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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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296 帰るということ

「オレね、山で暮らしてたんだけど、海ってどこか懐かしいって思うんだよ」

―そうなの?ラピスは…海って不思議って思うの。どうしてここのお水だけしょっぱいのって。

ザシ、ザシ…ヤクス村の浜辺と違って、粒の荒い砂利のような砂が、歩くたびに音をたててオレの小さな足を埋めにかかる。

「ホントだね、湖も川もしょっぱくないのに、海だけしょっぱいもんね」

―お塩が効いてるから、このままスープにできると思うの。お魚も入ってるし。

「ぶふっ!」

せ、世界規模のスープだね?!

確かにだしになる昆布やエビなんかもたくさん入って(?)いるもんね。まずは海底火山で熱しまして…うーんでも塩分が濃すぎるのが難点だよね。

『ラピスに言ったら本当にやりそうだからやめてちょうだい!』

頭の上でモモがみょんみょんと抗議した。でも、神様だったらそんなこともできるのかもね、海をぐるぐるかき混ぜて世界を作ったってお話もあるくらいだし、雲の上にのって大きなおたまで海をぐるぐるする神様だっているかもしれないよね。

『スオー、あったかいスープ飲みたい』

肩車のようにオレの後頭部にはりついていたスオーが、ぽてんと頭の上…もとい、モモの上に顎を乗せた。

『重っ!ちょっと重いわよ!』

『モモ、前は乗せてくれた』

『前ってあなたハムスターだった頃でしょ?!』

甘える蘇芳の顎の下で、ぺたんこになったモモがプンスコしている。最近オレの頭と肩は場所取り合戦になりがちだ。蘇芳は飛べるのだから乗らなくてもいいのにって思うんだけど…それではダメらしい。


 昨日はやっぱり疲れがあったのか、宿についてすぐに寝ちゃったのだけど、なんとなく寂しい気持ちになって朝早くに目が覚めた。気分転換でもしようと、オレたちは宿を抜け出して、こうして朝もやの浜辺を歩いている。

冷たく湿った空気がじわっとしみ込んでくるようでちょっと寒いけど、耳元と首周りは蘇芳に包まれてふわふわと暖かい。ざーん…じゅわじゅわ…って波の音を聞いていると、不思議と心が凪いでくる。

「おーい!ユータもうすぐ朝飯だぞー!」

「帰っておいで~」

振り返ると、二人がシロに乗って迎えに来てくれていた。ちょっと冷えた体に、ぽっと火がともったようで、ふわっとほっぺが柔らかくなったような気がした。

「うん!オレ帰る~」

ジャッジャッと砂を散らしながら駆け戻ると、タクトがオレの両脇に手を差し入れて洗濯物のように持ち上げ、上下に振った。

「わっ!わっ!わっ!ちょっと、タクト、なに?!」

「砂だらけじゃねえの、落としとかないと怒られるぞ?」

それならオレを振らないで服を振ってほしいです!ぶんぶん振られてくらくらするオレを、ラキが自分の前に座らせてくれた。オレの前にタクト、後ろにラキ、おしりの下はシロで、まんべんなくぬくぬくだ。

「ユータ、冷たいよ~大丈夫~?」

「大丈夫!帰ったらあったかいから」

満面の笑みで答えると、仕返しとばかりに背後からタクトの服の下に手を滑らせる。ちょうどよく冷えた小さな手が腹に突っ込まれ、タクトが飛び上がった。

「つめてっ!!なんだその手!冷てえっての!!」

「ふふっ!シロ、しゅっぱーつ!」

ぎゅっとまわした手で、もがくタクトの腹にしっかりとつかまったら、その熱いくらいの高い体温に、みるみるオレの手もほかほかしてくる…うーん、残念。

タクトのおなかは固くてごつごつしていて、背中はずいぶん大きく感じた。オレを温めるように背中から手をまわしてくれたラキの頭も、オレより随分上にある。なんだか二人とももう子供じゃないみたい…オレはちょっぴり寂しさを覚えながら、ぽかぽかしてきた体にゆっくり歩くシロのリズムを感じていた。



「ユータ、そろそろ出るよ~?」

「置いてくぞ!」

「うぇっ?!……あれ…?」

オレはがばっと飛び起きて、まだとろんとするまぶたをしばたたかせた。あれ?オレ…お宿に帰って…?どうしてお布団で寝てるの?

―ユータ、帰る途中で寝ちゃったの。

『残念だったなぁ!主、朝飯食べ損ねたぞ!俺様はおいしくいただいたけど!』

『ゆーた、寝ちゃったからぼくたちでごはん分けっこしたの。おいしかった!』

え~?オレ、シロに乗りながら寝ちゃったの…?

