閑話 ハロウィン 前
注 最後に画像あり
「ユータ様、良い衣装が完成したのですが、ご試着いただけますか?」
「衣装?」
転移の光が収まるか収まらないかの間に、ばーんとお部屋に飛び込んできたのは、言うに及ばずマリーさん。オレがいつロクサレン家へ戻って来るかなんてわからないはずなのに…相変わらず驚異の察知能力だ。
「ええ、ユータ様を守護されている黒き神獣様をイメージしたご衣裳です。雄々しく勇敢な神獣様ですから、ユータ様がお召しになると、とても勇ましいと思いますよ」
「本当?オレ、着てみる!」
「ではさっそく!」
オレを小脇に抱える勢いで部屋まで戻ったら、真っ黒でふわふわした衣装を渡された。
「これどうやって着るの?」
「お手伝いしますね、これは…こう、そしてここにこれを…」
「それなあに?オレ、リボンはいやだよ」
頭の上に取り付けられた三角のもの…いくら黒くたってリボンはちょっと。
「何をおっしゃいます、これは神獣様のシンボル、お耳ですよ!そしてこれがしっぽ!」
「ええ…それ、カッコイイ?」
「ええ、ええ!!もちろんですとも!!ご覧ください、この勇ましい姿!風のように走り敵を蹴散らす神獣様の姿そのものですよ!!」
そ…そう?すごい勢いで力説されて、そうなんだろうかと一応納得してみる。ルーはカッコイイもんね、衣装も黒いし、シャープでカッコイイのかもしれない。
「……マリー、耐えるの、あなたならできる…」
「えっと…マリーさん、これでもう大丈夫?」
後ろを向いて小声でぶつぶつ言うマリーさんに声をかけると、もう一つ…とスリッパみたいな大きな靴を履かされた。
「………カッコイイ…?」
見下ろしたオレの足にはまっているのはキュートな黒い猫足。足だけ見ると、どう見てもカッコイイにはならない気がするのだけど。
「……っええ!!カッコイイです!最高です!ユータ様、衣装はトータルバランスですから!!」
そう……?お耳としっぽに猫足、ふわふわしたノースリーブにかぼちゃぱんつみたいなふっくらした半ズボン。カッコイイかなぁ…?自分の姿を見てみたいと思ったけれど、鏡がない…ここに大きな姿見があったはずなんだけど、どこにいったんだろう。
「あれ?オレの服は?」
試着はもういいかなと振り返ってみると、今度は脱いだ服が見当たらない。
「…………シミがありましたので、お洗濯しておきますね。お帰りになるころには乾くと思いますよ」
「そう?ありがとう」
その間は試着の衣装を着ていてもいいらしい。なんだか目立つ気がするけど、ふわふわした素材が心地いいから…まあいいか。
『マリーさん、いい仕事するわ…』
『ゆーた、衣装素敵だね!ルーとおそろいだね!』
『ははっ!主ぃずいぶんかわ…ぅぎゅ』
『あら、そんなところにいたの』
モモ、チュー助つぶしちゃダメだよ!
「セデス兄さん~遊びに来たよ!」
「お、ユータ来てたんだね…ってその恰好…」
ソファーに腰掛けていたセデス兄さんに声をかけると、オレを見てちょっと驚いたお顔。その時、スッとセデス兄さんの背後に出現したマリーさんがにっこりした。
「…素敵な衣装でしょう?とても勇ましくカッコイイでしょう?ねえ?」
ビクッと肩を跳ねさせたセデス兄さんが、激しく頷いた。
「うんうんっ!カッコイイ!えっと…そう、強そうだよ!!」
「オレ、強そう?」
うふふ、と笑うとエリーシャ様に見せに行こうと駆けだしたところで、どすんと固いものにぶつかった。
「あ、カロルス様!見て~オレ、ルーみたい?」
「わははっ!随分…のわぁっ?!」
オレの頭上をうなりをあげて飛来したほうきが、カロルス様の顔面を貫く寸前、見事白羽どりの要領で受け止められていた。さすがAランク!
