407 王都の料理
「もうお昼なんだね~僕、もうちょっと見ていたかったな~」
「また来ればいいじゃねえか、一人でな!」
「それはそうと、そんなに買って大丈夫なの?」
ずっしりと手持ちカゴに入れられた商品に、お金が足りるのだろうかとこっちが不安になってくる。もちろん、パーティ資金は別にあるから、必要ならそっちから出せるのだけど。
「う~ん、慎重に計算したつもりなんだけど~」
やや不安そうに言いつつも、やっぱり全部買う意思は覆らないらしく、ラキはそのままどさっと店員さんに渡した。
紙に書き付けながら、一生懸命計算する店員さんが気の毒だ。
「何を買ったの?」
「素材も買ったけどね、道具がメインかな~? 道具ってこんなにあったんだね〜今まで苦労していたことが、道具1つで解決できることもあるんだよ~?! 僕、僕……王都に来て良かった~」
そ、そう……確かにブラシだって包丁だって、それぞれの役割に応じたものを使う方がいいもんね。
「よし、足りた~!」
ガサーっとお財布巾着をひっくり返したラキが、満足そうに頷いた。金貨何枚分になったんだろう……小銭の多い財布の中身に、店員さんが再び気の毒なことになっていた。王都で買い物をするときは、金貨も持っていた方がいいみたいだね……。
「さ、帰ろうか~!」
「いやいや! 帰らねえから!! 今から飯食って他のとこ行くんだからな!」
ほくほくしながら大事そうに荷物をかかえ、ラキはすっかり加工のことで頭がいっぱいだ。重いだろうに、荷物を預かると言っても聞かないんだもの。
「食べに行く所もいっぱいあって迷うね! どこ行こっか!」
「お前寝てたけど、俺らでどこ行くか決めておいたぜ! 絶対ラキが遅いと思ったからこの近くだ!」
それはファインプレイだ。この空きっ腹を抱えてあちこち悩むのは辛い。
「そう言えば、さっきラキお財布ひっくり返してたけど、お金あるの……?」
「……あっ」
銅貨くらいしか残っていない財布に、ラキはアハハと笑った。
「えーと、今日のことは考えてなかったな~。明日から依頼受けようと思って~」
その間の食事はどうするつもりだったの?! 職人ってやつはこれだから……。ラキの健康管理は他人の役目かも知れない。
「ラキの道具はオレたちのためにも使うんだから、半分パーティ資金で出せばいいんじゃねえ?」
「そうだね!」
オレたち用の道具なんか、ラキに頼りっきりだしね。
「助かるよ~! 道具に関してはこれで概ね必要分は揃えたから~、あとは個人的に買おうかな~!」
まだ買うの?! の視線をものともせずに、ラキはにっこりと笑った。
「あ、見て見て! カニだよ! ロクサレンの名物なんだよ」
少し歩くと、飲食店の多い通りへと出た。大きく出た看板に、カニのイラストを見つけて大はしゃぎだ。本当に王都にまで伝わってるんだ! お魚フライらしきもののイラストもある。
「そっか、ユータはロクサレン出身だもんね~! カニは結構高いからね~お金貯めたら食べに行きたいね! お魚フライはユータが作ってくれたから食べたことあるけど~」
「それならオレが今度用意するよ! 」
「ラキ、貝ダメなのに海虫はいいのか?」
さほど海鮮が好きでない二人は、大して乗り気じゃなかったけど、一度はカニを食べてみたいと思っているようだ。これはおいしい海鮮を用意しないとね! 二人には焼きガニなんかよりもカニクリームコロッケやグラタンの方がウケがいいだろうか。
何を作ろうかとウキウキしているうちに、目的のお店に着いたらしい。なるほど、冒険者の姿も多い、ごくお手軽なお店のようだ。
「う、うぅ~ん……」
オレたちは店内に入ったものの、メニュー板を眺めて顔を見合わせた。この世界の料理には大分慣れたつもりだったけれど、王都に来るとまた違うらしい。聞いたことのない料理がずらりと並んで、何が出されるのかサッパリだ。
えーと、ブルって付くのは牛系のお肉料理かな? チキリっぽいのも多いので、鳥系メニューも多そうだ。何にせよ、明らかに肉料理がほとんどだということは分かる。
「やぁ、今日もいい風だね! さ、君たちは何にするの?」
