表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

362/1036

閑話 W.D.


『ねえ、相談があるの……』

――モモ、どうしたの?

『俺様役に立つー!』

『どうしたの~?』

『ん、相談のる?』

ユータの心地よさそうな寝息の中、何やらこそこそと相談が始まった。



「よ、ユータ! おはよ」

朝早くから聞こえた元気な声に、オレはなんとかまぶたをこじ開けた。

「うーん……早いねぇ、おはよう……タクト、どうしたの?」

どアップで目に飛び込んできたのは、タクトの満面の笑み。オレ、2段ベッドの上なんだけど、元気なタクトはひょいと懸垂で上ってオレをのぞき込んでいた。

「ほら、これやるよ!」

「うむっ?!」

ほやほやと緩んでいた小さな口に、タクトの指ごと何かがねじ込まれた。

「お前、朝寝坊だから食ったことないだろ?」

目を白黒させるオレに、にっ! と大きく笑うと、ぱくっと自分の口にも一つ放り込んだ。

「美味いだろ? モーニンナッツ!」

口の中で保留していたものは、食べて大丈夫らしい。カリリと歯を立てると、アーモンドみたいな心地よい歯ごたえに、とろりと蜂蜜のような甘味が広がった。

「わあ……甘い! おいしい!」

「この時間でギリだぜ! もうすぐ硬くて苦くなっちまうんだ。」

モーニンナッツは早起きのご褒美って言われる果実で、早朝に採ってすぐに食べないと、みるみる水分が抜けて硬く、苦みが出てしまうそう。朝の苦手なオレが日の出前に採りに行けるはずもなく、食べたことなかったんだ。

「モーニンナッツってこんなに美味しいの……! これ、タクトが採ってきてくれたの? ありがとう!」

「おう! 今日はお礼の日だって言ってたからな!」

「お礼……?」

ぐいっと押し付けられたモーニンナッツをもぐもぐしながら首をかしげる。お礼の日ってなんだろう。


「二人とも、早いね~。僕も、はい、お礼の日~」

大き目の箱は、タクトに向かって投げられた。難なく片手でキャッチしたタクトが、ほらよ、と渡してくれる。

「あ、重いね? これなあに? ……わあ! 作ってくれたの?! ありがとう~!!」

丁寧に開けた箱の中に入っていたのは、すり鉢セットとトング! 以前説明したのを覚えててくれたんだ! この溝の細かさ、オレだとこんな上手に作れないもの、すごく嬉しい!

「二人ともありがとう~! すっごく嬉しい! ……だけど、どうして? 何か特別な日? なんのお礼なの?」

戸惑うオレに、二人がにこっと笑った。

「お前の国の習慣なんだろ?」

「この間、『感謝の日』に綺麗なお菓子もらったから~」

感謝の日……? あ、ああ!! バレンタイン! そっか、今日はホワイトデーだ! クッキーをあげただけなのに、ちゃんとお返ししてくれる二人に、なんだかくすぐったくなった。


「ただいま~!」

「おう、ユータ! ちょっと来い!」

家に戻るなり、ガシッと鷲掴みにされて庭へと連れ出された。

「なになに? どうしたの?」

「お前、剣技見たいっつったろ? 見せてやろうと思ってな! 礼になるか?」

ホントに?! すっごくなるよ!! もしかしてカロルス様もホワイトデーを知ってるの? オレは大喜びでカロルス様に連れられ、人気のない海岸へやって来た。

「周りに斬ったらダメなヤツはいねえな?」

「おっけー! 大丈夫!」


海に向かって構えた真剣な横顔は、もうそれだけで格好良かった。ドキドキしながら見つめる前で、短い呼気音と共に、一瞬、空気を裂いた音がした。

「す、ごい……」

まるでケーキにナイフを入れたように、沖合まできれいにまっすぐな線が引かれていた。剣による、超遠距離攻撃だ……カロルス様は、どのあたりまで攻撃を届かせることができるのだろう。


そのあと、いくつかの技を放ったところでおしまいだと言われ、見惚れていたオレはハッと我に返った。

「カロルス様、ずるい!! カッコイイ!」

どうしようもなく格好良くて、悔しかった。力任せに抱き着いたオレを、カロルス様はこともなげに抱き上げて笑った。

「ふふん、そうだろう。俺はカッコイイぞ」

にやっと口の端をあげた、いつものワイルドな顔に、いつかオレもこんなふうにと思わずにはいられなかった。


「おや、帰ってらしたのですね。ユータ様、こちらをどうぞ」

「うわあ~執事さん、この本どうしたの? オレ、もらっていいの?」

「ええ、冒険者時代のもので申し訳ないのですが」

執事さんが手渡してくれたのは、様々な地方について書かれたガイドブックみたいな本だ。そこには、実際に訪れた執事さんのメモが事細かに書かれていて、さらに充実した内容になっていた。こんな貴重なもの、もらってしまっていいんだろうか。

「ありがとう……いいの?」

「ええ。お礼の日、ですから」

人差し指をたて、さりげなくウインクした執事さんは、とても様になって素敵だった。今度、オレも練習してみよう。


「あ、ユータだ! お礼しなきゃ、だね!」

廊下で出会ったセデス兄さんが、そう言うなりスッと口を閉じてクールな顔をすると、ばちんとウインク、そして投げキッス。

「………?」

えーと、オレはどうしたらいいんだろう? セデス兄さんは、いつものへなっとした表情に戻ると、首を傾げた。

「どう? これ、いっぱい練習させられたんだよ! お礼ってこれでいいんでしょ?」

「??」

うん? お礼はなんでもいいけれど、どうしてそうなっているのかは知りたい。

「え? だってさ、学校でたくさんプレゼントもらうからさ、みんなにおそろいがいいだろうって思って、ちょっと珍しいエストドンの脊椎をばらして配ったんだよ。そしたら、次からはこれでいいって練習させられたんだ」

