351 突破方法
「ねえ、じっとしててもどうしようもないよ~どんどん集まってくるかもしれないし~」
時を止めていたニースたちが、ハッとした。
「うそっ! うそよね?! あれが……あれがそんなにいるなんて……無理無理ぃ!!」
「ど、どどどうしよ?! 俺ら群れ相手とか逃げるしかねんだけど?!剣士と弓使いなんだけど?!」
「もう一度寝たら違う朝が……」
リリアナ! 寝直そうとしないで!! でも、オレも思うよ……あれがてんこ盛りだなんて……悪夢以外の何物でも無い!
「ニースの兄ちゃん、俺らがついてるから大丈夫だぜ! 心配すんな! 虫なんかにやられたりしねえって!」
にかっ!と笑ったタクトが、剣に炎をまとって振り回して見せた。ニースたちの目に理性が戻り、期待を込めた目でタクトを見つめた。
うわあ、こういう時のタクトってカッコイイ。例え虚勢でも、揺るがず立つ姿は他人を鼓舞するものだなと思う。すごいね、カロルス様みたいだ。ただ、タクトが実戦で使うのは水の剣だけど。
「群れの魔物が苦手だと辛いよね~、大丈夫、魔法使いが二人と、魔法剣士がいるからね~」
ちらっとこっちを振り返ったラキが、『あと召喚士と従魔術師と回復術師と剣士』とオレにだけ聞こえるように言って、笑った。
二人とも、こんな状況なのに落ち着いているな。すっかり大人の冒険者顔負けだと思う。ニースたちは、オレたちの様子を見て、ごほんと咳払いした。
「そ、そうだな! よし、まずは生きて帰ることを目標に、作戦をたてようか! ち、ちなみに、この土壁どのくらいもつんだ? 今にも崩れてきたり……?」
「土壁は多分もたないよ! でも内側にシールドを張ってるから大丈夫」
一瞬引きつった顔をした3人が、ホッと胸をなで下ろした。オレだって無理だよ……ワースガーズって、一匹やそこらならまだ大丈夫だけど、たくさんは無理。
「魔法使い、万能……ほしい」
「あのね~魔法使いならみんなできるわけじゃないんだよ~?」
ふう、とため息をついたラキが、リリアナに釘を刺した。執事さんならできるけど、シールドも結構難しい魔法だって言うもんね。
「それで、ワースガーズだけど、数匹ずつならあたし達も特に問題ないよ! 群れがいるかもしれないって依頼だったもんね。ただ、いきなり四方を囲まれちゃうとかなり苦しいわけ」
「群れ相手なら、遠くから油と火矢で仕留める。よく燃える」
ワースガーズは火に弱いらしいし、別に強い魔物でもない。群れと言ってもアーミーアントみたいな巨大な群れになるわけじゃない、はずだったんだ。普通に出くわす分にはそこまでの脅威じゃない。ただ、ただ……見た目がアレなだけで。
「オレ、うじゃうじゃいたら嫌かも」
もちろん、討伐するつもりで来たのだからある程度は覚悟していたけど……多すぎるよね?! 田舎の家でよく見たんだよ、小さいワースガーズ。手のひらサイズになったところでちっともかわいいとは思えなかったけれど。それに、地球では別の名前で呼ばれていたけれど。
「なんで? 別にそんな恐ろしい姿じゃねえぞ? 普通の虫じゃねえ?」
分かってないな……アレは人類に植え込まれた恐怖の権化だと思う。妙に素早い動き、微妙に光沢のある姿、あの楕円の形。何がそんなに嫌なのか分からないのに感じる恐怖。それこそが、長らく人類を脅かしてきた証に他ならない。それが、それが山盛りたくさん………
「……ユータ、分かったから想像でダメージ受けないで~」
思わず青い顔をしたオレに、ラキが生温かい目でぽんぽんと背中を叩いた。
「そんなにか? お前、アリもクモも普通に倒してんのに」
そんなにだよ! 別に虫が苦手なわけじゃないもん、『アレ』が苦手なんだよ!オレはぶんぶんと頭を振って、幻影を払った。
「ひとまず、囲みを突破しないとどうにもならないよね~」
「竜巻とかで吹っ飛ばしたらいいんじゃねえ?」
タクトがちらっとオレを見て言った。そんなことしたら巻き込めなかったG……じゃなくてワースガーズが周囲にまき散らされる! 却下!
