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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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298 いっぱい食べて

「はあ……着いた…生きていられた…犬、ありがとう」

休憩所の柵が見えたところで、お姉さんが長いため息と共に御者台に突っ伏した。ほら…そんなに気を張ってるから…ものすごく疲れただろうなと思う。かといってオレ達が出ていけば怒られるし…どうしたものか。


「着いたぞ。あたし達が最後だから、休む場所なんてないだろうよ。それにあんたらは馬車の中にいた方がいい。さすがにあたしも夜中まで見張りは無理だ…冒険者ってんなら、夜の見張りぐらいは頼めるんだろうね?」

「もちろん!任せておいて。あとごはんもご馳走するから休んでて」

「ごはん…?何か持ってんの?ま、なんでもいいよ…とりあえずあたしは明るいうちに休ませてもらうよ」

夜になったらまた起きてくるつもりだろうか?休憩所の中くらい任せてくれてもいいのにと思うけど…命がかかってるもんね。


「うわ、俺たちこんな隅っこなのか、もうちょっと場所譲ってやろうとかねえのかよ」

「仕方ないよ~遅くに来たんだし」

「テント張れないねえ」

なんだか嫌がらせのように他のグループが広々と場所を使う中、馬車をとめた横で休むくらいしか無理そうだ。テントは張れないけど、お姉さんたちは馬車の中で休むみたいだし、オレたちはシロに包まれて寝……あ、ううん!寝ないよ!見張りをするんだから!

で、でもまずはお料理だね。

「今日は人がたくさんいるし、あのお姉さんも休みたいだろうからササッと作るね」

「何でも美味いからいいぜ!俺葉っぱ洗うわ」

「平皿と深皿だけでいい?このくらいかな?」

ラキとタクトも手慣れたもので、スッと自分たちのできる範囲のお手伝いをしてくれる。二人とも料理なんてしたことなかったのに、自然にできるところをやろうとしてくれるの、本当にあったかいね。

「ありがとう!」

「おう」

「タクトはもうちょっと野菜洗う以外もできるようになったら~?」

「何言ってんだ、俺葉っぱ洗うのうまくなったろ?サラダが美味いのは俺のおかげだぞ!」

「確かに葉っぱが細切れにはならなくなったよね~」

ふふ、こうやってみんなでお料理するのってなんだか楽しい。キャンプでカレー作るみたいだよね。


さてメニューはどうしよう?疲れたお姉さんはすぐに休むのだろうから、こってりしすぎてもダメかな…それにあのやせっぽっちのお姉さんとおばあさんには、寝る前のこってりは辛いだろう。

うん、今日はおなかに優しくて栄養のあるメニューにしよう。


「あれ?肉は?」

「うーん、今日はね、鳥だんごのおうどん…?と、つみれの照り焼きにしようかな!鳥のお肉だよ」

「鳥…鳥かぁ…鳥って肉じゃねえ…」

タクトにとって鳥肉は肉じゃないらしい…その分、照り焼きの味付けはこってりにするから…。

「でも鳥ってクールサスでしょ~?あれは美味しかったね~まだ残ってたんだ!」

「クールサスってあれか!プレリィさんとこで食ったやつ!あれならいい!ひゃっほう!」

プレリィさんにちょっとしたコツなんかも伝授してもらってるし、なんせ素材がいいからね~美味しいと思うよ!


鳥だんごのおうどんは、うどんと言っていいものか、オレが小麦粉を練って作ったほうとうみたいな感じだ。お野菜たっぷりのスープを海人のアガーラで少しとろりとさせ、クツクツした所へ溶き卵を回し入れると、ふわりと雲のように広がった。脂肪分の少ないクールサスは、お腹に優しい上にほろりと崩れる柔らかさで、満足感を得るためにかなり大きめに作ってある。大きなお口で頬ばったら美味しいんだよ!

つみれの方は荒くつぶしたクールサスに、ザクザクと刻んだものも混ぜ、ノーマルとチーズを包んだものの両方を用意してみた。つみれを焼いた時の肉汁も逃さず照り焼きソースにして、つやつやとしっかり絡めたら出来上がり!


「ごはんできたよ~一緒に食べよう!」

「ええっ?いいのよ、あなたたちでしっかり食べなさい?」

頃合いを見て馬車の中へ声をかけると、やっぱり遠慮するお姉さんたち。

「あのね、食材たくさんあるし、ついでにみんなの分作ったんだよ」

「そんな…食材は大切にしないとだめよ、いいのよ、私達のことは気にしないで」

お姉さんたちは、大人びた優しい顔で首を振った。お腹、空いていると思うんだけど…困った顔で首を傾げると、途端にぐう、と鳴ったおなかに赤面して慌てるお姉さん。まだまだ少女らしいその姿に、オレはふわりと微笑んだ。

