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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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369 さりげなく誘拐

「ところでお前の召喚獣、おかしくねえか? フェンリルいたよな? 一体何匹出てくんだよ……それも、あんな突然現れるなんて反則もいいとこだ。魔力量もおかしいだろ、どうなってやがる?」

不満げな顔をぐいと近づけたガウロ様に、にっこりと笑って見せた。

「冒険者だから! 企業ひみつだよ!」

「……こいつ!」

伸ばされたぶっとい腕に、慌ててカロルス様のわきの下に潜り込んだ。

「はっは、諦めろ! こいつには秘密が多すぎる」

えー。カロルス様には、ひみつになんてしてないつもりなんだけどなぁ。大体ばれ……ちゃんと言ってあると思うんだけど。

納得いかない顔で腕組みしたガウロ様を見上げて、ふと左腕が目に留まった。


「ガウロ様、手を出して」

「あん?」

オレを治してくれたガウロ様に、オレからも回復魔法をサービスしよう。カロルス様と似ているところがあるからだろうか、ああは言ったけれど、この人には何がばれても大丈夫な気がした。

「あのね、傷、オレも治せるから!」

「傷ぅ?」

そんなもんあったか? と後頭部を撫でたガウロ様に、くすっと笑って左手をとった。ほんの些細な、糸みたいな傷だけど。オレの視線を追って篭手を見たガウロ様が、へえ、と眉を上げた。

「その短剣、なかなかいいモノじゃねえか。この篭手はそんな安物じゃねえぞ」

『俺様を受けるとはたいした篭手だ!』

チュー助がふんぞり返って篭手を褒めている。普段は忘れがちだけど、チュー助は名のある短剣だもんね。その篭手は、チュー助が切った部分だけ、ほんの少し切れていた。


大きな腕を両手で支えると、一応詠唱っぽいものをつぶやきながらふわりと回復した。回復って心地いいでしょう? やってもらう機会ってあんまりないよね。オレはにっこり笑って、のけぞるように見上げた。

「ひみつ、ひとつ目だね」

「こいつぁ……。なあ、お前はやっぱり俺のところへ来い」

真剣な顔をしてがしりと肩に手を置かれたけれど、オレにそんなつもりは毛頭ない。

「行かない」

蘇芳レベルの素っ気なさで首を振ると、連れていかれまいと、大笑いするカロルス様にしがみついた。王都には行ってみたいけど、そこに住みたくはないんだ。みんなでのんびりスローライフの夢をみすみす捨ててなるものか。

「くっ……いいのか? 王都には面白いものがたくさんあるぞ? ワイバーンだって近くで見られるぞ」

「ワイバーン! それは今から見に行くー!」

そうだった! 大事なことを忘れるところだった。当初の目的を思い出して、オレは一目散に外へ駆けだした。

「ユータ! 一人で行くなって!」

「別に一人で見りゃいいじゃねえか、ワイバーンよりフェンリルの方が強いだろうが……」

慌てたカロルス様と、呆れたガウロ様の声が後ろの方で聞こえた。



「うわあ~! 大きい! やっぱり硬いね~これでもドラゴンじゃないのかあ」

「こんなもんドラゴンと比べりゃヒヨコだヒヨコ!」

ガウロ様にがっちりと首元を抑えられて、ワイバーンはしごく迷惑そうだ。ごめんね、でももう少し、もう少し見ていたい。

触らせてもらった鱗は随分硬くて、大きな鱗だとオレの手のひらくらいあった。

「ドラゴンは、もっと硬いの?」

「見た目はそうでもねえ。多分アレだ、身体強化してんじゃねえか? 刃物が通らねえのよ」

なるほど! マリーさんやエリーシャ様みたいな感じだね。それに比べるとワイバーンは鱗自体が硬いから、頑丈さは鱗の耐久度に依存するんだね。

「ワイバーンだと、ブラッシングできないねえ……」

「ブラッシングするぞ、たわしでな、がしがしこすってやると喜ぶぞ」

それはブラッシング……?ブラシでこすると言えばそうかもしれないけど……。ガウロ様の力でこすられたら、鱗がつるつるに研磨されてしまいそうだ。


「ユータ様、まだ戻られませんか? ジフがじりじりしていますよ」

館の方からやってきたマリーさんが、ちょっと困った顔でささやいた。そうだった! おいしいお料理を用意してくれているのに!

