28 ラピスラズリ
手のひらに乗っかったきつねモドキをまじまじと見つめる。きつねモドキもまじまじとオレを見つめている。これも魔物?こんな小さくてかわいい魔物もいるんだろうか?危険だと思わなくて、思わず手を差し出したけど・・こんな小さくても人を襲ったりするのだろうか?
「・・・きゅ。」
・・かわいい。逃げないのでそうっともう一方の手を差し出して触れてみる。耳をぺたんとさせてちょっと姿勢を低くしたものの、されるがままになっている。
「うわぁ~ふわふわ!」
小さな体なのに、その白い毛なみはふわりと温かく気持ちいい。しっぽなんてもっふもふだ!でもどうしたのかな?逃げないけどオレ食べ物とか持ってないし・・・。
ザリ・・ザリ・・
ふと物音が聞こえて振り返った。
クウルルルウゥ・・・
大きなトカゲ?と目が合った。
たらりと冷や汗が伝う。体長は胴体だけで2mほど、ぺったりと四つん這いで体高が低いので、大きさの割に圧迫感はマシ・・だろうか?
・・・ど・・どうしよう?キミ、オレを食べようとしてるよね?
トカゲは簡単な獲物だと判断したのか、ぐわっと声を上げるとそのまま走り寄ってきた。ひいっ!速い!あんな大きいのに!!
「え・・ええーーい!」
強風を吹かせるが、ずっしりとした重量級のトカゲには人ほどの効果はない。少しはスピードが遅くなったか・・
「はいっチーーズぅっ!!」
必死に後ずさりながら、間抜けな掛け声をかける。パシャリ!!そんな効果音が聞こえてきそうな雰囲気で強力なフラッシュが光った。強力な光を瞬間的に発動させるイメージ、それに一番合うのがこの掛け声だったんだよ・・。
ギャウッ!!
トカゲが驚いて転がり回っている。目が見えなくなったんだろう・・・今のうちに!!
走って走って森の中へ逃げ込んだ。トカゲは岩石っぽい体をしていたので岩肌むき出しの辺りに住んでいるのだろう。森の中に入って一息ついて、手を開いた。
「きゅきゅう!」
きつねモドキが飛び出してくる。一人(?)で逃げたらいいのにオレの方に飛び込んできたので思わず一緒に逃げたんだ。何が気に入ったのか、オレのそばに着いてくる小さなきつね。そのうち巣に誘い込まれて大勢のきつねに食べられる・・・なんてことにならないよね??
「どうしてついてくるの?オレといる方が危ないと思うよ?」
「・・きゅ!」
何か言いたげにするけど・・ごめん、分からないよ・・。肩に乗っていたきつねは、もふっとしたしっぽでオレのほっぺたをぺしぺしとやると、ぴょんと飛び上がって・・・・あれ?浮いてる。
「きみ、飛べるの?!すごい!」
目を輝かせてふわふわ漂うきつねを見つめたが、ほどなくひょろひょろと落ちていく。慌ててキャッチすると、どこか疲れた瞳でオレを見た。飛んでいる時は妖精みたいに光っていたのに、今は光ってない。でも、よく見るとうすぼんやり光を纏っている・・かな?もしかして、弱っているのだろうか?
「どこかわるいの?治してあげられるかどうか分からないけど・・・やってみる?イヤだったら逃げてね。」
そう言うと、手のひらのきつねと回路を繋いで体の状態を探る。何をしているか分かるのだろうか?きつねは目を閉じてじっとしている。
悪いところはないように思うんだけど・・・ん?一部にちょっと気になるところがあった。魔力は通るけれど・・・その道が極端に狭くなっているところがある。異常、と感じるけれど・・広げてしまって大丈夫だろうか?もう一度、イヤな感じがしたら逃げてね、と声をかける。
きつねは逃げない。・・・では、オペを開始する!お医者さんになったつもりで、テレビで見た血管の手術を思い出しながら魔力を操作する。と言ってもオレが手術なんてできるわけない。やろうとしてるのは、血管に風船を入れて狭くなったところを広げるっていうやつだ。細くなった部分に魔力を通すと、ゆっくりと押し広げるように・・風船を膨らませるイメージをする。そうっとそうっと・・周囲と違和感がない所まで広げたら、しばらく生命魔法を載せて回路をまわす。うん、大丈夫そうだ・・・今はきつねも妖精さんのようにふんわりと光っている。
「・・終わったよ?」
きつねは閉じていた目をそうっと開くと、ぐるぐると手のひらの上でまわった後、まんまるな目でオレを見つめた。
「どう?大丈夫?」
心配になって尋ねてみると、
「きゅきゅーーー!!」
その場で数回ジャンプして空中へ飛び出し、興奮して走り回っている。良かった、すごく元気になったみたい。
ぼすっ!はしゃぎまわったきつねがオレの胸元に飛び込んだ。手のひらに乗せると、ちょこんと座ってもどかしげに、たしたしとオレの手のひらを叩いている。
な・・なに?きゅうきゅう言いながらもう片方のオレの手を引っ張ってくると、きつねを両手で持つような形にして、再びたしたしとオレの手を叩く。
うーん?さっきみたいに魔力を流せって言ってるのかな?
