309 遠いか近いか
秘密基地の構想について、妖精さんたちも交えて相談の結果、大体の方針が決まった。あとは、実現に向けて少しずつ改良と、お金を貯めて設備を揃えていくことかな!
「しかし殺風景じゃの、地下じゃからといって植物がないでは寂しいのう」
「でもお日様が当たらないと難しいでしょう?」
ちなみにチル爺の声はタクトたちに聞こえないので、健気なシロが一生懸命翻訳してくれている。
「ダンジョンの草は?あれ持って帰れねえの?場所によっては木も生えてるって聞いたぞ?」
そういえばそんな話も聞いたような。あ、それならヴァンパイアの隠れ里!あそこは植物もあったんじゃないかな?
「ダンジョンはのう……魔素の流れがあるから難しいかもしれんのう」
「じゃあ魔素の流れがあれば地下でも植物が育つ?」
魔石とか使ってなんとかならないかな?!わくわくして身を乗り出したオレに、チル爺が胡乱げな目を向けた。
「育つかもしれんが魔物も発生するかもしれんのう?ここは街中ではなかったかの……?」
「そ、そっか……」
じゃあエルベル様のところも魔物がいるんだろうか……あの人達、頑丈だし強いから、もし魔物がいても野良猫や野良犬感覚なのかもしれない。
しばらくぶりに美味しいものもって遊びに行かなきゃね!お醤油も少なくなってきたし。
「じゃあ植物無理じゃん!」
「でもさ~ダンジョンじゃない、洞窟に生えてる植物の採取依頼なんかもあるし、探せばあるんじゃない~?加工に使う素材で、そういうの見たことあるよ~」
「フカフカゴケとか!」「オヒサマソウも!」「ホシベリーも!」
妖精トリオが口にする名は、どれも聞き覚えがないけれど、どうやら洞窟の中に生える植物のようだ。ただし、妖精さんたちが勝手に名付けて呼んでいるから正式名称は分からない。
「お主ら……あの洞窟は入ってはいかんと言ったじゃろう!」
「きゃー!」「ばれちゃったー」「ごめんなさーい」
くるくると逃げ惑う妖精さんたちに、チル爺のサラサラロングヒゲが舞い踊った。
* * * * *
「結構使ったと思ったけど、まだそこそこあるね!」
「へへ、何買う?」
「まずは~寛ぎスペース用に、絨毯とクッションじゃない~?」
オレたちはチル爺たちと別れた後、学校に戻りがてらお店をのぞいて歩いた。頑張って依頼をこなしたから、オレたちのパーティ貯金はなかなかのものだ。海人の国へ行くのに大分使っちゃったんだけど、絨毯くらいなら買えるだろう。
せっかくの寛ぎスペースなんだから、とびきりふかふかで手触りのいいものにしよう!
雑貨店でお気に入りを選んだオレたちは、でっかい絨毯のロールをかついで店を出た。相変わらず人通りの多いハイカリクでは、3人で長い包みを抱えていると、とっても迷惑そう。じろりと睨まれた視線の中に、青い髪を見つけて思わず目を留めた。あんな髪色もあるんだね!
雑踏に紛れてしまったその色が物珍しくてきょろきょろしていると、オレの手からひょいと絨毯の包みが持ち上がった。
「俺が持つぜ!」
タクトが軽々と包みを縦に抱え、颯爽と歩き出す。タクト……1人で持てるんだ……。
「学校に帰ったらユータの収納に入れてくれる~?」
「分かった!」
煙突みたいな絨毯を抱えて、オレたちはスキップしながら学校へ向かった。
「はーい、みなさん今日も元気かな~?魔法の練習、してる?してるよねー先生知ってる!それで相談なんだけど……やたら授業進むの早くって……もう大体教えた気がするんだ……みんな、他に何知りたい?残りの授業何しよっかなーなんて」
てへ、と困った顔で生徒に聞いちゃうメリーメリー先生、いつも通りだね。
既にほぼ仮登録以上のメンバーしかいないうちのクラスは、冒険者として必要な科目の修得スピードが異様に早いそうな。みんな死活問題だもんね。
「ユータが授業外で教えるからでしょ~」
「ええ~でもオレ、そんな熱心に教えたりしてないよ……」
オレたちの学年は優秀、特にうちのクラスは優秀とギルドでも噂があって、依頼の際に若手冒険者グループと組んだ時なんかは、頼られることも多いようだ。若手と言っても大体は年上になるのだけど……。みんなが急激に成長するのは、それもあるんじゃないかな?人は頼られると成長する生き物だと思うんだ。
「ま、それはあるよな!限度ってモンもあると思うけどな!」
にかっと笑ったタクトに、セデス兄さんの言葉を思い出した。頼られることも、頼ってもらいたいと思うことも、きっと成長のきっかけになるんだろうな。
「せんせー!大魔法知りたい!」
「すごい魔法知りたい!」
2年生で学ぶべきあらかたの履修範囲を終えてしまった生徒たちは、先生に無茶振りしている。大魔法なんて危なそうなもの、さすがに学生に教えられないだろう。
「大魔法か~じゃあさ、2年後のために勉強しちゃう?!」
……そうでもないようだ。
「2年後?」
「あれじゃない~?魔の祭典!楽しみだね~」
なにそれ?きょとんと首を傾げたオレに、タクトが苦笑した。
「ユータ知らねえの?俺でも知ってるぞ!若手の魔法使いが集まって腕前を披露するお祭りでさ、派手で面白いんですげー人気あるんだぞ!美味い物いっぱいなんだ!」
「そうなんだ!……それ、オレたちも出るの?」
ひとまず、オレは不参加で……でもお祭り自体は行ってみたい!
