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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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299 一晩明けて

「はあ……おなかいっぱい」

「おばあもいっぱい食べた?」

「ええ、ええ…こんな美味しいものが食べられるなんてねえ……」

良かった、みんな満足してくれたみたい。おなかに優しい物を選びはしたけど、さすがにそれだけ食べると負担がかかりそう。


「お腹いっぱい?これ、食べられる?身体の調子を整えるデザートだよ」

湯気の立つ小さな椀に入っているのは葛のようにとろりとした液体と、刻んで煮たフルーツ……オレの生命魔法入り。漂う甘い香りに、3人の瞳が輝いたようだった。甘い物は、別腹かな?

アガーラは海藻が原料の割に、消化吸収がいいらしいので、スライムゼリーと混ぜて半固体のようなゆるさに調整してある。身体を温めて、胃腸の働きを助けるよ!

『胃腸がどうとか……ゆうたが生命魔法流した時点で、それはもう回復薬だと思うわよ』

モモがじとっとオレを見る。い、いいじゃない…普通の回復薬だと苦いんだから、こうやって美味しく食べて回ふ…体調を整えてくれたら。

「あったかいフルーツも美味しいんだね~」

「なんか物足りねえ気はするけど、口がスッキリするな!」

あったかい葛湯もどきで、お口の中の油分も取り去ってスッキリするでしょ?この葛湯もどきはスライムゼリーの特性か、ベッタリせずにつるりとした食感になるのが特徴だね。


「こんな美味いもん食えるとは…あんたらを乗せて本当に良かったよ!」

御者のお姉さんが、お腹をさすってニッ!と笑った。

「オレたちも乗せてもらえて良かった!明日もごはん作るね。夜中もゆっくり寝て大丈夫だよ!シロがいるし、心配ならシールド張るから」

「えっ?!あんたシールドの魔道具持ってんの?こりゃ大もうけだ……さすが貴族さん!それ使ってくれんならあたしも安心して休ませてもらうよ」

魔道具じゃないけど…まあいいか。


女性陣はみんな馬車の中に入って、オレたちは外でちゃんと見張りをする。オレたちも色々考えて、交代の順番はいつも固定することにしたんだ。朝が苦手ですぐ寝てしまうオレが最初の見張り、一番ちゃんと起きていられるラキが真ん中、早起きが得意なタクトが最後。これでなんとか誰かが起きている状態は保てるようになったんだ。見張りができているかどうかは別として…。

だって一人だと何かしてないと寝ちゃうもの…見張りの間お料理したり魔法の訓練をするオレ、加工に熱中するラキ、トレーニングに勤しむタクト……うん、見張ってはいないかな。


「明日は何作ろうかな~お昼はさっと食べられるモノも用意しておいた方がいいね」

まずはオレの見張りタイム。大人が寝るにはまだ早いせいか、周囲のテントはまだ明かりがついている所が多いね。

時間はたっぷりあるので、眠気ざましに明日のごはんを作っておこう。馬車で下準備しておいたお肉をこっそりローストして、ボリューム満点のバゲットサンドを作っていく。朝ごはんはきっとそんなに食べないだろうから、おにぎりと雑炊にしよう。きっと出発して道すがら食べるだろう御者さんと、がっつり食べたいタクト用におにぎり、他の人は馬車の中で座って食べられるから雑炊。揺れる馬車で食べるから、おじや風に水分を飛ばしておいた方がいいね。

おにぎりやバゲットサンドは作り置きして収納に入れておくと、さっと食べたい時にとっても便利なので、ちょこちょここうして大量生産しておくんだよ。


「ふわあ…ユータ、ありがと。交代しよっか~」

目印のろうそくが燃え尽きたので、オレの見張り時間は終わり!たくさん作り置きができて大満足だ。

「……ユータの後に見張りするとさ~おなかすくんだよね~」

匂いはなるべくよそへ流したはずなのに、やっぱり残っているみたい。夜中ってお腹空くよね…これから見張りのラキに、差し入れとしておにぎりとスープを渡しておいた。

「やった~!これで頑張れる~」

嬉しそうなラキにおやすみして、オレはタクトの横でシロのふかふかに潜り込んだ。

『ゆーた、おつかれさま。おやすみ~』

「うん、おやすみ。シロも寝ていいよ?モモ、オレが寝ちゃったらシールド交代してくれる?」

『いいわよ!ゆっくり休みなさい』

『ぼく、いつも寝てるよ!大丈夫!』

モモは普段好きな時にオレの中で休むからいいって言ってくれるし、シロは寝ていても何か近づけば大きなお耳と敏感なお鼻ですぐに分かるそう。

サラサラしたシロの毛並みに頬をこすりつけ、ゆったりした呼吸と体温を感じると、途端にまぶたが落ちてきて、オレはすとんと寝てしまったようだ。


「なななな…なんだこりゃあ!!」

御者さんの大声に寝ぼけ眼で飛び起きると、なんだか変な臭い……。

『ゆーた、おはよう!』

どうやらみんなすでに起きていたみたい。シロをぎゅっとしておはようの挨拶をすると、周囲を見回してきょとんとした。

「あれ……なんか昨日と違うような……」

「おう、ユータおそよう!昨日すごかったぞー火がごうごうしてさ!」

……火?