とりあえず回路を繋いでやると、今度はきつねの魔力がはっきり感じられた。きつねはじっと目を閉じて何やら真剣な様子だ。お?オレの魔力を誘導しているみたい。きつねは集中した様子でオレの魔力を誘導して・・・ん?
何か、カチリ・・とはまった気がした。カギと鍵穴が一致したような、そんな感覚がする。いつの間にか目を開けていたきつねが、何か言いたげにじーっとオレを見つめている。このカギをまわして、開けろってことかな?
首を捻りつつ、はまったカギをまわすイメージをする。その瞬間、ぶわりとオレときつねが光に包まれた。
「きゅうううー!!」
やったー!という喜びの感情がきつねから伝わってくる。痛くもかゆくもないけれど、これは一体何事??
「きゅきゅ!」
ありがとう、とよろしく、という感情が伝わる。なぜかきつねが言ってることが感覚的に分かるようになっていた。えーと、契約・・なにか、きつねと一緒にいる契約をしたらしい。したというか半分させられたというか・・まあいいか。オレも一人で心細かったので、仲間ができてとても嬉しい!
「ありがとう、よろしくね!」
オレは小さな仲間に頬ずりした。ふわふわした柔らかい毛並みが気持ちいい・・ぴこぴこ動く耳がくすぐったかった。
オレたちは藪の中に身を潜めると、これからどうするか相談する。まずはこの峡谷から出ないといけないけど・・もし谷を登れたとして、あの広大な森だ・・魔物に食われる未来しか見えない。悩むオレに、ラピスがどうしたの、と尋ねる。きつねの名前はラピスラズリにしたんだ。きれいな青い瞳だし、オレが好きな石の名前をつけた。ちなみにラピスは魔物ではなく妖精の仲間らしい・・チル爺に聞きたいことがまた増えた。
「オレは悪いやつらに つれてこられたんだ。だから、おうちにかえりたいんだよ。」
そう言うと、ぴょんと飛び上がったラピスが、じゃあ帰ろう!と言う。いやいや、オレは飛べないからね・・街がどっちかも分からないんだよ・・。あれ、もしかして・・ラピス、分かる?
分かる!と嬉しそうにすると、ラピスはさっそく飛んでいこうとする。待って待って!
「オレは飛べないんだって!それに、まものがたくさんいるでしょう?」
ぼくがやっつけてあげる!・・フンス!!と鼻息荒く胸をはったラピス。う・・うん・・ありがとう・・。でも、ちょっと腰を落ち着けて話をしようか。
とりあえずラピスのことを聞いてみる。ラピスはこの峡谷で細々と暮らしていたらしく、結構詳しいみたいだ。まだ生まれて1年くらいで、元々ほとんど魔力がなかったけど、魔力の豊富なところで生活していたから大丈夫だったんだって。でも、半年ほど前に『魔力の道』から落っこちたらしい・・自分では魔力がなくて道に戻れなくなったので仕方なくここで隠れ住んでいたと。この峡谷は大型の生き物や魔物が少なくて、比較的安全らしい。なら、この峡谷を通って街まで近づけるだけ近づいてしまうのが得策だろうな。
ぐうう・・
藪の中に間抜けな音が響く。うう・・考えないようにしていたけど、お腹空いたなぁ・・。
やっともふ成分出てきました。