32 無自覚な小動物
「はあ・・はあ・・。」
全身ずぶ濡れになりながらオレはうつぶせに地面にすがりついていた。ああ・・動かない大地って素晴らしい。突如森林を駆け巡るラフティングツアーを決行されたオレは、精魂尽き果てていた。同じく隣で腹を丸出しで仰向けになっているのはラピス。へぇへぇとこちらも荒い息をしている。そりゃああれだけド派手に魔法を使ったらそうなるだろう・・。こんなちっこい体でよくあんな豪快なことができるもんだ・・もしかしなくてもラピスってスゴイよね?あんな魔法が使えたらそうそう怖いものなんてなさそうだ。
オレは小動物を保護したつもりで、ライオンでも連れてきちゃったみたいだ。こんなに心強い仲間ができるとは・・。欲を言えばもうちょっと細かい魔法を覚えてほしいけども。
ものすごく大変だったけど、強制ラフティングで確かに大幅に距離を稼ぐことができたので、手段としてはアリなのかも知れない。もうやりたくはないけどね。カゴの中のフェリティアが無事なのを確かめてホッと一息、確認がてら回路を繋いで魔力の受け渡しをする。ついでにラピスにも魔力を流してあげると、気持ちよさそうにして起き上がった。
「ラピス、すごいね・・こんな魔法がつかえるなんて おもわなかったよ。」
がんばった!と鼻をつんと上へ上げて胸を張るラピス。そっか・・確かに頑張ってはいたよな・・。ちょっとばかり恨みをこめて手のひらでコロコロ転がしてやると、きゃーきゃー嬉しそうだ。
「くしゅん!」
少し日が傾いたせいか、ずぶ濡れの体が冷えてきた。これはダメだな、こんなところで風邪引いたりしたらマズイ。服を乾かさないといけないけど・・・ラピスに頼んだらオレのローストができそうな気がしたので遠慮して、風を使ってなんとかならないかと試行錯誤をはじめた。ただの風でも乾くだろうけど、猛烈に寒くなってしまうので、温かい風・・・そう、はっきり言ってドライヤーがほしい。
最近気付いたんだけど、魔法ってはっきりイメージできる名前をつけた方が、現象が安定するんだ。強力な光の目つぶしを、「はいチーズ」で発動するのも、全身を色とりどりに光らせる時に「イルミネーション」って言うのも、効果を確実にスマートに発動するためだ。オレはドライヤーと言えば、その風を確実にイメージすることができる。だから・・
『ドライヤー!!』
ぶわわーっと温かな風が吹く。ほらね!絶対にイメージできるものなら、そのしっかりとしたイメージと、名付けみたいなもので結構簡単に発動できるんだ。もちろんきちんと適正な魔力を集めて操作できるっていう前提がいるけども。オレはちょっとだけ魔法の発動方法が分かったかもしれない。この機会に風以外にも色々練習してみようと思った。
ドライヤーで全身乾かしたら、しばらく休憩しながら街の方角を確かめていたんだけど、結局あのひと時の森林ラフティングで1週間分くらいの距離を稼いだんじゃないかな?・・通ってきた道筋がありありと分かる森林破壊の跡から目を逸らしつつ、ラピスの魔力に余裕があればまたやってみようかな、なんて考えた。
さて、暗くなる前に寝床を確保しようと、疲れた体を起こして辺りを見回す。ここはちょっと峡谷の壁から離れた森の中なので・・あれ・・どこに隠れよう?森の中で眠れるようなとこなんてあるかな?夜中になっちゃうけど頑張って壁の方まで歩くべきだろうか。夜中でも視界の確保ができるオレは、暗くても特に問題は無いのだけど、なんとなく魔物って夜の方が活発な気がするし、危険かな・・。
うんうんと考えていたら、どうして壁まで行くの?と、ラピスは不思議そうに首を傾げている。
「オレは かくれて寝ないと、魔物に食べられちゃうでしょ?ラピスと会ったときみたいに、すきまに かくれたいんだよ。」
そっか!じゃあここに壁作ろう!
楽しそうにポンポン弾みながらそんなことを言い出すラピス。そんな、パンがなければお菓子を食べればいいじゃないみたいな・・・作るってまさかここに峡谷をどーんとやったりしないだろうね?!
「待って待って!」
やめてあげて!もうこれ以上森林破壊したらダメー!魔物にも動物にも、きっと生態系のアレコレがあると思うよ・・。でも・・待てよ?壁を作るのはやりすぎだけど、土魔法があれば、それで隠れ家的なものを作れるんじゃないの?
