295 夢からさめて
エピオルの海人馬車(?)はゆうらゆうらと時々揺れるくらいで、とても快適に海を進んでいく。逞しい脚がしっかりと水をかき、結構な速度だ。
「速いねぇ!海が近くて楽しいね~!見てみて!あんな遠くまでオレたちの通ったあとが残ってるよ!」
海人馬車が通ると、海の上に白い泡が広がって、まるで道のように後ろへ続いている。これを辿ったら海人の里まで戻れそうだね!
「でも、ここってどの辺りなの~?僕たち、どのくらい海の上で過ごすの~?」
ちょっと不安そうなラキにハッとした。オレは転移で戻れるからあんまり気にしていなかったけど、そうだ、何日も航海を続けるのはちょっとしんどいよね…タクトが。
「ぎもぢわどぅい…まだ着かねえ…?ユータ、ユータ来て…俺の側にいてくれ」
戦闘の時の勇ましさが欠片もない萎びたタクトが、病床のご老人のようにオレを呼ぶ。
「水の中は大丈夫なのにねぇ…」
仕方なくタクトのおでこに手を当てると、ティアを交えてごく細く回路を繋いでおいた。
「あー…ああ、ラク……俺の神よ~!」
天使なんだか神様なんだか…全く、タクトの神様になったら大変そうだ。
「もうすぐ転移場にツク。そこからあの浜辺まで戻ればヨイ」
苦笑したナギさんが言うには、海人の転移魔法陣があるところへ向かっているので、そこからあの浜辺までいけるそう。それならすぐに帰れるね!どうやらナギさんが転移ポイントになる魔道具を設置してくれていたらしい。
「オレたちの国だと、転移の魔法陣って普通には使えないみたいだけど…使ってもいいの?」
「もちろん普通には使えませんよ!ナギ様だからです」
「ナギさんって王族だもんね~……王族…そう王族なんだよね~?僕たち、普通にお話してて…大丈夫なの~?!」
ラキ、今さらだよ…ナギさんたちのフランクさについ忘れてしまうけど、ナギさんはオレたちの国のお姫様と同じ、雲の上の人ってことだもんね。でも…そういえばオレ、ヴァンパイアの王様も友達だった…なんだか偉い人たちとお近づきになっている気がする…。
「フハッ!ヌシ達はワレの命の恩人と、その仲間ダ。ユータがいなくばワレはもういなかったのだからナ!最上級の賓客だゾ」
「え~!たまたま通りかかっただけなのに大げさだよ…」
そんな偶然で王族に賓客扱いされるなんてとんでもない!ぶんぶん手を振ると、凛々しい微笑みを浮かべたナギさんがオレの顔をのぞき込んで、おでこをトン、と突いた。
「それも、また運命ダ」
運命かぁ…なんだか不思議な言葉だね。オレの生きていく中でどんな物事もきっと、何回やり直しても同じ選択をするだろうって思う…だから運命って決まっているのかな。でもそれって決められたものじゃなくて、オレが選んで決めていった結果なんじゃないかな。
「運命は、海の流れのように様々なものを集めていくのですよ。ユータ様の運命の流れに、きっと私たちも入っていたのですよ」
「本当?ナギさんやウナさんがはいってくれたら、オレうれしいな!」
ウナさんの優しい瞳に、オレはふわっと笑った。
オレの海の流れはどんなだろう?何を集めていくんだろうね…この海みたいに、透き通ってきれいな流れだといいなぁ。
「もう見えてきますよ!」
ウナさんの声にエピオルがスピードを緩め、前方の海にぽつんと浮かぶような四角い台座が現れた。てっきり神殿みたいな建物があると思っていたのだけど、何もない大海原の真ん中に、6畳分ほどの広さの平面があるだけ…。これ、海人以外には発見することもできないね。
台座に近づくと、突然するっと海に飛び込んだナギさんが、腕を伸ばしてひょいとオレの脇を抱え上げた。
「わわっ!?」
「そら、気をつけロ」
「ナギ様!私が致します!もう少し王族としての自覚を持っていただいて…!」
ウナさんの説教もどこ吹く風で、ひょいひょいとオレたちを四角い台座に乗せると、ナギさんも上半身を乗り上げた。