「そうだね~各学校から4年生が出るんだけど、ウチからは間違いなく僕たちのクラスが出るだろうね、もしかするとクラスまとめて召し抱えられるかもね~!」
どうやら優秀な人材を発掘して確保しようという側面が強いようで、若手の登竜門的な催しのようだ。クラスで出るならオレも参加しなきゃいけないけど……。
「みんな優秀だから、先生うれしいな!きっとお祭りでも一番目立つと思うよっ!ドカンと立派な大魔法決めてね!!郊外でやるから規格外でも大丈夫!ねっ?」
……なんでオレに目配せするの?やらないよ?そんな派手なこと……タクトじゃあるまいし。
ではまずは理論から、と元気に説明に入ったメリーメリー先生に、みんな慌ててノートを開いた。
授業の合間に、なんとなく集合したオレたち。最近は受けている授業もばらつきだして、みんな揃って受ける授業が少なくなってしまった。
「ラキやタクトは王様に召し抱えられたいの?」
「そうだね~でもお抱えになるより、お得意様になってもらいたいね~!いろんな人に作った物見て貰いたいし~」
そっか、ラキはあくまで加工師として成長していきたいんだね。今の実力なら、魔法使いとして重宝されそうだけど。
「俺は騎士じゃねえから仕えるのはイヤだけどさ!でもAランクになるには王様に認められなきゃな!」
そうなのか……王様のお墨付きが必要なのもあって、Aランクって少ないのかな。でも、2人とも王様に認めて貰うことにはどうやら積極的なようだ。オレは隠れていようって思っていたけど、どうなんだろう……王様が悪い人でなければ、こそこそ逃げ隠れする必要があるんだろうか。
2年後……それまでに、もっと自信と実力をつけて、もう一度考えてみよう。それが、ひとつの区切りになるかもしれないね。
「2年後、かあ……」
「遠いな-!2年たったら俺もう9歳だぜ?その頃にはBランクになってたらいいな!」
「じゃあ僕はBランクに相応しい装備の加工ができるようになっていたらいいな~!まだまだ時間あるもんね~!」
2人のきらきらした瞳に、ちょっと驚いて目を瞬いた。そうか、2年って、随分近い将来に思えたけど、オレたちにとってまだまだ先の可能性だ。たった1年でこんなに変わったもの、未来の予想なんてつきっこないね。
「うん!オレも、2年後にはきっと逞しくてでっかくて強い冒険者になってるんだ!」
「それは無理じゃね……」
「無理があるよね~」
想いを馳せて空を見上げたオレに、2人の無情な声が響いた。
ラキ:ユータはそろそろ現実を見た方がいいよ……
ユータ:なんで?!夢と希望の話をしてたんじゃなかったの?!
タクト:いや~夢と希望にも実現可能なものと不可能なものってあるじゃん?
大人になるとどうしてこうあっという間に時が過ぎるんでしょうね……この間まで夏だったのにもう年末?!信じられない……まだ玄関にサンダル置いてるのに……。
Twitterの方で、「#もふしら手芸部」ってタグを作ったんですよ!主に私しか投稿しないだろうと思いますけども。ますけども、他の方も投稿してくれると嬉しいなという。
数がないと思うのでイラストなんかもそこにまとめちゃいます。あとで私が辿って癒やされたいので!
タグでツイートして下さったらRTしますので、もふしらファンじゃないけど多くの人に制作物を広めたい!って人にもお勧め(笑)
 






 https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
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