「ねえ、ラピス。オレにその魔法教えてくれる?これくらいの小さい壁・・土の塊をちょっとだけ作れる?」
これくらい、とオレの背丈の半分くらいを示す。
「きゅ!」
わかった!元気に答えたラピスは、すぐさま魔法を発動させる。早いなぁ・・魔素集めるのも発動も一瞬だ。これが呼吸するように魔法を使うってことか・・オレの目の前に瞬く間にできあがった土の塊。ほほう・・こんな風に発動させるのか。地面から急にわき上がるように出現するのは不思議としか言い様がない。分かったような分からないような・・なんとなく、集める魔素に違いがあるのかな?風や光を発動するときにオレが集めてる魔素より、なんというか・・重い?そんな感じがする。もしかして魔素って色んな種類があるんだろうか?
魔素には種類がある、と仮定した上で改めて観察してみる。
「おおー。魔素っていろいろある!」
ラピスが、そうだよ?と不思議そうな顔をしている。いつもオレが集めてる魔素は軽い方だ・・軽い魔素を集めて聞いてみる。
「ねえ、こっちの魔素で土の魔法は使えないの?」
使えるけど・・、とラピスは軽い魔素をさっきと同じくらい(だと思う)集めて発動させると、瞬時にできあがった土塊。
「おお!・・あ、あれ?」
こうなるよ!とラピス。オレの目の前にはさっきと同じく土の塊があるけれど、さっきより明らかに小さい。
こっちのは、土を使うのに向いてないの。どうしてわざわざこっちを使うの?心底不思議そうな顔でオレのほっぺをすりすりする。そうか・・魔素にも向き不向きがあるんだな。集める魔素を変えるだけで省エネになるなんてすごく便利だな!教えてくれてありがとう!ラピス先生!!
そうこうするうちに日が陰ってきたので、さっそくラピス先生のもと土魔法?を練習する。重い魔素を集めて、しっかりイメージして・・・とりゃ!
「おおー!!できた!」
ラピスの5倍くらい時間がかかったけど、オレの目の前には小さな倉庫くらいの大きさの土塊が出現した。けれど中身はがらんどうで、一方は穴が開いている。さながら洞窟を壁ごと取り出してきたような有様だ。うんうん、イメージ通りだよ!不格好だけど、今できるのはこれぐらいで精一杯。単純だけどこれってすごく便利だと思う!雨露はしのげるし、身を隠せるし・・・まぁある意味すっごく目立ってるけどね。
さて、かなり固いモノをイメージはしたけど、強度はどうかな?辺りに落ちていた棒を拾って叩いたり突いたりしたけどびくともせず、台風程度の風も大丈夫だ。これならひとまず安心じゃないかな?
ふふふ~『どこでも洞窟』できあがり!オレはうきうきしながらさっそく中に入る。
ごく小さな空間だけど、四方を囲まれてるって安心感あるなぁ・・オレはどうにも小動物タイプらしい。豪快に野外で眠れる強者にはなれそうにないよ。うん、とりあえずこれでもいい気がするけど、入り口がぽっかり開いてるのがちょっと不安。これって後から塞げないのかな?一旦出てから壁に手を当て、もう一度土魔法を使ってみる。
「おおー!」
ずむむ、と音がしそうな様子で穴が埋まっていく。これはいいな!ついでに穴を開けて簡易窓を作ってみると、こちらも問題なく操作できる。むしろオレが作った土塊だからか、粘土みたいにとっても操作しやすい。こ、これは・・楽しい!
ラピスにほっぺたをたしたしされてハッとすると、辺りは既に真っ暗だった。
土魔法の楽しさに、つい我を忘れて夢中になってたみたいだ・・・・魔物のいる夜の森で。オレって・・幼児だな。ちょっぴり反省しつつ、警戒してくれていただろうラピスにお礼を言う。ラピスはなんだか生温かい目でオレの目の前の土塊を見ている。
「えへへ、ごめんね!楽しくってつい。どう?!」
ラピスはそのままの瞳でオレを見て、よかったねーと言った。やれやれ、楽しそうで何より・・そんなおじいさんみたいな気配が伝わってくる。くぅっ!きつねには分からないのか・・・オレの力作!
オレは目の前にそびえ立つ土塊を眺めて満足げに頷くと、中に入った。
「うん、上手くできてるよ!次はどんなのにしようかな・・」
森の中に突如そびえ立った小さな城。シ○デレラ城をイメージした西洋風のお城は、人工物のない大森林の峡谷の中、あまりにも異様で・・怯えた魔物が避けて通るエリアとなるのだった。
読んでいただきありがとうございます!
ストックも尽きているので、今後更新頻度が下がると思いますが、なるべくまめな更新を心がけますね!