「カロルス様、ガウロ様、おいしいお食事があるよ! 行こ!」

両手にそれぞれ大男の指をつかんで、ぐいぐいと引っ張った。

「おお、そんなに引っ張ると腕が抜けるぞ、簡単に引っこ抜けそうじゃねえか」

よたよたと気づかわし気についてくるガウロ様に、ついふき出した。抜けるのはオレの腕の方なんだ。そりゃあいくら引っ張ってもその丸太みたいな腕は抜けそうにはないけれど。

「ここのお食事はとってもおいしいんだよ! びっくりするから!」

「ほう、そりゃ楽しみだ。噂は聞いてるぜ? 王都で流行りのカニってやつもロクサレンからだろう?」

「そう! フライもそうなんだよ。ちゃんと用意してあるからね!」

ともすればオレの足が浮きそうな二人と手を繋ぎ、にこにこと館へと急いだ。

「それ全部お前の手柄だけどな」

じっとりとこちらを見るカロルス様の視線には気付かないふりをして。



「美味い……実に、実に美味い……!!」

「本当に……私だけ良い思いをして帰ったら、エルベル様に怒られてしまいますね」

ジフが腕によりをかけて用意したたくさんの料理は、お好きなものをお好きなだけ、自由なロクサレンを象徴するブッフェ形式だ。お付きの人たちも一緒なのだけど、むしろ遠慮して食べられないだろうってことで、別のテーブルを設けてあった。

てっきりカロルス様みたいにがつがつ頬張るのだろうと思っていたのに、使者様モードに戻ったガウロ様は、不釣り合いなほど上品にカトラリーを操った。ただ、フォークがあまりに小さく見えて、つい二度見してしまうけど。

「カニは王都で食したことがあったが、ここでいただく方が美味いように思うな」

「そうでしょう、活きがいいものですから」

エリーシャ様が、こう言うので合ってるんでしょう? とちらりとオレに目配せした。王都でもそんなに有名になってるんだね。美食の村、ロクサレンって平和でいい響きだね。

「見た目も美しくて、こんなに美味しい。ヒトの国との交流が楽しみになりますね」

「いや参った、はっはっ、こんなのが食えるのはここだけだと思いますぞ」

ナーラさんはスリムなのに意外なほど、ガウロ様は大きな体に見合った量をたっぷりと。嬉しそうに料理を頬張った二人の顔は、何よりも雄弁に美味しさを物語っていた。


「ナーラさん、もう帰っちゃうの?」

楽しいお食事会が終わり、ではそろそろ、と切り出したナーラさんたちに、ちょっと眉を下げた。

「ええ、思わぬ長居をしてしまいましたが、エルベル様もやきもきしていることでしょう。ユータ様、またお城に遊びに来てくださいね」

「うん! 次に持っていくおやつは何がいいかなぁ」

「うふふっ! 毎回お土産を持ってこなくていいのですよ?」

ナーラさんが楽しそうに笑って、するっとかすかにオレの頬を撫でた。ナーラさん、少し重荷が下ろせたのだろうか。いつもの少し寂し気な雰囲気が和らいでいて、オレもうれしくなった。


見送るオレたちに上品に微笑むと、ヴァンパイア側の使者たちは霧となって消えた。

「ふう、腹がつらいな。さて、俺もそろそろ帰るか」

「おう、帰れ帰れ!」

ヴァンパイア側がいなくなった途端にソファーにだらけたガウロ様を、カロルス様が冷たくあしらった。

「お前、王都に顔を出せよ?」

「お断りだな。……あと、さりげなくユータをかばんに詰めるな」

ひょいと助け出されてぷはっと息をついた。ああ、びっくりした。舌打ちしてるけど、それ、普通に犯罪だから!


お庭に出てワイバーンとの別れを惜しんだら、ついでにガウロ様たちの見送りをした。

「じゃあな、俺たちは帰るが、何かあったら知らせを寄越せ」

「え……?」

さりげなく添えられた手に、きょとんとして巨体を見上げた。自然な動作で飛竜船に誘われ、もう一度ガウロ様を見上げる。これ、乗っていいの?

「待て待て待て! 人ん家の子を攫って行こうとするな!」

「チッ……」

こわ……オレ、さりげなく誘拐されちゃう……飛竜船には乗ってみたかったけど。



ナーラ:エルベル様はやきもきではなく、ヤキモチをやいてるかもしれませんね……

ユータ:大丈夫だよ! 今日のお料理、また持って行ってあげるから!

ナーラ:うふふっ



あさって23日はコミカライズ版の更新日ですよ!お忘れなく!!



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― 新着の感想 ―
[気になる点] カバンに詰められようとするユータが視覚的にどんなになってるのか、コミカライズでみたい…
[気になる点] 誤字がありましたので、前後の分を合わせておきます。 「うわあ~! 大きい! やっぱり硬いね~これでもドラゴンじゃないのかあ」 「こんなもんドラゴンと比べりゃヒヨコだヒヨコ!」 ガウロ…
[一言] 知らない人について行ってはいけません。 ……知ってる人にも迂闊について行かないようにw
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