394 野営
「がんばれー!」
「行けえっ! いや俺が行くぞ!」
「タクトは行かない~!」
今にも馬車を飛び出しそうなタクトを、オレとラキでがっちりと捕まえておく。まあ、本気で止めるならシロの加勢が必要になってくるんだけど。
眠気が覚めて、気分もすっきりしたオレは、護衛さんたちに大きな声で声援を送った。
「うぅるせえ! 気が散るから黙って震えてやがれ!」
憎まれ口を叩くガザさんに手を振って、魔物との戦闘を見守った。
「うーん、Cではないよね~Dランクあたり~?」
「そうか? 相手が弱いから手抜いてんじゃねえ?」
アリの魔物が多い地方らしく、さっきから何度かアリ部隊に遭遇する。さほど強い種類のアリではないので苦戦はしていないけれど、護衛さんたちは体力温存気味に戦闘しているように見えた。
「アリは食べられないしねえ……」
「素材にも人気ないやつだし~」
オレとラキの興味は早々に逸れてしまったけれど、タクトは魔物が出てくる度にそわそわしている。
「手だし無用、だからね~」
護衛の冒険者を手助けすることはダメではないけれど、人によってはトラブルになるので、避けた方が無難らしい。特にオレたちみたいな、あからさまに子どもから手助けされたら面白くはないだろう。
時間はかかっているけど、安定した戦闘に、お客さんたちにも不安な様子はみられない。ぐるっと見回したところで、真剣な瞳の御者さんが目にとまった。
「護衛さんが強い人で良かったね」
「……ああ、そうだねぇ。言ったろ? この先野盗が多いって。どうだかなぁ……徒党を組んでるらしいって話もあるし、出会わねえのが一番だけどねぇ」
徒党を組む、のレベルはどんなものなんだろうか。10人やそこら? それとも村ができるほど? オレは以前のゴブリン団を思い出して眉をひそめた。
「そんなに被害があるの? 集団でいるなら、もっと大規模に捜索しないの?」
「それがなぁ、襲われたに違いはねえんだけどよ、魔物も多いもんで分かんねえのよ。一応大規模捜索はされたぜ? そんでもう大きな盗賊団のアジトはねえってことになっちゃあいるんだがよ……到着しねえ馬車が多いもんでな。ただ、情報を得るには生き残りが必要ってな……」
御者さんが帰ってくる護衛さんたちを眺めて、肩をすくめた。
「もう終点なんだね」
「今日はテント張らなきゃいけないしね〜」
これから数日は野営なので、準備のために暗くなる前に行程終了だ。
「ぼく、今日は寝てなかったのね~疲れてない?」
「長旅なのに、偉いぞボウズ!」
今日も馬車を降りがてらお客さんに頭を撫でられる。オレ、Eランク冒険者なんだけどな……。
お客さんたちは簡易柵で覆われた休憩所に、それぞれ慣れた様子でテントを張っていた。きっとおいしい匂いが方々から漂ってくると思ったのに、早い人たちは早々に寝てしまうようだ。料理をしている人は少ないみたい。
「あんまりしっかりお料理してると目立ちそうだね」
「でも俺はしっかりした料理が食いてえけど」
「そうだね~僕もおいしいの食べたいよ~」
うーん、お肉をジュウジュウやったり、いい香りテロにならないものがいいね。
「俺は野菜むしる係だぜ!」
「うん、サラダお願い! あとごはんも!」
「じゃあテントとかお皿準備するね~」
当然のようにオレがお料理係だけど、そこに不満はない。鼻歌を歌いながら、じゃっじゃっとお鍋で直接タマネギとお肉を炒めると、大きなトマトをいくつか放り込んだ。
「ラピス、お願い」
――バラバラにするの!
……あぁ……ちょ、ちょっとトマトは自分でやった方がよかったかもしれない。お鍋の中から飛び散った赤い飛沫が、点々とオレの頬に散った。
「あ、ありがとう……」
ほんの少し食欲が減ってしまったけど、気にしないことにして鍋に赤ワインを注いだ。じゅわーっと蒸気が上がって、濃厚なアルコールにくらりとした。
さて、あとはじっくり煮込むだけ! 今夜のメニューはハヤシライスだよ! 本当はカレーが食べたいけれど、オレはスパイスの調合なんてできないもの。
出来上がったハヤシライスを2つの鍋に分けると、一つを鍋ごと収納袋に入れた。これは普通の収納袋だから、冷めないうちに持っていかなきゃね。
「できたよ~! ちょっと先に食べててくれる?」
「おおーっ! 美味そう!!」
タクトが大きなスプーンを山盛りにして、これでもかと思い切り頬張った。ハムスターの頬袋みたいにしながら、幸せそうにしている。
「おいしい?」
尋ねてみると、忙しく口を動かしながら、グッと親指を立ててみせる。
「ホント美味しい〜!パンにも合いそうだね〜」
ほっぺをツヤツヤさせて、ラキも親指を立てた。じゃあ明日のお昼はこれにチーズを足して、パンに浸けて食べようかな? それともパングラタンにしようかな?
ウキウキと明日のメニューを考えながら、そっと休憩所を抜け出した。早く持って行ってあげなきゃ、お腹を空かせて突撃して来かねないもんね。
近くの木の陰で転移して、と思ったら先客がいたらしい。
「あれ? どうしたの?」
ハッと振り返ったリーザスさんが気まずそうに笑った。
「え、ちょっとこんなとこに顔出さないでほしいなーもしかして君もおトイレ? ダメだよ一人で来ちゃ! さっさとすませてしまいな、待っててあげるから」
ええっ、それはちょっと困ると言うか……危ないからダメ! と離れてくれないリーザスさんに、仕方なくこそっとラピスに収納袋を預けて、カロルス様たちに持って行ってもらった。
やっぱり人知れず転移するのって難しそうだ……。前途多難な道のりに、リーザスさんを見上げて苦笑した。
活動報告に書きましたが、もふしらLINEっていうのをやってみたんですよ。ショートショートみたいで楽しいので是非見て下さいね〜!Twitterで「#もふしらLINE」で検索できますよ!
今回ちょっと短いのは腹痛が痛くてぺいんでここまでが限界だったからです(笑)
後書きの余裕もなかったんで追記…暑くなりましたが皆さんも体調管理にはお気をつけ下さい~!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/