29 何事もまずは挑戦
そういえばラピスは何を食べるんだろう?
聞いてみたら、魔力!としっぽを振って元気に答えた。普通に食べ物も食べるらしいが、基本的に魔力を摂取できれば生きられるそうな。だからたった1匹で生き延びてこれたんだな・・オレの魔力はすごく美味しいらしいので、最初は魔力目当てに付いてきていたみたいだ。
魔力で生きていけるなんて便利だな~。オレは空を仰いで切なくさえずる空きっ腹をさすった。
いや・・何だってやってみればできるかもしれないじゃないか。
空きっ腹に耐えられないオレ。ラピスができるならオレだってできる・・・・かもしれない!そんな暴論にたどり着く。そういえば・・ドレイン、あれは魔力の吸収と言えるじゃないか・・あれで空きっ腹がどうにかならないかな?でも、危ないって言ってたよね・・できればやりたくない・・ここに妖精涙滴があればいいのになぁ。あの時は普通にごはんを食べていたから気付かなかったけど、もしかしたら吸収できていたのかもしれない。あれが今のところ安全に試せる唯一のものなんだけど。
と、ラピスが、フェリティアがほしいの?と聞いてくる。ラピスの感情がオレに伝わるように、ラピスにもある程度伝わっているようだ。
「うん、オレもフェリティアから魔力をもらえないかなって。」
じゃあ探そう!と藪を飛び出したラピス。・・・探す?そうか、フェリティアはどこにあってもおかしくない世界樹の目。こんな人里離れた場所なら特に可能性がありそうだ!それに、すっかり忘れていたけど、オレは探索の魔法らしきものが使えるようになったじゃないか・・・それを応用したら、魔物が近づくのも分かるし、フェリティアだって探せるんじゃないか?あ、街の場所だってこれで分かる気がするぞ。
よし!魔力の網を広げよう・・・と張り切ったところで、ふわりと鼻先を漂った優しい香り。
えっ?と顔を上げると、すぐ近くの木の幹に・・フェリティアが・・自己主張するように魔力を香らせていた。
「な・・なんで?」
さっきそんなところに生えていたかな?あったら香りで気づくと思うんだけど?不思議に思いながらも、ありがたいことに変わりはない・・感謝しながらそっと両手で触れて回路をつなぐ。
「すごくおなかがすいたんだ・・少し、魔力わけてね?かわりにオレの魔力をあげるね?」
そう言って心地よい魔力を少しずつ分けてもらって、同じだけオレからも渡す。次第に全身が優しい魔力に満たされて・・ほうっと息をついて、そっと手を離す。
「ありがとう。」
とても心地よくはなったけど、お腹のほうは・・さてどうだろう?
「んん?・・・・おなか、すいてない。」
ほ・・ほんとに??自分でやっといて何だけど、まさか本当に可能だとは思っていなかった・・。お腹いっぱいにはならないけれど、何というか・・空腹感も渇きもなくなった。食事をとった満足感はないので、何となく物足りないが、ここでそんな贅沢を言っても仕方ない。おお・・・オレ、霞を食って生きる仙人みたいだ・・これって冒険するのにすっごく優秀な能力じゃないか?何せ食料も水もなくてもフェリティアさえあればなんとかなる。俺って冒険者に向いているのかも!ちょっとわくわくしてきた。
フェリティアさえあればなんとかなるってことが判明したので、また周囲の蔓を使って簡易肩掛けカゴを製作すると、声をかけてみた。
「世界樹さん、一緒に行ってくれる?きっといろんな場所が見られるよ。」
頷いてくれたかは分からないけど、一応お願いしてから採取した。
「さて・・・・じゃあ、歩こっか!」
「きゅきゅ!」
ラピスの先導に従って、2歳児は歩き出した。この世界での、『家』に帰るために!