おろおろしているうちに、店員さんがやってきてしまった。爽やかに微笑む店員さんがスタイリッシュに見えるのは、お店の制服センスによるものだろうか。
「全然わかんねぇ! えーと……あ! おっちゃん、それ何? 美味そう!」
「美味いぞ! ブルコギーラだ」
「さんきゅー! じゃあ俺それにする!」
一生懸命メニュー板を眺めるオレたちを尻目に、タクトはサッサとメニューを決めてしまったようだ。
「じゃ、じゃあ僕はあっちの人と同じ物を~」
「え、ええと! じゃあ店員さんのオススメを……」
「おっけー! ぜーったい君が好きそうなの持ってきてあげるよ! ウチのはどれも美味いよ!」
ドギマギしながら答えると、店員さんはぱちんとウインクして去って行った。
「うまーい!」
「これもおいしいよ~!」
タクトのブルコギーラは、濃い味付けの薄切りブル肉が、これでもかと盛られた一皿。それを、チーズを塗った薄いパンに乗せて食べるようだ。ラキが頼んだのは鳥系のお肉がごろっと入ったミルク煮のようなもの。上部はチーズだろうか? パリッと炙られて、これも、添えられたパンをつけながら食べるみたい。
「おいしいね~! このパンは王都のパンなのかな? ハイカリクで食べるのとちょっと違うね」
ベーグルをもっと固くしたような、ややむちっとした身の詰まったパンだ。それをスライスして食事に沿えるのが王都のスタンダードなのかな。少し力がいるけれど、食べ応えがあるね。
「ユータのも美味そう!」
「とってもおいしいよ!」
オレに持ってきてくれたのは、ブルの薄切り肉をミルフィーユみたいに重ねて、中にチーズを挟んだもの。香りの良い大きな葉っぱで包んで蒸し焼きにしているようだ。きれいな赤いソースはフルーティで甘みが強く、柔らかなお肉はすんなりほぐれて、オレの顎にも優しかった。なるほど、これはきっと子どもが好きに違いない。
それぞれ交換して一通り味わうと、オレたちは満足してお腹をさすった。お手頃な店だと思ったのに、繊細な味わいは、なんだかすごくいいレストランで食事をしたような気分だ。だらっとだらけるのは気が引けて、つい姿勢を正してしまう。
「やっぱり王都って食べ物も違うね! なんだか凝ってるよね~勉強になるなぁ」
「ユータの料理ももっと美味くなるんじゃねえ?」
「うん! せっかく来たんだもの、色々吸収して帰りたいよね!」
さっそくメモを始めたオレを見て、ラキが妙に生温かい視線を向けた。
しばらく街巡りをして、オレたちは帰路についた。冒険では疲れない足が、妙にしびしびと堪えている気がする。
「ねえ、明日は依頼受ける?」
「僕は受けていかないとお財布が寂しいからね~」
「初日にいきなり使い込みすぎだぜ!」
タクトに諭されるなんてよっぽどだ。でも、微塵も後悔した様子はないから、必要経費だったんだろう。
「加工の依頼は小さいものから受けていくけど、みんなと一緒にやる依頼も受けるよ~! 加工は夜やるから~!」
「ちぇ、ラキはそれがあるからズルイぜ。ユータも配達屋さんがあるんだもんな」
そうなんだよね、オレとラキは結構単独で稼ぎ口を持っているんだけど、タクトが難しい。普通に依頼を受けるしかないもんね。
「街中の肉体労働とかやったら~?」
「そんなんするぐらいなら、討伐1つ片付ける方が割が良いぜ!」
それもそうだ。結局危険は伴うけれど、討伐系の素材集めなんかが一番相性がいいのかもね。
「でもさ、王都ではオレたちって新入りでしょ? ハイカリクみたいに、ソロで活動できるくらい認めてもらうのは大変かもね」
「確かに~! 意識して難しい依頼をこなしたりした方がいいのかも~!」
「じゃ、そうしようぜ! 明日朝一行ってくるわ!」
難しいやつって言ってるでしょ?! 簡単に頷いたタクトに、二人のじっとりとした視線が突き刺さった。
モモ:ラキは加工師だものね、分かるわ。でもあなた一体何を学びに王都に来たのよ…
ラピス:おいしいご飯なの!それがいいの!
蘇芳:異議なし。
いつも読んでいただきありがとうございます!
最近のガチャガチャってかわいいのがいっぱいですね~千円ぐらい簡単に飛んで行っちゃう…






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