33 意外と快適な旅路
ふああ~。いい気持ちでぐっすり休んだオレは目を覚まして伸びをした。窓から差し込む光がまぶしい。
目をこすりながら外へ出ると、振り返って朝日に照らされる『城』を眺めて思った・・・うん、やりすぎた。ラピスのラフティングのせいで破壊された森、その終着点にそびえ立つ城。なんか・・小さい魔王城みたいだ。これはバレたら怒られるな・・森の奥で良かった良かった。・・次はもうちょっと地味にしよう。
さあ、今日も頑張って歩きますか!
いつも通りフェリティアの魔力をもらって、歩き出すオレたち。歩きながら、ラピスに色々な魔法を使ってもらう・・もちろん小規模で。火魔法とか、目に見えてかっこいいなぁ、オレが使える風って目に見えないから地味な気がする・・派手な魔法覚えたいな。
それにしてもラピスは本当に発動が早い。オレに分かるようにゆっくりしているつもりらしいが・・。こういう『魔力操作』の習熟が、魔法の熟練度なんだろうな・・練習あるのみだ!戻ってチル爺たちをビックリさせよう、そう思うとわくわくしてきた。
ただ、索敵レーダーは常に発動して練習しているので、それに加えて魔素を感じる練習や魔力操作の練習をするのはなかなかにハードだ。頑張ってはいるが、今度は視界がおろそかになって石にけつまずいたりしている。何やってるの?とラピスがあきれ顔だ。
魔素を観察していると、色々と面白いことがある。水と火はそれぞれ違う魔素と相性がいいんだけど、氷と火はどちらも同じ魔素を使ってるみたいだ。重さで言うとちょうど真ん中あたりの魔素。火魔法と氷の魔法はどうして同じ魔素と相性がいいのかな?もしかして『熱』を操るって意味では、『熱魔法』って位置づけなのかも?そう意識すると発動しやすいかもしれない。ちなみにラピスは生命魔法が使えないらしく、これはどの魔素が向いているのかオレが確かめるしかなさそうだ。多分だけど、一番軽い魔素が相性良さそうだと思ってるんだ。
きらきらとした木漏れ日の中、今日は二人(?)でのんびり歩こう。こんな状況でのんびりなんて、おかしな話だなと思うけど、泣いても焦っても何もいいことはない。オレの中身は大人なんだから、余裕ぶってもいいじゃないか。きっと心配してくれているだろうカロルス様たちのことを思うと、ちょっと辛くなってくるけど・・何を考えても、今オレにできるのは少しでも先に進むこと。だから、余計なことを考えて立ち止まるより、建設的なことを考えるんだ。帰ったときに、きっと役に立つから。
うん、せっかくなんだから初めての森を楽しもうじゃないか!そう思ったら、鬱蒼とした森も・・・・楽しく、見える・・かも?
オレはふうふうと息をつきながら額の汗をぬぐった。歩くって言っても道があるわけでもなく、木々を避け、藪も避け・・てたら進めなくなるので、とりゃーとラピスが魔法で伐採して進んでいる。隠れる場所がたくさんあって結構なんだけど、あの熊以来魔物は寄ってこない。レーダーに映りはするけど避けて行ってる気がする。もしかしてラピスが強いと分かるのかな?