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カロルス様、お労しや・・今日も一睡もされていないのだろうか?そう思いつつ私も眠れずに、白々と明けていく窓の外を眺めている。あの子が来てからまだひと月やそこらなのに、こんなにも我々の心に影響を与えていたのかと、改めて思い知らされる。なぜ、こども一人守れなかったのか・・あの花開くような笑顔が、弾むような声が、もう二度と帰らぬものだなんて。タジルはまだどこか呆然としている。自分は助かり、守護していたはずの幼子が助からなかった。中々事実を受け入れられないようだ。
ガンゴン!!
突然乱暴なノックの音が響いた。こんな叩き方をするのは一人しか知らないが・・・
「おう!お前ら、いつまでもへこんでんじゃねえぞ!」
やはり、カロルス様?ガチャリと扉を開けて入ってきたのは、昨日までと見違えるような活力に溢れたお姿。一体、何があったのだろう?
「カロルス様?」
「・・おう。悪かったな、取り乱しちまって・・。色々と助かった。」
もう出るから準備しろよ、と声をかけて出て行こうとするカロルス様。その背中に問いかける視線に気付いたものか、少し振り返って言葉を続けた。
「・・・あいつから、伝言を受け取った。一人でも生きていけるから大丈夫、なんとかなるからそのうち戻る、だとよ。・・なぁ、あいつは奇想天外なやつだ、信じてみるのも面白いんじゃないかってな。」
そう言って閉じられた扉。私は思わず顔を覆った。なぜだろう・・・こんな馬鹿げた話はない。なのに、なのにどうしても胸の内から希望がわき上がってくる。あの子はどこまで底知れないのだろう・・残される者を思って伝言したのだろうか?ならば必ず戻っていただかないと。
「はは・・・アルプロイさん・・・。」
そこには瞳に光が戻ったタジルがいた。
「ふ・・・信じがたいな。」
そう言いながら、確かに身のうちに宿った希望を心地よく感じていた。
私たちは一旦領地へと戻ることとなった。その際、詳しい話を聞くためと称して谷にいた男を一人連れ帰っている。男は闇ギルドのある街から離れられるならと喜んでついてきたようだ。もちろん、自由の身ではない。
「知ってることならなんでも話すぜ。だから匿ってくれよ。」
それが男の条件だ。正直、なぜこんな男を連れ帰っているのか・・カロルス様のお考えは分からない。
館の前に着いてから、カロルス様は気合いを入れる。
「・・・おう、覚悟はいいか?」
「・・・・はい。」
ガチャリと先に玄関ドアを開くと、もの凄い勢いで何かが飛び出してきた。
「うぐっ・・!」
すんでの所でカロルス様が受け止める・・・それは・・・銀のお盆?
「・・・お帰りなさいませ。」
地を這うような声がかかる。ぼさぼさの髪に目をぎらつかせたメイドのマリーが、そこにいた。
「・・・・ユータ様は?」
既に館には知らせを送ってある。それを踏まえてこの状況なのだろう・・。殺意すら籠もったマリーの詰問に震え上がる私たち。
「ま・・待て!話を聞け!・・・・ユータは、戻ると言った。俺はあの後伝言を受け取ったんだ。なんとかなる、戻ってくると!!あいつのことだ・・・俺は信じてみようと思ったんだ。」
必死で言いつのるカロルス様。
「ユータ様が・・・・。」マリーは顔を歪ませ、音もなく立ち去った。
助かった・・マリーはここしばらく部屋へ籠もっていたらしい。幽鬼のような有様だったが、我らのように希望を取り戻してくれるといいのだが・・。
「あの男は地下牢へ入れておけ。あー情報の収集はあいつらに任せる。」
カロルス様はぐったりとして言った。
館は、灯が消えたようだったが、それでもカロルス様の受けた伝言は確かに希望をもたらした。あの子なら、きっと・・彼はそう思わせるものを持っていたから、信じられた。そして、カロルス様は言った。
闇ギルドを、許さない。
と。今はまだ闇ギルドの関与がはっきりせず攻勢に出られないため、まずは明確につぶす理由が必要だ。そのための証拠と大義名分がいる。館では久々に全使用人を集めての会議が行われた。
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