「どうして起こしてくれないの!」

『寝かせてくれてたんでしょう?怒ることないじゃない』

そうだけど…オレだけ寝てるなんてカッコ悪いじゃないか…重たいまぶたを一生懸命押し上げながら、ちょっとふてくされて八つ当たりしてしまう。

「おやおや~?ぼうやはまだおねむなんじゃねえ?よしよし、兄ちゃんが抱っこしてやろうかー?」

「いやない!……!!」

飛び出した幼児語に、半分まどろんでぐらぐらしていた頭がばちっと覚醒した…と同時にぶわっと頬に血がのぼって真っ赤になったのがわかる。

「んー?何てった?ユータ、もう一回…なんつったんだ~?」

「…………!!」

恥ずかしいのと悔しいので涙目になりながら枕を投げる。そこにあったラキの枕も投げる。他に投げるもの…収納に入っていた枕と布団とクッションと…ええい、全部投げてしまえ!

「おまっ!ちょ…何持ってきてんだよっ!やめっ…わかったから!ストーップ!」

ぱしゅぱしゅん!

「お宿で騒ぎません~!」

「「はい……」」

額を押えてうずくまるオレたち。…ラキに余計な魔法を教えてしまった…これ、けっこう痛いんだから…。



「さーて、どうするよ?」

「もっと遊んでいたいけど~学校に帰らなきゃね~!」

「随分長いこと離れてる気がするね」

なんだかもう歴戦の冒険者になれたような気がする…実際、とっても濃い数日間だったもんね。そんな歴戦の冒険者であるオレたちだけど、学生でもあるんだからあんまりのんびりもしていられない。それに、そろそろロクサレン家にも帰らないとスモークさんが来ちゃう。


「僕たち、行きの護衛はちゃんとできてたかな~?」

「追加報酬もらっちゃったし…たぶん…」

帰りは乗合馬車を使うので、できれば護衛として乗せてもらって運賃を抑えたいところだ。ただ、オレたちみたいな子どもを護衛として乗せてくれるかどうか…。

「そりゃ100点満点の花丸だろ!だって誰も欠けてねえし荷も奪われてねえし!最高の護衛だぜ!」

タクトのその自信はどこから…オレたちあんまり何もしてなかったよ…?

でも、商人さんからはいい評価をもらえたんだから、もうちょっと自信をもって護衛の名乗りを上げてもいいかもしれないね。



「…何言ってんだガキが…冒険者の格好してればタダで馬車に乗れると思ったら大間違いだぞ」

…しょんぼり。

勇気を出して護衛の交渉に行ってみたものの…案の定というべきか、一笑に付されてしまった。むしろ家出じゃないかと疑われたぐらいだ。

「なんだなんだ!あいつより俺の方が強いのに…馬鹿にして!」

既に護衛として決まっていたらしい二人組の冒険者まで大笑いするもんだから、暴れ出しそうなタクトを二人で引っ張って慌てて退散してきた次第だ。オレもタクトの方が強いと思うけど…こんなところでケンカしたら間違いなく冒険者としての評価は下がるからね…オレたちみたいに実績のないパーティがトラブルを起こすなんて致命的だ。

ため息をついて馬車乗り場の柵に腰掛けると、次々出発しようとする馬車を眺めた。

「よう、チビちゃんたち!馬車を護衛するより先に、チビちゃんたちの護衛がいるんじゃねえかー?」

目の前を通り過ぎた馬車に乗っているのは、さっきの冒険者二人組だ。

「!離せっ!シロ!あいつらぶん殴ってやる!」

『ダメだよ~タクトの方が強いんでしょ?じゃあ我慢しなきゃ弱いものいじめだよ~』

ピシッ!ピシッ!!

「でっ?!」

「ったぁっ?!」

大笑いする冒険者が、不自然な体勢でのけぞるように派手にひっくり返った。

「「…………ラキ?」」

オレたちはすました顔であらぬ方を眺めるラキを見つめた。オレたちが食らう水鉄砲より明らかに威力の高い音がしたけど…額に風穴空いてないよね…?

ラキを怒らせたら怖い…オレとタクトはそっと目配せして頷き合った。



ラキ:あーらら~、虫にびっくりしてひっくり返る護衛って大した実力だよね~(大声)

タクト:……ラキ…暴力はいけないんだぞ…

ユータ:ラキ……ちょっとこわい…



いつも読んでいただきありがとうございます!

書籍1巻プレゼントキャンペーンのご応募は大丈夫ですか?先着100名様ですよ~!

たくさんのレビュー…集まったらうれしいです。でも…でも心臓に悪い…誰か私の代わりに見て、大丈夫なやつだけ見せてほしい…。

そしてさりげなく3巻の予約販売が開始されていて吐血しそうになりました…早……いや、本当に…本当にありがとうございます!!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] また幼児語出てほしいなぁ 血反吐あたり吐きたい。
[一言] 不意打ちの幼児語可愛すぎる(´ω`*)そしてたまに幼児語になってほしい
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