379 師匠
しれっと出てくるのは書籍版から登場した子です。
「よっしゃ! これで挑戦資格あり、だよな!」
ギルドのカウンターで、タクトが拳を突き上げた。
「やった~! ランクアップできるね~」
オレたちは3人でハイタッチを交わした。
「そうね、おめでとう! でも、そんなに急がなくたっていいのよ?」
サブギルドマスターのジョージさんは、少し複雑な顔で微笑んだ。タクトの足りなかったポイントも無事に貯まり、これでオレたちは次のランクへと挑むことができる。
「俺たちは急ぐの! 試験、絶対受かってやるぜ!」
「うふふっ、タクト君頑張ったもんね! あなた達は、試験を免除してもいいくらいよ。ランクアップに問題はないって分かってるわ」
表情に陰りを残しながら、何も言わずにおめでとうと言ってくれるジョージさん。
ギルドマスターも、サブギルドマスターも、思うよりもずっとずっと辛い立場なのかもしれない。きっと、たくさんの人たちを見送ってきたんだろうな。それでも、オレたちの選択を見守ろうとするジョージさんは、とても強い人だなと思った。
「ジョージさん、ありがとう」
たくさんの想いを込めて、ふわりと笑った。まだ、安心してもらえるにはほど遠いけれど、オレたちならきっと、と思ってもらえるようになるからね。
「天使ちゃんは、お見通しなのね」
ジョージさんが、きゅっと唇を結んで笑った。
「試験、いつ受けることにする~?」
「俺は今日受けたかったぞ!」
「そんなこと言って、試験の受付は午前中でしょ?」
今すぐにでも受けるというタクトをなだめて、オレたちは夕闇の街を歩いた。
「Eランクかぁ、まだまだって気もするし、すごいねって気もするね」
「まだまだだな! よし、次はDランク目指すぞ!」
「まだEランクになってないけどね~」
まだ試験を受けてもいないけれど、ジョージさんが太鼓判を押してくれたし、高鳴る胸を押さえきれずに浮き足立ってしまう。なんだかもうランクアップした気分だ。
なんとなく、そのまま寮に帰るのも惜しい気がして、オレたちは屋台で夕食を見繕って石段に腰掛けた。
収納から取り出したおにぎりと、屋台の串焼き肉。
シンプルに塩で味付けされたお肉は美味しかったけど、これだと主食はパンだったかな。どうせならスープにすれば良かったと、ちらりとラキの手元を見た。
「交換だよ~」
くすりと笑ったラキが、自分のスープ椀を差し出して、反対の手でオレのおにぎりを引き寄せた。
「おにぎり、まだあるよ?」
「ううん、そんなにいらないから~」
ラキは、ぱくりと一口頬ばって手を離した。じゃあ、オレも一口もらっていいかな。
オレの片手では大きいスープ椀を支えてもらうと、簡易木べらをふうふうして大きな口で食いついた。
「あれ~? 大きな一口だね~」
可笑しそうに笑ったラキに、バレたかと笑った。
「美味しそうだったから! ラキも、もっと食べて良いよ?」
「ううん、今はいいよ~」
うん、美味しい! ちょっと塩気の濃いスープが、ごはんにもよく合った。
「俺も交換!」
タクトは両手にいっぱい食べ物を抱えていたのに、もう平らげたんだろうか。差し出された平たいジャーキーのようなものを咥えると、その手におにぎりを二つ出してあげた。
「やった! これ、何?」
「うーん、多分そぼろとおかか?」
二つもいらないだろうと思ったのに、にんまり笑顔で受け取られてしまった。タクトはいつもおにぎりの中身を聞くけれど、どれだって好きなんだから何でもいいんじゃないだろうか。
オレの方は串焼きとおにぎりで両手が塞がり、咥えたジャーキーで口が塞がってしまった。濃い味付けのジャーキーに、よだれが溢れてくる。無言で串焼きを差し出すと、がぶりと咥えたタクトが、一気にお肉を引き抜いて頬ばった。なんと豪快な……。
オレはちまちまとジャーキーを味わい、おにぎりをもしゃもしゃする。どことなくオッサンくさいと思うのは気のせいだろうか。
人通りの少なくなった屋台にぽつぽつとランプが灯り始めると、再び人が増えてきた。少しくたびれた衣服が、その日の労働の証のようだと思った。
「みんな、頑張ってるんだね」