「行こ!おいていても腐っちゃうでしょう?オレたちこんなに食べられないよ」

「早くー!ユータの飯は美味いぞ!冷めちゃうぞ!」

賑やかなタクトの声に、奥で眠っていた御者のお姉さんも目を覚ました。

「ふあ~ちょっと寝られたよ。飯くれるって本当だったんだ、あたしも保存食持ってるから気にするなよ?子どもの食い物奪うほどクズにはなってないつもりだから」

「大丈夫だよ!お姉さんもいっぱい食べて!オレたち食材いっぱい持ってるの!」

「あ、そう…?いいとこのぼっちゃんぽいもんな。どれ、あたし達が食べる保存食と違って……」

ぼへっとした表情で馬車から降りてきたお姉さんは、目の前の料理を見てピタッと動きを止めた。

「へっ……?あれ?…どゆこと??」

「どうぞどうぞー!さ、食べよう」

馬車の3人も引っ張り出して簡易テーブルと椅子に座ってもらうと、一様にぽかんとした顔で見つめている。食の細そうな3人と疲れた御者さんのために、お水は少しだけ多めに生命魔法を入れておいたんだ。いただきます、と言ってみたけど食べているのはタクトとラキだけ。

「あの…食べてね?」

オレの促しに御者さんがごくっと喉を鳴らすと、不器用そうな手でフォークを持って鳥だんごを頬ばった。

「おっ…おふぅ、はふぅっ!」

はふはふと上を向いて熱々の鶏だんごを食べる姿に、おばあさんとおねえさん達のお腹が限界を迎えたようだ。周囲を窺うようにそっとフォークをとると、とても遠慮がちに小さくお団子を崩そうとした。まあるいお団子はフォークを入れた途端にほろっと崩れて透明な肉汁があふれ出す

「あっ…」

ちょっと切ない顔をしたお姉さんは慌ててスプーンですくうと、ふうふうしてぱくりと思い切りよく食いついた。

「!!」

スプーンを口に入れたまま、虚空を見つめてパッとほっぺをおさえたお姉さん。隣のお姉さんとおばあさんは、それを見てやっと料理に手を出した。

「はふはふっ!うまっ!やっぱ美味いな~これは鳥だけど肉でいいぜ!」

「ちゃんと丸いのにお口に入れたらぶわって弾けるの、一体どうなってるの~?」

それはプレリィさんの秘伝とクールサスならではだよ!あっさりしているハズなのにしっかりとした肉汁を感じられて、本当に美味しい。オレの作った麺にコシはないけど、柔らかな麺にはじんわりとスープが染みて、ほう…とあたたかな吐息が漏れた。

つみれの方は、お腹に優しい鳥だんごうどんと比べ、しっかりと食欲を満足させてくれる。焦げ目をつけた表面の香ばしさに、とろっととろけるような内側の食感は、濃い甘辛のたれに絡んで……

「ユータ、ごはんがいる!」

そう!それだよね。やっぱり白ご飯をかっ込みたくなる!収納に保存してあった予備のほかほかごはんを出すと、タクトの手がますます進んだ。混ぜ込んだ切り身の歯ごたえもいい、とろける中にしっかりと噛めるお肉の存在が、素朴なつみれのランクを上げていると思う。

生命魔法入りのお水が効いたのか、不健康そうだった3人も、頬を桃色にしてもりもり食べている。


「おいしい…おいしい…」

うわごとのように言いながら夢中で頬ばっているお姉さんズに、おばあさんはちょっぴり切なそうな顔をして、自分のつみれを差し出した。

「ほら、あなたたちでお食べ。わたしはおばあちゃんだから、あんまり食べられないのよ」

そう?おばあさん、うどんをあんなに早く食べちゃったもの…お腹空いてたんでしょう?チーズは重いかな、と思ったけど、その食べっぷりに大丈夫そうだと思ったもの。

「はい、おかわりはいっぱいあるよー!」

御者のお姉さんもがっついているし、きっとタクトも足りないだろうと、大皿にどーんとつみれを追加した。鳥だんごの大鍋もそばへ置いておく。

「こ、こんなに……ねえ、食べていいの?!おばあ、食べていいんだよ!」

「すごい、すごいわ!おばあ、見て!お腹いっぱいになっちゃうよ!?」

目をきらきらさせて喜ぶ二人に大人びた面影はもう見当たらず、おばあさんは何度も頷いて笑うと、密かに視線を逸らせてぎゅっと目を閉じた。



冒険者A:なんだあれ…おかしいじゃねえか…

冒険者B:う、美味そう…どうやってあんなものを…

冒険者C:くそっ…ウチの場所を貸してやっていたらもしかして…

シロ:みんなイジワルするからだよ~仲良くしてたら分け分けできたのにね…


どうにもごはん回を書くと長くなるような…

つみれはあっさりいただくのも好きなんですけど…冒険者たちを満足させようと思うとどうしても照り焼きとかになっちゃう…違う味付けでこってりって難しいですねぇ…だって何より簡単な甘辛は最強だもの!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鶏出汁と野菜だしの入った節麺汁が食べたい。 すげえ食べたいがまだ夏だ…いけるかな…
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