幼児の足にはなかなか辛い道のりに、うんざりしてくる。もう木々も含めてオレが通れるだけの道を拓いてしまおうか・・いやいや、無益な殺生・・・もとい森林破壊はしないと決めたんだっけ。地道に進みながらも、珍しい草花やキノコに目がとまる。採取したいけど、今採ってもしょうがないし・・帰ったら調べられるように、じっくりと記憶に焼き付けて進む。こんな時にチル爺が使ってた魔法がオレにも使えたらなぁ・・・あれはどこにどうやって収納してたんだろう?帰ったらぜひとも聞いてみよう。
帰ったらやりたいことがどんどん増えてきて、オレを励ましてくれる。こうして色々練習したり考えたりしなきゃ、辛い道程に挫けてしまいそうなんだよ・・。目の前で空中を跳ねる、ふさふさのしっぽを追いかけて、よいしょっと倒木を乗り越える。そうだ、何よりみんなにラピスを紹介しなきゃね!風魔法で補助してくれるラピスにありがと、とにっこり笑った。
先日覚えた土魔法は本当に優秀で、簡単な家具の類いなら作れるようになったので、旅の快適さが格段にアップした。ちょっと休憩するのに椅子とテーブルが用意できるし、夜は即席ハウスで快適な野営ができる。ふかふかベッドはないけど、土の土台に枯れ草や葉っぱを積めば十分な寝床だ。この辺りは多少肌寒いくらいの気候で安定しているから助かった。
この魔法とラピス、フェリティアのおかげで、大森林の奥地だと言うのに、オレはいたって順調に旅を続けていた。
幾日目か、今日も森を進んでいると、ふいに拓けた場所に出た。
「わぁ・・・。」
薄暗い森の中から、お日様のさんさんと当たる場所へ出て思わず目を細める。ゆっくりと開けた目に映ったその場所は、まるでおとぎ話の挿絵のようだった。ぽっかりと木々が途切れた場所には、まるで隠されるように小さな泉があった。こんこんとわき出る水で水面がゆらめき、きらきらと輝いている。辺りには濃い魔素が漂っていて、オレがよく使う・・生命魔法に相性のいい魔素が多そうだ。泉から少し下った先には、大きな湖があるようだった。
「気持ちのいいところだね・・。」
「きゅ!」
オレは泉のほとりにぺたんと座り、小さな手で水をすくってみる。冷たい水がとても心地よく、高い透明度の水は、泉の底の小石までよく見えた。悪いものは入っていないようだったので、そっとすくって喉を潤してみると、泉の清らかな魔素や、森の大らかな魔素まで吸収できるような気がした。そういえば、まともに水を飲んだのは久々かもしれない。いつも水と食料代わりになってくれているフェリティアにも、たっぷりとお水をかけてあげる。まだ夕方には早い時間だけど、こんな素敵な場所を見つけてしまったから、今日はここに寝床を作ろうかな。せっかくの美しい風景を壊したくなくて、泉から少し離れた場所に寝床を作る。ここは清浄な魔素で満ちているから、真逆の性質をもつ魔物は普通寄ってこないってラピスが言ってたので、思い切って窓を大きくとった即席ハウスにした。即席ハウスから泉を眺めつつ、魔力操作の練習をしていると、ラピスがちょっと出かけてくると言う。ここならオレを置いていってもまず大丈夫だから、昔住んでいた所へ一度戻ってみるそうだ。そっか、魔力が使えるようになったから戻れるようになったもんね。
・・・戻って、きてくれるよね?
「きゅきゅっ!きゅう!」
絶っっっ対に戻ってくるから、この場所から動かないように!・・絶対!!!・・と念を押された。なんか、カロルス様にも前に似たようなこと言われたような・・。オレってそんなにふらふらどっか行きそう?落ち着いた子どもだと思うんだけど・・・。
じゃあ行ってくるよ、何かあったらすぐに呼んでね、すぐにね。そんなことを繰り返し言いながら、ラピスはポンッと軽い音をたてて消えた。オレとラピスの間には『繋がり』があるから、呼んだらすぐ分かるし瞬時に戻ってこられるらしい・・便利だな。
オレはうーんと背伸びをしてベッドに寝転がった。ラピスがいないときに魔法の練習は危ないので、できるのは魔力操作だけ。小さなラピスだけど、いないと随分寂しく感じる・・・オレは一人きりだったら、きっと今ごろ森の中で力尽きていただろうな。そう思うと、改めてラピスのありがたさを感じた。
やっぱりラピスのいない夜は少し不安で・・ちょっと早いけどオレは幼児の特権、いつでもどこでも睡眠を発動させることにした。
「いつもありがと・・・おやすみ、ラピス。」
読んでいただきありがとうございます!
なんとか更新できました・・






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