「ワレが起動しよう。ユータ、覚えているナ?着いたら転移の貝を壊してくれるカ?」
「うん、転移したときに光ってる貝、だね!わかったよ」
四角い台座の真ん中には、複雑で大きな魔法陣があった。神妙な面持ちでオレたちが魔法陣に足を踏み入れると、ナギさんが槍を取り出して魔法陣に触れた。
「良いか?」
尋ねるナギさんを、ぐっと顔を上げて見つめる。
「…うん!ありがとう…!楽しかった!また…また遊びにくるから!」
「船は乗らねえ!でも俺も遊びに行くぜ!また戦闘教えてくれよな!」
「ありがとうございました~!僕、いろんな素材まだ見てないんだよ~また来させてね~!」
ぶんぶんと手を振るオレたちに、二人も大きく手を振ってくれた。
「ではナ!また会おう!」
「皆さん、お元気で~!またいらしてくださいね~!お料理もお菓子もおいしかったです~!」
ナギさんの槍が光ると、魔法陣も呼応するように光を放ち、オレたちは思わず目を閉じた。
「ん…?ここ…来た場所か」
「あ……戻ってきちゃった~」
フッと光が消えてまぶたを開けば、そこは土壁に囲まれた浜辺。なんだか夢から覚めたようで、胸がきゅっとなった。
「あ、ユータ、光る貝!」
ラキが指した場所には、何の変哲もなさそうな貝殻がころんと転がっていた。
徐々に光を失っていくそれを拾い上げると、ほどなく光は完全に消えて、ただの貝殻になった。それが無性に寂しくて、ぐっと唇を結んで手のひらに握りしめると、タクトががしっと肩を組んできた。
「泣くなよ?俺達もう冒険者、だぜ?」
ばしっと腰に手をまわしたのはラキ。
「冒険者には、出会いと別れがつきもの、でしょ~?」
泣いてないよ!ちょっと返事はできないけど、泣いてはいないから!オレはこくりと頷いて顔を上げると、二人をみつめてにこっと笑った。
「……それに、さ…ユータならすぐに会いに行けるんじゃないのかなぁ~」
ラキが小さくつぶやいた声は、モモたちだけが聞いていた。
『そうよねぇ…うすうす感づくわよね~あんなに一緒にいるんだもの』
―隠さなくてもいいってラピスは思うの!
『隠してもすぐバレる』
とにかく、一番近しい仲間がいい子たちでよかったと、もふもふ会談は安堵のうちに締めくくられたのだった。
* * * * *
「おばちゃーーん!」
「おや、あんた宿を探してた子だね、どうだいあの宿、良かったろう?」
「うん!おばちゃんありがと!すげー助かった!飯美味かったよ~。それでさ、俺の仲間が試作にお菓子作ったから、これあげる!アガーラって食い物!じゃ、な!」
「えっ…まあまあなんて律儀な子たちだこと…」
ぽかんと見送ったおばちゃんの手には、手のひら大の器。
何の気なく開けた中身の美しさに、その場は一時騒然となったそうな…。
『あの子はもしや海の使いだったのでは?!』
『いやいや実は海人の王子だったんだ!』
タクトは危うく海の子伝説を生みだすところだったようだ…。
タクト:渡してきたぜ~!
ユータ:どうだった?お口に合ったかな?見慣れないものだから食べづらかったかな…
タクト:知らねえ!俺渡しただけだぞ。
ユータ:ええ~食べ物ってわかってくれるかな…
ラキ:それ大丈夫~?大騒ぎになってない~?
タクト:大丈夫だろ
ラピス:大丈夫じゃなさそうだったけどユータじゃないからまあいいの。
いつも読んでいただきありがとうございます!
ちょっと短くなりましたが中途半端だったので切りました。
活動報告の方にも書いたのですが、ツギクルさんで書籍プレゼント企画をされています!
ちょっとほしいなって思っていた方はこの機会にぜひ!たくさん用意されていますが限りはありますのでどうぞお早めに~!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/