「全部燃やしちゃうとか?」
「シールドの中がどうなるか分からないから危険じゃないかな~?」
うーん、ある程度調整できるんじゃないかとは思うけど、燃える魔物に埋まったせいで一酸化炭素中毒なんて嫌だもんね。
「ね、ねえ、外がどうなってるかわっかんないしさ、ひとまず脱出ってことで、穴掘って出られないかなあ? シールドって下にもあるの?」
『あるわよ! でも移動できるから気にしなくて良いわ』
な、なるほど、まずは身動きをとれるようにすれば、戦力が確保できる! こんな立体的に囲まれてさえいなければなんとかなるもんね!
「確かに~! 派手なことをするより、その方が良さそうだね~」
みんなが一様に頷いて、方針が決まったようだ。
「よっしゃ、穴掘りか! 力仕事なら……」
「任せて!」
オレとニースが同時に名乗りをあげた。ここぞとばかりに立ち上がったニースには申し訳ないけど、魔法の方が早いから……。ぺたっと地面に手を着いて、なるべく小さく、ニースがなんとか入れる程度の穴を掘っていった。この程度の穴なら、ぎゅっと穴の壁に圧縮すれば土を運び出す手間もないし、崩落防止にもなってちょうどいいだろう。
「うん、問題なくいけそう。荷物をまとめて出発する?」
「おう………」
ニースの背中には、少し哀愁が漂っていた。ご、ごめんね……。
「せ、狭っ……ユータ、これ狭すぎねえか? 俺途中でつっかえたりしないか?」
おかしいな、オレは楽々通れるのに。しんがりのニースはあちこちぶつけて呻いていた。
「土の中でも索敵できるの? 先頭を行くのは危ないわよ」
ルッコの心配はもっともだけど、穴を掘っていくのがオレだから仕方ない。それに、ダンジョンなんかと違ってオレが掘っていく穴だもの、魔物が出てきたりしないはずだ。
『ユータ、あんまり離れると向こうのシールドが維持できなくなるわ。崩れたら、こっちの穴にもなだれ込んで来るわよ』
それだけは勘弁してほしい!! あーオレ、先頭で良かった……。ふう、とひとまず安堵の息をついたものの、そんなリスクを負いたくはない。万が一崩れたら、このトンネルの入り口を埋めるしかないだろう。空気がどのくらいもつか分からないけど、そうなればもう一気にトンネルを通して駆け抜けよう。ニース、しんがりは頑張ってね。
そんな不吉なことを考えつつトンネルを掘り進めていると、スカッと手応えがなくなった。
「あれ……?」
「どうしたの~?」
浮かべていたライトを手元に持ってくると、ぽかりと大きな穴が空いていた。地下に空洞があったんだろうか?どうやらオレが掘り進めたトンネルは、別の横穴につながったようだ。
「広い……?」
「おお、腰が伸ばせるぜ~助かった!」
これ幸いと、空いた穴から広い横穴に侵入すると、リリアナがきょろきょろと周囲を見回し、ニースが思い切り伸びをした。
『ユータ! 向こうが崩れるわ! 穴を塞いで!』
「!!」
電光石火の早業で、オレは一気にトンネルを埋めた。ふう……これでこちらへなだれ込むことはないだろう。ちょうど良く別穴に出られた所で良かった。
改めてライトを増やして見回すと、そこは大人が3人は余裕を持って並んで歩ける広さをもった、坑道のような場所だった。古い鉱山の跡地か何かだろうか。少し湿っぽくて、まるで下水道みた……いな……?
「ね、ねえねえ、あたしちょっと嫌な想像しちゃったんだけど……あたし達が必死に探して見つけられなかったワースガーズ、どこからあんなに来たのかなーなんて」
ルッコがだらだらと汗をかきながら、あはは、と力なく笑った。
「さあなー、急に増えるワケねえんだからさ、どっかに隠れてたんだろうけどよ」
「だから、どこに……?」
「岩ばっかで隠れるとこなんてなかったよな、天に昇ったか地に潜ったか、なんつっ……て……?」
タクトが、あちゃーと額に手をやり、ラキが苦笑した。
――ユータ、やったの! 巣穴見つけたの!
ラピスが嬉しそうに言った。
リリアナ:やっぱりもう一度寝たら……
ニース:俺も寝てみよっかな……
ルッコ:ちょっとぉ……。じゃあ、あたしも……目が覚めたら全部きっと夢……
タクト:兄ちゃんたち何してんだよ……
ラキ:もう置いて行っちゃおうか~
いつも読んでいただきありがとうございます!
2話くらいで終わると思っていた話が延々と延びていくのはいつものことですね……






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