再び真顔で、ちゅっとやるセデス兄さん。

「プレゼントって、女の子から……? そのお礼に、脊椎……?」

「そうだよ」

ああ……残念……うちの兄が残念すぎる……。どこの世界に魔物の脊椎をもらって喜ぶ女子がいると……おそろいって……そうじゃない。

「楽しいと思ったけどなぁ、みんなで集まったら、一体分の脊椎骨格が出来上がるんだよ?!」

「う……うん」

楽しくないこともないけど、きっとセデス兄さんに求められているのはソレじゃない。



「エルベル様は、もらって嬉しい? 脊椎」

「嬉しいわけないだろう! ……ヒトは変わっているな」

セデス兄さん、どうやらヴァンパイアにも受けが悪いみたいだよ。

「じゃあ、これは?」

キリッ! と顔を引き締めると、くるっと回ってチュッ! どう? カッコイイんじゃない?

「ぶはっ!! それはなんだ?! 笑える……!! なんだその顔!」

オレの渾身の王子様投げキスに、エルベル様が腹をかかえて笑った。素早くそっぽを向いた、グンジョーさんの背中が大いに震えているのも気になる。

「カッコイイでしょ?!」

「そんなわけあるか!!」

ぶすっとむくれたオレに、エルベル様がつんと顎を上げて立ち上がった。

「こうだ、こう」

ばさっとマントを翻し、スッと艶やかな流し目と共に、優雅でスマートな投げキスひとつ。キラキラと銀粉が舞いそうな所作に、悔しいのも忘れて拍手した。

「うわ~すごいね! 王様って投げキスの練習もするんだ! ねえ、どのくらい練習したの?」

「そんな練習するわけないだろう!!」

うそだー! 絶対してるよ! 真っ赤な顔でむきになるのがまた怪しい。

「……お前、これ、いらないんだな?!」

赤い顔のエルベル様をからかっていたら、何やら美しい箱をちらっと見せてきた。

「何それ? くれるの?」

「お前の使い魔から聞いたぞ。お礼の日だと」

ん? もしかして、みんながホワイトデーを知っていたのって、モモたちのせい?

「その、グンジョーたちが、お前にはこういうものの方が喜ばれるだろうと……こんなものでいいのか?」

差し出された箱を開けてみると、そこには様々な調味料がたくさん詰め込まれていた。

「わ、わあ~!! すごい! 宝物だよー!! エルベル様、ありがとう!!」

箱を抱きしめて満面の笑みを浮かべたオレに、変な奴だとエルベル様は肩をすくめた。



「ねえモモ、みんなにホワイトデーのこと教えて回ったの?」

『あら、ばれちゃった。そうよ、だって渡すばっかりじゃつまらないじゃない!』

『主ぃ、『ギブアンドミー』が基本なんだぞ!!』

チュー助、たぶんそれ、ギブアンドテイクかな。でも、プレゼントの場合は適用されないと思うよ?

――ユータ、嬉しい? ユータが嬉しいと思ったの。

「ラピス、もちろん嬉しいよ! みんなもありがとうね!」

あとでいっぱいみんなとの時間を過ごそう。そう思って転移しようとしたところで、ぐいっと襟首をつかまれた。

「これでいらねー借りは返したからな!!」

「あれ? スモーク……さん……?」

叩きつけるように胸元へおしつけられたものと、射殺しそうなキツイ紫の瞳。オレの瞳は少なくともその間を5往復はした。

「じゃーな」

押し付けられたものを抱えて、オレは呆然と消えていった背中を見つめた。

「スモークさんが、花……? もしかして、ロマンチスト……?」

この花、あの強面で買いに行ったの? オレは花束を抱えてしばし動けなくなった。



「ねえ、ルーも今日のお話聞いてるの?」

「………」

「じゃあ、何かある?」

くすくすと笑って胸元に顔をうずめた。ルーは何も用意しっこないもの。あるわけねー、って言うと思って見上げたら、プイと顔をそらしてごろりと横になった。

「じゃあ、いくらでもブラッシングしろ」

特別だ、仕方ない、そんな雰囲気で堂々と横たわったルーに、吹き出しそうになるのを押えてブラシを取り出した。

じゃあ、お言葉に甘えて全身つやぴかにしてあげよう。それは果たしてオレへのプレゼントなんだろうか。そう思いながら、それでもこの毛並みに好きなだけ触れられるのは、確かにご褒美だろうなと納得して笑った。










バレンタイン閑話の時のアンケートに登場した人たち、全員集合!


いつも読んで下さるお礼に……ものすごい勢いで書いたので色々誤字あったらすみません!

こんな閑話書いて、とか、このキャラの話が読みたいとかあったらぜひ教えてくださいね~それを書けるかどうかは別として…(;^ω^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
[一言] セデス兄様のプレゼントに大笑いしました。 セデス兄様、脊椎パーツは同好の人だけにプレゼントにしましょう。 こちらの世界で言うところのプラモデルみたいな感じかな? 地層断面層レプリカとか鉱石標…
[一言] ユータが学校行ってる時のカロルス様御一同様がユータのやらかした後処理などのお話し。 天使像の管理どうしてるのかなぁ? 開発?した食べ物どうなったのかなぁ?
[一言] お疲れ様です。 お~ユータくんがお礼されてる! セデス兄さんものすごく何か違う…… ルー、それって……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