359 全ては美味しさのために
「ユータはいつもこんなだぞ!」
「お前達……これに慣れるのはよくないと思うぞ……」
テンチョーさんがぽん、とタクトの肩に手を置いた。失礼な……今回は魔法使いなんだから、これでいいの! ラキだってもう少し小規模ならできるはずなのに、そ知らぬふりをして目を逸らしていた。
まずはともあれせっかく作ったんだし、オレたちは地下に身を隠して待機することになった。
「すっごいのねぇ、君たち噂はかねがね……尾ひれがついただけってわけじゃないのねぇ」
「今日知れてラッキーだぜ……まだ低ランクだろ? 心置きなく誘えるな! 今度魔法使いが必要な依頼があれば頼もうかな」
驚かれはしたものの、しっかりと実力は認めてもらえたようだ。この程度ならできる魔法使いって結構いるもの、オレがまだ幼いからビックリされるだけだ。
「でもね~ユータ、普通は魔法使いは戦闘時にしか魔法使わないんだよ~?」
………それは忘れてたけど。
「えー、じゃあさ、料理の時はどうすんの? 火とかいつもユータがやってるよな?」
「普通に火を起こせばいいんじゃない~? 鍋とか、ユータ持ってきてるよね~?」
もちろん! その都度(ラキが)作っている時もあるけど、ラキの魔力はそう多くないので、きちんと調理グッズは収納に入れてある。
「お前らさぁ、料理しねーって選択肢はないわけ? 聞いちゃいたけど、マジで料理すんのな」
「ふむ、興味はあるな。実地訓練でも1年が伸びたのは料理のおかげだって話だ」
これは、ライグー討伐がうまくいったらみんなで野外ランチを楽しめるってことかな? ライグーが食べられないなら、もう少し他の獲物を探しておく必要があるかもしれない。
「きゅっ!」
『主ぃー俺様が戻ったぜ!』
ぽんっと空中に飛び出したチュー助を両手で受け止めると、シャキーンとポーズをとって誇らしげだ。これは朗報に違いない。
『ふふふ、どうだったと思う~? 俺様の活躍のおかげで! この……』
――ユータ、レシピもらってきたの!
ラピスがひょいっとチュー助の背中に刺さっていた筒を取り出して、オレに渡した。
くるくると巻かれた紙を広げると、はたしてそこには詳しいレシピがイラスト付きで記されていた。プレリィさんって絵が上手なんだね。
『俺様……俺様の手柄……』
『おやぶー、えらいえらい!』
『さっさと渡さないからよ……』
肩でめそめそしているチュー助をおざなりに撫でながら、熱心にレシピを読み込んだ。ふむふむ……なかなか面倒だけれど、処理次第で美味しく食べられるらしい。
「まずは、気付かれず臭いを発しないうちに倒す……でも、たくさんいるなら一撃目以外は難しいよね」
「ユータ、何見てんだ?」
タクトとラキが両側からオレの手元を覗き込み、顔をしかめた。
「え~、ユータ、食べるつもりなの~?」
「臭いって言ってたぞ……持って帰られないぐらい……」
体を引いた二人に、ムッと唇を尖らせた。
「これはね、プレリィさんのレシピだよ! プレリィさんみたいにはできないけど、きっと食べられるものにはなるよ! 『上手く処理すれば深いうま味と独特の風味がくせになる、最高の珍味』だって書いてるけど……二人は食べないの?」
ふふん、とレシピを掲げると、二人がごくりとつばを飲んだ。さすがプレリィさん、効果はばつぐんだ。
「――だからね、最初の一撃目で可能な限り――」
「――おう、そこで俺が――」
「――なら、ユータ、僕、タクトの順が良さそうだね~」
よし、オレたち『希望の光』の方針は決まった。
「ねえテンチョーさん、ライグーが来たらどんな風に攻撃するの?」
「そうだな、畑の持ち主には悪いが、しばらく数が集まるまでは様子を見させてもらう。ある程度集まったところで、なるべく私達魔法使いで多くを仕留めるしかないな」
「残りと、息の根があるヤツの始末は、俺たちが頑張るしかないんだよね……」
げんなりとした様子で、アレックスさんがきゅっと布きれで顔半分を覆った。タクトたちも、見よう見まねで布を巻いて、なんだか盗賊団みたいな有様だ。
「あ、来たかも」
複数の気配に上を見上げると、見張りをしていたモンリーさんが頬を膨らませた。
「どうして私より先に言っちゃうのよぅ~? みんな、来たわよぉ!」
ライグー、見たい!オレたちが見張り穴に押しかけると、モンリーさんがオレを抱き上げてくれた。
「わあ……思ったより大きいね」
「あんまし凶暴そうじゃねえな……」
「ライグーだもの~、凶暴じゃないよ~」
ネコくらいかと思っていたのだけど、秋田犬ほどの図体をしたたぬきっぽい生き物が、わさわさと森の方から集まって来ていた。
「かなりの数だな……一回の討伐では難しそうだ」
頭の上のテンチョーさんが、難しい顔をした。見え隠れするライグーは、既に10匹をゆうに越えている。こんな数で来られたら、いくら大きな畑でもあっという間だ。
「よし、そろそろ行くぞ。これ以上増えても打ち漏らすだけだ」
そろそろと穴から出ると、ライグーのぎゅうぎゅう鳴く声と、掘り返された土のにおいがぷんと漂った。
「……行くぞ」
静かにテンチョーが呪文を唱え始め、オレたちは顔を見合わせて頷き合った。
「みんな、目を閉じて!!」
行くよっ! 久々のぉ~……ハイ、チーーズぅっ!!!