「なんかね~火事になったみたい~僕たち以外はみんな逃げたんだって~」

ああ、だからこんなに視界が広々と……って…

「火事?!どうして起こしてくれないの?!」

「起こしたってすることねえよ?シールドあるしシロが風で囲んでたし。俺ら一番隅だから逃げられねえし」

そ、そうなの…?確かにオレたちの馬車は一番逃げづらい位置にあるから、火に囲まれたらどうしようもなかったのかな…。ちなみに休憩所は魔物避けの柵や塀で囲んであるだけなので、冒険者なら乗り越えて逃げられる。どうやらどこかの火の不始末からテントに火がつき、満杯状態だった休憩所内で次々引火していったらしい。

「みんな逃げられたの?!助けなくて大丈夫だったの?!」

―大丈夫なの。ユータが気にすると思って、逃げ遅れた人は外に捨て…………逃がしておいたの。

『他の馬車はだいたい馬が先に気付いて御者さんと逃げ出したから、客より先に避難完了していたわね』

それならいいか…でも、さすがにそれだけ騒いでいたら気付くと思うんだけど…オレはともかく御者さんたちが。

「それがね~シールドあるしシロが風の壁を作ってたから、臭いも音も届きにくかったみたい~」

『だってうるさいし臭かったよ?』

そっか……おかげでよく眠れはしたけど…ビックリだよ。


「一体、なにが………えっ…?」

何事かと馬車から顔をのぞかせた3人も次々にフリーズする。そりゃあビックリするよね…。

「えっと……火事があったけどみんな無事に逃げられたみたい。オレたちはシールドがあるから……問題ないし……。そ、その…火は収まったみたいだし、よく眠れて良かったね!」

え、えへへ…力ない笑みを浮かべたオレを、御者さんたちは信じられない物を見る目で凝視した。


「ぼっちゃん、そんなすげー魔道具持ってるなら、最初から言ってくれよな!あたしはゲイラって言うんだけどさ、これからもご贔屓に頼むよ!いやまいったよ、はは!」

どうやらオレは「ぼっちゃん」にランクアップしたらしい。おにぎりを頬ばりながら上機嫌の御者さんは、改めて名乗ってくれた。

「すっかり貴族のおぼっちゃまだと思われてるね~間違ってはいないけど…。貴族のぼっちゃんって絶対危なくないように高価な魔道具いっぱい持たせて小旅行、なんてあるらしいから~」

「ええ~オレ冒険者なのに…!身を守れるし戦えるのに…」

「その冒険者になったつもりらしいから~。後々、『子どもの頃には冒険者まがいのことをして危険な目にもあいましてね~』なんて言うのがカッコイイと思うらしいよ~」

うっ……そんなナンチャッテ冒険者と思われたままはイヤだな!機会があれば戦えると証明しよう………と思うのに、そんな時にかぎって魔物は出て来ない…。



今日は火事騒ぎで安全を確認したりと出発が遅かったので、多分途中の休憩所でお昼を食べて、町への到着は昼過ぎか夕方くらいになるかな。

『俺様安全確認よりも、朝ご飯がゆっくりだったからだと思うぜ!』

だ、だって御者さんも雑炊食べるって言うから……。結局御者さんとタクトも当然のように雑炊を食べて、出発してからおにぎりを頬ばっている。よく食べるねぇ……。


どうやら夜中の火事で、逃げ出したものの色々と不具合や何やらがあるのだろう、休憩所に着くまでに、街道脇で休憩している煤けた馬車をちらほらと見かけた。無事は無事だったけど、荷を失った人達も多そうだ。

「おっお前ら?!」

「ど、どういうことだ……?!」

横を通り過ぎると、化け物でも見るような目で見られてしまう。

「オバケになって出てきたと思うのかな」

「そう思うってことは見捨てた自覚があるんだろうね~」

冒険者がいるんだから、魔法使いもいるだろうし、火を消し止めることまでできなくても、オレたちに声をかける余裕ぐらいあったと思うんだ…。身ひとつならまず逃げられるとは言え、子どもがいるって知っていたろうに。

「ぼっちゃん、冒険者はみんな商売敵で、積極的には助けないって輩は多いもんさ」

「そうなの……オレの知ってる冒険者は、みんなきっと助けてくれる人たちだよ」

「そうか!そりゃあいい。そういうヤツらは、強くなるさ。足の引っ張り合いをするヤツより、ずっとな」

ゲイラさんは、ご飯粒を飛ばしながら大きな声で笑った。



タクト:ゲイラさん、ご飯粒飛ばして、ばっちいぞ!

ラキ:タクト、自分の姿見てご覧~。

タクト:……こ、これは、エビビにあげようと思って……



先日は300話って全然気付いていなかったので、お祝いコメントいただいてとても嬉しかったです!ありがとうございます!!感想欄を開くのが怖かったのですが、最近は楽しい感想が増えて、嬉しく読ませていただいています。いつも活力をありがとうございます!


活動報告の方に書きましたが、もふしら3巻の予約開始と共にコミカライズ情報も出てきましたね~!

コミカライズ版作家様は「片岡 とんち」先生です!!

ご覧になりました?!Twitterのイラスト……これは期待が高まる…!!

書籍もコミカライズも素晴らしい画家さんに恵まれて本当に本当~~にありがたいです!!


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最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉ばかり焼かされるユータ。 祝、お298屋(話)。
[一言]  300話おめでとう御座います?  しばらくぶりに見たら7~9話分ぐらい溜まって居ました。 (* ̄▽ ̄)ノシ
[良い点] 299話「一晩明けて」 「そういうヤツらは、強くなるさ。足の引っ張り合いをするヤツより、ずっとな」 っていうゲイラさんのセリフがいいね。 だからユータたちも強くなるし, きっとニースたち…
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