冷や汗を流すカロルス様の前で、くるりと回って見せる。
『物が飛んでくるのにはもう慣れたのね…』
「どう?カッコイイって言われたんだよ?」
「え?えーそりゃお前……いいんじゃねえかな?うん」
ちらちらとオレの背後に目をやりながら答えるカロルス様に満足して、バイバイすると再び走り出す。
「ユータ様、走ってはいけませんよ」
足が宙に浮いたかと思ったら、そっと下ろされる。静かな声に見上げれば、優しい顔をした執事さん。
「ごめんなさい!あのね、エリーシャ様に見せようと思ったの。ほら、ルーの衣装なの。どう?」
「…………よくお似合いですよ。きっとエリーシャ様はお喜びになるでしょう」
そっと微笑んだ執事さんをぎゅっとして、オレはトタトタとエリーシャ様のお部屋に急いだ。
トント…
ノックの途中でがばっと開いたドアに、つんのめるように部屋へ転がり込んだ。
「あああー待ち遠しかったわぁーー!!ユータちゃん!よく見せて!」
ぎゅうぅっと抱きしめられて肺がぺしゃんこだ…エリーシャ様、それじゃ見えないでしょ?離してくれなきゃ…オレ死んじゃうよ!
ぺしぺしと腕を叩くとようやく解放されて、つぶされた肺にいっぱい息を吸い込んだ。
「ああなんて…なんてか………っこいいのかしら…素敵…あまりにも素敵よぉ!マリー、あなたは素晴らしいわ!やり遂げたのね!!」
よくわからない動きでわちゃわちゃと悶えるエリーシャ様に、またつぶされたら大変と少し距離をとる。
「エリーシャ様!マリーは…マリーはやり遂げました!!」
いつの間にか現れたマリーさんと共に、まるでオリンピックで金メダルをとったような喜びようだ。この衣裳、作るの大変だったのかな…。
結局エリーシャ様はなかなか解放してくれず、なぜか抱っこされたままウロウロ館内を歩き回り、このまま村にまで行くというので断固拒否した。
「もう!オレはここにいるのー!」
「どうしてよ~みんなに見せびらかしたいのにぃ…」
それが嫌だよ!抱っこで連れまわされるなんて、なんだか市中引き回しの刑みたいじゃないか…。
エリーシャ様は、オレがちょっと普段と違う格好をしたら、すぐ村の人に見せびらかそうとする…きっと村の人も呆れちゃうから!
お洗濯が乾くまでクッキーでも作ろうと、厨房で材料をあさっていると、小さなかぼちゃらしきものを見つけた。ずっしりしておいしそう…たくさんあるから今日はこれでお菓子を作ろうかな。
「おう、お前ついでに夕食も何か担当しろ」
「何かって?」
「じゃあメイン」
料理長ぉー?!無茶ぶりだよ全く…!でもそれならかぼちゃづくしにしちゃおうかな。カロルス様のお野菜不足の改善になるし。
「お、今日はお前が作ったのか?……なんだこれ…オレは動物じゃねえぞ?野菜食うから…丸ごとは勘弁してくれ…」
食卓について見慣れないものがあればオレだと思うらしく、すぐにオレ作だと気付いたカロルス様だったけど、まじまじと本日のメインを眺めてしょんぼりしている。
「違うよ!今日はパンプキンシチュー、ほら!周りも崩して召し上がれ」
カロルス様の膝によじ登って、ドンと皿に置かれた丸ごとかぼちゃ、そのヘタ部分をつかんでパカリと開けて見せた。
「うおお…?すげえ…これならうまそうだ!」
ふわっと熱い湯気と共に立ち上った香りに、カロルス様が頬をほころばせた。
「わーっ!本当だ、面白いね!かぼちゃが入れ物になってるんだ」
「まあ素敵!かわいいわ~」
シチューは作ったことがあるので珍しくはないのだけど、こうして器を工夫するだけで、なんだか楽しいお料理になってわくわくするね。普段よりたくさんお野菜もとれるし、実益を兼ねたいいアイディアだと思う。
「グルルー!とりっく・おあ・とりーと!てめー、お菓子くれ!」
ルーの真似をしているらしいユータ。服は…無理でした
ハッピーハロウィン!ということで閑話書いたら前後になっちゃった。
書籍SSとは違う衣装で。そう、書籍SSは内容はこれと全然違うけどハロウィンイメージなのでした!みんなのあんな恰好やこんな格好、イラストで見たいよね…カロルス様のとか…すごく見たい!!本編にいつか入れてしまえば…あるいは…(笑)






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