あの時とは違う、魔法に慣れたオレの改良版ハイチーズ! 指向性のある強烈な閃光弾に、声も上げずにバタバタとライグーが倒れた。
パシュパシュ!
光が収まるか収まらないかのうちに、ラキの精密射撃! 確実に額を射貫いた数匹が絶命する。
「っしゃあ、行くぜ!」
「……あ、ちょ、ちょっと?! みんなも続けー!」
飛び出したタクトが、他には目もくれず、閃光で気絶したライグーたちのトドメを刺して回った。アレックスさん達近接組が慌てて後を追い、テンチョーさんの氷のつぶてがライグーたちを襲った。
「うっ……!! オレ、後ろにいるー!」
「僕も~!」
これはキツイ。これがライグーのニオイ……オレのが閃光弾ならライグーのこれは催涙弾だ。下手にニオイを吸引しちゃったら気絶するかも。慌てて地下まで避難すると、顔だけ出して風で臭いを散らした。
「お前ら、ズルいぞ-!」
タクトがぼろぼろ涙を流しながら畑の方で怒鳴った。
「タクト、最初に倒したライグーたちはこっちに持ってきてね~!」
オレたちはにっこり笑って手を振った。大丈夫、オレたちはここからでも攻撃できるから。
援護射撃をしながら戦闘の様子を見守っていると、ボン! と音がし始め、風船みたいに丸くなったライグーが1匹、2匹……これが、浮かぶってやつ?! なるほど、これはライグーにとっても決死の技だろうな。自力で動けず、ただただ浮かんで風に流される様は、まさに風船。何も殲滅しなくても、数を減らせば懲りて畑にはこなくなるだろう。中空に浮かんでぐるぐる回る姿に、少し哀れみを持って見送った。
パシュ、パシュン!
「あ……」
「なに~? ああなると的が大きいし当てやすいね~」
爽やかに微笑んだラキに、執事さんに似たオーラを感じて、オレは思わずぶるっと震えた。
「お前らも手伝え~」
全身で持てるだけのライグーを抱えてきたタクトが、ばたりとオレたちの近くで地面に転がった。目からも鼻からも口からも流れるもので、随分と無惨な姿になっている。
「げっほ……おえぇ……俺もう行きたくねえ」
「ちょっと、タクトくさい~。あっち行って~」
ラキの辛辣な台詞に苦笑しつつ、オレも正直クサイ。よし、丸洗いだ。
タクトの口に水中呼吸の魔道具をねじ込むと、側に放り出されたライグーごとぬるま湯につけ込んで、洗浄魔法をかけた。
タクトは一瞬驚いたものの、随分心地よさそうだ。
「おお……臭くなくなった! サンキュー! で、こいつらはどうする?」
どうやら討伐の方も終わりのようだし、ここからオレの出番かな!
「ここからは任せて!」
腕まくりしてにっこり笑うと、モモがやれやれと揺れた。
『あなたに任されたのは魔法使いって役目じゃなかったかしら……』
ライグー討伐は下っ端の仕事……
危うく討伐までいかないかと思ったけどなんとかいけた……
今日の23時にプレゼント企画が終了なので、告知のためにちょっぴり早め投稿。
間に合う方もいるかな~と思いまして。






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/