええっ?! オレ、勝手に上がり込んじゃって、怒られない?!」
「絶対大丈夫! そんなこと気にする人じゃないの!」
やだやだと足を突っ張るオレをものともせず、ミーナはずいずいと引っ張って行った。
「わははは! ぼうずども元気にしてたか! サボってんじゃねえだろうなぁ?」
……ねえカロルス様、違う意味でダメってどういう意味だったの?
階下から響いた大音量の野太い声に、オレは思わず乾いた笑みを漏らした。
カロルス:あっ……やべえ、ついあいつ置いてきちまった。
ユータ:カロルス様……オレ、大丈夫じゃなくない?
活動報告の方にも書きましたが、羊毛の方で展示会参加してます!
オンラインショップも近々期間限定オープンしますので、ご興味のある方はぜひ~!
管狐いますよ!






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