オレたちはしばらく、ぼうっと通りを眺めていた。
「ちびっ子ちゃんがこんな時間に何してんの?」
『してんのー?』
あ、と思う間もなく、ぼんやりと囓っていたジャーキーがオレの手から消えた。
「あー! こいつは!」
タクトが勢いよく立ち上がった。
オレからジャーキーを奪った小さなお猿さんは、素早くそれを口の中に詰め込むと、目の前に立った人に飛びついた。
「久し振りぃ! ちびっ子!」
ちびっ子、なんて言いつつ、その人だって大人の割に随分小柄だ。オレは目をぱちくりとさせて立ち上がった。
「あ、あれ? えっと、ピピンさん……? イーナも、久し振りだね!」
『そう、イーナ、イーナ!』
イーナは、ピピンさんの肩でくるりと宙返りをして見せた。
「あれっ? おかしくない? 今俺の名前だけ疑問形じゃなかった?」
不満そうなピピンさんをそのままに、オレはきょろきょろと周囲を見回した。
「おう、悪いなうちのちびっ子が迷惑かけて」
どしっとピピンさんの頭に手を載せたオレンジ髪の人。
「変わらず元気そうだね」
歩み寄ってきた穏やかな声の魔法使いさん。あれ……以上? 視線を彷徨わせるオレに、ピピンさんが黙って笑うと、くいっと親指で通りの方を指した。
「あ……いた!!」
建物の影に隠れるように、背を預けて腕組みした強面の人。オレの声にビクッと狼狽えた人を逃すまいと、満面の笑みで駆け寄って飛びついた。
「キースさん! 久し振りだね! ハイカリクに来てたんだ!」
めいっぱい身体を背けてオレから距離を取ろうとするキースさんに、負けじとその瞳を覗き込む。
「ヨカッタネー、この街にちびっ子がいるって聞いてそわそわしてたもんねー」
『モンネー!』
からかう声音に、モスグリーンの瞳がぎらりと二人(?)を睨んだ。ぴゃっとピピンさんの後頭部に隠れたイーナに、相変わらずだなあと笑う。
「ユータ? 知り合い~?」
「おう! 俺とユータが初めて会ったときに一緒にいた人だぜ!」
首を傾げたラキに、タクトが紹介してくれた。そっか、『放浪の木』と会った時に初めてタクトとも出会ったんだったね。
「おや……そう言うそっちの僕は……も、もしかして?」
マルースさんが驚いてタクトを見つめた。
「えー! 覚えてねえの?! タクトだよ! ゴブリンから助けてくれたよな?」
唇を尖らせたタクトに、『放浪の木』メンバーの視線が集中した。
「あの時のちびっ子ナンバー2?! えーっ? なんか……でっかくない?」
「こりゃ驚いたな……随分と成長したものだ」
驚く面々に、タクトが得意げに胸を反らしている。
「だろ! 俺は強くなったぜ!」
「そのようだね、あの時と雰囲気が違うよ!」
オレはキースさんにしがみついたまま、ちょっとむくれた。なんだよ、タクトばっかり。
「……お前も強くなった。それ、よく使い込まれている」
ぼそりと呟かれた低い声に驚いて見上げると、きつい瞳が少しだけ細められた。
……笑った、のかな?
「が、頑張ったから!」
なんだか胸がいっぱいになって、ぐいっと顔を押しつけ、力任せに固い身体を締め上げた。
褒めてくれた……ちゃんと、オレを見てくれたんだ。もしかしたら見たのは短剣だけかもしれないけど! オレの二刀流の師匠だもの、それでも嬉しかった。
「鼻水を拭くな」
感動をぶち壊すようなぶっきらぼうな声に、やっぱり変わらないなとオレはくぐもった声で笑った。
モモ:でも、大きくなったとは言ってくれないのね…
チュー助:主が変わんないから、タクトが随分でっかくなったように思うんだな!
冒険者パーティ『放浪の木』
レンジ:リーダー
キース:強面双短剣使い
ピピン:小柄なオールマイティーさん
マルース:影の薄い魔法使い
イーナ:小さなお猿さんの姿をした幻獣
ぽんこつな作者なもので色々と抜けてたり間違ってたり! 教えて下さってありがとうございます!!
ちょこちょこ修正しています!
カスタード作ってるのにたまご抜けてるのには笑った……






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